リスキリングとは? 実施する5つのステップと成功事例・取り組むコツ

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テーマ
  • リスキリング
執筆者
  • 澤田 菜月のプロフィール

    澤田 菜月

「リスキリングとは? なぜ今企業が取り組まなければならないのか気になる」
「リスキリングにはどのように取り組むの? 具体的な手順や成功事例が知りたい」

政府が推奨したことで耳にする機会が増えた「リスキリング」。
「リスキリングとはどのような取り組みなのか?」「具体的にはどのように取り組めばいいのか」気になっている方は多いでしょう。

リスキリングとは知識や技術を学び実践できるようになり、新しい業務や職業に就くことです。

例えば、将来的にマーケティング部をデジタルマーケティング部に変更するために、マーケティング部の社員がデータ活用やデジタル技術を学び新しい業務に活用することが該当します。

個人の趣味や関心で学ぶのではなく、企業戦略の一環として計画的に取り組むところが特徴です。

今リスキリングに注力している企業が増えているのは、将来を見据えて持続的な成長をするためです。
昨今は市場の変化が早く、ニーズや求められる業務が短期間で変わります。

同じ人が同じ業務・同じスキルで長期間成果を出し続けることは難しく、リスキリングをしないと生き残ることができないでしょう。

だからこそリスキリングとはどのようなものか理解し、少しでも早く取り組める体制を整えましょう。

そこでこの記事では、リスキリングの概要や重要性、メリット、デメリットなどリスキリングに関する基礎知識をまとめてご紹介します。

とくに、リスキリングの重要性や具体的な実施方法には詳しく触れているので必見です。

この記事を読むとわかること

  • リスキリングの概要が分かる
  • リスキリングとアップスキリング・リカレント教育の違いが分かる
  • リスキリングの目的が分かる
  • リスキリングが注目される理由が分かる
  • 企業がリスキリングに取り組むメリットやデメリットが分かる
  • 企業がリスキリングに取り組む方法が分かる
  • 企業がリスキリングに取り組む5つのステップが分かる
  • 企業のリスキリングの成功事例が分かる
  • 企業がリスキリングに取り組むときによくある失敗が分かる
  • 企業がリスキリングを成功させるポイントが分かる

この記事を最後まで読めばリスキリングとはどのようなものか理解でき、前向きに取り組めるようになります。

リスキリングはこれからの時代を生き抜く事業戦略を推進するエンジンとして欠かせないものなので、ぜひ参考にしてみてください。

1.リスキリングとは

リスキリングとは

冒頭でも触れたようにリスキリングとは知識や技術を学び実践できるようになり、新しい業務や職業に就くことです。

マーケターがデジタルマーケターに転身する、新しく作ったデジタル推進部に人材を配置するための知識を習得するなどが「リスキリング」に該当します。

リスキリングの例

【リスキリングの例】

・マーケターがデジタルマーケターに転身するための知識取得
・カスタマーサポートがカスタマーサクセスに転身するための知識取得
・新しく設置するデジタル推進部に人材を配置するための知識取得

リスキリングは下記の3点を知っておくと、簡単に理解できます。

リスキリングの3つのポイント

リスキリングは「学ぶこと」がゴールではなく「新しい業務や職業に就くこと」がゴールです。
あくまでも企業が主体となり、自社の将来を見据えた成長のためにリスキリングに取り組みます。

個人的に気になる資格を取得する、新しい技術を学ぶことはリスキリングには該当しません。

例えば、A社がニーズの移り変わりに対応するために、デジタルマーケティングやビッグデータを活用できる部署を立ち上げるビジョンを描いているとしましょう。

このビジョンを実現するには、デジタルマーケティングやビッグデータを活用できる人材が必要です。
現在の部署、人材配置を見直し、3年後には下記のような構造にしたいと考えています。

リスキリング前 リスキリング後
マーケティング部 デジタルマーケティング部
総務部 DX推進部に数名異動

そこで、企業側から対象となる社員にデジタルマーケティングやビッグデータを学ぶ機会を提供して、新しい知識や技術を身につけてもらいます。

【新しい知識や技術の身につけ方】

・eラーニングを活用する
・社内外で研修をする
・社外スクールに通うなど

その結果、社員は新しい知識や技術を身につけ、今までとは異なる部署で活躍できるようになります。
つまり、リスキリングとは「デジタルスキル」を身につけることそのものが重要なのではなく、「その先に何を目指すかを考える力」「デジタル社会の進展を活用する力」が重要であるといえます。

正しいリスキリングの知識
※出所:「リスキリング超入門」徳岡晃一郎、房広浩 著 をもとにグロービスにて加筆修正

リスキリングは企業側と社員側の双方にメリットがあり、取り組む企業が増えています。

企業側のメリット 社員のメリット
・新しい事業や商品、サービスを生み出す知識や技術が身につく
・社内に新しい知識、技術を蓄積できる
・従業員満足度の向上につながる
・外部採用よりコスト、リスクを抑えられる
・新しい業務や職業に挑戦できる機会がある
・新しい知識・技術を得、キャリアの幅が広がる
・学びの場を提供してもらえる

厚生労働省が公表している「経済社会と働き方の変化等について」によると、従業員が1,001名以上の企業では86%がリスキリングに取り組む必要があると捉えています。

リスキリングに取り組む必要性の認識

参考:厚生労働省「経済社会と働き方の変化等について」(2024年6月に内容確認)

3.企業のリスキリングが注目される3つの理由」で詳しく解説していますが、日本企業は働き方や業務、業種を見直す大きな転換期にあります。

リスキリングをしないと継続的な企業成長ができない可能性があり、経済産業省を始め政府も推奨している取り組みです。

【リスキリングは単なる学び直しではない】

リスキリングでは「学び直し」というキーワードが浮かぶことがあります。
リスキリングは英語の「reskill」が由来で「新たなスキルを習得させる」という意味を持ちますが、単なる学び直しではありません。

業務に必要な知識や技術を身につける「学び」に着眼点を置いていないからです。

リスキリングで身につけた知識や技術を新しい業務や職業に活かすことが重要なので、学ぶことだけで満足しないことが大切です。

1-1.アップスキリング・リカレント教育との違い

リスキリングを検討するときに目にするのが「アップスキリング」と「リカレント教育」です。
アップスキリングとリカレント教育、リスキリングはそれぞれ目的や内容が異なります。

