研修企画の稟議の通し方~例文付きテンプレートや承認のコツも紹介
- 研修レポート
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御代 貴子
どれほど良い研修企画を立てたとしても、社内稟議を通らないことには実現できません。ところが、
・稟議書に何を書けばいいのか
・どのようなプロセスを踏むべきなのか
・気をつけるべき点は何か
といったことに悩む人も多いのではないでしょうか。
社内稟議が難しいのは、担当者の視点だけで申請内容を考えても承認を得られにくいという点です。そこで本記事では、社内稟議書を初めて書く方や、企画を通すために最適な書き方を模索している方に向けて、実践的な書き方について例文付きで解説します。人事施策の社内稟議をスムーズに通すために押さえていきたい4つのステップをご紹介します。
ステップ1 人事責任者の認識・関心を押さえる
ステップ2 この人事施策を行うべき理由を明確にしておく
ステップ3 正式な稟議前に人事責任者へ「頭出し」をしておく
ステップ4 人事責任者が納得する稟議書を作成する
重要なのは、自分が伝えたいことを書くのではなく、人事責任者が納得する内容を記載することです。課題と解決するための施策に説得力があるかどうかが重要な判断軸になります。3つのコツとしてまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
また、7章では、稟議書のテンプレートだけでなく、「課長職向けリーダーシップ研修(集合研修)」をテーマに例文も紹介します。稟議を初めて申請する人でもそのまま使える書き方ですので、ご活用ください。
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1.人事施策の社内稟議をスムーズに通す4つのステップ
社内稟議をスムーズに通すには、役職者が承認をするために必要な情報がすべて揃っていることが最低条件となります。その情報をもとに、稟議内容が自社の経営にとってプラスになるものであり、予算をかけて実施すべきと判断してもらうことが必要です。
そこで、社内稟議をスムーズに通すために人事担当者がとるべき4つのステップをご紹介します。
ステップ1 人事責任者の認識・関心を押さえる
具体的な稟議内容を考え始める前に、決裁権をもつ人事責任者が自社の人事戦略に対してどのような認識をしているか、あるいは関心事は何かを押さえておくことが必要です。
人事責任者が人事部門全体へ発信しているメッセージや普段の会話から考えたり、人事責任者とよく接している上司に相談したりしておくとよいでしょう。
ステップ2 この人事施策を行うべき理由を明確にしておく
企画した研修を実施することで、自社の人事戦略や人材育成の課題解決に繋がるのか、自社にどのようなメリットがもたらされるか、といったことを整理しておくことも欠かせません。
また、今回稟議を上げる人事施策は、どのような選択肢と比較検討して企画したのかも明確にしておきましょう。
ステップ3 正式な稟議前に人事責任者へ「頭出し」をしておく
稟議書を正式に提出する前に、稟議を申請する予定であることを人事責任者へ言っておくとよいでしょう。他の会議の前後の時間や、オフィスで会ったときなどに口頭で伝える程度でも構いません。
この「頭出し」をしておくことによって、人事責任者が稟議書の内容をスムーズに理解し、承認が得られやすくなることが期待できます。また、人事責任者から、この時点での懸念点などを教えてくれるかもしれません。
ステップ4 人事責任者が納得する稟議書を作成する
ステップ1〜3を通して、人事責任者の考えを把握し、自分が伝えたい内容を整理したら、稟議書を作成します。
重要なのは、自分が伝えたいことを書くのではなく、人事責任者が納得する内容を漏れなく、簡潔に記載することです。
最後に、社内ルールにおいて必要な事項が網羅されていることを確認しましょう。社内に稟議書のひな型がある場合は、それを利用することで必要事項の抜け漏れを防げます。
次に、各ステップで考えるべきこと、やるべきことを詳しく解説していきます。
2. 【ステップ1】人事責任者の認識・関心事を押さえる
担当者の視点と、稟議で承認をする人事責任者の認識や関心事は異なるものです。それでは、どのような観点で人事責任者の考えを押さえておけばよいのでしょうか。
2-1.人材育成や組織開発における課題
人事責任者は、研修の企画一つひとつではなく、社員の人材育成や組織開発、さらには採用や配置、サクセッションプランなど、人材と組織にまつわる様々なことを全社視点で考えています。
人事責任者の高い視点で自社の人材や組織を捉え、目指す姿に対してどのような課題があると認識しているかを考えておきましょう。
2-2.課題を解決する打ち手の選択肢
人事責任者の視点で、課題を解決するためにどのような打ち手を考えているのかも押さえておく必要があります。
人事が考える課題の解決策は、研修だけに限りません。人事制度や組織構造の改革から各施策まで、大小含めて複数の打ち手を実施することで自社を成長させることを常に考えているのです。
あらゆる打ち手の中から、課題の重要性やリソースをふまえて、いつ何を実行するかを検討していることを理解しておきましょう。
2-3.選択肢ごとに見込まれる効果やコスト
