中間管理職研修は多くの企業で実施されていますが、「例年通りの内容で形骸化している」「現場の行動が変わらず、投資対効果が見えにくい」といった課題感をよく聞きます。その背景には、研修テーマが経営戦略や現場のリアルな課題から乖離していることや、研修後の実践を支える仕組みの不足が考えられます。
本記事では、中間管理職研修の目的・内容について体系的に整理します。そのうえで、「前例踏襲」に陥らずに中間管理職の「あるべき姿」から考え、行動変容を生み出すための設計のポイントを解説します。
経営戦略と接続し、成果につながる研修設計の考え方を確認していきますので、ぜひご参照ください。
1. 中間管理職研修とは
中間管理職研修とは、課長(課長補佐)などのミドルマネジメント層を対象に行う研修のことです。中間管理職として期待される役割の理解と、組織運営や人材育成に必要なスキルを体系的に身に付けるために実施されます。
中間管理職は、現場の実務を理解しつつ、経営の方針や意図を現場へとつなぐ立場にあります。そのため、経営の方針を現場が実行可能な計画へと「翻訳」する力や、論理的に状況を整理して周囲を導く「リーダーシップ」、チームで成果を出すための「目標設定・管理」といった、より高度で実践的なスキルが求められます。
こうした能力は特定の資質やセンスだけで決まるものではなく、適切な学習と経験によって後天的に伸ばすことが可能です。そのため、中間管理職研修では集合研修やワークショップ、eラーニング、コーチングなどの多様な形式を用い、学びを翌日から日常業務で活かすための実践的な学習プランを設計します。
1-1. 中間管理職が担う役割
課長(課長補佐)クラスの中間管理職は、経営戦略と現場をつなぐ「結節点」としての役割を担います。経営層が描く方向性や戦略は抽象度が高く、そのままでは現場の行動に結びつきにくいことが多くあるからです。
そこで中間管理職には、上位方針を現場の状況に合わせて具体的な行動計画へと「翻訳」し、実行をリードする役割が求められます。
このプロセスにおいて、中間管理職は「チームとしての成果創出」と「人材育成」という2つの責任を同時に果たす必要があります。
- チームとしての成果創出:
自組織のあるべき姿を描き、現状とのギャップ(課題)を整理して、達成すべきゴールを設定します。そのうえで、ゴールに至るプロセスを具体化し、リスクを見据えながら実行を推進します。計画通りに進まない場合は関係者を巻き込んで調整したり、不測の事態には自ら前面に立って対応したりすることも重要です。 - 人材育成:
中間管理職は、組織運営を担いながら、部下一人ひとりの成長を支援する役割も担います。自らが企業の理念や価値観を行動で示し、良き組織文化を維持・醸成することが重要です。また、業務を通じて意図的に部下に経験を積ませ、将来的に自身の役割を担える後継者を育てていくことも期待されています。
1-2. 中間管理職研修の目的
中間管理職研修の目的は、大きく分けて「管理職としての心構えや期待される役割を理解すること」と「組織運営に必要な知識や、役割を果たすためのスキルを身に付けること」の2点です。
- 管理職としての心構えや期待される役割を理解すること:
研修の前提として、自身が組織の中でどのような役割を期待されているのかを正しく理解することが欠かせません。この役割認識が曖昧なままだと、いつまでもプレイヤーとしての現場対応に終始してしまい、経営の意図に沿った戦略を推進できないからです。 - 組織運営に必要な知識や、役割を果たすためのスキルを身に付けること:
多くの中間管理職は、プレイヤーからマネージャーへと立場が変化する過程で、役割の変化や求められる能力の違いに直面します。このギャップを補うために、研修ではマネジメントの基礎から実務での応用までを一貫して扱います。
また、組織を円滑に運営するためには、以下のような知識・スキルも求められます。
- 労務管理
- 人事評価
- ハラスメントへの対応
- メンタルヘルスへの配慮
- 法務やリスクに関する基礎的な理解
これらを体系的に身に付けることで、部下への対応遅れや判断ミスを防ぎ、組織運営上のリスクを最小限に抑えられます。
