当事者意識を引出すには(1/2)

公開日
テーマ
  • 次世代リーダー育成
執筆者
  • 鎌田 英治のプロフィール

    鎌田 英治

    グロービス講師

前回は、リーダーシップに質的変化がおきている背景について考え、リーダーが発揮すべきチカラとして1.人々の当事者意識を引出す力、 2.人々の関心、視線を常に外部に向けさせる力、3.人々に伝える力、浸透させる力、4.自らに問う力、の4点をあげた。今回はその1つめ「1.人々の当事者意識を引出す力」について考えていきたい。

現代こそ、現場の「当事者意識」を積極的に引出していく必要が高まっている

議論の便宜上、「当事者意識」を定義しておこう。ここでは「組織の問題を、自らの問題として捉え、自律的かつ本気で知恵を出し、問題発見や問題解決に向けて本気で行動しようとする意識」と捉えたい。

単純化すると、当事者意識があれば、「言われなくても考え動ける」ので経営のスピードが上がり、「本気になって考え行動する」からアウトプットの質と成功の確率が高まる、ということだ。社員の当事者意識を高めることは経営の質を高める特効薬である。

勿論、当事者意識が重要なのは、何も今に始まったことではないのだが、この古くて新しい問題に、今こそ改めて向き合っていく必要が高いのだ。

「人工知能の失敗」という話がある。脳科学者の茂木健一郎氏によると「人間の知能・知性は、ルールの集合体(著者注:ロジックで組まれたプログラム)では書けない。人間の脳がどう判断するかは、ルールで書けないことが常態化している」と語っている。

以前よりも問題が複雑化し非定型が常となった今日のビジネスも然り。予め組み込まれたプログラム(戦略)を基本の型として戦いつつ、市場に接する最前線には、状況に応じて知恵を絞り、判断を下して微修正と改善を重ねる「知のバージョンアップ(更新)能力」が必要になっている。そして、この自律的な「知の更新能力」は、現場の当事者意識が無ければ生まれないのである。

一方、顧客ニーズの高度化と相俟って、組織内の分業体制も専門化と細分化が一層進展している。或いは、競争がグローバル・ベースの「団体戦」と化してきている中では、個々人の任務・役割が大きな枠組みの中で矮小化されて捉えられる嫌いも強まっている。また就労感の多様化によって、公私の線引きをより明確に捉える人も増えているかも知れない。

つまり、当事者意識は以前よりも一層重要性が高まっているにも拘わらず、構成員の当事者意識はむしろ希薄化し易い慣性が働いているのである。だからこそ当事者意識が芽生えてくるのを辛抱強く待つのではなく、意図的に「引出すこと」に、それこそ“本気”で取り組むべきなのである。

人々の当事者意識を引出す力とは?

当事者意識が引出すうえで、最も大事なことは「任せる」ことである。つまり「責任を持たせる」ことが大切だ。ただ、この「任せる」ことと「責任をしっかり認識させる」ことは、口で言うほど簡単ではない。

たとえば、自社のリーダー達は、仕事を任せる際にどんなことを意識しているのか、何をどこまで任せたらよいかを判断する基準をもっているのか、等々あらためて考えてみると色々と疑問がわいてくる。

相手によって任せ方も当然変わってくる。では、その相手のことを十分に理解しているだろうか?これから仕事を任せようとする相手の力量を的確に把握するための具体的な問いかけを持っているだろうか?相手の力量に応じて業務を適切に分割し付与することがリーダーの腕の見せどころ、とは言え、そこまできっちり考えて業務付与に向き合っているリーダーがどれだけいるだろうか?

「任せる」ことと「丸投げ」の差はどこにあるか理解しているだろうか?任せた側が責任を全うするとは何をすることか、リーダー達は具体的イメージをもっているだろうか?

任せる側のリーダーには、自らの結果責任への覚悟を持ちつつ、任せた相手に対しては執行責任をしっかり自覚させる説明能力も必要となる。任せた相手の当事者意識を刺激しつつ、フォローし、コーチし、成果を出させると同時に育成をはかっていくための具体的行動がとれるかどうかが問われるのだ。

次回も、さらに「当事者意識」について考えていきます

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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