グローバル競争力を高めるために、人事は何をすべきか?
- グローバル人材育成
- 次世代リーダー育成
-
中島 淑雄
グロービス講師
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経営環境のグローバル化が進む現代。海外で活躍する人材の育成は待ったなしです。しかしいざ着手すると、「誰を」「何のために」「いつまでに」「どのように」育成したらよいのか、悩まれてしまう方も多いのではないでしょうか。本コラムでは、グローバル人材育成の基本となる考え方や重要なポイントについてお伝えします。
第1章
グローバル企業の抱える課題とは?
まず皆さまにお聞きします。「グローバル企業とは、どのような企業を指しますか?」グローバル企業の定義は各企業によって異なるものです。本コラムでは、グローバル企業とは国籍を問わず優秀なリーダーが各事業/機能で活躍している企業と定義します。
再びご質問です。「グローバルで活躍しているリーダーは十分にいますか? 各事業/機能に最適配置できていますか?」・・・この問いに“Yes”と答えられる企業は多くないでしょう。グロービスがご支援してきた企業様からも、次のようなお悩みをよく耳にします。
- 顧客企業のグローバル化に対応するため、自社も販売や製造拠点を増やしてきた。しかし、人や組織のグローバル化が追いついていない
- 海外派遣者の人数が足りない。同じ人を何度も派遣したり、派遣期間が長期間になったりしている
- 今まで日本人を海外に派遣していたが、そもそも日本人を派遣し続けるだけでいいのか
- 海外は放任状態。事業規模が大きくなってきたこともあり、日本側でグリップできていない
これらの課題に対応するため、多くの企業がグローバル人材の育成を強化しています。グロービスへのグローバル人材育成のご相談も増えており、直近3年間で15ヵ国以上のグローバル経営/事業リーダー、海外拠点リーダー育成プログラムを支援してきました。ご相談の数は近年、急激に増えています。
第2章
将来に向けたグローバル人材育成が
必要な理由とは?
最後の質問です。「3~5年後にグローバル企業になるため、自社に必要なリーダー像と人数は明確ですか? 人事として将来に向けた準備は進んでいますか?」
外部環境は日々変化しています。経営トップは変化し続ける外部環境にアンテナを張り、自社への意味合いを洞察し、次の戦いに向けて準備しています。そのような経営トップから突然、下記のような質問をされてすぐに回答できますか?
「●●事業のグローバル展開を強化したい。人材は揃っているか」
「海外展開を加速させるため、▲▲社をM&Aで買収する。ついては、経営統合後の戦略策定・実行を▲▲社と推進できるリーダークラスの人材は何名いるか」
企業経営の岐路において、先導するリーダー人材のメドが立たず経営の要請に応えられないようでは、グローバルで勝ち続けることは難しいでしょう。
かつての日本企業の人材システムは新卒一括採用・終身雇用が前提にあり、順々に育成・評価・配置していく仕組みが基本でした。じっくりと“熟成”させていくイメージです。経済が成長し続けて事業の安定成長も見込める環境においては、熟成の仕組みは機能し、日本企業の成長を支えてきました。
しかしながら変化が激しく、かつグローバル化が進む現代の経営環境においては、経営トップからの指示は明日降ってくるかもしれません。 “熟成”から“ジャスト・イン・タイム”へ、人材育成システムのパラダイム転換が必要となったのです。
第3章
パラダイム転換を実現するための
人事のミッションとは?
企業経営における人事の重要ミッションは、経営のビジョンや戦略の実現を人材面からリードすることです。従い、グローバル人材育成に携わる人事には以下のような点が問われます。
- 3~5年の間、経営・事業を取り巻く外部環境はどのように変化していくのか?
- そのような環境において、自社の経営が目指す姿・事業の戦略はどうあるべきか?
- 現在の経営状況はどうなのか?
- 経営の目指す姿、戦略に対して、どこにどれくらいのギャップ(戦略課題)があるのか?
- 人材組織課題と解決策
- ・戦略課題を解決する上で、グローバルの各拠点や機能でKeyとなるポジションはどこか?
- ・そのポジションでは、どのようなリーダーが、どの程度必要なのか?
- ・今の人材の状況は? どこに、どのくらいのギャップ(人材組織課題)があるのか?
- ・従い、どのような人材育成施策を進めていくべきか? など
これらの戦略課題の位置づけと、人材組織課題とのつながりを下図にまとめました。
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パラダイム転換を実現するための人事のミッションとは、これらのポイントを丁寧に押さえながら人事戦略上の課題を解決し、企業のグローバル成長を引っ張っていくことなのです。
第3章
グローバル人材育成における難所は? どう対処すべきか?