【グロービスからのワンポイントアドバイス】
中間管理職は、上司と部下の間に立つ「板挟み」の構造にあるため、業務量や精神面でのプレッシャーを感じやすいポジションです。研修を設計・実施する際には、単に知識を詰め込むだけでなく、本人の悩みや負担に寄り添い、過度な負担をかけすぎないような配慮も重要です。
2.中間管理職研修で実施すべき内容
中間管理職研修の内容は、個別のスキルをバラバラに学ぶのではなく、管理職として成果を出すための「思考と行動のプロセス」に沿って体系的に設計することが望ましいです。
中間管理職研修で実施すべき主な内容は以下のとおりです。
【中間管理職研修で実施すべき内容】
これらの研修内容は、例えば以下のような流れで整理ができます。
- 中間管理職本人の判断軸を整える:1. 論理思考力、2. リーダーシップ
- 組織全体を動かす方向性を示す:3. 目標管理、4. チームマネジメント
- 部下の能力を最大限引き出す:5. 部下育成・評価スキル
- 足元の基盤を固めてリスクを防ぐ:6. ハラスメント防止、7. コンプライアンス
必ずしもこの順番で全て実施する必要はありません。「今の自社の管理職は、どのフェーズでつまずいているのか」を見極め、優先順位を付けて設計することで、実務に即した効果的な研修となります。
2-1. 論理思考力・問題解決強化研修
論理思考力とは、主張を根拠で支え、一貫性のある論理を構築する力を指します。中間管理職には、目の前の事象をそのまま受け取るのではなく、複雑な状況を分解し、課題の本質が何なのかを的確に捉える能力が欠かせません。
そこでこの研修では、論理の構造化や仮説思考、原因分析といった問題解決の基本プロセスを体系的に整理します。課題に対して感覚や経験則だけで判断するのではなく、筋道立てて考える力を身に付けることが狙いです。
さらに、論理的に考えるだけで終わらせず、その考えを相手に伝え、行動につなげるためのコミュニケーション力も養います。相手の立場や関心を踏まえた説明の組み立て方や、納得感を生むストーリーラインについて実践的に学ぶことで、周囲を動かすための思考力へと発展させていきます。
2-2. リーダーシップ研修
リーダーシップ研修は、管理職としての「志(自身の判断軸)」を確立し、役職の権限に頼らずに人を動かす影響力を養う研修です。
中間管理職は、現場のリーダーとして成果創出と部下育成を両立し、組織をけん引する重要な存在です。しかし、困難な状況下でチームを導くには、単なるスキルだけでなく、「自分は何を成し遂げたいのか」「何のために判断するのか」という内なる判断軸(志)が不可欠となります。
まず、管理職として自分に期待されている役割を理解し、判断や行動の拠り所となる「志」を明確にします。これは、自部署の最適に留まらず、組織全体を見て物事を捉え直し、「自分は何を成し遂げたいのか」「何のために判断するのか」を言葉にするプロセスです。
志が定まることで、日々の意思決定や行動に一貫性が生まれ、リーダーの考えが周囲に伝わりやすくなります。その上で、自身の強みや行動特性、思考の癖を客観的に把握し、それらを活かした自分なりのリーダーシップスタイルを形づくります。
このように自己理解を深めるとともに部下の状態や置かれた状況を冷静に観察することで、部下の習熟度や状況に応じて関わり方を使い分ける判断が可能となります。そして管理職という役職権限に頼らず、信頼や専門性を通じて人を動かすことができるようになっていきます。困難な状況においても、志に基づいて組織が向かうべき方向を語り、周囲を鼓舞することが、最終的な成果創出につながるのです。
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2-3. 目標管理研修
目標管理研修では、中間管理職が担う「翻訳者」としての役割に焦点を当て、組織の戦略を課やチーム、個人の目標に落とし込む考え方を整理し、目標設定から評価までの一連の流れを理解する研修です。経営方針や全社戦略は抽象度が高く、そのまま伝えても現場は動き出せません。そのため、上位方針を紐解き、現場で実行可能なチーム目標や個人目標へと変換するスキルを学ぶことが重要となります。