アップスキリングとリカレント教育の違い
項目 リスキリング アップスキリング リカレント教育
概要 新しい知識や技術を学び実践できるようになり、新しい業務や職業に就く 現在従事している仕事のレベルを上げるために、訓練機会を提供する 教育と就労を繰り返す生涯学習の方法(仕事に関連しない知識も含む)
DX推進部立ち上げのためにDXに関する知識を学ぶ 経理担当者がより高度な処理ができる知識を身につける 一時的に休職をして教育機関に通い、卒業後にスキルを活かせる仕事に就く
提供元 企業(企業が主体) 企業(企業が主体) 教育機関・社会人講座(個人で仕事外に参加する)
ゴール 新しい業務や職業に必要な知識や技術の習得 現在従事している仕事のレベルアップ 個人の目標の達成

アップスキリングは、今携わっている仕事のレベルを上げる知識、技術を身につけます。
例えば、営業がより幅広い営業に携わるために、ワンランク上の知識を習得することがアップスキリングに概要します。

リスキリングのように新しい業務や職業を目指すのではなく、今の仕事でレベルを上げる点が特徴です。

リカレント教育は、教育と就労を繰り返す生涯学習の方法です。
個人的な将来ビジョンや目標達成が目的なので、リスキリングのように企業主体で実施するものではありません。

例えば、一時的に休職をして新教育機関に通い、学んだ知識を活かして就職することが該当します。

このように、リスキリングとリカレント教育、リスキリングは大きく異なるので、正しく理解しましょう。

2.リスキリングの3つの目的(学習例あり)

リスキリングの3つの目的(学習例あり)

リスキリングとはどのようなものか理解できたところで、具体的にはどのような目的で取り組むのか気になるところです。

日本企業のリスキリングをパターン化すると、下記の3つの目的のいずれかに該当します。

3つの目的 概要 リスキリング例
自社のDX推進 自社でDXを推進するために新しいデジタル技術やリテラシーを身につけることで、新しい製品アイデアやビジネスモデルを創出できる可能性が高まる ・データを利活用する技術の習得
・デジタル技術を活用するためのリテラシーやセキュリティ知識の習得
・DXを推進するリーダーの育成
自社の雇用維持 技術的失業や余剰人員の再戦力化を目的に雇用を守る ・新しい業務や部署に就くための知識の習得
自社の事業成長 事業転換や新規分野への進出などを図り、自社の強みを生かした事業成長を目指す ・変化に適応するマインドや考え方の習得
・事業転換に伴う新しい知識や技術の習得

自社のDX推進は、DXを推進するために必要な知識や技術を目的としたリスキリングです。

DXを推進するにはデータやデジタル技術の利活用が必要ですが、そのような知識や技術を持つ人材が不在の企業が多いでしょう。

そこで、リスキリングを実施してDX推進に必要な知識や技術を学びます。

【DX推進のリスキリング例】

・データの利活用ができる知識
・DX推進部やDX推進室などの部署で活躍できる人材の育成
・プログラミングやデザインなど専門的な知識を有する社員の育成

▶参考コラム:うまくいくDX人材育成の具体的手法と押さえるべきポイント

社内にデータの利活用やプログラミングなどができる人材がいなくても、リスキリングに取り組み知識を身につければ新しい部署の立ち上げや配置転換が可能です。

自社の雇用維持は将来的に余剰人員や技術的失業が起きることを想定して、雇用している社員を「守る」目的のリスキリングです。

今の業務のままでは将来的に活躍できなくなるため、下記のように配置転換や新しい部署の設置を目指して知識や技術を習得します。

【自社の雇用維持のリスキリング例】

・非技術系人材を技術職に移行させるためにプログラミングやデータサイエンスを学ぶ
・データの利活用方法やAIなどの新しい技術を学び今のマーケティング形式からデジタルマーケティングに移行する

自社の事業成長では今の事業や業務内容だけでは生き残ることが難しいため、将来に向けて事業の変革を目指す「攻め」目的のリスキリングです。

【自社の事業維持のリスキリング例】

・新事業を開始するために必要な知識や技術を習得する
・ビジネスモデルを変えるための知識や技術を習得する

このように、リスキリングの目的には主に3つありますが、どの目的も将来を見据えて積極的に取り組むところが特徴です。

3.企業がリスキリングに注目する3つの理由

企業がリスキリングに注目する3つの理由

リスキリングの概要が理解できたところで、なぜ今リスキリングが企業に注目されているのか気になるところです。

ここでは、企業がリスキリングに注目する3つの理由をご紹介します。
リスキリングは企業の持続的な成長や企業価値向上に直結しているので、理解しておきましょう。

企業がリスキリングに注目する3つの理由

3-1.技術的失業のリスクがある

1つ目は、技術的失業のリスクがあることです。

「World Economic Forum」の2020年調査ではテクノロジーの進化により今後5年間に約8,500万人の雇用が消失し、新しく9,700万人の雇用が創出されると予測されています。

これだけ聞くとイメージしにくいかもしれませんが、時代の変化とともに職業は変化していくものです。
例えば、昭和から令和までには下記のような職業が消失しています。

【昭和から平成の間に消失した仕事】

・預貯金集金人や保険料集金人
・ディーゼル機関士
・速記学校の講師
・タイピストなど

中でもここ数年は変革期で、ビジネスの産業構造そのものが変わると考えられています。

その中で消失する仕事もあれば、新しく生まれる仕事もあるのは必然だと言えるでしょう。

ここで重要なのは、変化に向き合わなければ企業も個人も生き残れないことです。

消失する仕事を続けていても市場での需要は減り利益は縮小していくので、変化に向き合い対応できる姿勢が求められます。

そこで、企業内から新しい仕事や業務に適応できる人材を生み出す「リスキリング」が注目されるようになりました。

【世界経済フォーラムでは2020年に「リスキリング革命」を発表】

世界経済フォーラムでは技術的失業への対策として、2020年に「リスキリング革命」を発表しています。(※2024年6月に内容確認)
リスキリング革命では2030年までによりよい仕事やスキルを10億人に提供することを掲げて、リスキリング機会の創出をするという宣言が行われました。

技術的失業を念頭に置いて未来の仕事を創出することは、企業とって重要な取り組みであることが理解できるでしょう。

3-2.VUCA時代に対応しなければならない

2つ目は、VUCA時代に対応しなければならないことです。

昨今は変化が激しく先行きが不透明なVUCA時代に突入しています。

VUCA時代では想定外のことが起こり、今までの常識だけでは勝ち残っていけません。

VUCAの要素 概要
Volatility
(変動性)
価値観や顧客ニーズが変動していく
例:流行の移り変わりが早くなっているなど
Uncertainty
(不確実性)
外部環境や制度、政治などの不確実性
例:突然の災害・新型コロナウイルスの流行など
Complexity
(複雑性)
ビジネスを取り巻く環境が複雑化している
例:海外との関係性や地政学リスクなど
Ambiguity
(曖昧性)
上記の3つの要素を組み合わせると確定されることがなく曖昧な現状が浮かび上がる
例:業界の概念を覆すサービスの登場など

