求められるセルフマネジメントの力(2)
- 管理職育成
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福田 亮
グロービス講師
本ブログでは、グロービス・コーポレート・エデュケーションのコンサルタントが交代で、人材育成(リーダー育成)・組織開発の現場で考え、感じた潮流や問題意識をお伝えします。
優秀なリーダーほど陥る「ディレ―ルメント=脱線の危機」。
2回シリーズの後篇は、ディレールメントを乗り越えるためのセルフマネジメントのポイントを考えます。
求められるセルフマネジメントの力(2)
「成功は幸福の鍵ではない。幸福が成功の鍵なのだ。自分のやっていることが好きならきっと成功するだろう」(アルベルト・シュバイツァー)
本コラムでは、優秀なリーダーであれば誰もが直面するディレールメントの危機を克服する上での鍵となる、セルフマネジメント力を強化するためのアプローチをご紹介したい。
筆者が数多くのリーダー育成に関わる中では、セルフマネジメントの根本となる自分自身の価値観(信念、軸、原則など様々な言い方があるが今回は価値観で統一をする)を探索し、見出すことが、特に40代以上のリーダーには重要な要素であると考えている。
何を当たり前のことをと思われる方も多いかも知れないが、自分自身が何者で何を大事にしているのか?を自分の言葉で語れるリーダーが極めて少ないのが日本企業の実情である。
筆者は自身の価値観を考えることをリーダーシップのセッション中で実施しているが、それを通じて、多くのリーダーが次の特徴を有していることがわかってきた。 一言で言えば、以下のような「自分の価値観を外から借りてくる」傾向が強いのである。
- 会社/周りから期待されることがすなわち自分の価値観だと考えてしまう
- 社会(企業)・仕事上の通念に引っ張られ、価値観に初めから良し悪しの判断をしてしまう
借り物の価値観の根底には、無自覚的に現在の自分を評価・承認して欲しいという欲求があると筆者は考えている。この欲求は人間誰しもが持っているものであり、モチベーションの重要な要因である。
一方で、承認欲求はあくまで現在の自分に対する評価・承認を求めるものであり、困難な状況に向き合うと、それを回避したくなるというダークサイドを持っており、行動を移す原動力にはなりにくいのである。そこで大切になるのは借り物の価値観の中に埋もれている、自分が本当に望んでいることをあぶり出すことである。
ここで、本当の価値観をあぶり出す為の筆者が取り組んでいるアプローチの一例と参加者の声を紹介させて頂く。
それぞれはオーソドックスなアプローチであるが、これらの組み合わせによって、借りていた価値観がまるで玉ねぎの皮のように少しずつ剥がれていき、本当の自分が垣間見え、「ハッキリした」「スッキリした」「自信が沸いてきた」という声を頂く場面に遭遇している。ご興味があれば参考にして頂けると幸いである。
参考:価値観を顕在化させるアプローチの一例
- 50~100個の気持ちを表現するキーワードを活用し、個人の言語化能力に依存しない(個人の言語化能力には限界があり、多くの場合ここで言葉を借りてしまう)
- これまでの社会人人生のみならず、生まれてからの人生を多数のエピソードで振り返る
- 過去・現在の偉人の生涯に触れ、その人生を疑似体験することで、価値観を育む感覚をつかむ
- 価値観を下敷きに、これからのリーダーシップの旅を具体的なストーリーで描く(ヒーローズ・ジャーニーというアプローチ)
セッション受講者の声
「自分のモヤモヤしていたことがスカッとしました。自分はもっとだめな人間だと思っていましたが、過去を振り返ることで自分にも可能性や志があることに気づくことができました。」
「自分自身が選んだ価値観のキーワードを見た時には当たり前で抽象的な言葉が並び不安でしたが、価値観というのはあくまで個人のものだと気付きました。過去や現在の仕事の状況と価値観をつなげて見ることで、何に満足をし、満足できないのかを理解し、伝えることに役立っています。」
自身の価値観の効用と更に高めるために必要なこと:知を磨き行動する(知行合一)
「知ることだけでは十分ではない。それを使わなくてはいけない。やる気だけでは十分でない。実行しなくてはいけない。」(ゲーテ)
一方でこのセッションで注意しなくてはならないのは、価値観そのものが必ずしも直接的に自分の現状を解決するものではないという点である。
セッションで顕在化した価値観の効用は、様々なプレッシャーの中で感情や表層的な事象に惑わされるマイナスの状況を「ゼロ」の状態、換言すれば、折れそうになった自分の気持ちを支え、自己肯定感を高め、もう一度一歩踏み出そうという肯定的な気持ちへと切り替えるスイッチが入った状態を作ることにある。
故に、自身の価値観を知ることがセルフマネジメントの鍵になると筆者は考えている。 当然ながら、実際に直面した状況を未来に向けて改善するには、その後起こりうる様々な状況に予測を立て、やるべきことを選択し、行動を起こすこと(知行同一)が重要である。
これらの行動は価値観が顕在化しただけで変化が生まれるものではない。価値観を顕在化することに加えて、不確実な状況下で状況の予測→選択を自分の意思で決める知力・行動力(知行同一)の開発も合わせて必要になってくる。
昨今のリーダーシップ開発では、経営の定石を学び物事を客観的・論理的に捉える力を磨く事は当然のこととして、リベラル・アーツなどを学び、自らで答えのない問いを探索し続ける力や、自身の主観や直観を育む為の知を磨くことへの関心が高まっている。
本ブログでは詳細なアプローチの説明は割愛させて頂くが、参考までに筆者がコロンビアで学んだ「戦略的直観」のエッセンスをご紹介させて頂き、このブログの結びとしたい。
尚、「戦略的直観」とは、戦略が形成されるまでの思考過程に着目し、感覚ではなく「考える」ことで直観を磨き上げる為の要諦を様々な歴史上の事例をベースに紐解いた内容であり、大変興味深い。
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戦略的直観を磨く為に重要なのは、
・歴史の先例から学ぶ
・不安や誤った予断に惑わされない平常心を磨く
・正しい先例を選択して類推するひらめきを磨く
・どんな困難に直面してもやり遂げる意思を磨く
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出所:「戦略は直観に従う」 ウィリアム・ダガン著
東洋経済新報社より抜粋
本ブログが、読者の皆様のリーダー開発の一助になれば幸いである。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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