具体的には、MBO(目標管理制度)やOKRといった代表的な枠組みにも触れながら、単なるノルマの割り当てではなく、部下が「自分たちのミッション」として納得できる目標設定の仕方を習得します。あわせて、設定した目標を絵に描いた餅にしないために、進捗をモニタリングし、状況に応じて軌道修正やフィードバックを行う一連のマネジメントサイクルを回せるようにします。
2-4. チームマネジメント研修
チームマネジメント研修は、「今あるリソース(人・モノ・時間)」で最大限の成果を出すための、チーム運営の技術を学ぶ研修です。
まず成果を出すための土台として、部下が率直に意見を戦わせ、協力し合える関係性(心理的安全性)を構築します。これは単なる「仲の良さ」を目的とするものではなく、健全な衝突を恐れず、課題解決に向かえる強いチームをつくるための必須条件です。
また、チームの状態を客観的に捉える枠組みとして「タックマンモデル(形成期→混乱期→統一期→機能期)」などを活用し、現在のチームフェーズに合わせた最適なアプローチを学びます。
さらに視点をチーム内部から「組織全体」へと広げ、自部署だけで完結せず、他部署や上位層と連携して動くための調整力や合意形成力も強化します。これにより、組織の壁を越えて成果を最大化できるマネジメント力を養います。
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2-5. 部下育成・評価スキル研修
部下育成・評価スキル研修では、部下の成長を後押し、組織のパフォーマンスを底上げするための関わり方を学びます。具体的には、日々の行動や成果から部下の状態を正確に把握し、個々の能力や適正に合わせた育成計画を立てるための視点を強化します。
この研修では、適切な業務アサイン(ストレッチ目標の設定)や、1on1を通じた対話によって部下の自律的な成長を促す手法を習得します。
また、評価制度の運用も重要なテーマです。評価基準を正しく理解し公平な評価を行うための知識習得に加え、評価結果を伝える面談において、結果の良し悪しに関わらず、次の成長につなげるための対話力を養います。
2-6. ハラスメント防止・メンタルケア研修
ハラスメント防止・メンタルケア研修では、管理職として求められる部下への適切な言動や関わり方を整理し、職場におけるリスクを未然に防ぐための基礎知識を身に付けます。
まず、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの定義を確認し、指導とハラスメントの境界や、判断が難しい場面でどのように対応すべきかを理解します。あわせて、ハラスメントが起きにくい職場環境をつくるための考え方や、日常的な予防の視点も押さえます。
また、部下の変調に気づくためのメンタルヘルスに関する基礎理解も扱います。遅刻やミスの増加、表情や態度の変化といった「いつもと違う」サインに気づく観察力を高めることや、必要に応じて社内外の支援体制と連携する考え方、休職・復職時の適切な関わり方についても整理します。
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2-7. コンプライアンス・労務管理研修
コンプライアンス・労務管理研修では、組織を安定的に運営するために欠かせない、法令や社内ルールに関する基本的な知識を整理します。
労働基準法や36協定に基づく労働時間管理、有給休暇の取得義務など、管理職が知っておくべき労務管理の基本を押さえます。これらは「知らなかった」では済まされない法的義務であり、適切な管理を行うことは部下の健康を守り、過重労働などのリスクを防ぐことに直結します。
さらに、法令遵守に留まらず、企業倫理や情報セキュリティ、SNS利用におけるリスクなど、現代のビジネス環境で求められるコンプライアンス意識をアップデートします。ルールを守るだけでなく、その背景にある社会的責任を理解し、チーム全体に規範意識を浸透させる役割を担えるようにします。

3.中間管理職研修の実施手順
中間管理職研修は、テーマありきで進めてしまうと、自社の戦略や現状の組織課題との整合性が取れず、学んだことが行動に結びつかない恐れがあります。