記憶に新しいのは、新型コロナウイルスの流行時です。
今までの働き方が通用せず、テレワークへの適応や他業務への移行などを余儀なくされました。

不確実な要素が多く前例のないことに挑戦しなければならない時代になり、決められたプロセスと実績を踏めば成功できる従来の考え方では企業成長が見込めなくなったのです。

VUCA時代以前のスキル
・特定の職業に就けばある程度スキルが固定化されていた
・決められたプロセスや経験を積めば着実にキャリアアップができた
↓
VUCA時代のスキル
・求められる職業や目標が変化していく
・時代に合わせて新しい知識や技術を習得するフレキシブルさが求められる

VUCA時代に求められるのは「フレキシブルさ」です。
時代のニーズや速度に合わせて社員が必然な知識、技術を身につけ、新しいことにチャレンジしていかないと企業が生き残る道がありません。

そのためには、リスキリングに取り組み、常に時代に合うスキルを習得し続けることが重要です。

3-3.少子高齢化で個の力が重要視されている

3つ目は、日本の少子高齢化により個の力が重要視されていることです。

日本は少子高齢化社会を迎えていて、今後労働者人口が減少すると考えられています。

総務省の資料によると、2025年には生産年齢人口(15~64歳の人口)が29.2%減少すると言われています(2021年比較)。(※2024年6月に内容確認)

生産年齢人口が減ると企業の労働力が不足し、利益縮小や企業価値の低下につながる可能性があります。

【生産年齢人口が減ったときの課題】

・労働力が不足する
・採用活動が難しくなる
・限られた社員で成果を最大化しなければならない

生産年齢人口が減ってきたときに「社員一人ひとりができる業務が限定されている」「デジタル技術が使えず生産性が低い」となると、競合他社に差をつけられてしまうでしょう。

そこで、リスキリングして事業が維持できるように下記のような取り組みを実施します。

【リスキリングをして身につける知識や技術】

・適材適所の配置転換をするための新しい知識の習得
・限られた社員で成果を最大化できるように社内に不在のポジションの知識の習得

これからは「個人の時代」だと言われています。
社内で活躍する一人ひとりが適材適所で活躍することで、限られた労働力で最大限の力を発揮できるようになるでしょう。

4.リスキリングに取り組む企業事例

リスキリングに取り組む企業事例

ここからは、実際にリスキリングに取り組んでいる企業の事例をご紹介します。

企業がどのようにリスキリングに取り組んでいるのか一例をご紹介します。

リスキリングに取り組む企業の事例
株式会社ニトリホールディングス ・2025年までに約18,000の社員の8割に「ITパスポート」を取得してもらう
2032年までにIT人材1,000人を目指して非IT分野出身の社員のIT人材化を進めている
・ITの基礎から最先端技術まで段階的な教育プログラムを用意して、リスキリングを進めている
味の素株式会社 2019年から「味の素グループのデジタル変革(DX)」を推進。
・DXの推進を目的として「ビジネスDX人財」「システム開発者」「データサイエンティスト」の育成を開始している。
初級の認定要件「ビジネスDX人財」においては、従業員の約70%に相当する延べ2,346名が認定を取得した。
中外製薬株式会社 ・中外製薬グループが2030年までにヘルスケア業界のトップイノベーターになるための成長戦略として「TOP I 2030」を制定
全社員を対象に、『学びたい人が誰でも学べる』をコンセプトに、会社が推奨したいデジタル・IT基礎などのコンテンツを提供。

▶【具体的な取り組みを知る】株式会社ニトリホールディングス「全社員対象に永年プラン導入- 「日本人の暮らし」から「世界の人々の暮らし」へ。ニトリが考える人事戦略」

▶【具体的な取り組みを知る】味の素株式会社様「ビジネスDX人財育成からコミュニティ作りへ。 DXを加速し「食と健康の課題解決企業」を目指す」

▶【具体的な取り組みを知る】DXグランプリ企業「中外製薬」のデジタル人財育成と風土改革とは

5.企業がリスキリングに取り組む4つのメリット

企業がリスキリングに取り組む4つのメリット

リスキリングの重要性が理解できたところで、企業がリスキリングに取り組むメリットをご紹介します。

「本当にリスキリングに取り組むべきか」「リスキリングは企業にとって価値があるのか」理解できるので、チェックしてみてください。

5-1.企業にない新しい知識を習得できる

リスキリングは、現在の企業にはない新しい知識や技術を習得できます。

3.企業のリスキリングが注目される3つの理由」で触れた外部環境の変化や技術的失業に備えて、新しい知識や技術の習得の必要性を感じている企業が多いです。

しかし、習得したい知識や技術の多くは企業内にないものなので、どのように知識や技術を深めればいいのか悩むところでしょう。

一例として、DX推進を目的にしている場合はデジタル技術の利活用に自信がないケースが多く、社内での習得が難しい傾向があります。

そこでリスキリングに取り組めば、知見のある講師や最新の教材から効率よく必要な知識や技術を学べます。

【DX推進のリスキリング方法の例】

・外部講師を呼びDX推進の企画、運営方法を学ぶ
・eラーニングを活用してデータの収集方法やツールの使い方を学ぶ
・外部スクールに通いDXに必要な知識を身につける

社内に知見のない分野でも正しい知識を習得でき、業務に活かすことが可能です。

利益創出に必要な変化を生み出し時代のニーズに対応するには、社内にある知識だけでは追いつきません。

将来を見据えて今はまだ持ち合わせていない知識や技術を学べるところは、リスキリングの大きなメリットだと言えるでしょう。

5-2.人材不足を回避できる

リスキリングは、2つの視点から人材不足の回避に有効です。

1つ目は、採用コストの削減になることです。

3.企業のリスキリングが注目される3つの理由」でも触れたように、少子高齢化社会では労働者人口が減り採用活用が難航すると考えられます。

とくにこれからの時代に必要なIT人材は、2030年に78.9万人不足すると予測されています。

この状況下でDXを推進する人材やデジタル領域に強い人材を採用しようとしても、採用コストばかりがかさみなかなかいい人材に巡り会えないでしょう。

新たに外部から人材を採用するよりも、既存の社員をリスキリングする方が採用コストやトレーニングコストを抑えることができます。将来の人材不足に備えて早い段階から社内で必要なスキルの習得に励んだほうが、人材不足を回避しながら企業成長が見込めるでしょう。

