グローバル時代の理念経営
第1回:あなたの会社の理念はタテマエになっていませんか?

執筆:竹内 秀太郎

2012.06.23

日系海外現法ローカル幹部のひとこと

 

「日系企業は、マチュアーな人には、とてもフィットした勤め先だと思うよ。」

ある日系大手メーカーの中東拠点の現地幹部からこんなフレーズを聞いた。(“マチュアー”とは、成熟した・大人のという意)インド出身UAE在住の彼は、筆者が昨年参加した英国のビジネススクールのエグゼクティブ・プログラムのクラスメートの一人だ。のべ4週間のこのプログラムには、地元欧州はもちろん、中東、アフリカ、アジア、南米と文字通り世界中から50人超のビジネスリーダーたちが集まって来ていた。その中には、彼のように日系企業の海外現地法人の非日本人幹部も複数人参加していた。日系企業に勤めている現地採用のローカルスタッフの多くは欧米企業では通用しない二流人材だ、という話を耳にすることがあるが、実際の評価を確かめてみたくて尋ねてみたところ、返ってきたのが冒頭の言葉だった。短期的な結果、早い出世に貪欲な“ガツガツした人”とは対照に、組織との長期的なコミットメントを重視し腰を据えて貢献することに働き甲斐を感じる人を“マチュアーな人”と捉えると、この言葉の響きは妙に納得感があった。

そもそも日系企業、欧米企業という大括りな単位で話をするのも乱暴なのだが、それでも人事慣行や組織文化には大きな傾向があるものだ。さらには個社ごとにその企業のカラーがあり、そのカラーに合った人材がその組織を構成し、その組織の文化をつくっている。企業のカラーが違えば、そこにフィットする人材も違うわけで、それは一流とか二流とか単純な序列の問題ではない。実際彼のところには、ライバルの米国や韓国メーカーからも高待遇の引き抜きオファーが来るが、彼は今の会社で働くことを積極的に選択しているという。彼の勤める日系大手メーカーは、しっかりとした経営理念のある企業の代表格として知られている会社で、明確なカラーを持っている。この会社が、熾烈な競争環境の中で勝負できているのは、その会社にフィットした彼のような人材がその会社らしい働き方で生き生きと活躍しているからだと考えている。

経営の根幹にある理念が日々の業務の中にも息づいて組織の文化を形づくり、その企業に最適な人材を集め、最高の力を引き出すという好循環ができているのが理想だろう。ただ現実には、経営理念があったとしても、理念がその組織内に浸透し、経営に十分に活かされているとは限らない。一昨年、グロービスで「ウェイマネジメント」に関するセミナーを開催した際に実施したアンケートでは、経営理念が実際の経営や業務遂行の各場面で「よく活かされている」「まあまあ活かされている」を合わせても5割に満たない(※グラフ参照)。このアンケートが示す通り、理念の浸透度には企業によって相当なバラツキがあるのが実態ではないだろうか。自身の次のような体験からもそう実感することがよくあるのだ。

※グラフ

 

理念セッションでの風景

筆者は、グロービスのエグゼクティブ向けのプログラムで、理念を経営に活かした“理念経営”をテーマとしたセッションの講師を務めている。その中で参加者に「自社のカラー(組織文化)をひとことで表現して下さい」と問うことがある。すると多くの場合に出てくるのは、
 
「誰も決めない」
 「お役所タテワリ」
 
といった、やや自虐的なネガティブトーンの答えだ。このような答えが苦笑いをしながら他人事のように語られることも少なくない。また、その企業のビジネスならではの“らしさ”も感じられない。同じ企業から複数名参加している場合、同じような言葉が出てこないことも多く、必ずしも社内で認識が揃っているとは限らない様子が垣間見られる。こうした企業にも立派な経営理念はあるのだが、それは額縁の中にある、いわば“タテマエ”の世界の話であり、それが浸透している状態からはほど遠いのだ。
 
一方で中には、たとえばオーナー系の部品メーカーからの参加者から、
 
「品質至上主義」
 
というような、その企業のビジネスを推進していく上で最も大切なことを象徴する力強い言葉が即座に出てくることもある。その企業の理念を想起させる表現といってもいいだろう。そんな言葉が自然に出てくる企業では、経営理念が組織内に浸透しており、日々の仕事の中でも活用されているであろうことは想像に難くない。“タテマエ”と“ホンネ”の乖離がなく、両者が重なっている状態といってもいいだろう。

本連載で考えたいこと

現在、多くの日本企業にとってグローバル化が最重要課題であることは論を俟たない。それを推進していく上での人材面での課題の1つに、経営の現地化、すなわちローカル人材を育成し幹部登用を進めていくことにある。その際、どんな人材に経営を任せるのかといえば、何より自社の理念を深く理解していることが必須だという。進出先の地域ごとに人々の生活習慣の違い、市場の発展段階の違い等々、様々な違いがあるので、日本と同じようにやっても通用しない。そこで大前提として必要なことは、事業を進めるにあたって何を大切にするか、というベースの考え方を合わせることだと考える。その上で、“郷に入っては郷に従う”で現地に任せたある程度柔軟な対応が求められるのではないか。冒頭に紹介した短期留学時のクラスメートは、その大前提となる条件にあった人材なのだろう。彼のように自社の特徴を理解し、その良さを誇り思っている人材を現地幹部に登用できているということは、その企業において、経営理念の浸透がグローバルレベルで進んでいる証といってもいいだろう。その一方で、先に紹介した経営理念セッションでの風景に象徴されるように、理念はタテマエであって、足元の国内ですら、とても浸透しているとはいえないレベルにある企業も少なくない。この差はどこから生まれてくるのか。これが本連載のベースにある問題意識である。
 
比較的理念浸透が進んでいるといわれる企業を見ていくと、理念に掲げられている内容もさることながらそれを活用するプロセス、さらには経営の考え方や人材の育て方にも特徴があることがわかってくる。本連載では次回以降、以下のような観点から、どうしたら理念を活用した経営に近づくことができるかを考えてみたい。
 
 ・理念が浸透している状態とはどんな状態なのか?
 ・理念は企業の競争力にどう結び付くのか?
 ・組織の理念と社員個々人の志・使命感はどう関係するのか?
 ・理念経営を支えるリーダーの育成には何が必要なのか?

 
今回のポイント

グローバル化、特に経営の現地化を推進していく上で経営理念の浸透度が問われている
✓理念が浸透している企業がある一方で形骸化したタテマエにとどまっている企業がある
✓両者の差を分析し、理念を浸透し経営に活かしていくためのヒントを探っていきたい

 
執筆者プロフィール
竹内 秀太郎 | Takeuchi Shutaro
竹内 秀太郎

一橋大学社会学部卒業。London Business School ADP修了。外資系石油会社にて、人事部、財務部、経営企画部等で、経営管理業務を幅広く経験。社団法人日本経済研究センターにて、アジアの成長展望にフォーカスした世界経済長期予測プロジェクトに参画。
グロービスでは、法人向け人材開発・組織変革プログラムの企画、コーディネーション、部門経営管理全般および対外発信業務に従事した後、現在グロービス経営大学院ファカルティ本部主席研究員。リーダーシップ領域の講師として、Globis  Executive Schoolおよび企業研修を中心に年間約1,000名のビジネスリーダーとのセッションに関与している。Center for Creative Leadership認定360 Feedback Facilitator。共著書に『MBA人材マネジメント』(ダイヤモンド社)がある。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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