当事者意識を引出すには(続)

2006.06.20

リーダーが発揮すべきチカラとして1.人々の当事者意識を引出す力、2.人々の関心、視線を常に外部に向けさせる力、3.人々に伝える力、浸透させる力、4.自らに問う力、の4点をあげたが、引き続き今回も「1.人々の当事者意識を引出す力」について考えていきたい。当事者意識を引出す上で最も大事なことは「任せる」ことである。ただ「任せる」といっても任せる相手のことを十分に理解し、相手に責任を認識してもらうことは、口でいうほど容易なことではない。

当事者意識を引出す際の留意点


前回、「仕事を任せた相手に本人が担うべき執行責任を明確に自覚させる」ことがリーダーには必要と書いたが、「責任を自覚させる」ためにリーダーは何をすればいいのか?「責任」を言葉で伝えることはできても、真に自覚させるのは実は簡単ではない。

しかし、リーダーがここをきっちりやるかどうかで、「うわべだけで理解した責任感」で留まるか、「真の当事者意識」を引出すかの差に繋がる。そして、それは最終的には成果の質そのものの違いとなって表れるのである。

 

当事者意識の自覚を促す方法論

自覚を促す方法論は、「責任を全うするということは、その仕事の目的・意義をどう捉え、何をどうすることなのか」をとことん考えさせ、本人自らの言葉で語れる様に導くことだと私は考えている。

責任という言葉の持つニュアンスを、あるべき行動の動画イメージで認識できる様になると、人間はそれを実践するに相応しくあろうと意識が高まる。これが当事者意識が覚醒されるプロセスだと考えている。勿論、本人がやりたがらない仕事の場合、このアプローチも機能しにくいだろう。

「お前はどうしたいんだ」と常に問い続けることがリーダーの重要な仕事だとよくいわれる。「一人称で考えさせ続ける」ことによって、人間が根源的に持っている主体性や、やりたいという動機に火をつけ、当事者意識を引出そうとするのである。別の言い方をすれば、これも「人間主体」が本来持つ「責任感」を引出す営みとみることができよう。

 

当事者意識の醸成で注意すべきこと

さて、それなりに当事者意識を引出して仕事を任せることが出来た場合でも、注意しなければならないことがある。それは、任せた(一定の)範囲で閉じてしまう”狭い当事者意識”への対処である。いわば”日常接点を持つ同僚達との間でのみ通用する部分最適”で良しとしてしまう意識”とも表現できるだろう。


そもそも組織がある程度の規模になれば、個人は、組織の中で自分の役割を見失いがちになる。その結果、自分の仕事がその組織自体の存続とどう結びついているのかの因果関係を明確に認識しにくくなるのだ。

与えられた範囲の役割を自覚しつつも、組織全体の方向性や存続ということに対するコミットが薄くなってしまうのである。放っておくと、全体を見ない”個人事業主”が組織の至る所に出没しかねない。

言うまでもなく”部分最適で満足した個人事業主の寄り合い所帯”では、組織の真の競争力は高まらない。同時に、狭い範囲に閉じた役割に上限を定めてしまうことは、個人の持つポテンシャルを顕在化できずに無駄にしている。実に大きな損失だ。

 

自覚を促すためにリーダーがすべきこと

そうさせない為にリーダーがすべきことは、本人達と共有する情報の質と量を高めることにある。人間の思考の前提となるのは知識や情報であるが、相手が自らの仕事の意義を全体の中で考えることが出来る経営情報に触れさせ、同時にそれが相手にとってどんな意味合いを持つのかを、本人に引き寄せて考えさせることがリーダーの役目である。

更に、組織全体視点から相手の仕事への期待の眼差しを向けることもして行きたい。たとえば「全体にとって新たな顧客開拓の試金石として意義のあるこの仕事で、君が大いに貢献してくれることをあてにしている」といった期待感をリーダーの口からしっかり伝えることが、一段高い当事者意識を引出すポイントと言える。

 

当事者意識が薄い社員への対処

最後に、必ずしも前向きな話ではないが、当事者意識とは程遠い「ぶら下がり社員」や「寄生社員」への対応も考えておこう。

あって欲しくないと思っていても、組織には一定確率で発生しうるケースである。この問題への対処法をシンプルに言ってしまうと、相手の「本気」「自尊心」を如何にして目覚めさせるか、ということだと思う。

相手のタイプにもよるが、「悔しい」とか「恥ずかしい」と言った人間の根源的感情部分に刺激を与えるのが近道だろう。つまりは「ズバリ言うわよ!」の領域である。

従い、受け手がメッセージを正しく受信できる環境や文脈を作ることが大事であるが、もっと大事なことは、メッセージを明確に伝えること。根底には期待と愛情を持ちつつも率直さを持って伝えるべきと私は思う。

具体的なイメージとしては「今の君は、組織の平均値を下げている」というメッセージを率直に伝えるのだ。そして、それを伝えても結果として、意識と行動に変化が出ない場合は、バスから降りてもらうしかないだろう。それを言われる側は勿論辛いが、伝える側も実に辛い。

リーダーには、厳しい現実に向き合えるだけの精神的なタフネスも求められる。厳しくとも、相手の可能性を信じてやるしかない。リーダーとしてこれを看過し、現実から逃避することは、当事者意識を持った他の社員に対する裏切りであり、不作為の罪と心得るべきだと私は思う。

最後に

以上、様々な角度から、リーダーが如何にして当事者意識を引出すかを考えてきたが、ポイントは、個々人が持つ可能性を信じつつ、彼等に考えさせる刺激を徹底して与え続けるということだ。

そうした存在になることが今のリーダーには求められている。個々人を徹底的に考える環境に明るく追い込み、組織の中で何ができるのか、何をしなければならないのか、何をしたいのかを気付かせるサポーターの役割を担っているのである。リーダーの意識的な関与があることで、個人は自らの意思と責任に相応しく成長しようとし、また組織に対する能動的関与が高まっていくのである。

結局、こうした刺激を与えられる技量とタフネスを持ったリーダー達を、組織のあらゆる階層でどれだけ数多く育成・確保できているかが、厳しい競争を勝ち続ける源泉とも言えるだろう。

次回は「2.人々の関心、視線を常に外部に向けさせる力」について考えていきます

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。