2つ目は、個人の能力を最大限に活用できることです。

実際にリスキリングに取り組んでいる企業ではリスキリング後に下記のような施策を実施し、リスキリングで習得したスキルを最大限に発揮できる工夫を取り入れています。

【リスキリング後に実施していること】

・リスキリングの知識を活かせる部署に異動する
・リスキリングの知識を活かせる配置転換する
・昇進や昇格をする
・リスキリングの知識を活かせるプログラムに参加する

例えば、リスキリングでデジタルマーケティングを学び人員の不足しているマーケティング部に異動すれば、社内の人材を有効活用しながら成果を高めることができるでしょう。

また、リスキリングをしながら適材適所の配置ができれば、少ない社員でも一人ひとりが最大限の力を発揮しながら仕事に取り組めます。

このように、リスキリングに取り組めば将来の人材不足を回避しながら、成果を最大化する人材配置ができます。

【補助金・助成金が活用できるケースがある】

リスキリングに取り組むときに、コストが気になる方もいるでしょう。

冒頭でも触れたようにリスキリングは政府が推奨しているため、国や地方自治体の補助金・助成金を使いリスキリングの費用負担を軽減できるケースがあります。

例えば、厚生労働省が実施している「人材開発支援助成金」は、職務に関連した専門的な知識や技術を習得するための練経費や訓練期間中の賃金の一部助成に活用でいる場合があります(助成条件があります)。

リスキリングに関する費用が心配な場合は補助金・助成金の活用を検討してみてください。
なお、助成金を自社で検討している研修で活用できるかどうかは、事前に当該助成金を管轄する労働局(例えばハローワークなど)に確認する必要があります。

5-3.従業員満足度の向上につながる

リスキリングは、従業員満足度の向上にもつながります。

実は予測不能な時代に不安を抱えているのは、企業だけではありません。

社員も「このままのスキルでいいのか」「将来仕事がなくなったらどうしよう」など、不安を抱えているケースがあります。

下記のように、学ぶ機会の提供を望む社員の声があるのも現状です。

【学ぶ機会が欲しい社員の声】

・新しい知識や技術を身につける機会が欲しい
・他業種にチャレンジしたいけれど学ぶ機会や時間がない
・新しい知識の身につけ方が分からない

そこで、リスキリングにより社員のキャリアパスを明確にし、長期的な成長をサポートすることで、従業員満足度向上につながります。

リスキリングの目的や取り組み方によってはキャリアアップ、昇進の機会になるため、自己成長の支援を受けていると感じて、社員のモチベーションアップにも貢献するでしょう。

実際に多くの企業がリスキリングの成果指標として「従業員満足度」「従業員エンゲージメント」を掲げており、社員にとっても価値のある取り組みにしたいと考えています。:

5-4.企業価値が向上する

リスキリングをすると、今までにない企業価値が生み出しやすくなります。

例えば、社内にデジタルマーケティングやデジタル技術に関する知見がある人材がいない場合、新しいことに取り組んでみたいけれど知識不足で取り組めない状況に陥ります。

3.企業のリスキリングが注目される3つの理由」で触れたように、時代の流れは早く顧客が求めるサービスや商品はどんどん変わっていきます。

その中で、知識や技術不足で新しい価値を生み出せないとなると、企業価値や企業利益は減少するでしょう。

リスキリングに取り組まない場合 リスキリングに取り組む場合
・技術革新や市場の変化に対応できず、競合他社に後れを取る
・過去のスキルや知識に依存しているので、業務プロセスの非効率が生じ、生産性が低下する
・新しいスキルや知識を持つ社員がいないと、革新的なアイデアや新しいビジネスモデルが生まれにくくなる

→成長が停滞する恐れ

・最新の知識や技術を活用できるので、競争力を向上できる
・業務プロセスの改善や革新が進み、生産性が向上する
・新しいスキルを持つ社員が増えることで、異なる視点や新しいアイデアが生まれやすくなり、企業内でのイノベーションが促進される。

→新しい挑戦ができる

一方で、リスキリングをすると今まで企業内になかった知識や技術を活用できるようになるので、事業の変革ができます。

新しい商品やサービスの提供や新規分野への進出など、今までにない価値を創出できるようになります。
その結果、企業価値が向上して、継続的な成長が実現できるでしょう。

6.リスキリングのデメリット

リスキリングのデメリット

企業と社員の双方にメリットが多いリスキリングですが、デメリットとしては下記の3つが考えられます。

リスキリングのデメリット デメリットをカバーする工夫
① コストがかかる ・助成金や補助金を活用する
・スモールスタートする
② モチベーションの維持が難しい ・人事評価などの評価に反映する
・リスキリングに関する情報発信をする
③ 中長期的な取り組みが必要になる ・継続して取り組めるように計画を立てる

中でも、リスキリングには実施時にどうしても一定のコストがかかる点はデメリットだと言えるでしょう。
ただし、将来への先行投資だと捉えれば、無駄な費用ではありません。

費用はネックになっている場合は補助金や助成金の活用を検討しながら、できる範囲でスモールスタートすることがおすすめです。

また、リスキリングは中長期的な取り組みになるので、モチベーション維持やプログラム内容を念頭に置いて計画的に進めるようにしましょう。

【リスキリングで退職するリスクはある?】

企業がリスキリングをするときに、高いスキルを身につけた社員が退職してしまうのではと恐れを抱くケースがあります。

社員の知識や技術が高くなると、社員自身の選択肢も増えると考えられます。

このときに社員が「他社に転職しよう」と考えるのではなく「自社で頑張りたい」と思えるように、選ばれ続ける企業であることが重要です。

7.リスキリングは企業主導で「業務」の一環として取り組むべき

リスキリングは企業主導で

ここまで、リスキリングの必要性やメリットについて解説してきました。
リスキリングはDXの推進や事業の継続、雇用の維持など企業の目的に応じて活用できます。

日本は2023年に公表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」の中に「リスキリングによる能力向上支援」を組み込んでおり、国をあげてリスキリングを推進する動きが活発化しています。

