グローバルリーダー育成の目指すもの ~いざワールドカップへ~
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小平 崇
グロービス講師
グローバル化を推進する多くの企業で人事部を悩ませているのが「世界で戦える(日本の)人材がいない」という厳しい現実。グローバル研修チームの小平崇が人事部が世界に一歩踏み出すことの重要性と事例をご紹介します。
日本人がリーダーに抜擢されない危機感
世界の3大大会の一つであるラグビーワールドカップが9月18日から始まっている。ヘッドコーチに日本とも縁のある名将Eddie Jonesを招き、日本国籍を取得しているマイケルリーチを主将に配し、海外の競合クラブで鍛えられた日本人プレーヤーを中心にした代表チームだ。他競技からも貪欲に学び世界で勝つ為の「ジャパンウェイ」を打ち出した。日本人の勤勉さに目を付けたEddieは世界で一番ハードと言われる練習を課し、肌色も様々な我らが「日本代表」メンバーは確実に力をつけた。「奇跡」とも言われる南アフリカ戦の勝利は、そのことを証明したに過ぎない。その成長の証を残りの試合でも見せてくれる事を期待している。
この余韻をかみしめながらも、翻って、「日本」が世界で直面する厳しい現実とその打開に目を向けよう。
「このままではグローバルリーダーの選抜に日本人は選ばれなくなるという強い危機感があります。買収先の人材のほうが余程できる。」
「このままでは日本は人材で負けると危惧しています。中国で付き合いのあったディーラーは30歳の創業社長だった。数百人を束ね実に堂々としていた。振返るとそんな30歳を我が社で育ててきただろうか。」
「ポジションを競わせると日本人が負けてしまう。言葉に迫力が無い。英語で何を言っているかわからないと言われてしまう。」
いずれも、日本を代表する有名企業の人事部長の声である。世界から人材を集めリーダーシップ研修を実施された上でのコメントだ。事務局の皆さまの強い危機感に我々も共感せずにはいられない。リソースをフルに活用しお手伝いをさせて頂いている。
従来日本企業は人材育成に注力してきた。にも関わらずこのような厳しい現実となっている理由は何か。 ヒト・モノ・カネ・情報が国境を悠々と超えていく時代。マーケットは広がる一方、競争相手も世界中に散らばるプレーヤー達へと一気に広がる。この環境では「グローバルにおいて我々何を世の中に価値提供する集団なのか」「同様の価値を提供するプレーヤーがいる中で、我々は何を強みとして我々にしかできないことをやるのか」に明確に答えを持ち、さらに劇的に変わる環境において一度構築した強みが、あっという間に弱みに変わることに備え変革し続けることが必要だ。
つまり、自己定義と自己否定のサイクルを、強度と速度を増しながら回し続けることがグローバル環境のチャレンジであるが、それに対して日本の人材育成は応えられていないと考えている。
地区大会からワールドカップへ
今こそ本気で日本人を鍛えなければ。私も強くそう思うのだが、一方で、どのようなリーダー育成が必要なのかが悩ましい。そんなところにヒントを得たのが、つい先日開催されたカンファレンス「G1 Global」の場である。※
※グロービス代表 堀義人が代表理事を務める一般社団法人G1サミット主催のカンファレンス。
G1 Globalは、世界各国からリーダー達が集まり、世界の潮流において日本はどうあるべきか?何ができるのか?ということを英語で議論し行動を宣言する場だ。時に議論が丁々発止の場面もあるが、より良い世界、より良い国、より良い社会をつくる為に、世界の知恵を吸収する場なのだ。
その中で目を見張ったのは日本の女性リーダー達の活躍である。BT日本法人代表の吉田 晴乃氏、ネットイヤーグループCEOの石黒不二代氏など、並いる世界のリーダーに一歩も引けを取らない堂々とした姿勢と、惚れ惚れするような人としての魅力に溢れていた。
私が探していたリーダー育成の像がここにあった。一言で言うと「ワールドカップで戦うこと」である。参加者が多様だというだけではない。一人一人が個人として何か尖ったものが無いとワールドカップの場では存在感は示せない。すなわち勝てないということだ。
