内省型研修がオンラインで成功するためにー変わらない提供価値と工夫
- オンライン研修
役員研修のクライマックスで突如訪れたチャレンジ ーリアルからオンラインへ
グロービスが提供する役員向けプログラム「知命社中」は、異業種から集った経営幹部を対象にした、8か月間の合宿形式の研修だ。その目的は、組織が目指すべきビジョン、向き合うアジェンダをクリアにし、経営者としての使命を自得することにある。その為に、各界の高質の智(刺激)に触れながら、対話を通し認知を広げ、時代認識を明確にしていく。
9月からリアルでセッションを実施していた中、コロナの影響により、プログラム終盤の重要な局面=2020年3月4月(最終回)=の開催方法について、実施方法の見直しを余儀なくされた。
乗り越えるべき壁:シニア世代 × 内省型研修 のオンライン化の難所
コロナの拡大が懸念される中で、どのような開催方法が “参加者の学び” にとって最適だろうか。本案件は、①対象層の属性、②自己を深めるテーマの特性、③タイミングなど、考えるべき・悩ましい点が多々あった。
~ オンライン開催の難所 ~
①平均年齢50歳を超えるシニア世代の28名が、オンラインという馴染みのない環境で、集中して学ぶことが出来るだろうか…?
②数か月に渡り磨き込んできた各自のビジョンを一層深化させていくプログラム終盤の重要な場。これまで深まる空気感を大事にしてきた中、果たしてオンラインでどこまで価値あるセッションが出来るだろうか…?
③エグゼクティブが同じ目線で刺激し合える貴重なコミュニティだからこそ、「終盤はリアルで語り合いたい」という、参加者側の想いに応えるべきではないか…?
答えの無い問い。結論を先延ばしするのは簡単だった。
しかし、先の見えない中、開催を延期するのでなく、参加者の健康と安全を第一に考えた上で、「オンライン開催」を決断した。
オンライン開催を後押しした、未体験領域へ率先して取り組むマインド
では、どうすれば実現出来るか?様々な知恵出し・場の造り方のシミュレーションの準備が、暫く続いた。
開催まで2週間程度。時間がない。果たして準備は整うのだろうか・・・。そんな不安もあったが、オンライン開催を後押ししたものが2つある。
①ALLグロービスで蓄積する圧倒的なオンライン知見
グロービス経営大学院では予てから「オンライン・セッション」を継続的に実施しており、このコロナ禍においても、3日間で300クラスを全面オンライン化したノウハウを持つ。社内に存在する知恵・ノウハウを徹底的に集め、持てるあらゆる可能性から最善策を検討することで、オンライン化自体は可能だと考えていた。
加えて、
②参加者に醸成された「未体験領域へ率先して取り組むマインド」
参加者は平均年齢50歳越えと、オンライン研修に馴染みのない世代。しかし、知命社中そのものが、トップ自らが先陣を切って新たな学びを得ていく”場の流儀”を大事にしてきている。急遽の開催方法変更は、参加者にとっても厳しい状況であることは間違いない。しかし、だからこそ、「リーダーが新しいものへ取り組むチャンスと捉えよう」というマインド・セットが出来ていたことが、オンライン開催の意思決定を後押しした。
~ ポイント ~
経営トップ自らが、未体験や新たな知の獲得へチャレンジすることこそが、ダイナミックに変化・学習する組織を生み出す。今後も有事の頻発が懸念される中、トップ層が、如何に平時から変革マインドを持ち、率先垂範し、組織に醸成していくか。
まさに、”リーダーの存在(在り方)が組織の在り方を決める”時代だ。
― こうしてオンラインでの開催は決まった。
しかし、内省型の研修(自身に矢を向け、徹底的に自己に向き合うセッション)を、オンラインでどこまで堀り下げ、深い気づきを獲得できるだろうか?