人事施策には、それぞれ見込まれる効果やコストがあります。企画した研修以外にも、各施策が人事戦略に与えるインパクトや発生するコストをおおよそ把握し、その中で今回の企画はどの位置付けにあるのかを理解しておくことで、稟議書を作成する際に役立ちます。
2-4.施策によって全社経営に与える影響
人事施策には、経営にすぐ大きなインパクトをもたらすものもあれば、中長期的あるいは他の施策と掛け合わせて行うことで効果が期待されるものもあります。
たとえば、組織構造の大きな変更や人事制度の改定は、意思決定のあり方や人件費の考え方を大きく変えるものになるため、経営に与える影響が大きくなります。
研修施策はこれらと比べるとインパクトは限定的であるものの、短期的には社員のリソースを割いて実施するため時間とコストが発生するうえに、すぐに効果がもたらされるとは限らない性質があることを理解しておく必要があります。他の施策と掛け合わせて効果が大きくなったり、組織文化を変えるなど中長期的な変化がもたらされたりすることが期待できます。
3. 【ステップ2】今回の人事施策を行うべき5つの問いを明確にする
人事施策を行うには、人事上の課題を解決し、会社に良い影響をもたらす「理由」があることが必要です。企画した研修は、以下の5つの問いに対して答えられているでしょうか 。改めてチェックしてみてください。
3-1.人材育成や組織開発上の課題は何か
担当者ではなく人事責任者の視点で、人材育成や組織開発における課題を押さえます。人事責任者の認識や関心事、あるいは普段発信しているメッセージから考えておきましょう。
3-2.課題に対する解決策にはどのような選択肢があるか
次に、課題の解決策にはどのようなものがあり、その一つとして今回企画した研修がどう位置付けられるかを整理します。
解決策の選択肢は、人材育成の施策に限りません。人事責任者の視点で、採用や配置など、他の人事機能の観点でも考えておく必要があります。
3-3.選択肢をどのような軸で比較検討し、この施策を選んだのか
今回の研修企画は、どのような選択肢からどう比較検討したのかも人事責任者へ説明する必要があります。見込まれる効果や緊急性、コストなどの観点で、検討したプロセスを振り返っておきましょう。
人事責任者は、人事施策の予算を配分する責任を負っているので、人事戦略上の課題解決に繋がり、かつ費用対効果が見込まれる施策から優先的に投資します。流行っているから、ただコストが低いからといった理由で企画しているのではないこともしっかり伝えておくことで、人事責任者の納得感を醸成できます。
さらに、研修だけを見ても、
・誰に研修を行うのか(階層別研修、公募型研修、選抜研修など)
・どのような形態の研修か(集合研修、外部スクール等への派遣、eラーニングなど)
・どのくらいの期間の研修か(半日や1日などの短期、もしくは半年などの長期)
など、さまざまな観点での選択肢があります。その中で、なぜ今回企画する研修を実施すべきかを説明できるようにしておきましょう。
3-4.懸念点やリスクへの対応策は考えられているか
研修を企画する際は、想定される懸念点やリスクへの対応策もあらかじめ考えておくと、企画内容の説得力が増します。
よくある懸念点やリスクとして、
・受講者が研修へ参加する意欲を持てない
・受講者の上司から、業務に支障が出ることへの懸念の声が出る
といったことが挙げられます。
こうした点については、
・研修の目的を参加者にしっかり伝える場を設ける
・繁忙期を避けて研修を実施する
といった対応策をあらかじめ考えておくことが必要です。稟議書の内容に入れる、あるいは質問された際に説明できるようにしておくとスムーズな承認に繋がります。
3-5.組織開発や全社経営にどのような効果がもたらされるか
企画した研修によってもたらされる効果を、さまざまな観点から言語化しておきましょう。
・研修受講者のスキルやマインド面での変化
・受講者の同僚や部下に与える影響
・研修を全社へ周知することで、間接的に社員へ伝わるメッセージ
・人材育成に力を入れている会社であるという対外的アピール
など、研修の受講者以外への影響も考えておく必要があります。
4. 【ステップ3】正式な稟議前に「頭出し」しておく
4-1.人材育成や組織開発上の課題感をすり合わせておく
人事上の課題感については、研修を企画することになってからではなく、普段から人事責任者の考えを理解しておくことが理想です。そうすれば、そもそも課題の解決に繋がらない研修を企画することがなくなります。
1on1などで人事責任者と直接話す機会がある人は、その際に課題感を話し合い、お互いの考えをすり合わせておくことが有効です。人事責任者が考えている課題が把握できないようであれば、部門全体への発信内容を確認したり、人事責任者と接する機会が多い上長に相談したりするとよいでしょう。
4-2.新しい施策を考えていること自体を伝えておく
人事責任者にとって、研修施策の稟議を承認するのは大きな意思決定になります。そのため、稟議が突然上がってきても、承認するための情報や時間が足りなければ却下せざるを得なくなってしまうかもしれません。
そうならないよう、人事責任者へ新しい施策を考えていることを事前に伝えておくことをおすすめします。メールや会議などオフィシャルな形式ではなく、オフィスで会った際や会議の前後などに口頭で話す程度で構いません。