成功の鍵は、まず経営戦略(自社の中期経営計画など)に基づいて求める管理職像を定義し、現状との差分を埋める手段として研修を設計することです。目的・プログラム内容・実践環境・測定方法までを一貫して設計することで、研修後の行動変容を促しやすくなります。
ここでは、実施までの手順を6つのステップで解説します。
3-1. 経営戦略から中間管理職のあるべき姿を定義する
中間管理職の研修設計は、経営の方向性と中間管理職の役割の紐づけが起点になります。外部環境や競争条件が変われば、組織に求められる動き方も変わります。まずは経営理念・ビジョン・中期経営計画などを確認し、自社が何を優先しようとしているのかを再確認します。
そのうえで、事業戦略を実行に移す過程で、中間管理職が担うべき役割を以下のように洗い出します。
- 方針を現場の判断基準に落とし込む
- 部門間の調整を進める
- 部下の成長を通じて成果を安定させる
次に、洗い出した役割をもとに、中間管理職のあるべき姿を「行動/知識・スキル/マインド」の3層で整理します。3つの階層は下の図の「氷山モデル」で表すことができます。
この際のポイントは、最初に「行動」から具体化することです。「どのような行動をとってほしいか」を起点にすることで、研修後に現場で何が変わるべきかが明確になり、それを支える知識やマインドもあとから整理しやすくなるためです。

最後に、定義した「あるべき姿」を評価制度や等級定義と照らし合わせ、研修で促す行動が評価の観点と食い違っていないかを確認します。
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3-2. あるべき姿と現状との差分から、受講者の課題を明確にする
次に、定義した「あるべき姿」と現状の差分を把握します。中間管理職本人へのヒアリング、上司や人事からのフィードバック、アンケートなどを用いて、日々の行動の実態を整理します。この際、前段で定義した「行動」に着目し、印象や感覚に偏らずに判断することが重要です。
現場では、以下のような状況が見られることがあります。
- 中間管理職がプレイング業務に偏り、マネジメントが後回しになっている
- 部下との対話の時間が十分に取れていない
- 経営方針を具体的な判断基準に落とし込めていない
重要なのは、これらの状況を単に列挙することではありません。あらかじめ定義した中間管理職のあるべき姿と照らし合わせ、どの行動が不足しているのか、どこにズレが生じているのかを明らかにすることが重要です。
不足している行動と、その背景にある要因を整理したうえで、課題を明確にします。その後、影響範囲や緊急性、複数の課題に共通する要因がないかを検討し、優先順位を付けます。こうして整理した内容が、研修で扱うテーマを決定する土台となります。
3-3. 研修の目的と重点テーマを決める
課題を整理できたら、研修の目的を定めます。目的は、「受講後にどのような行動が増えるようにするか」という形で設定します。知識を得ただけでは現場での行動は変わりにくいため、研修を通じてどのような行動を促したいのかを明確にすることが重要です。
あわせて、研修の対象者を明確にします。管理職経験の長さや担っている役割によって直面している課題は異なるため、対象を絞ることで、研修テーマの焦点が合いやすくなります。
重点テーマは、優先順位の高い課題の中から選びます。この際、「研修後に実際に試す行動」を一文で説明できるレベルまで具体化します。テーマと具体的な行動が紐づいていれば、研修の狙いが受講者や上司に伝わりやすくなり、現場での実践につながります。
3-4. 研修のプログラム内容を設計する
目的とテーマが決まったら、具体的な内容・時間・形式を設計します。共通理解が必要な事項は短いインプットで整理し、討議や演習を通じて「自身の現場に置き換えて考える時間」を確保します。
例えば、複数の選択肢が考えられる状況を題材にし、限られた情報の中で判断を重ねる設計にすると、研修での学びを現場での意思決定プロセスにつなげやすくなります。
