VUCA時代における経営者(取締役・執行役員)への
研修の必要性と企画のポイント

皆さまの会社では、経営者(取締役・執行役員)への育成を行っていますか? 外部環境の変化が激しい今だからこそ、経営者に学んでいただくことの価値が高まっています。本コラムでは、経営者への研修企画としてテーマに挙がりやすい、「意思決定の軸」について解説します。

執筆者
清水 敬治

早稲田大学教育学部卒業後、グロービス経営大学院経営研究科(MBA)修了。
大学卒業後、教育事業会社にて店舗運営及び新規事業開発に従事。その後、外資系生命保険会社にて、販売代理店への経営支援や営業教育に携わる。
現在はグロービスのコーポレート・エデュケーション部門において、消費財メーカー・金融・製造業など、多様な業界を対象にした経営人材育成や、組織開発のコンサルティングを行う。

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CHAPTER
01

経営者(取締役・執行役員)への
研修が必要な背景

経営者(取締役・執行役員)への研修が必要な背景は、企業を取り巻く経営環境が加速度的に変化しているからです。コロナ禍のように予測不能な変化も多く、今までの勝ちパターンではうまく行かなくなったと感じる方も多いのではないでしょうか。

将来の予測が困難な状態を、VUCA(変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity))と言います(図1)。

図1:VUCAの時代


VUCAの時代と言われる昨今は、どれだけ精緻な予測・分析を実施しても、想定外の事態が次々と発生します。加えて飛躍的なテクノロジー進化も、VUCAを後押しします。テクノベート(テクノロジー+イノベーション)により、従来のビジネスモデルを駆逐する新たなビジネスモデルが日々構築されているからです。

このような経営環境下において、経営者(取締役・執行役員)など企業の経営を担う経営陣は、何を考えればよいのでしょうか? 大切なことの1つに、自身をアップデートしていくことが挙げられます。環境変化に耐え、乗り越えられるだけのスキル・マインドを、経営陣が身に付ける必要があるのです。

経営陣の方々が自身をアップデートする機会は、大きく2つに分けることができます。日常における業務活動と、非日常での活動です。

日常業務においては、情報収集のアンテナを高めることが効果的と考えます。たとえば新たな人との接点を増やす、新しい会合の場に積極的に参加してみる、などです。VUCAの時代においては、新しい情報リソースを確保して最新情報を常にインプットすることは、非常に有効です。

一方で普段の業務の中だけでは、日常の慣性に引っ張られ、大きな変化を乗り越えるヒントは得られにくい、ということもあります。その場合は意図的に日常業務を離れ、自身の思考特性などを冷静に振返る機会を設ける必要があるでしょう。多忙な経営者(取締役・執行役員)であれば、半強制的に日常業務から引きはがすことが必要になり、そのための選択肢の1つが研修となります。

それでは具体的に、経営者(取締役・執行役員)は何を学べば良いのでしょうか。経営者の役割という視点から、深堀していきましょう。

CHAPTER
02

VUCA時代における
経営者(取締役・執行役員)の役割

VUCA時代の経営環境下において、経営者(取締役・執行役員)が担うべき役割はどのようなものでしょうか。端的に表現すると「明確な軸を持った上で、自社が進むべき方向性を意思決定すること」であると、筆者は考えます。

さまざまな要因が複雑に絡み合い、地政学的・経済学的な危機が定期的に起きている昨今、経営者が向き合うべき論点は増えています。

  • どのようにリスクヘッジし、経営資源の配分を行うのか
  • 人口動態が変化し国内需要がシュリンクしていく中で、海外事業を成功してくための勝ちパターンを構築できるのか
  • 飛躍的なテクノロジー進化に対して、自社の構造変革やDXをどのように行うか など

上記のような経営上の重要な各論点について、確固たる意思決定の軸を持ち、適切な意思決定を下し、自社が進むべき大きな方向性を決断していくことが経営陣には必要と考えます。