グローバルな企業経営も同じだろう。海外からも人を集め、多様性に富んだ環境の中でそれぞれが知恵を出し合い、侃々諤々の議論を尽くす。そして具体的なアクションに一歩を踏み出していく。であれば、リーダー育成の場も「ワールドカップ」に近づけるべきだろう。
しかし、あなたの企業で行っているリーダー育成はどうだろう。世界で戦うのに、やっていることは地区大会ばかりになっていないだろうか。世界のなかでは日本人はマイノリティだ。しかし地区大会ではマジョリティにしかならない。そんなところで危機感が生まれるだろうか。マイノリティになる環境をつくれているだろうか。自分という「個」の存在が認められない、本当の意味で忸怩たる思いを経験させられているだろうか。それをバネに成長する機会をつくれているだろうか。
人事部がボトルネックになってはいけない
「いや、うちにはまだ早い」「TOEICの点がそもそも低くて」「まだまだ海外売上高比率が1ケタではね」――そんな声もあるだろう。実際に耳にもする。一方で、そういう話を聞くお客様の中期経営計画においては、「2020年度海外売上高比率○○%へ」「海外事業による売上貢献から利益貢献へ」等とうたわれていたりする。
しかしTOEICの点や現在の売上高比率でグローバルリーダー育成の適切な時期が決められるべきなのだろうか? 否である。
A社は、6年前に日本人だけを対象にしたリーダー育成を1年間止め、欧米亜からも選抜するグローバルリーダー育成を開始した。
B社では、「とにかくやります。制度は後からついてきます」と、既存のプログラムを海外メンバーを交えた英語プログラムへ一新した。
いずれの人事部も「海外売上高比率が○%を超えたから始めましょう」といった形式論ではなく、経営の意思に応えようという人事部・人材育成部門の意気込みでグローバルリーダー育成を開始されている。お世辞にも英語が流暢という方々ばかりではない。寧ろ苦手意識を持たれていることは傍目に分かる。それでも冒頭の危機感から自分を鼓舞され一歩踏み出されている。世界で戦えるリーダーを輩出するのに、自分達人事部がボトルネックになっていいあろうはずがない、という気概をお持ちである。筆者が知る中には、グローバルの取組みを加速するために、グロービス経営大学院の英語MBAの卒業生を採用された人事部もある。変革への本気度が伝わってくる。
人事部の本気度は参加メンバーにも必ず伝わる。必ずしも英語が流暢と言う方々ばかりではない。しかし、たかが英語で恥はかきたくないというプライドと、この会社をなんとかしたいという責任感を持ち、海外メンバーと丁々発止をするのである。事務局は、最初こそつまずくことはあっても、額に冷や汗をかくことが更なる成長機会への渇望感へとつながっていくはずだという信念を持って見守っている。
我々グロービスのお手伝いはといえば、事務局の方々と一体となって、冒頭に述べたようなビジョンや戦略を語る素材を整え、丁々発止の議論の場を作ること、そしてその中で試練と成功体験を組み合わせて成長の過程を編み上げていくことである。
先日、そのようにして企画からセッション終了まで半年を費やしたプログラムが終わった。事務局の皆さまと共に「ワールドカップ」の場とすべく心血を注いだプロジェクトだった。参加メンバーが互いの健闘を握手で讃えあい、記念写真を撮り、再会を約束して帰国の途につく。メンバーを見送った後、同志である事務局の皆さまと朝まで心地よく痛飲した。さあ、次の「試合」はどういう場にしようか。
(追記)サッカー日本代表の元監督 岡田武史氏のコメントに同意する。
「自分の3人の子供たちにどういう社会を残せるかを考えている。戦後70年戦争もなく、高度成長時代という恵まれた時代を生きてきた。なのに、1000兆円を超える財政赤字、少子高齢化で縮小する社会、近隣諸国とも緊張状態にあるような世の中を残しては死ねない。」
待ったなしだ。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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