部下指導・育成のために「育成(OJT)力」を高めよう(後半)
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池田 章人
グロービス講師
マネージャーの育成力不足という課題に対して、前回は育成力不足の背景となる要因仮説を2点みてきました。後半は要因仮説の残りの2つの視点と解決の方向性を考えてみたいと思います。
※「今こそ組織をあげて「育成(OJT)力」を高めよう―前半」の続きとなります。
なぜマネージャーは指導・育成できないのか?自社を振り返る4つのポイント(続)
③指導・育成の時間が取れない悪循環
「なぜ人材育成に目を向けられないのか」という質問に対して、もうひとつ多かった答えが「時間が足りない」ということである。どの企業でも近年のマネージャーはプレーヤーとしても働き、チーム・部下のマネジメントも行うことが求められる。それもタイムリーかつスピーディーに実行することが一層求められている。ただでさえ時間が足りないのに、さらに残業時間規制のために、若手が時間内にやり遂げられなかった業務をマネージャーが抱えているという実情がある。
この状況が問題なのは、結果としての業務配分に偏りが生じるからだ。若手は今ある仕事に取り組むが、育成されていないので能力の伸びが緩やかである。能力が高まっていない分、時間内で処理できる仕事の質・量は相対的に低く(少なく)、高度な業務をマネージャーが引き取っているのだ。
マネージャーはさらに忙しくなり、指導・育成に割く時間がなくなる。当然部下の能力も高まらない。こんな負のスパイラルが回っているのが多くの企業の現状ではないだろうか?
指導・育成への意欲があり型を理解しても、物理的に時間がないのであれば育成には取り組めない。この負のスパイラルから脱却するには、労働者の健康状況への配慮を行うことは当然として、マネージャーと部下が一体となって「指導・育成」に取り組める機会・時間を意図的につくることが大切である。
④人材マネジメントシステムの形骸化
多くの企業では人材を育成するために、MBOなどの目標管理制度がある。その制度では「部下のチャレンジ課題」や「部下のキャリアプラン」を考える項目がある。
しかし、そこに書かれている内容をみると驚くほど抽象的であることが多い。生々しくなるのでここでは具体的には述べないが、「シートを埋めればよい」とばかりに形骸化している様子が見てとれるのである。これらの項目が具体的になれば指導・育成が一歩でも進むはずだ。ではなぜ、具体的にならないのか?
まず上司に部下への関心を持っていただく必要があるのは大前提だが、一方で、求められる人材像がわからないので描きようがないという上司側の声もありそうだ。
確かに全社共通の人材要件は抽象的で分かりにくいことが多い。しかし指導・育成の方向性を探るヒントはある。
たとえば、一つは「(優秀だからこそ認められている)マネージャー自身の行動要件を紐解くこと」である。出来るだけ(周囲の優秀な)複数のマネージャーを見て共通項をくくりだすとよい。
もう一つは、将来の自社の経営に求められる戦略を実現できる各機能の人材の要件を探り、対象者のキャリアの要件を明確にする。あとはそこに到達するためにプロセスを描くのである。
こうやってまずは要件を定義することが、指導・育成のシステムに魂を込める一歩ではないだろうか?
指導・育成する組織へ進化するために
まとめると、指導・育成ができるマネージャーを増やすためには、自社のこれまでの戦略やその前提となる外部環境、そして現在のマネージャーが育ってきた環境を紐解くことだ。それによって、指導・育成に関する意識や能力が「何によって」育っていないのかを明らかにすることが重要だ。解決策では「意図的に時間を取り」「実務と連動した教育と実践のセット」を行うことがカギであると考えられる。
最後に、全体を俯瞰して考えたいのは今年、2015年がどのような年であるのかということである。
政府の経済政策が一定の効果を出し円安の追い風を受け、大企業かつ輸出系企業を中心に業績が成長しつつある。2003年-2007年と比較するとどの企業も海外生産や海外売上高比率が高まっているため単純に同じ状況ではないものの、当時の状況と重なることはないだろうか?
2003年-2007年の業績が好調な時代にある程度余裕を作り、意図的な指導力・育成力強化のための施策がとれていれば、いまよりも「自身が育成をされた」という経験を持ち、意欲的に取り組むマネージャーも多かったのだろう。指導・育成の好循環をつくるチャンスだったのである。
2015年も予測される事業成長の時期を、過去を振り返り売上/利益を得るためだけに使うのか、多少でもリソースを割き余裕をつくり、指導・育成する文化を意図的につくることにも取り組むのか、重要な分かれ道となると考える。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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