意識を深化させる内省型研修の設計の肝 ー 内発的動機への働きかけ
そもそも、「内省・意識の深化」を通じて何がしたいのか?ー それは、自分自身の思考・行動の精神的基盤の原則を創ること。
今回の受講対象であるエグゼクティブ・リーダーは、経営スキル・ヒューマンスキル共に、既に高いレベルの能力を保有している方々だ。だからこそ、提供者側が想定する「意識・行動変容の型」や「規定プロセス」に当てはめた進行ではなく、参加者各自の内発的動機をベースに、自ら問いを立て、己を掘り下げていくことが重要になる。
ただ、この自己問答は、容易なことではない。問い続けることで時に混乱し、参加者が本来の力を発揮しきれないで往生することは、変容プロセスの中ではままあることだ。
だからこそ、介在する講師(ファシリテーター)が、考えるべき論点の関係性や、全体像の捉え方 などの視点を提供しつつ、思考の整理、解釈、示唆出しを促すよう関わることが不可欠だろう。
「この場は何のための場なのか、その大目的を押さえ続けること」に重心を置き、自己と向き合う”状態”を支え続ける。こうした関与が、内省型の研修においては、非常に重要なポイントではないだろうか。
オンライン研修 成功のカギ ー 考えるべき問いへのフォーカスと議論の流儀の設定
上述した通り、重要な点は「どのような場(状態)づくりをするか」であり、リアル研修でもオンラインでも、到達したい状態に違いはない。ところが、初めてのオンラインともなると、中には場への向き合い方に困惑する人もでてくる。そこで、オンライン特性を踏まえた、設計・進行の工夫が求められる。
まずは、考えるべき問いがクリアに伝わり、目的への集中を切らさない環境設定が重要だ。リアル研修でも同様だが、内へ内へと思考を掘り下げていくためには、参加者の集中力を高め、切らさないことが最も重要となる。
その為、オンラインセッション初日は、操作への懸念払拭は当然のこととして、通常よりも考えるべき問いを細分化して打ち出し、ステップを刻みながら思考を深めることで、「今この瞬間は、何に意識を向けるのか」を明確にガイドしながら、問いへの意識の向け方を反復実践した。
次に、他者との対話の質をあげること。
オンラインでの利用ツール Zoomでは、グループに分かれて議論可能なブレークアウトセッション機能を利用している。ブレークアウトセッション成功のカギは、「場の流儀」の徹底にある。「意味ある対話をしましょう。ここでは何の話をするのか?」参加者一人一人がその場に向かう、トーン&マナーを整えることにこだわる。そこに加えて、参加者が集中を切らさず問いに向き合えるよう、言葉の定義をクリアにし、明確なガイダンスを心掛けることで、参加者ー講師双方で対話の質を担保していった。
オンラインは価値創造の阻害要因ではない。成功の秘訣は、設計力とファシリテーション力にあり
最終回を含む計4日間を、無事オンラインで実施出来た。「シニア世代×内省研修×終日実施」という未体験の挑戦。果たして、参加者からのアンケートコメントはどう出るだろうか・・・。
結果、以下に代表されるように、ネガティブなコメントは一切なく、内省型のリアル・セッションで普段目にする肯定的なコメントが、今回も沢山寄せられていた。
①正直「どうなることか」と思ったが、環境が整って、実際に仲間同士で熱いやりとりが始まると意外なほど違和感ないと感じた。
②チャットを通じて、自分の考えを言語化することは、リーダーとしての発信という意味でも価値だと思う。発言とチャットをうまく組み合わせることで一つの空間の中で複数の双方向コミュニケーションが成立しており、十分にこれで代用できる手ごたえがあった。
勿論、オンライン研修進行において改善の余地は多々あるが、リアルで提供する価値は、オンラインでも変わらずに届けることができるという感覚が強い。
重要なのは、研修の背骨となる”設計”と”ファシリテーション”。リアルかオンラインか、という開催方法の問題以上に、そもそも、どう組み立てて進行させるかだろう。向き合う人達(人間)をどう理解し、どのような刺激を与え関与していくか、このことに対する提供者の徹底した思考投入と技の磨き込みが重要であると、再確認の機会となった。
一方で、今回はリアル研修をオンラインで実践したということに過ぎない。多くの可能性を秘めているオンラインの力を更に活かした、新たな育成の在り方やこれまでにない世界観へのチャレンジが今後の楽しみだ。
本案件は、私たちにとって大きなチャレンジであったとともに、たくさんの勇気をいただける機会でもあったように思います。「コロナ禍での自社の価値とは何か」と考えることが多い中、 有事の中でも学びを止めない参加者の想いに対して、 少なからず価値をお届け出来たことに、とても勇気づけられました。オンラインへのチャレンジを通して、育成に携わる仕事の本質を、再認識する機会となりました。(編集担当:塩谷佳未)
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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