また「3.企業がリスキリングに注目する3つの理由」でも触れたように、VUCA時代は時代のニーズや求められる職業が短期間で入れ替わります。

リスキリングをしないままでは競合他社に差をつけられてしまい、企業価値の低下や利益縮小を招くことになるでしょう。

このような背景からも企業規模問わず、将来のビジョンを見据えて少しでも早くリスキリングに取り組むべきです。

また、リスキリングは企業が主体となり、積極的に取り組むことが欠かせません。
「取り組みたい個人が行うもの」「個人の主体性に委ねるもの」ではなく、業務の一環として実施しましょう。

先を見据えた企業戦略の1つに位置づけて、企業が責任を持ち推進することが重要です。

8.企業がリスキリングに取り組む3つの方法

8.企業がリスキリングに取り組む3つの方法

企業がリスキリングに取り組むときには、下記の3つの方法が検討できます。
方法によりメリットやデメリット、向いているケースが異なります。

リスキリングの目的に合う適切な方法を選択するためにも、それぞれの特徴を理解しておきましょう。

リスキリングの方法 取り組み例
① 外部委託
外部の委託会社を活用する研修方法
・プログラミングやデザインなどの外部スクールに通う
・専門的な知識を持つ講師を呼び研修をする
・DXやAIなどの外部セミナーに参加する
② eラーニング
パソコンやスマートフォン経由で
学習コンテンツを利用する
・eラーニングサービスを利用してDXに関する基礎知識を学ぶ
・eラーニングサービスを利用して最新のデータ利活用知識を学ぶ
③ 内部研修
自社で企画・運営する研修
・一部の社員が持っている知識や技術を共有する

8-1.外部委託

外部委託
外部の委託会社を利用する研修
メリット ・専門性の高い知識や技術を学べる
・最新のデジタルスキルなど新しい知識や技術を学べる
・社内の負担が少ない
デメリット ・コストがかかる
・時間や場所のコントロールがしにくい
向いているケース ・専門性の高い知識やスキルを学ぶ場合
・企画から運営までをプロに任せたい場合

外部委託とは、外部の委託会社を活用する研修方法です。
社内に知識や技術のない学びが多いリスキリングでは、主流の方法になります。

・プログラミングやデザインなどの外部スクールに通う
・専門的な知識を持つ講師を呼び研修をする
・DXやAIなどの外部セミナーに参加する

などが、外部委託に該当します。

外部委託では、専門的な知識を持つ講師から最新の動向や正しい知識を学べる点がメリットです。
研修の企画から運営まで任せられる会社に依頼すれば、企業の負担を軽減しつつ習得したいスキルを効率よく学べるでしょう。

一方で、外部委託のデメリットとしては、時間や場所のコントロールがしにくい点があります。
とくにスクールに通う場合は対象社員の時間調整に配慮しながら、検討することが大切です。

▶【関連コラム】人材育成に使える外部研修とは?内部研修との違いやメリットを解説

8-2.eラーニング

eラーニング
パソコンやタブレット経由で学習コンテンツを利用する方法
メリット ・一人ひとりのペースで学習できる
・DXやAI、マインド、思考力など幅広いテーマを扱える
・学習履歴を可視化しやすい
・全社員に均一な学習機会を提供できる
デメリット ・利用頻度や理解度が個人に委ねられる
・モチベーションを維持しにくい
向いているケース ・幅広いテーマの学びを提供したい場合
・中長期的な学びの機会を提供したい場合

eラーニングは、パソコンやタブレット、スマートフォン経由で学習コンテンツを利用する方法です。

eラーニングサービスにアクセスするとコンテンツが表示されて、動画やスライドを視聴しながら知識を習得できます。

eラーニングサービスにより扱っているテーマは異なりますが、DXやAI、マインド、思考力など幅広いコンテンツが用意されていることが多いです。

必須受講のコンテンツ以外にも社員の興味や関心に応じて、学びの機会を増やせる点がメリットです。

また、パソコンやタブレット、スマートフォンさえあればどこからでも視聴できるため、リスキリングのハードルを下げられるところもポイントでしょう。

一方で、eラーニングは対面での研修や外部スクールと異なり強制力が弱く、学びの度合いや理解度は社員に委ねられます。

「ただ動画を再生しているだけ」の社員もいれば「熱心にメモを取る」社員もいるなど姿勢に差が出やすいので、対象者全員のモチベーションを上げる工夫が必要でしょう。

▶【関連コラム】eラーニングを活用する際に注意すべき3つのポイント

8-3.内部研修

内部研修
自社で企画・運営する研修
メリット ・自社の考えやビジョンを反映できる
・コストを抑えられる
・スケジュールのコントロールがしやすい
デメリット ・自社に知識や技術がない分野は対応しにくい
・社内の負担が大きい
向いているケース ・社内の人材が持つ知識や技術を共有する場合

内部研修は、自社で企画・運営する研修です。

リスキリングで実施することが少ない方法ですが、一部の社員が持っている知識や技術を共有する場合などが該当します。

内部研修は社内で企画から運営までを行うので、スケジュールやプログラムのコントロールがしやすい点がメリットです。

例えば、社内でプログラミングができる人材がプログラミングの基礎知識を研修するときに、自社の業務やビジョンを踏まえて研修内容を検討できます。

一方で、自社に知識や技術のない分野では実施しにくい点がデメリットです。
例えば、初めてAIに関する研修をするときに、社内に有識者がいなければ内部研修はできません。

このように、研修方法によりメリットとデメリットがあり、リスキリングの目的やプログラムに応じて選択することが大切です。

場合によっては「外部委託」と「eラーニング」など複数の方法を組み合わせて実施することも検討できます。

9.企業がリスキリングに取り組む5つのステップ

ここからは、リスキリングに取り組む一連のステップをご紹介します。

リスキリングに取り組むときはカリキュラムから選定するのではなく、自社の戦略や将来的な外部環境の変化を分析してから取りかかることが重要です。

具体的にリスキリングをどのように進めればいいのか、参考にしてみてください。

9-1.外部環境を踏まえ、企業戦略と現状の課題を理解する

まずは、外部環境と自社の企業戦略を念頭に置いて、現状の課題を理解しましょう。

リスキリングを行うときに、リスキリングのテーマから決めると自社の戦略に合うリスキリングができなくなります。

まずは下記の3つの視点で「将来に渡りどのような変化が考えられるのか」「変化に適応するにはどのような人材が必要なのか」考えてみてください。

3つの視点 チェックポイント
外部環境 ・自社を取り巻く外部環境(競合他社や法律、業界の流行など)はどのように変化しそうか?
・外部環境の変化によりステークホルダー(顧客や競合他社など)にどのような影響がありそうか?
自社の戦略 ・自社の事業や強みはどのように変化していきそうか?
・自社の戦略や組織はどのように変化していきそうか?
・自社の事業はこのまま成長を続けられそうか?転換が必要か?
自社の人材 ・自社の戦略を実現するにはどのような人材が必要か?
・自社の戦略を実現するには現状の人材にどのような課題があるのか?

