HRBP入門:導入前に確認すべき3つのポイントと成功への3条件

公開日
テーマ
  • 人的資本経営
  • 戦略人事/HRBP
執筆者
  • 太田 昂志のプロフィール

    太田 昂志

    グロービス講師

昨今、注目を集めているHRBP(Human Resources Business Partner)。

欧米企業では2000年代以降、導入が進み、すでに定着している役割のひとつです。
近年、日本企業でも重要性が認識され始め、大企業に限らず、中小企業やベンチャー企業でもHRBPを設置する企業が増えてきています。

しかし、「従来の人事」の延長として理解されることも多く、HRBPの本来の意義が十分に伝わっていない企業も見受けられます。
HRBPの導入を検討したいが何から考えたら良いか分からない、あるいはHRBPを導入したものの十分に機能しているか不安といったお悩みを抱える人事担当の方も多いことでしょう。

本コラムは、現役CHROとして自社の戦略人事をリードし、さらにコンサルタントとして数多くの企業でHRBP導入を支援してきた筆者が、これまでの組織変革の実践知を元に以下の疑問に分かりやすく回答していきます。

  • 本来、HRBPとはどのような役割を果たすべきか?
  • 導入を成功させるためには何が必要なのか?

本コラムを読んでいただければ、HRBP導入の基本的なポイントを一通り押さえられるようになります。成功に向けた道筋を、ぜひ一緒に見つけていきましょう。

1.HRBPとは、経営者や事業責任者のビジネスパートナー

HRBPとは「Human Resource Business Partner」の略称で、人事領域から経営者・事業責任者を支えるビジネスパートナーのことを指します。

HRBPという概念を最初に提唱したのは、米国の経営学者であるデイビッド・ウルリッチ氏です。ウルリッチ氏は1996年に出版した『Human Resource Champions(邦訳 MBAの人材戦略)』の中で、これからの人事は「単純な事務処理係ではなく、経営者の右腕として意思決定に影響を与えるパートナーであるべき」としました。

そして、本書の中でウルリッチ氏は、これからの人事の役割として次の4つを示しました(下図参照)。

  • 戦略を具体化して実現する「戦略パートナー(=HRBP)」
  • 変革をソフト面からリードする「変革エージェント」
  • 生産性の高い組織インフラをつくる「管理エキスパート」
  • 従業員のコミットメントと能力を向上させる「従業員チャンピオン」

この定義を踏まえると、HRBPは経営者・事業責任者の視座を持ちながら、人と組織の面から事業成長に繋がる問題解決を図ることが期待されていると言えます。

2.HRBPが求められる背景と存在意義

さて、昨今こうしたHRBPが必要とされる背景や存在意義には、何があるのでしょうか。

結論から言えば、激変する事業環境の中で戦略を実行に移すためには、経営層と現場、戦略と人材・組織を繋ぐ橋渡し役が不可欠ということです。

2-1.HRBPが必要とされる背景にあるのは、組織の変化対応力不足

HRBPが求められる背景には、昨今の激しい環境変化に対して、組織が十分に対応し切れていないという問題があります。

VUCA(Volatility、 Uncertainty、 Complexity、 Ambiguity)の時代とも称される現代、戦略は一度立てた後も、常に見直しや修正を行う必要があります。同時に、戦略だけでなく組織においても、変化に応じた人材マネジメントを行うことが重要です。

例えば、デジタル・IT領域は環境変化が激しく、当初の事業計画がそのまま実行されることは稀です。戦略を実行する中で、予想外の課題に直面することが多く、そのたびに戦略を見直し、戦略に応じた組織変更や人材採用などを行うことが求められます。

しかし、現在の人事部門の多くは、こうした戦略的人材マネジメントが十分に実行できていません。依然として、人材管理や制度運用に重点を置いている人事部門も多いでしょう。これは従来、経営が先導役となって戦略実行を主導し、人事部門は人材採用や労務管理などのオペレーションを担ってきた歴史的背景が影響しています。

こうした中で、昨今問題視されているのは「戦略の不実行」です。経営が策定した戦略が現場で思うように実行されない状況が起こり、事業成長を妨げる要因となっています。

2-2.HRBPの存在意義は「戦略の不実行」という問題の解決

戦略を実現するには、その実行を担う現場がその意図を正しく理解し、自ら考え、自ら動くことが不可欠です。

どんなに優れた戦略を立てても、それが実行されなければ意味がありません。特に、戦略の良し悪しだけで競争相手との勝負に勝ち抜くのが困難な現代、その実行を担う「人」や「組織」の存在がますます重要になってきます。

しかし、多くの場合、戦略の意図が正しく伝わっていなかったり、実行するために必要な人材が不足していたり、その能力を十分に発揮するための環境が整っていなかったりします。

まさにHRBPは、こうした課題を解決する存在なのです。例えば、タウンホールミーティング(対話集会)を開くことで現場の声を拾いながら経営の重要なメッセージを届けたり、戦略実現に必要な人材の確保に向けて採用や評価制度の構築に関わったりしながら、戦略の実行を強力にサポートします。更に事業計画そのものにも深く関与していきます。