研修の形式は目的に応じて組み合わせると良いでしょう。知識のインプットはeラーニングで効率的に行い、対面研修では実践的な演習に集中させるなど、受講者の負荷も考慮しつつ効果を最大化できる設計にします。また実施して終わりではなく、フォローや振り返りまでを見据えた構成にすることが重要です。
評価設計においては、「受講直後の理解度」と「一定期間後の行動変容」を分けて捉えることがお勧めです。短期・中長期それぞれの視点で効果を測定することで、学びの実践を促すフォローアップを優先すべきか、あるいは新たな能力開発へ移行すべきかを判断できるようになります。
より具体的な研修効果の測定手法やフォローアップの設計については、以下の資料で詳しく解説しています。
3-5. 研修後の実践環境を整える
研修を終えたあとは、学んだ内容が現場で実践され、行動として定着するよう、実践環境を整えます。
まず、受講者は振り返りを行い、学びをもとに行動ベースでやるべきことを整理します。そのうえで、「いつ、どの場面で、何を試すのか」を明確にしたアクションプランを作成します。記憶が定着するよう、遅くとも1週間以内(理想は24時間以内)に復習し、行動計画を見直すことが推奨されます。
実施側(人事・上司)としては、研修で学んだ行動を実際に使う機会として、チャレンジ業務や役割付与をあらかじめ計画しておきます。実践の場がなければ行動は定着しにくいため、現場で試せる機会を意図的に用意するのがポイントです。
あわせて、上司は研修後の面談などを通じて実践状況を確認し、試行の中で生じた課題を整理します。人事は研修の学びのポイントを関係者と共有し、支援が特定の上司や担当者に依存しないようにします。
最後に、評価や目標管理といった人事制度と研修内容のつながりを確認し、期待する行動が継続されやすい環境を整えます。
3-6. 成果を測定して改善に活かす
研修を一通り実施したあとは、成果を測定し、次回の改善につなげます。成果測定は、理解度と行動変容に分けて行うことが望ましいです。
- 理解度:研修直後の確認やアウトプットを通じて把握
- 行動変容:一定期間後に自己振り返りや上司からのフィードバックなどを行って確認
測定結果をもとに、研修内容や進め方、研修後の支援に改善点がないかを見直します。「理解は進んでいるものの行動が増えない」場合は実践設計を見直し、「行動は増えたが質が伴わない」場合は判断基準や支援方法を調整します。
こうした改善を重ねることで、研修を単発のイベントで終わらせず、育成施策として継続的に質を高めることが可能です。
4.中間管理職研修を成功させるためのポイント
中間管理職研修は、内容そのものだけでなく、設計と運用の質によって成果が大きく左右されます。
例えば、現場の課題と乖離したテーマ設定や、研修後のフォロー不足が続くと、受講者の行動に変化が生じにくくなります。ここでは、研修を一過性の取り組みで終わらせず、現場での行動変容につなげるために押さえておきたいポイントを整理しました。
【中間管理職研修を成功させるためのポイント】
4-1. 現場課題に基づいた研修テーマを設定する
研修テーマは、現場で実際に起きている課題を起点に設定します。なぜなら、外部環境や経営戦略が変われば、必然的に「管理職のあるべき姿」も変化するからです。この変化を考慮せず、「例年通り」の前例踏襲や「流行っているから」という理由だけでテーマを選んでも、現場での行動変容につながりません。
そのため、外部環境の変化や自社の戦略、事業フェーズを踏まえ、「今の自社の中間管理職に求めたい役割・行動はなにか」を定期的に見直すことが重要です。
加えて、役職や経験年数によって直面する課題が異なる点にも留意しましょう。対象者の状況に応じて内容を調整することで、「これは自分のための研修だ」という当事者意識が生まれ、学習効果が高まります。
自社に必要な研修テーマは、組織が抱えている課題によって異なります。中間管理職育成について、「何から考えるべきか整理したい」「自社に合う進め方を相談したい」という段階の人事ご担当者様は、お気軽にご相談ください。
4-2. 受講者のモチベーションを高める