例えば、外部環境ではDXやESGなど新しい考え方が浸透しつつあります。
上記に伴いアップデートされた自社の戦略に必要な人材は、デジタル技術を活用できる人材やグローバルな視点を持つ人材などが該当します。

現在の人材にデジタル技術やグローバルな視点が不足していれば、その部分が現状の課題となります。

このように、まずは自社の戦略や外部環境を紐解き、将来に渡りどのような変化が考えられるのか検討してみてください。

9-2.リスキリングの目的・対象者を決める

自社の戦略や外部環境、人材の変化が理解できたら、リスキリングの目的と対象者を決めます。

リスキリングは先述した下記の目的を参考に、どのような目的で取り組むのか決めてみましょう。

3つの目的 概要
自社のDX推進 自社でDXを推進するために新しいデジタル技術やリテラシーを身につけることで、新しい製品アイデアやビジネスモデルを創出できる可能性が高まる
自社の雇用維持 技術的失業や余剰人員の再戦力化を目的に雇用を守る
自社の事業成長 事業転換や新規分野への進出などを図り、自社の強みを生かした事業成長を目指す

外部環境の変化で事業転換が必要だと感じた場合は「自社の事業成長」が目的になるでしょう。

自社の事業戦略の中にDX推進があり推進できていない課題がある場合は「自社のDX推進」が目的になります。

目的が決まったら、リスキリングの対象者を決めていきましょう。
リスキリングの対象者は「4.リスキリングに取り組む企業事例」を見ると分かるように、企業の目的や戦略により大きく異なります。

【リスキリングの対象者の決め方の例】

・若手社員や管理職など特定の階層を対象にする
・総務部やマーケティング部など特定の部署を対象にする
・他の職種や業務に興味がある社員を社内公募する
・企業側で選抜をする

例えば、3年後にマーケティング部をデジタルマーケティング部に置換したいと考えている場合は、現在マーケティング部に所属する社員を対象にリスキリングを実施することが検討できます。

また、将来的にデジタル技術部やDX推進部など新しい部署を立ち上げたい場合は、社内で公募もしくは選抜を行い興味がある社員を対象にリスキリングを実施することも可能です。

このように、自社の戦略を実現するためには、具体的な仕事の変化を示しどのような目的で誰を対象にリスキリングするべきか考えてみてください。

【特定の社員を対象にリスキリングする場合は不公平感が出ないよう配慮する】

5-3.従業員満足度の向上につながる」でも触れたように、学びの機会が欲しいと思っている社員は多くいます。

リスキリングの対象者が一部の社員のみなる場合は不公平感が出ないように、他の社員にも学びの機会を提供しましょう。

例えば、全社員や希望者を対象にeラーニングを導入する、希望者が参加できる最新技術に関するセミナーを実施するなど新しい知識や技術に触れる機会を検討してみてください。

9-3.リスキリングのカリキュラムを決める

リスキリングの目的と対象者が決まったら、具体的なカリキュラムを決めていきます。
リスキリングのカリキュラムは4つの視点で考えると、検討しやすくなるでしょう。

4つの視点 概要と具体例
専門性 時代のニーズに合う専門的な知識や技術
例:デジタルマーケティング・データサイエンスなど
ビジネス構造 ビジネス構造やユーザーの価値の変化により必要となる知識や技術
例:最新のビジネス構想に関する知識など
汎用的なビジネススキル どのようなビジネスにも必要となる基礎的な知識や技術
例:コミュニケーション力・リーダーシップ力など
志・キャリア観 変化の激しい時代に対応できる志やマインド
例:クリティカルシンキング・キャリア設計など

リスキリングをするときに高い専門性だけを学んでも、ビジネスパーソンとしての基礎やマインドが備わっていなければ成果を最大化できません。

専門的な知識や技術を身につけるために必要な土台となる「新しいビジネスに対応できる人材育成」を含めて、カリキュラムを検討するといいでしょう。

例えば、VUCA時代に対応できるマインドやコミュニケーション力を学びつつ、新しい業種で活用できる専門的な知識を学ぶことが検討できます。

【間接的にリスキリングに貢献する知識や技術を身につけることも多い】

リスキリングをするときは新しい知識や技術の習得と併せて、間接的にリスキリングに貢献する下記のような知識を身につけることが多いです。

・柔軟な思考力
・リーダーシップ力
・コミュニケーション力
・デジタルリテラシーなど

基礎的なビジネススキルや情報リテラシーが備わっていなければ、新しい知識を上手に活用できません。

基礎的なスキルの底上げも行い、リスキリングで得た知識や技術を使えるようなプログラム検討してみましょう。

▶リスキリング施策を検討する際に陥りがちなパターンも確認しましょう
リスキリング推進と育成プログラム設計のポイント〜施策の実践性を高めるアプローチとは〜

9-4.リスキリングを実施する

リスキリングのプログラムが決まったら、「7.企業のリスキリングの3つの方法」で解説した方法を使いリスキリングに取り組んでいきます。

このときに重要なのが、リスキリングの事前・事後フォローを行うことです。
リスキリングは企業が主体となり取り組むことです。

個人の主体性に頼り企業側がサポートをしない状況ではモチベーションが低下し、理想とする姿になかなか到達しないことが考えられます。

フォローするべき内容はリスキリングの方法により異なりますが、一部として下記のような方法が検討できるでしょう。

【リスキリングでの事前・事後フォロー方法】

・組織上の期待役割を明確にし、スキルギャップを埋めるための学びの必要性を発信する・リスキリングで得た知識を共有する場を設ける
・eラーニングの場合はおすすめのカリキュラムなどを紹介し興味を持ってもらう
・リスキリングの成果を可視化して共有する

例えば、リスキリングを経て新しい部署に配属された人材がいる場合は成果を社内で共有することで、リスキリングに取り組む社員やリスキリングに興味がある社員のモチベーションアップにつながります。