前項ではグローバル人材育成に携わる人事のミッションについて解説しました。しかし、これらのミッションを実際に行うのは難しいものです。なぜならグローバル人材育成には、特有の難所が存在するからです。3つの難所と、対処方法について見ていきましょう。
難所1:戦略理解のハードルが高い
国内からグローバルに目を転じると、戦略は複雑性を増し、理解のハードルが高まります。たとえば「戦略の軸」を見てみると、国内であれば「事業軸」でよいかもしれません。しかしグローバルでは、「地域軸」を加味する必要が出てきます。経営・事業側でグローバル戦略を明確に立案できていない場合もあるでしょう。戦略は各社各様ですので、各社で分析・議論して答えを出すしかありません。ご参考までに、グローバル化に伴う人材課題の一般的なパターンを3つご紹介します。
1:特定機能の現地化まで進めた企業
一部の取引やオペレーションは国境を超えて行っているものの、主体は日本にある企業が該当します。この段階では、赴任者の現地での活躍、ローカル人材の自社理念・価値観の浸透などを目指す企業が多いです。一方、赴任者への教育内容と現地での役割にミスマッチが生じたり、ローカル人材がガラスシーリング(ガラスの天井)に不満を持ったりすることが多いため、赴任者教育やローカルスタッフの育成を充実させる必要があります。
2:複数機能の現地化が進んだ企業
オペレーション基盤や収益基盤が複数国家・地域に渡る企業が該当します。よくある課題として、現地の経営陣・トップをローカル人材から輩出したいものの、優秀なローカル人材を本社で把握できていないというケースがあります。各国拠点の自律化を進めるため、ローカルマネジメント強化を育成課題として持つ企業が多いです。
3:複数機能の多極・分業化まで進んだ企業
国籍・国境を超えてオペレーションを行う企業が該当します。理想は事業・機能を超えて任せられる優秀なリーダーを育成・アサインできている状態ですが、リーダーの絶対数が不足していることが多いです。主な育成課題として、トップタレント(経営幹部、候補者含む)の育成、グローバル人事方針の共有や人材交流などが挙げられます。
下図にこれらの課題をまとめました。
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難所2:やることが多すぎる
グローバル人材育成の仕組みは複雑であり、すべてを一度に構築するのは非現実的です。たとえば「採用⇒選抜⇒トレーニング⇒評価・登用」を包括したタレントマネジメントシステムを、国内外で一気通貫に再整備するように言われた場合、何から手を付ければいいでしょうか? 海外で構築されてきた仕組みは海外拠点別・地域別に異なることも多く、国内との整合性を取るだけでも一苦労です。そのためまずは、スモール・スタートで着手して形にしていくことをお勧めします。
着手の基準は、たとえば戦略的に重要で、かつ取り組みやすい箇所が考えられます。そのためには、先述した戦略理解が欠かせません。自社の海外展開の経緯・文脈も理解すべきです。ただし必ず、全体像を念頭に置きつつ進めていきましょう。
グロービスがご支援してきた企業の多くは、スモール・スタートとして事業/海外拠点のトップリーダー候補の育成プログラム(トレーニング)に着手しています。スモール・スタートで着手してみると、下記のような効果を期待できます。
- ・経営方針やグローバル人材育成に対する、リーダー層の一体感を醸成できる
- ・「どこに」「どのような」リーダー候補がいて、「どのくらい」のレベルか把握できる
- ・現地候補者へグローバルリーダーとしての自覚、行動を促すことができる
- ・海外拠点の人材育成の状況や課題を把握できる
難所3:海外拠点の様子がわからない
海外拠点の組織課題は何か? 将来有望な人材はどれくらいいるのか? これらを本社人事が把握できていないケースです。
とくに海外展開の歴史が長い企業ほど、現地の人事機能が独立していて本社人事から指示を出しづらい場合があります。海外に積極的に足を運ぶ、出張時に現地社員と話をするといった基本的な心がけ・行動が求められるでしょう。最近はグローバル人材開発コミッティを立ち上げ、本社と海外拠点人事が同じテーブルに座り、人材育成に関する議論を行う企業も増えています。
第4章
最後に
企業経営における人事の重要ミッションは、経営のビジョンや戦略の実現を人材面からリードすることです。グローバル戦略をスピーディかつ効果的に進めるには、必要な人材をジャスト・イン・タイムで前線に送り出さねばなりません。今こそ、日本企業の人事は人材のグローバル化に真剣に向き合い、行動すべきなのです。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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