日本企業がリーダーをいかにして育成し、 世界で勝っていくのか
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グロービス コーポレート エデュケーション
(本インタビューは「HRエグゼクティブコンソーシアム会報誌(2019年12月発行)」からの転載です)
MBA(経営学修士)を取得できる日本最大のビジネススクール、「グロービス経営大学院」の開学時の設置者である株式会社グロービスは、組織開発・人材育成のパートナーとして、さまざまな法人向けサービスを多くの企業に提供しています。今回は、HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐氏が、同社グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクターの西恵一郎氏に、昨今、多くの企業の課題となっている日本及びグローバルで活躍できるリーダーの育成支援についてお訊きしました。
経営者の求めるスピードでリーダーが育ってこないことは、多くの企業の課題
楠田:今、日本企業における経営上の重要課題のひとつは、世界で活躍するリーダーの育成が追いついていないことだと思います。グロービスさんは法人向けサービスとして企業の人材育成支援をされていますが、どのようにご覧になっていますか。
西:確かに、その課題については、グローバルに事業を展開されている日本企業の経営者の方々が特に強い危機感をお持ちです。ご自分が進めたいビジネスのスピードに組織が追いついていないとおっしゃいますね。従来型の人材育成の延長線上では、経営者が求めるスピードでリーダーが育ってこなくなっているのだと思います。
楠田:リーダー育成の研修にしても、昔ならパッケージの研修で対応できていたかもしれませんが、今はそれだけでは限界があるように感じます。
西:私たちは企業ごとにカスタマイズした研修プログラムをお客様とご一緒につくらせていただいていますが、深く理解するために事前にその企業の社史を読み込むこともあります。経営者が引き継ぎたいリーダーとは、その企業の歴史を踏まえて大事な意思決定を委ねられる人です。したがって、この会社にとって大事な意思決定はどのようなことだったか、また、過去のある状況で往々にしてAを選びがちだが、この会社はBを選んだ、それはなぜかといったことをまず理解するためです。そして、新しい時代の文脈では次のリーダーはどういう選択をすべきなのかといったことを経営者の方々と向き合いながら考え、いろいろな話をさせていただいています。
楠田:人事部門としても、会社が人を管理する、会社が人を育てるといった従来の発想を変えないと、経営者が求めるスピードでリーダーをつくって海外に送り出すことは難しくなっていますね。
西:そうした危機感を持つ人事の方々が増えていると思います。私どもは企業の目的を達成するために人事の方々が今、何をすべきなのかをご一緒に考え、人事の役割を私たちが補完的に担わせていただくことを通じて、その企業が強くなっていくことに貢献できればというスタンスでお客様とおつきあいさせていただいています。
経験の可視化と、ジャストインタイムの能力開発を組み合わせる取り組みも
楠田:確かに、今は目的を達成するために人事が何をすべきなのか、正解がなかなかわからない時代です。
西:あるグローバル化が進んだ日本の大手企業では、欧米やアジアなど各国の現地法人トップに外国人が就くようになりましたが、そこに日本人を送れないことが悩みだとお聞きしています。日本人をミドルのポジションに送り込まれても機能しないと、トップから拒否されるというのです。
楠田:海外で本当に活躍できる日本人を育てていくことは、まさに急務ですね。そこはどのようにサポートされていますか。
西:例えば、まず、より個々に向き合った育成を行っていくためには、人材の可視化が必須です。データベースに適切な人事データを入れ、可視化していくと、企業にとって本当に必要な人材、ポテンシャルが高いのに埋もれている人材が誰なのかわかってきます。そこで、どのような人事データが必要かといったアドバイスに始まり、人材を発掘、育成、アサインし、アサイン後もコーチングやメンタリングといった伴走支援をしていく仕組みづくりをサポートしています。
楠田:日本の大手企業に入社する方々は非常に優秀なのですから、若いうちからストレッチ・アサインメントをかけて、個人の自律的な成長を支援しながらリーダーのパイプラインをつくっていくことが大事だと思います。
西:ストレッチ・アサインメントでどのような経験を得るのかを可視化することも重要です。多くの企業では、どのポジションに何年いたかという記録は残っていますが、どのような経験をしてきたかという記録がありません。しかし、そこを可視化し、データが蓄積されてくると、この人は次にどのような経験を積んでいけば良いかが分かります。
楠田:そうすると、より戦略的なアサインメントができますね。
西:若いハイポテンシャル人材にストレッチな経験を与えつつ、いきなり放り出すと難しいですから、その手前で必要な能力開発を行う。これを私たちは能力開発のジャストインタイムと呼んでいますが、非常に効果的だと考えています。のどが乾く状態をつくり、そこに必要な水を提供する仕組みを、企業として構築しようということです。今、いくつかの企業の方々と議論しながら、経験をどう可視化して能力開発と組み合わせていくのかという取り組みを進めようとしています。
ダイバーシティと規律を強みとすれば、日本企業はもっと強くなれる
楠田:HRエグゼクティブの中には、世界で戦って勝てる日本人のリーダーを育てることは難しいと悲観的に考えている方もいるかもしれません。しかし、日本人はやれると私は思います。今年、ラグビーワールドカップで日本は初のベスト8という歴史的快挙を成し遂げましたが、当初は、体格でも大きな差がある世界の強豪国に日本が勝てるわけがないと思った人も大勢いたでしょう。
西:同感です。私は、あのチームがなぜ強かったかというとダイバーシティだと思うのです。外国人選手も含めて、これが日本だということでワンチームになっていましたね。しかも、ダイバーシティがありながら規律が効く。これが日本の強みです。スクラムを組むとき、日本は8人の16本の足がきっちり同じ方向を向くようトレーニングを重ねたそうです。だから体重差があってもパワーで負けないと。日本企業もダイバーシティを進めてワンチームをつくることができれば、規律という面では外国企業に比べてアドバンテージがありますから、非常に強くなってくると思います。
楠田:ダイバーシティと規律は日本企業が勝つための重要なヒントですね。最後に、HRエグゼクティブコンソーシアム会員企業の方々へメッセージをお願いします。
西:企業が本当に変わっていかないと勝てない時代になり、正解が見えない中で、新しいことにチャレンジしようとお考えの企業が増えています。そうした企業の方々とご一緒に、強いリーダーをどうやってつくるのか、どうやって勝つのかということを議論させていただければ幸いです。
楠田:本日はありがとうございました。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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