事業革新のために必要な人材育成とは

執筆:板倉 義彦

2018.02.13

VUCAの時代に求められるスピーディな革新。事業革新を継続的に実現するために、事業部で人が育つ必要がある。このような問題意識に基づき、HRと事業部がタッグを組む新しい人材育成のアプローチが”On The Project Training“だ。On the Project Trainingの開発・実施に関わってきたコンサルタントの板倉が背景となる問題意識と期待される効用をご紹介する。

事業部の抱える課題と組織力のギャップ

「自ら組織の課題を考え抜き、提言まで行ったこの研修のようなプロセスで、自分の事業部の実プロジェクトを手伝ってもらえるようなサービスはないのか」

選抜人材に対しての研修で、自社の課題設定・解決策の提言を行うアクションラーニングの最終発表を終えた懇親会の場で、研修参加者から尋ねられた出来事があった。

筆者はグロービスの人材育成・組織開発コンサルタントとして、中部圏を中心とする企業の成長支援に携わっている。
実は、このような質問を受けるのは筆者1人に限らない。グロービスでは年間100件以上のアクションラーニングをお手伝いするなかで、このような相談を何度もいただいている。

多くが、部門責任者やそれに準じる立場の方からの相談である。

背景となる状況はさまざまだが、

 ●事業部で解決すべき事業課題・前進させるべきテーマは明確なのだが、その課題・テーマに向き合うには現有組織での能力面のギャップが大きく、課題解決のアクションプッシュしきれない。

 ●一時的には外部アドバイザーにアウトプットを頼ることもできるが、それでは、組織能力がいつまでたってもあがっていかない。

といったことが悩みのタネであり、組織能力をどうすれば引き上げていくことができるのだろうかという問題意識が根底にあることは共通している。

ご相談者は、事業革新は継続的な営みであることを理解している。だからこそ、外部アドバイザーが示すアウトプットに頼るだけなく、外部の目線からの刺激を糧にしながら部門人材が力強く成長していくことが極めて重要だと考えているのだ。


HRビジネスパートナーという理想像

このような部門責任者の悩みを、一事業部に閉じた課題とせず、HRとしても支援していくことが重要になっている。変化の激しいVUCAの時代に、事業革新なき企業は生き残れないからだ。

これに近い問題意識として、HRビジネスパートナーという考え方が、少しずつ広がってきている。事業部が必要とする人材の採用・配置・能力開発に、HRスタッフが事業部と連携し、ときには先回りをしながら積極的に関与していくべきだという考え方だ。ミシガン大学のデイビット・ウルリッチ教授は「MBAの人材戦略」で4つのHRの役割(戦略パートナー、管理のエキスパート、従業員のチャンピオン、変革のエージェント)を示しているが、そのうちの「戦略パートナー」と「変革のエージェント」に通じる観点である。

一方で、HRビジネスパートナーという考え方を本質的に機能させている企業はまだ極めてまれという現実もある。事業革新人材の不足という課題は、まさにHRがビジネスパートナーとして十分に機能していない証左であろう。

人材育成という側面でみると、階層教育、選抜教育、機能別の専門教育を整備していくことは引き続きHRの重要なミッションである。しかし、VUCAの時代ともいわれる変化の激しい近年においては、年次単位で計画されるHR主導の育成戦略と事業部側の人材育成ニーズやそのスピード感のギャップが顕著になってきており、HRによる個別の育成ニーズへの対応の難しさが増している。HRが提供する現在の教育基盤だけでは必ずしも対応ができない状況になっているのだ。


プロジェクトの成果創出を通じた能力開発
“On the Project Training”

ではどうするか。

グロービスの法人部門で様々な業界・業種のクライアントと向き合い、前述のような部門責任者の悩みに向き合っていく中で見出した、ひとつのソリューションがOn the Project Trainingである。それは、冒頭で紹介した選抜研修に参加した部門責任者が「研修でまさに自分たちがやってきたようなこと=アクションラーニングを自分の事業で」というアプローチだ。

アクションラーニングというトレーニングでは、学習者が現在の役割よりも数段高い役割視点に立って自社の課題を見出し、経営陣に解決策の提案を行うことで、経営の視点とスキルを体得していく。次世代の経営人材育成を目的にしており、トレーニングの過程では、参加者は講師からの厳しいフィードバックを受けながら現状把握、課題を設定し、提案を作り込む。

アクションラーニングを部門責任者が抱える問題解決に応用するとは、つまり、事業部で取り組むべき課題・テーマに対してのプロジェクトを組成し、そのプロジェクトの成果創出にグロービスが伴走をしながら、同時に能力開発をしていくというやり方である。

“On the Project Training”と称するこのソリューションのメリットは、事業革新に関わる人材に必要なスキルをタイムリーに育成できることにある。筆者自身、幾つかのクライアントでOn the Project Trainingに関わった経験があるが、プロジェクトに参加する部門メンバーの能力開発に有効であると強く実感している。参加者のモノの観方、発言、行動、いずれも大きく成長するのだ。


基盤教育と“On the Project Training”を組み合わせる重要性

ここまで読まれた方は、「HRによる選抜人材育成を事業部主催に切り替えればよい話ではないか」と思われるかもしれない。重要なのは、HRによる育成と事業部による育成が相互に補完しあうことであり、どちらかがあれば良いということではない。

HRが主に担っているのは、全社最適の観点からの基盤教育である。習得に時間がかかる「思考力」や、中長期的な課題を考える視座・視点の醸成、リーダーとしての「人間力」の拡張といったテーマも含む。これらはOn the Project Trainingのような短期的なプロジェクト成果を追い求める営みでは、習得できないとは言わないまでも、限定的な効果にとどまりがちである。

HRビジネスパートナーをめざす考え方に立てば、今後のHRのチャレンジとは、On the Project Trainingのような営みの価値を最大化するためのサポートを行うことにあるだろう。たとえば、基盤教育で学んだスキルとOn the Project Trainingで使えそうなスキルを関連付けて(「ああ、若手リーダー研修で学んだマーケティングの考え方はこうやって使うのか!」)プロジェクトメンバーのスキルの立ち上がりを支援したり、育成のプロとして事業部トップに対して適切なアドバイスを行ったりすることだ。

事業部においては、当然ながら変化の激しいVUCAの時代、いかにして現有メンバーの能力をスピーディーに引き上げつつ、新たな課題・テーマへの解を導き出し、そして、それを実行することができるかがチャレンジである。

貴社の事業革新が進まないことに部門責任者がお悩みであれば、ぜひHRと事業部がタッグを組んで、成果創出と人材育成の両者にチャレンジするOn the Project Trainingのアプローチを検討してみてはいかがだろうか。

執筆者プロフィール
板倉 義彦 | Itakura Yoshihiko
板倉 義彦
国立 東京農工大学 農学部卒業後、アグリビジネスの大手企業で商品企画、お よび生産企画に従事。その後、IT業界に転じて製造業向けソフトウェアの営 業・導入コンサルティング、および不採算営業部門の組織改革にリーダーとし て携わる。現在はグロービスの企業向け人材育成・組織開発(コーポレート・エデュケーション)部門にて、 様々な業種・業界の企業に対してコンサルティング活動を行う。豪ボンド大学経営大学院修了(MBA)。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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