研修の実施前に、目的と必要性を伝える時間を確保します。多忙な中間管理職にとって、目的のわからない研修は「業務を圧迫する負担」でしかありません。事前に「なぜ今この研修が必要なのか」「実務でどう役立つのか」を伝え、受講者の期待値をセットします。
あわせて、会社が期待する「あるべき姿」と「自身の現状」を照らし合わせ、そのギャップ(不足している能力)を自覚する機会を設けることも有効です。社長や役員の講話、受講者同士の対話などを通じて、視座を高める刺激を生むことが、学びの意欲を高めるきっかけとなります。
4-3. 受講者の上司と連携して行動変容を支援する
研修後の行動変容を定着させるには、直属の上司による支援が欠かせません。研修で定義した行動目標について、上司が面談や日常の対話の中で進捗を確認し、うまくいった点やつまずいた点を言葉にして振り返る機会を設けましょう。
評価制度や面談の観点と研修内容を連動させることで、研修で学んだ「期待される行動」が業務上の優先事項として扱われやすくなります。このように、研修後の行動変容を受講者任せにせず、上司が支援する前提で設計・運用することが、確実な変化への近道です。
4-4. 研修内容を実務に落とし込む仕組みをつくる
研修で得た知識を現場で活かすためには、意図的なアウトプットの機会が必要です。期待される役割を具体的な行動へと落とし込み、会議や1on1などの日常業務の中で繰り返し実践するよう促します。
研修で学んだ内容を、社内の共通言語や業務フローに組み込むことも効果的です。これにより、研修での学びが「特別なこと」ではなく「日常の当たり前」となり、再現性の高いスキルとして定着していきます。
4-5. 研修後のフォローアップと定着支援を行う
研修後は、できるだけ早い段階で振り返りを行います。目安として、遅くとも1週間以内に学んだ内容を整理し、現場で試す具体的なアクションプランを作成しましょう。
定着を支援するためには、実践課題の提示や定期的な振り返りに加え、メンタリングやコーチングによる内省支援が有効です。ただし、直属の上司や人事担当者だけで全ての役目を担うのは負担が大きいため、以下のような無理のない支援体制を構築することをお勧めします。
- 外部メンター・コーチの活用
- 利害関係のない第三者による対話の場を設けます。これにより、上司の工数をかけずに、客観的な視点での内省を促すことが可能です。
- ピア(相互)コーチングの導入
- 同期や同じ研修を受けたメンバー同士で、あらかじめ決められた「問い」に沿って近況を報告し合う場をつくります。教える側・教わる側を固定しないため、運営側の負担を最小限に抑えつつ、相互に刺激を与え合うことができます。
- 1on1シートやITツールの定型化
- 上司が研修内容を熟知していなくても、「今週試したこと」「直面した壁」などの項目を確認するだけでフォローが完結する仕組みを整えます。
4-6. 効果測定による改善サイクルを確立する
研修の成果は、適切な方法で測定して次の改善につなげましょう。ここでのポイントは、研修前後にアセスメント・テストや360度行動調査などを実施し、行動の変化を定量的に計測することです。アンケートなどの主観評価だけでは捉えにくい行動変容の度合いを、客観的に把握できます。
あわせて、上司や関係者へのヒアリングを通じて現場への影響を確認し、その結果をもとに研修設計をブラッシュアップします。こうした改善サイクルを重ねることで、研修を一過性のイベントではなく、組織を強くする継続的な育成施策へと進化させることができます。
研修の効果を主観だけで判断せず、中間管理職のスキルを客観データで可視化し、研修前後の変化を確認することが重要です。グロービスのアセスメント・テスト「GMAP」では、定量的に評価しにくい「論理思考力」や「経営・ビジネス知識」を測定し、育成の成果を把握できます。
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5. 中間管理職研修の事例
中間管理職は、経営と現場をつなぎ、組織変革を実行に移す重要な存在です。しかし環境変化が激しい現在、その役割はますます高度化しています。
本章では、経営課題と人材育成を結び付け、中間管理職の行動変容や組織成果につなげている企業の研修事例を紹介します。育成設計の考え方や成果創出のポイントを、自社における育成施策のヒントとしてご覧ください。
