管理職研修お役立ちコラム:新時代の組織に求められるリーダーの「コミュニケーション能力」とは
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御代 貴子
ミドルリーダー(管理職)にとって、組織をマネジメントする難しさが増しています。部下との世代間ギャップや、共に働くメンバーの多様化に悩む方も多いのではないでしょうか。このような状況に置かれたミドルリーダーに求められるのは、「コミュニケーション能力」です。その背景と具体的に身に付けたいスキルとは何かを探ります。
(関連サービス:管理職研修)
第1章
「阿吽の呼吸」で理解し合えないメンバーと仕事をする苦しさ1)、2)
ミドルリーダー(管理職)が組織をまとめる難しさが増しています。
「若い部下がやるべきことをやらない」
「中途採用のメンバーと仕事の進め方が合わず、手戻りが多い」
「ベンチャーと協業することになったが、とにかくスピードを求められて困惑している」
という声も、最近多く伺うようになりました。その背景には、会社統合・他社との協業・中途採用の増加などで、会社への帰属意識、価値観、行動の前提などの多様性が増していることが挙げられます。例えば、ミレニアル世代に関する調査では、「2年以内の短期での離職を考える割合が5年以上の長期勤続を見込む割合を上回る」という結果が出ています。
以前は、新卒で入社して同じ会社で過ごし、仕事への価値観やライフプランなど、さまざまな点で同質性の高い人が集まっていました。いわば「阿吽の呼吸」が通じる環境で、ミドルリーダーの多くは「メンバー全員に同じことをしっかり伝えきる」コミュニケーション能力で、組織をまとめていました。
しかしながら、組織の多様性が高まると、リーダーには異なるコミュニケーション能力が求められます。そのギャップがミドルリーダーを苦しめています。
そのギャップは人事も知るところとなっており、ある調査で、社内コミュニケーションの阻害要因として「管理職のコミュニケーション力」が最多で挙げられるなど、リーダーのコミュニケーション能力に対する課題認識が高まっています。組織の多様化に応じてリーダーのコミュニケーション能力も進化させる必要があるにもかかわらず、適応できていない実態が窺えます。
第2章
今の組織には、「翻訳者」たるリーダーが求められている
これからのミドルリーダーに求められるコミュニケーション能力とは、個々のメンバーにとっての「翻訳者」になることです。翻訳とは、異なる言語間で同じ意味の内容を再現することを指しますが、今のミドルリーダーが向き合っているのは、他言語の話者ほどに異なる相手であるということから、あえて「翻訳」と表現しました。
価値観やキャリアプランが自分とは違う相手に対し、相手の状態を踏まえて、相手が分かりやすい言葉で、相手に沿った働きかけを行うこと。そしてコミュニケーションを通して、多くの関係者への影響力を発揮すること。これが今のリーダーに求められているコミュニケーション、つまり「翻訳力」なのです。
第3章
リーダーが身につけておきたい「翻訳力」
では、リーダーに求められる「翻訳力」とは、具体的に何を指すのでしょうか。3つのステップで見ていきましょう。
3-1. 会社の戦略を理解し、部門のビジョンを構築する
「コミュニケーション能力と関係ない話では?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、どの道を進むかを理解していないリーダーが、道標を立ててメンバーを導くことはできません。抜けがちな視点ですが、メンバーとコミュニケーションを取っていく出発点として、ミドルリーダーに欠かせないのは、戦略理解と、部門ビジョンの構築です。
3-2. 相手を深く知る
コミュニケーションを取る前に、相手が考えていることや不安に思っていることは何なのかを押さえておくことが、「翻訳」を成功させるポイントです。
経験の浅い若手であれば、上司の指示が理解できない、自分にできるのか不安だ、自分はこの仕事によってどう成長できるのか…ということかもしれません。
協業する他社の担当者であれば、自社のメリットは何か、考えられるリスクは何か、どのような頻度で連絡することが適切なのか…といったことが予想されます。
つまり、関係者1人ひとりが「何を知っていて、何を知らないのか」(認識レベル)、「話されることについて、どのような考え・意見を持っているのか」(意見)、「どのような感情を抱いているのか」(態度・感情)を理解することが必要です。
相手を理解するためにまずできることとしては、コミュニケーションの量を増やすことが挙げられます。チームメンバーには1日1回は声をかける、協業する企業のメンバーとも最初のうちはできるだけ対話を増やす、といったことです。それだけでも違いが出るはずです。
3-3. 相手が分かりやすく、興味を持つように自分の言いたいことを「翻訳」して伝える
相手への理解が深まったところで、部門ビジョンを達成するために、関係者1人ひとりへ「何をどのように伝えるのか」を考える段階に入ります。
この組織で定年まで働こうと考えている人に向けて話すのと、2年後には別の組織に移りキャリアアップしようと考えている人に話すのとでは、当然、求められる言葉が異なります。後者であれば、より具体的な戦略数値や行動目標、そこで得られるスキルや成長など、より個人にひきつけやすい話法を意識することが必要です。ちなみに、このように部下に合わせた話法を採用する有用性は、リーダーシップの理論の一つ「パス・ゴール理論」で示唆されています。
パス・ゴール理論とは、有能なリーダーは部下の目標(ゴール)を達成するまでの道筋(パス)を示し、必要な方向性や支援を与えるという考え方で、1971年にハウスにより発表されました。上図のように、置かれている環境と、部下の特性によってリーダーシップの取り方は変わることを示しています3)。
ここでは、相手にとって分かりやすく納得できるロジックを構築すること、すなわち論理思考力が土台のスキルとなります。ロジックがあってはじめて、相手は伝えた内容を誤解なく具体的に理解し、現実的な行動のイメージを持てるようになります。相手にとって発見や示唆があることで、興味が湧き、実際の行動に繋がるでしょう。
部下育成のコミュニケーションにおいては、ロジックに加えて、部下が自ら考えを深められるような「質問する力」も磨きたいものです。
ここでのポイントは、「相手の関心事」に沿ったコミュニケーションをすることです。繰り返しますが、「阿吽の呼吸で理解し合えない」メンバー同士が一緒に働くことが増えている今の時代においては、1人1人が異なる価値観・職業観を持ちながら働いている、という心構えを持っておくことが重要です。
第4章
ミドルリーダーの「コミュニケーション能力」を高める仕組み作りとは
これからのミドルリーダーに求められるコミュニケーション能力とは「翻訳力」であるとお伝えしてきました。
上記に挙げた3つのステップを鍛えるには「戦略理解」「論理思考」「質問力」などの要素ごとに研修で強化することが可能です。
ここでは、「研修とOJTを必ずセットにする」ということがカギとなります。
研修で、戦略理解やコミュニケーションの基本スキルを「型」として理解しておくことはもちろん重要です。加えて、例えば、研修終了後も継続するような研修受講者のコミュニティを作ったり、社内の横・斜めの関係での相互メンター制度を作ったりして、人事部門がミドルリーダーたちにとっての「サードプレイス」を提供することも一案です。
ミドルリーダーのコミュニケーション能力によって、組織の成果創出力が左右します。育成を仕組み化して、机上の理論で終わらない育成設計をぜひご検討ください。
引用/参考情報 |
1) 参考:デロイト トーマツ グループ、”2018年 デロイト ミレニアル年次調査”、2019年3月に確認 2) 参考: HR総研、”社内コミュニケーションに関する調査”、2019年3月に確認 3) 参考:GLOBIS 知見録、”パス・ゴール理論”、2019年3月に確認 |
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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