そして、経営者が意思決定・決断する際に重要な要素は、意思決定の軸です。VUCA時代には、意思決定の源泉となる明確化された軸が必要となります(図2)。

図2:VUCAの時代には明確な意思決定の軸が必要


次項では、経営者(取締役・執行役員)が備えるべき軸について見ていきましょう。

CHAPTER
03

経営者(取締役・執行役員)が備えるべき、
意思決定の軸

皆さんは「意思決定の軸」と聞いた際に、どのようなものを連想しますか? 多くの方は、個人として大切にしたい軸(個々人の価値観をベースにした軸)を想像するのではないでしょうか。

実は経営者(取締役・執行役員)が備えるべき軸は、もう1つあります。自社ならではの考え方や意思決定プロセスを反映した「企業としての軸」です。

個々人の価値観については、経営者(取締役・執行役員)であれば、自身なりに明確化されている方が多いと思います。しかし各人が持っている価値観は、各々が大切にしたいことの幅が広く自由度が高いため、複数人のベクトルを合わせづらいという懸念があります。

そのため、企業としての軸 = 企業・組織として大事にしたい価値観を踏まえた意思決定の軸、を備え、経営陣で共有しておく必要があるのです。しかし残念ながら、企業としての軸は企業風土・文化に近しいこともあり、多くの企業では明確に言語化されていません。まずは自社ならではの意思決定の軸を、明確に言語化する必要があります。

CHAPTER
04

意思決定の軸を揃える際に留意すべきこと

ここからは、意思決定の軸を経営陣で揃えるためのプロセスをご紹介しましょう。プロセスは大きく3つ。STEP1:自社の軸の言語化、STEP2:自身の軸の言語化、STEP3:自社の軸と自身の軸との統合です(図3)。

図3:意思決定の軸を揃えるためのプロセス

STEP1:自社の軸の言語化

まずすべきことは、企業としての軸の言語化です。上述のように、意外と多くの企業で、自社の軸 = 自社として大事にしたい価値観を踏まえた意思決定の軸、は組織文化として根付いており、言語化されていないものです。普段行われる言動なので、感覚として何となく掴んでいる、という方も多いのではないでしょうか。

自社の軸を言語化するには、まず、意思決定プロセスを棚卸しすることから始める必要があります。自社の意思決定プロセスであれば、既に言語化されている場合があったり、まだ言語化されていなくても比較的言語化しやすかったりします。

その後、一般的・合理的な意思決定プロセスと、自社の意思決定プロセスとの差分を抽出し、両者の差分が何か? 差分は何故起きているか? について考察します。一般的・合理的なプロセスと逸脱する部分にこそ、自社特有の軸が潜んでいるのです。

差分が顕在化された後は経営陣が車座で議論し、自社特有の軸を言語化・共有します。

STEP2:自身の価値観の言語化

続いて、自身の価値観について言語化を行います。たとえば、自身がこれまでに行ってきた象徴的な意思決定の事例を振返ることが効果的です。

自身が意思決定で重視してきたことを考え、個人としての判断軸の特性について理解を深めることで、自身の軸を明確にすることができます。

STEP3:自社の軸と自身の軸との統合

自社特有の軸と自身の軸を言語化した後は、2つの軸の統合が必要です。

価値観を言語化しただけでは、経営の意思決定の軸として確立したとはいえません。個人の軸と自社特有の軸を統合させることで、経営者(取締役・執行役員)として持つべき意思決定の軸を明確にすることができるのです。

CHAPTER
05

最後に

本コラムでは、経営者(取締役・執行役員)に今後学んでいただきたいポイントとして、「意思決定の軸」を取り上げました。個人の軸を考えたことがある方は多いかもしれませんが、自社の軸との統合まで考えたことのある方は少ないと思います。

大きな環境変化が起きている今だからこそ、経営陣が大きな決断を迫られる機会は、ますます増えていくでしょう。その際に意思決定の軸が揺らいでは、適切なかじ取りは行えません。本コラムが、皆さまの会社で経営者育成を企画する際の一助になれば幸いです。

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。