5-1. アサヒビール株式会社様

- 導入前の課題
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- 厳しい環境にある国内酒類事業の変革を推進できる人材が必要だった
- 組織のトップを走るメンバーをさらに引き上げるための育成施策が不足していた
- 研修内容
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- 次世代リーダー育成プログラム「A-CAP」を立ち上げ、一般社員(Basic)と管理職(Advanced)の2階層で実施
- 管理職向けには、DXやテクノロジーなどの必須テーマに加え、部門横断の連携強化を重視
- 成果・効果
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- 参加者が支店を巻き込みながら、売上・利益の両指標を追う取り組みを開始
- 研修内で立案した新規事業案が、経営変革室や役員への提案を経てテストマーケティングへ移行
アサヒビール株式会社様は、国内酒類事業の厳しい市場環境を打破し、変革を推進するため、2018年に次世代リーダー育成プログラム「Asahi Change Agent Program(A-CAP)」を立ち上げました。
当時は、トップ層をさらに引き上げる機会が少なく、ビジネススキルを高める機会も限定的でした。
そこで、対象を2階層に分けた選抜型研修を設計しました。
▼管理職対象Advanced研修プログラムの概要

管理職向け(Advanced) 30代後半〜45歳前後を対象に、部門を越えて全社視点で変革を担うことを期待し、共通言語の習得と横のつながり(関係性)の構築を重視しました。 DXやテクノロジーなど次世代リーダーに必須のテーマに時間を割きつつ、自身の行動変容と組織への波及をゴールに据え、受講者の状況に合わせて研修中も柔軟に軌道修正を行いました。
一般社員向け(Basic) 入社6〜10年目を対象に、学んだスキルを実務に還元することを主眼に置き、他社の参加者と学ぶ「他流試合」を導入。社外のレベルを知ることで、健全な危機感と視座の引き上げを図りました。
結果として、Basic受講者が支店を巻き込んで売上・利益目標を追う動きや、その姿を見た若手が次期プログラムに応募する好循環が生まれています。さらに、Advancedのチームが提案した新規事業案が、実際のテストマーケティングへと進むなど、変革に向けた具体的な成果も創出されています。
インタビュー全文:経営課題に真正面から向き合う次世代リーダー育成を通して、事業変革の立役者を輩出する
5-2. スカイマーク株式会社様

- 導入前の課題
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- 部門を越える視野を持ってリーダーシップを発揮できる人財が必要だった
- 専門性を高めるOJT中心の育成の結果、組織の縦割り(部分最適)が進んでいた
- 研修内容
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- 社員が自分の専門外のポータブルスキルを身に付けることで、視野の広がりと学ぶ文化の醸成を目指した
- 管理職~中堅層に対する階層別研修を新設し、手挙げによる次世代リーダー育成もスタート
- 成果・効果
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- 綿密な研修設計が功を奏し、受講者から高評価を得ている
- 周囲の同僚や部下にも研修受講を勧めるケースも見られるようになり、学ぶ文化が醸成されつつある
スカイマーク株式会社様は、競争が激化する航空業界において「チャレンジャー企業」としての強みを伸ばすため、人材育成体系をゼロから再設計しました。
これまでは職種別の専門性を高めるOJTが中心でしたが、その結果として「部分最適」が進み、他部門への理解や連携が弱まりやすいことが課題となっていました。
