経営教育においてリベラルアーツから得られるもの

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  • 次世代リーダー育成

「わが社の将来の経営者候補には、世界観・歴史観をもち、人間力のあるリーダーが必要だ」
「当社の次世代経営幹部育成には、教養の要素が入れたいと考えているが、育成プログラムには、何をどのように取り入れたらよいか」

こんな依頼や相談をいただくことが増えている。次世代経営幹部教育において、教養やリベラルアーツの必要性が高まってきていると感じている。

教養やリベラルアーツというと、大学時代に学ぶべきものであって、今からでは遅いといった声もあるが、経営幹部候補の方だからこそ、学ぶべき重要な要素であると考える。また、教養を身につけるというと、哲学や宗教といったインプット内容に目が行きがちだが、経営者として判断軸・経営哲学のベースとして学ぶべきものと考える。経営教育において、リベラルアーツで学べる本質は何か。その必要性の背景の考察と具体事例についてご紹介したい。

まず、リベラルアーツとは何か。遡れば、ギリシア・ローマ時代に源流があり、中世のヨーロッパの大学教育の基本科目として定義されているが、ここでは、いわゆる大学の教養課程とざっくりと捉えていただきたい。東京工業大学のリベラルアーツセンターで教授も務める池上彰氏は著書「学び続ける力」(講談社現代新書)で、リベラルアーツを「人間としての教養」「人を自由にする学問」として説明している。より広く捉えると、「古今東西の人類の叡智に学ぶ」と言ってもよいだろう。

なぜ、今、リベラルアーツなのか。ここ数年のリベラルアーツの必要性が高まってきた背景として、3つの側面が考えられる。1つ目は、グローバル化の進展。特に新興国への市場開拓を進める際に、現地の宗教・文化・価値観を理解する必要性が高まってきている。

2つ目は、新しいサイエンスの発見、技術進化を取りこんだイノベーションをつくっていく必要性。未知の領域には当然ながら前例がない。だからこそ今起きている事象を理解するために引き出しが多いことが助けになる。歴史や哲学に造詣の深い経営者が多いのもこの理由だろう。

3つ目は、国内の成熟化による事業の構造改革の必要性。事業再生や撤退判断など痛みを伴う決断をする上で、従業員や株主、顧客をどう説得し、支持を得るか、経営者としての倫理観や歴史観が問われるだろう。端的に言うと、経営の複雑性が増した結果、経営者には、経済合理性だけではなく、これまで以上に多面的な判断が求められるようになってきている。

 

リベラルアーツを学ぶことの効用

必要性や重要性は分かるものの、いざ経営幹部育成プログラムに組み込もうとすると壁にあたる。「学んだ内容は実践的なのか?」「教育効果はどのようなものか?」など実践性、教育効果が問われると、すぐに具体的な何かが変わるものではなく、難しい。

「ものの見方・考え方の広がり・深まり」や「知らない世界が限りなくあるということへの気づき」を得ることの重要性である。これが学びの目的といってもよい。

具体的には、
・自分のものごとに対する理解、認識について謙虚になる。つまり、自分の考えの前提を疑う、違う価値基準を置いて問い直す。
・古今東西の知や価値観に触れ、自らの想いに確信・信念をもてるようになる。
・「自社/自分は何者なのか?」という本質的な問いを立てる契機となる。
といった点がリベラルアーツを学ぶ効用といえる。

上記のような気づきを通じて、「知らない世界はまだまだ広い」「未知の領域について学ぶことの楽しさ・必要性」について深く気づきを得られるところまでが研修の役割としていえるのではないか。というのも、リベラルアーツは領域が広いゆえに、自ら気づくきっかけをつくり、あとは一人一人の関心領域について学びを広げ・深めていただくことが重要である。

方法論としてはどのようなことが重要だろうか。リベラルアーツからは様々な示唆がえられるが、目的としては、経営者としてのものの見方・考え方、学習姿勢、学び続ける意志をもつことである。方法としては、古典など良書を読み込み議論し自分なりの理解を深める、非日常な場を体験し文化・歴史に触れ認識を新たにする、経営者からの直接対話により経営哲学を形づくる、などがある。これという定型プログラムはなく、様々な素材を組み合わせて設計させていただいている。これまでの経営幹部育成プログラムにリベラルアーツ的要素を加えていただくことをお勧めしたい。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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