9-5.リスキリングの知識を新しい業務に活かす

リスキリングで得た知識や技術は、新しい業務や職業に活かしましょう。
冒頭でも触れたように、リスキリングのゴールは学びではなく新しい環境で活用することです。

下記のように、知識や業務を活かせる動線までを設計しておくといいでしょう。

リスキリングで得た知識や技術を活かす方法 具体例
新プロジェクトにアサインする 知識や技術を活かせる新しいプロジェクトにアサインする
部署異動をする 知識や技術を活かせる部署に異動する
兼任する 今の業務と知識や技術を活かせる業務を兼任する
出向する グループ会社などに出向してリスキリングで得た知識や技術を活かす

リスキリング後すぐに知識や技術を活かせる部署や事業がない場合は、出向や兼任をしながら知識を磨くのも1つの方法です。

このように、リスキリングに取り組むときは自社の戦略や将来的な外部環境の変化を踏まえたうえで、必要な知識や技術を考えるといいでしょう。

グロービスでは、企業がリスキリングに取り組む重要性や施策設計プロセスをまとめた資料をご用意しています。本記事で解説したリスキリングの重要性がより理解でき、リスキリング推進に活用いただけます。下記より資料をダウンロードできますので、ぜひお役立てください。

 

リスキリング資料ダウンロード
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10.企業がリスキリングをするときに陥りがちな失敗3選

企業がリスキリングに取り組むステップが理解できたところで、実践するときに陥りやすい失敗3選をご紹介します。

失敗しやすいポイントを事前に理解しておけば失敗を回避できるので、参考にしてみてください。

10-1.個人にリスキリングを任せてしまう

リスキリングの失敗で多いのは、リスキリングの取り組みを個人に任せてしまうことです。

・eラーニングのみを導入して使用頻度は個人に委ねる
・リスキリングの進捗状況を管理できていない

などの場合は、社員によりリスキリングへの取り組み姿勢に差が出やすいです。個人の主体性に任せた育成施策により、一部の学ぶ人は学ぶが、その他大勢は学ばないという状態になりがちです。(学ぶのは「2:6:2」の意欲的な上位2割のみ)

その結果、せっかくリスキリングをしても思ったような成果が出なくなってしまいます。

【失敗しないためのポイント】

リスキリングは企業が生き残っていくための戦略として、企業が主体となり取り組むことが前提です。
そのため、個人任せではなく企業が主体となり、取り組むことが欠かせません。

企業側でリスキリングの進め方や計画を策定し、社員のリスキリングの進捗状況や理解具合を管理するようにしましょう。

例えば、eラーニングの場合は、カリキュラムの受講状況を定期的に確認して、受講が進んでいない社員をフォローするなど検討してみてください。

10-2.社員の負担が大きくなってしまう

リスキリングを開始すると「業務とリスキリングの両立ができない」「リスキリングの負担が大きい」などの声が社員から聞こえてくることがあります。

例えば、eラーニングや社外スクールの環境のみを用意して必要な調整をしないと、社員の負担はどんどん大きくなっていきます。

その結果、学びと業務の両立ができないと感じてしまい離脱する社員やリスキリングに集中できない社員が出てくるようになるでしょう。

社員が集中してリスキリングに取り組めないと成果が出にくくなってしまうので、リスキリングに失敗する要因となります。

【失敗しないためのポイント】

リスキリングには基本的に 「業務」の一環として業務時間内に行うものです。

休みの日や勤務時間外に研修をするなど、リスキリングと業務を切り離さないようにしましょう。

業務内でリスキリングをしても社員の負担とならないように業務量を調整しながら、集中してリスキリングに取り組める環境を整えることが大切です。

10-3.リスキリングに後ろ向きな社員が多い

リスキリングに前向きな社員がいる一方で「なぜリスキリングをしなければならないのか分からない」「今から新しいことを学ぶのは面倒」だと感じている社員も少なからずいます。

とくに全社員を対象とした事業変革をしたい場合は、リスキリングの重要性を理解してもらえないと思うように進みません。

その結果「リスキリングを求めている社員は自社にはいないし取り組む必要はないかもしれない」と、社員は後ろ向きに考えてしまうでしょう。

【失敗しないためのポイント】

7.リスキリングは企業主導で「業務」の一環として取り組むべき」でも触れたように、これからの時代はリスキリングなしで勝ち残っていくことが難しいです。

社員にリスキリングの必要性を理解してもらうためにも、まずはリスキリングの重要性を伝えるところから始めましょう。

・自社がなぜリスキリングに取り組むのか
・リスキリングにはどのようにメリットがあるのか

など「リスキリングは必要」と感じるマインドセットからスタートしましょう。

またスキルを「獲得」しても、それを「発揮」し、職場での仕事に変化を及ぼさなければ意味がありません。スキル獲得後、新しい業務や職種に就くことまで決まっていることが望ましいです。

11.企業がリスキリングを成功させる3つのポイント

企業がリスキリングに取り組むなら、一定の成果を出したいところです。
そこで最後に、企業のリスキリングを成功させるポイントをご紹介します。

どのような点に留意しながらリスキリングに取り組むべきか理解できるので、参考にしてみてください。

11-1.保有スキルと習得スキルを組み合わせて新しい価値を創出する

リスキリングで習得するスキルを検討するときは、保有スキルと習得スキルを組み合わせて価値を最大化できないか検討することがおすすめです。

とくに中堅社員以上は、既に一定の基準に達しているスキルを保有していることが多いです。
下記の視点で保有スキルと習得スキルを組み合わせたキャリア設計ができないか考えてみるといいでしょう。

【保有スキルと習得スキルを組み合わせたキャリア設計例】

・保有スキルとデジタル技術を掛け合わせてできることはないか
・類似スキルや隣接スキルと組み合わせることはできないか

例えば、マーケティングスキルのある社員がデジタルマーケティングを学ぶと、保有スキルとデジタル技術を掛け合わせて新しい部署が立ち上げできます。

電話のみのカスタマーサクセスがチャットやチャットボットの知識を学ぶと、保有スキルとデジタル技術を掛け合わせて新しいサービスを提供できます。

また、デザイナーが隣接スキルとしてプログラミングを学ぶと、任せられる仕事の幅が広がり新しい価値を創出できるでしょう。

リスキリングでは一から新しい知識を学ぶこともできますが、既に保有している知識を活かしながらキャリア設計をすることも可能です。

11-2.人事評価にリスキリングを反映させる

社員のモチベーションを高めるために、リスキリングを人事評価に反映させるのも1つの方法です。

【リスキリングを人事評価に反映させる例】

・リスキリングの取り組みや履修度を人事評価に反映させる
・リスキリングの取り組みを昇進や昇格の条件にする

例えば、リスキリングで新しい知識を得た場合は人事評価に反映させて、知識習得に価値を持たせるとモチベーションアップにつながる可能性があります。

リスキリング後のビジョンによっては、昇進や昇格と紐づけることもできます。

とくにリスキリングに後ろ向きな社員が多い場合はリスキリングに取り組むきっかけとして、評価に反映できるといいでしょう。

11-3.リスキリングのコミュニケーションの輪を広げる

リスキリングは中長期的に取り組むものなので、モチベーションの維持が大きな課題となります。
そこで、リスキリングに特化した社内のコミュニケーションの輪を広げてみましょう。