リモートワークなどで人事責任者と顔を合わせる機会があまりないようであれば、チャットツールで簡潔にメッセージをしたり、人事責任者と直接話す機会が多い上長に伝えてもらったりしてもよいでしょう。
こうした頭出しをしておくと、人事責任者の疑問や懸念点を伝えてくれることもあるので、それらを払拭できる稟議内容を作成できるメリットもあります。
4-3.人事責任者が承認する際に留意することを理解しておく
費用の詳細、実施までのプロセス、実施するタイミングなど、人事責任者がどのような点に特に着目して稟議内容を見るかもあらかじめ把握できると、承認が得られやすくなります。
こうしたことは明文化されているわけではないので、人事施策の稟議を申請した経験をもつ人などに相談しておくとよいでしょう。
5. 【ステップ4】人事責任者が納得する稟議書を作成する~3つのコツ~
稟議を申請するために必要な情報を揃えたら、いよいよ稟議書を作成します。稟議書の目的は、承認者がその内容を理解・納得し、自社に必要な施策だと判断してもらうことです。そのために意識したいポイントを解説します。
5-1.相手の認識・関心に沿ったストーリーを作る
人事責任者が考える人事上の課題や、稟議を承認するにあたって留意する点を意識して、どのような論点をどの順番で説明するかのストーリーを考えます。資料や文章を作成する際、自分が伝えたいことばかりを論点に並べてしまいがちですが、相手の立場になり、相手が知りたいと思うことから説明するのがポイントです。つまり、結論である「この研修を実施したい」ということを最初に伝え、その理由となる人事上の課題感を次に説明するのが基本となります。
また、組織全体を統括している人事責任者は、施策を実行する現場を詳しく把握しているわけではない点も前提に置いてストーリーを作りましょう。
この段階では、いきなり稟議書の文章を書き始めずに、まずは箇条書きで論点を整理することから始めると効率的です。
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5-2.相手が内容を端的に理解し、納得できる構成にする
ストーリーが決まったら、次に稟議書を作ります。作成のポイントは、情報量が多くなりすぎないことです。
人事責任者は、稟議を承認する他にもさまざまな業務があり、一つの稟議を検討するのに多くの時間を割けるわけではありません。相手が知りたいポイントに絞り、必要だと思われる情報のみを端的に伝えるように意識しましょう。必要に応じて、図表も入れて説明できるようにしておくのも効果的です。
稟議書に入れるか迷う情報がある場合は、「参考資料」として書面の最後に入れ、質問があった際などに説明できるような形で作成するのも一案です。
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5-3.社内ルールに沿った論点が網羅されていることを確認する
稟議書ができあがったら、社内ルールとして必要な論点が抜け漏れなく入っていることを確認しましょう。そのうえで、最後に人事責任者の立場になって一読し、必要に応じて修正します。
一回で完璧な書類を作成させようとせず、何回か確認と修正を繰り返すことで、人事責任者が納得できる稟議書に仕上げます。
6.稟議書作成の効率化を図るには、テンプレートの活用がおすすめ
稟議書の作成を効率化するためには、テンプレートを上手に活用するのがおすすめです。稟議書の作成は企画者にとって重要な業務のひとつですが、作成に時間をかけすぎてしまうと、報告・共有のタイミングが遅くなるだけでなく、他の業務にも影響が出かねないからです。
ここでは、年間約3,300社の法人研修の支援をするグロービスが作成した、実践的な稟議書のテンプレートをご紹介します。
無料でダウンロードすることができますので、貴社の稟議書作成にぜひご活用ください。
▼稟議書をダウンロードする
7.稟議書の例文:課長職向けリーダーシップ研修(集合研修)の場合
最後に、前項のテンプレートを使い、課長職向けリーダーシップ研修(集合研修)の見直しを想定した稟議書の例文をご紹介します。この記事を参考に、企画の内容に合う書き方で稟議書を作成してみてください。
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8.まとめ
今回の記事では、人事施策を社内稟議にかける際のポイントをご紹介しました。良い研修企画を立てたとしても、決裁権をもつ人事責任者がその必要性に納得できなければ実現できなくなってしまいます。
企画した研修が他の選択肢よりも実施すべきものであり、懸念点やリスクへもあらかじめ対策が打てていることが、稟議をスムーズに通すために欠かせないポイントです。ぜひ記事の内容を参考にして、人事責任者の課題感や関心事に沿った稟議書を作成してみてください。
なお、グロービスの提案書は、人事担当者が上司の方に上申する際にそのままお使いいただけるよう意識して作成しております。貴社の人事課題の整理からご支援することも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
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