そこで、管理職をはじめとする社員が、視野を広げて全体最適で考え、部門横断でリーダーシップを発揮している状態を「あるべき姿」として設定。部長・課長・中堅層向けの階層別研修を新設し、手挙げ制による次世代リーダー育成も開始しました。
導入当初は、これまでOJT中心だった文化もあり、「業務を優先したい」といった理由で欠席や課題未提出が見られるなど、ネガティブな反応もありました。しかし、「チャレンジャー企業だからこそ、人材育成でも新しい挑戦をする」という方針を繰り返し発信し、経営層にも投資意義を丁寧に説明して推進しました。
その結果、研修が高い評価を得たことで、受講者が周囲に受講を勧める好循環が生まれ、組織内に「学ぶ文化」が着実に醸成されつつあります。
インタビュー全文:スカイマークらしい人財育成体系をゼロから構築! 航空業界におけるチャレンジャー企業として成長を続ける
6. まとめ
中間管理職研修を確実な成果につなげるためには、個別の研修テーマや実施テクニックにのみ注力するのではなく、設計から実践、定着までを一連の流れとして捉えましょう。
成功への第一歩は、経営戦略を起点に「自社の中間管理職のあるべき姿」を定義し、現状とのギャップ(課題)を明確にすることです。その上で、「論理思考」や「リーダーシップ」といった個別のスキルを、成果を出すプロセスに沿って組み合わせることで、現場の行動に直結する研修プログラムとなります。
また、研修は「やりっぱなし」では意味がありません。研修後の実践環境づくりや上司・人事による支援、フォローアップの仕組みを整えることで、一過性の学びで終わらせず、日常業務の中に定着させることができます。
さらに、学びの「理解度」と「行動変容」を分けて測定し、結果を次の改善に活かすPDCAサイクルを回すことで、研修の質を継続的に高めることが可能です。人事担当者の方には、中間管理職研修を単なるイベントとしてではなく、経営戦略の一部として設計・運用し、組織全体の底上げを図っていく視点が求められます。
もし「自社の課題に合った研修設計に迷いがある」「何から手をつければ良いかわからない」といった場合は、ぜひグロービスにご相談ください。年間3,400社以上の支援実績をもとに、貴社に最適な育成プランをご提案いたします。
中間管理職育成の進め方や優先順位に悩まれている方は、目的や状況に応じて以下をご活用ください。
- 自社の課題整理から相談したい方はこちら:
- グロービスの管理職研修の全体像を把握したい方はこちら:

事例紹介
日経225の88%の企業へ研修サービスを提供
集合研修有益度
評価 2025年3月「テーラーメイド型プログラム」を除く平均値
導入企業数
3,400
社/年受講者数
42
万名/年
スカイマーク株式会社
スカイマークらしい人財育成体系をゼロから構築! 航空業界におけるチャレンジャー企業として成長を続ける
日本生命保険相互会社
「自ら学び、社会から学び、学び続ける」風土改革への取り組み
三菱重工業株式会社
受講者から役員を輩出。ジョブアサイン連動型タレントマネジメントで「未来を起動する」次世代リーダーを早期育成
伊藤忠商事株式会社
世界各国で活躍する社員の自律的なキャリア形成をするために必要となる、経営スキルを磨く場を提供
株式会社大創産業
トップダウンから脱却し、自律自考のできる次世代リーダー集団の育成
株式会社コロワイド
非連続の時代を生き抜くために管理職層がビジネススキルを磨き、経営視点をもつリーダーになる
SAPジャパン株式会社
カスタマーサクセスを追求するマネージャーの育成を通じて、日本企業のグローバル化を支援する
レバレジーズ株式会社
360度サーベイで75%の受講者がスコアアップを実現!自らの課題を意識した学びで、受講後の行動が変化
富士通株式会社
DXカンパニーへの転換を加速させた、役員合宿の取り組みと効用
セミナー・イベント
無料の受講体験や育成・研修に関するイベントをセミナーで実施しています
セミナー開催予定
コラム
グロービスが培った人材育成の知見を、課題解決のヒントにお役立てください
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