【コミュニケーションの輪を広げる方法の例】

・リスキリングによる取り組みを社内報で発信する
・リスキリングをしている社員の交流会を実施する
・リスキリングをしている社員間でチャットなどを作成しコミュニケーションを取る

例えば、社内報でリスキリングの様子や成果を発信すると、リスキリングに対するイメージが変わっていきます。

現在リスキリングに後ろ向きな社員が興味を持つきっかけになるかもしれません。

また、分野問わずリスキリングをしている社員の交流会を実施するとポジティブな意見交換ができ、モチベーションアップにつながるでしょう。

リスキリングが「楽しいこと」「社員にとってプラスになること」だと感じてもらえるような取り組みをしていくことも、リスキリングの成功には欠かせません。

12.リスキリングはグロービスにお任せください

リスキリングはグロービスにお任せください

ここまで読み、予測不能な時代に新しいビジネスに対応できる人材を育成するにはリスキリングが必要だと感じていただけたかと思います。

しかし、いざリスキリングに取り組もうとすると「何をすればいいのか」「自社に必要なプログラムは何なのか」迷う方も多いのではないでしょうか。

自社でのリスキリングに悩んでいる場合は、私たち「グロービス」にお任せください。

グロービスは累計6,700社(2023年時点)に教育サービスを提供した実績があり、経営戦略や経営課題に沿った研修プログラムの提案ができます。

グロービスのリスキリング取り組み事例

テレビ業界A社では中核人材となる40代以上の社員のうち、部門推薦があり意欲がある社員を対象にリスキリングに取り組みました。

論理思考力やマーケティング、経営戦略の領域に関しては、戦略や施策の立案に生かせるレベルのスキルを習得し、テクノロジーに関しては基礎知識をつけることになりました。

以下の図が、育成プログラムの全体像です。アセスメントテスト(GMAP)で現状の経営知識の保有度合いを明らかにしたうえで、研修を開始しました。管理職として最低限有しておくべきスキルの修得度を定量・定性的に示すことにより、自身の足らざるを明確に意識していただくためです。

グロービスのリスキリング取り組み事例

受験後に、6か月間かけて「論理思考力」や「マーケティング経営戦略」の強化のため「グロービスマネジメントスクール」へ通学していただき、実践レベルまでの理解を目指しました。

経営知識やテクノロジーの知識は、動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」を活用しながら、社員の都合に合わせて基礎レベルを学ぶことにしました。

この結果、「アセスメントテストのスコアが向上した」「リーダーとして学び続けることの必要性を感じた」などの成果を得ることができました。

また、グロービスではデジタルスキルのみならず、「9-3.リスキリングのカリキュラムを決める」でも示した「ビジネス構造」「汎用的なビジネススキル」「志・キャリア観」も学習できるeラーニングサービス「GLOBIS 学び放題 」も提供しています。

グロービス学び放題

「経営戦略」「テクノベート」「分析」など豊富なカテゴリーから、リスキリングの目的に応じた動画を視聴することが可能です。

【テクノベートのコース例】

【テクノベートのコース例】

「リスキリングをしたいけれど取り組み方が分からない」「リスキリングしているのに成果がでない」などリスキリングに関するお悩みは、お気軽にご相談ください。

 

グロービスにお問い合わせ
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13.まとめ

今回は、リスキリングの概要や重要性、取り組みステップなど、リスキリングに取り組む前に知っておきたい基礎知識をまとめてご紹介しました。

最後にこの記事の内容を簡単に振り返ってみましょう。

〇リスキリングとは知識や技術を学び実践できるようになり新しい業務や職業に就くこと
〇企業のリスキリングの主な目的は下記の3つ

3つの目的 概要
自社のDX推進 自社でDXを推進するために新しいデジタル技術やリテラシーを身につけることで、新しい製品アイデアやビジネスモデルを創出できる可能性が高まる
自社の雇用維持 技術的失業や余剰人員の再戦力化を目的に雇用を守る
自社の事業成長 事業転換や新規分野への進出などを図り、自社の強みを生かした事業成長を目指す

〇企業がリスキリングに注目する理由は次の3つ

1)技術的失業のリスクがある
2)VUCA時代に対応しなければならない
3)少子高齢化で個の力が重要視されている

〇企業がリスキリングに取り組むメリットは次の4つ

1)企業にない新しい知識を習得できる
2)人材不足を回避できる
3)従業員満足度の向上につながる
4)企業価値が向上する

〇企業がリスキリングに取り組むデメリットは次の3つ

1)コストがかかる
2)モチベーションの維持が難しい
3)中長期的な取り組みが必要になる

〇リスキリングは企業規模問わず、将来のビジョンを見据えて少しでも早くリスキリングに取り組むべき
〇企業がリスキリングに取り組む方法は次の3つ

リスキリングの方法 取り組み例
外部委託
外部の委託会社を活用する研修方法
・専門的な知識を持つ講師を呼び研修をする
・DXやAIなどの外部セミナーに参加する
eラーニング
パソコンやスマートフォン経由で
学習コンテンツを利用する
・eラーニングサービスを利用してDXに関する基礎知識を学ぶ
・eラーニングサービスを利用して最新のデータ利活用知識を学ぶ
内部研修
自社で企画・運営する研修
・一部の社員が持っている知識や技術を共有する

〇企業がリスキリングに取り組むステップは次の5つ

1)外部環境を踏まえ、企業戦略と現状の課題を理解する
2)リスキリングの目的・対象者を決める
3)リスキリングのカリキュラムを決める
4)リスキリングを実施する
5)リスキリングの知識を新しい業務に活かす

〇企業がリスキリングを成功させる3つのポイント

1)保有スキルと習得スキルを組み合わせて新しい価値を創出する
2)人事評価にリスキリングを反映させる
3)リスキリングのコミュニケーションの輪を広げる

リスキリングは企業戦略の一環として、将来を見据えて今から取り組むべきものです。
リスキリングのカリキュラムや取り組み方に課題を感じる場合は、グロービスまでお気軽にお問い合わせください。

 

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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