人材育成お悩み相談室
リーダー研修をしていますが、会社の将来を託せる人材が育ちません

2018.02.14

【お悩み】
毎年、リーダー人材の育成研修を実施しているのですが、キラリと光る人材がなかなか出てきません。我が社にはパフォーマンスも人柄も良い管理職はいるのですが、「じきに部門長に昇格し、将来は経営層として活躍できる人材か?」と言われると、疑問符がついてしまうのです。

 

【お答え】
足し算で研修を企画するのは、やめましょう。そういう発想では、問題解決が得意な「モグラたたきリーダー」が量産されるばかりです。引き算の発想も取り入れて、経験の枠を超えた新しいチャレンジを促しましょう。

執筆者プロフィール
中村 剛 | Goh Nakamura
中村 剛

東京工業大学大学院理工学研究科、グロービス経営大学院修士課程(MBA)修了。
大手システム会社にて、企業の基幹業務システム見直し、全社共通基盤導入等のプロジェクトに参画し、提案・設計・構築・運用に携わる。グロービスに入社後は、企業向け人材開発・組織開発の企画、設計、コンサルティングに従事。現在は法人営業部門のマネージャとして、チームマネジメントとともに経営大学院のコンテンツや教材の開発に携わる。講師としては経営戦略領域を担当している。


第1章 
将来を担うリーダーとして物足りない理由

グロービス・コーポレートエデュケーションの中村です。これまで組織開発・人材育成のコンサルタント経験も含めて、10年以上にわたって、クライアントと経営課題・人材育成課題に取り組んできました。

「あの人は、人一倍会社のことを想い、責任感が強く、組織に貢献しようと精一杯努力もする。しかし、将来を担うリーダーとしてはどうも物足りないんですよね」

これは業種・業界問わず、よく聞く言葉です。特に、“VUCAと称されるほど環境変化が激しく、将来を見通しにくい近年、人事担当者の間でこのお悩みが深まっているように感じます。

VUCA : Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせた造語

その理由はなぜかというと、新しい知識を注入し、『やるべきこと』を伝え、タスクリストを増やすような研修にもっぱら力を入れて、「モグラたたき型リーダー」を量産してきたからです。

モグラたたきとは、現行の仕組みを運用し、顕在化した課題を捉えて改善を加えること。リーダー育成研修にノミネートされる人材ともなれば、プレーヤーとしても、管理職としても、的確な問題解決で着実に成果をあげてきたはず。つまり、モグラたたきが得意な人材であり、別名、問題解決型リーダーとも言います。

第2章 
モグラたたき型リーダー(問題解決型リーダー)を次のステップへ

モグラたたきに秀でたリーダーに足りない要素の代表格は、経営知識、ヒト・組織を動かす力、考える力、志の醸成、戦略的思考など。どれも企業が求めるリーダー人材に欠かせないため、人事担当者はあれもこれもと『やるべきこと』を詰め込んだ研修を企画しがちです。将来を見通すのが難しいからこそ、変化に対応するための備えを厚くするのは、避け難いことかもしれません。けれども、研修の受け手に「余白(スペース)」がなければ、行動変容につながる可能性は極めて低くなります。

余白とは、新しいことにチャレンジする余地、経験のないテーマに取り組んだり考えたりする時間、経験を振り返り自己認識を深める時間などを指します。余白を作ることによって、新しい情報や考え方を咀嚼し、我が事に置き換え、心も身体もこれまでと違う行動に踏み出す準備が整います。

第3章 
強制的に「余白」を作る工夫を

「余白」を作ることの重要性は、私自身も身をもって感じました。きっかけは、第一子が生まれたこと。夫婦共働きなので、家事も育児も分担している分、ほとんど残業ができなくなりました。その一方で、業務上やるべきこと、着手したいことは増えるばかり。これまでの流れのままに、モグラたたき流のやり方をしていては、首が回らない状況に陥ったのです。

このときに気づいたのは、知らず知らずのうちに、効率性重視で「全部自分がやらなければならない」と思い込んでいたことです。そこで、目的に応じて投入する時間を減らす、作りこむ前に周囲から意見をもらう、自分でやらずに周囲にお願いするなど、やり方を変えてみました。抱えていた仕事の一部を少し手放してみると、余白が生まれ、見過ごしていた情報に目が留まるようになり、新しいやり方に心と身体が向くようになったのです。

これまで成果をあげてきたモグラたたき型リーダーは組織からの期待も高く、自ら余白を減らしていく状況に陥っています。だからこそ、人事担当者としては、研修で新しい知識や考え方をインプットするだけでなく、強制的に余白を作るように仕向ける工夫が大切です。

例えば、Googleの「20%ルール」(業務時間の20%を担当業務と違う活動に充てて良いというルール)は新しいサービスを次々と生み出してきたことで有名です。通常の職務以外のことに意図的に時間を使うことで、新しいアイディアや活動が生まれる。言い換えると、人間の心や身体、ひいては行動を変えるには、「余白」のある環境や場の設定が多大な影響を与えるのです。

リーダー人材を育成する目的はそもそも、経営を担う行動力をつけさせることのはず。行動が変わるまでのプロセス全体を見据えて、「余白」を設けるという引き算の視点も含めて、既存の研修を見直してみてはいかがでしょうか。

▼お問い合わせフォーム▼
人材育成資料ダウンロード

人材育成セミナー・資料ダウンロードはこちら

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。