このように、HRBPは戦略実現に向けて、人と組織の面から事業成長に繋がる問題解決を図る役割が期待されています。

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3.従来の人事とHRBPの違い

では、HRBPは従来の人事と何が違うのでしょうか。

結論から言えば、従来の人事とHRBPの違いは、経営・事業視点に立ち、事業部の経営目標達成に向けて能動的に課題解決に取り組んでいるかどうかだと考えられます。

3-1.違い➀ HRBPは、経営・事業視点での課題解決アプローチを行う

まず「従来の人事」と一言で言っても、取り扱う課題の影響範囲によって、大きく2つに分類できます。

  • 本社人事:全社に影響を及ぼす人事組織の課題を取り扱う役割あるいは組織
  • 事業部人事:個々の事業部における人事組織の課題を取り扱う役割あるいは組織

従来の人事というと、多くの方が「本社人事」を思い浮かべたのではないでしょうか。本社人事は、経営戦略に基づいた人事戦略の策定や実行を担います。具体的には、人事制度、人員配置計画、採用計画、教育制度などの設計・運用・改善が主な仕事です。

また、「事業部人事=HRBP」と考えていた方もいらっしゃるでしょう。これらはほぼ同義で使われることが多いのですが、経営・事業視点に立って課題解決に取り組んでいるかどうかという相違点が挙げられます。具体的には、事業部人事は本社人事の方針に従って現場レベルでの人事・労務管理を行う一方、HRBPは事業部の経営目標達成に向けて能動的に課題解決を図ることが期待されています。

3-2.違い② HRBPは、従来の人事と連携しながら、経営と現場の橋渡し役としての役割を担う

さて、従来の人事への理解も深まったところで、改めてこれら三者の違いを詳しく見てみましょう。

下図は「役割(どのような役割を期待されているか?)」「影響範囲(どのレベルに影響を与えるか?)」「事業への関わり方(事業や現場に対してどう関わるか?)」という3つの視点で三者の違いを示したものです。
こうして見ると、従来の人事と比べて、HRBPは事業成長に対してより関与する存在であることが分かるでしょう。

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ここで誤解を生まないためにも改めて強調しておきたいのは、HRBPは従来の人事と比べて優れている、という話ではないことです。当然ながら、組織運営において本社人事や事業部人事は決して欠かせない存在です。これらの重要性を認識したうえで、HRBPは従来の人事と補完関係にあると考えています。

戦略を実行へと導くためには、HRBPは、本社人事と事業部人事と連携しながら、経営と現場の橋渡し役としての役割を担う存在であるのです。

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4.HRBPの仕事内容を決める3つの観点

HRBPの具体的な仕事内容についても見ていきましょう。

他の職種と同様に、HRBPの仕事内容も画一的に決まったものがあるわけではありません。しかしながら、現在、HRBPを導入している企業で共通して見られる観点が3つあります。

それは、①コンサルティング、②カスタマイズ&デリバリー、③ロールモデルの3つです。

  • コンサルティング:経営者や事業責任者が直面する経営課題に対し、人事領域から戦略を提案し、問題解決に取り組む。必要に応じて、能力開発やコーチングも提供する
  • カスタマイズ&デリバリー:本社人事が策定した制度や施策を、担当する組織に適応・実行する。場合によっては、その仕組みをより最適化するために作り変える
  • ロールモデル:組織が変革を必要とする局面において、自身がその模範となり、変革を推進する

自社にHRBPを導入する際、こうした3つの観点を具体的な業務に落としていくことが重要となります。

なお、HRBPの職務定義を行う際、他社のものをそのまま採用しても必ずしも有効に働くとは限りません。

例えば、極端な例として、米国で一般的なHRBPの職務内容をそのまま導入しても、うまくいかないことは明白です。米国ではジョブ型雇用や現場での人事権が強く、日本企業の文化や組織構造とは大きな違いがあるためです。

日本企業も同じく、その企業が置かれた環境や状況によって、HRBPに求められる役割や仕事内容は大きく異なります。そのため、最終的には企業の実情や特性をしっかりと考慮し、業務内容を柔軟に設計することが成功に繋がります。

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5.HRBPを導入する前に確認すべき3つのポイント

ここまでお読みいただいて、「自社にHRBPを導入すべきか?」と悩み始めた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

HRBPを導入するかどうかの明確な判断基準はありませんが、HRBPが効果的に機能している企業を見ると、次の3つのポイントが見えてきます。

5-1.ポイント① 自社がHRBPを導入するのに適切な成長ステージにいるかどうか

まず第一に「自社がHRBPを必要とする企業の成長ステージにいるかどうか」を検討する必要があるでしょう。

例えば、HRBP導入のきっかけのひとつは、事業の多角化です。企業が成長する中で、単一事業から複数の事業へと拡大する際、組織ごとに異なる課題が顕在化してきます。その際、人事部門が各組織の状況を把握しようと試みますが、事業の数が多ければ多いほど、その難易度が高まるものです。このとき、HRBPを導入するかどうかの検討が始まります。

【事業の多角化をきっかけにHRBPを導入した企業例】

インターネット関連企業の株式会社ディー・エヌ・エー(以降、DeNA)は、HRBPを早くから導入した企業のひとつです。DeNAはこれまで、ゲーム事業とEC事業の二本柱で成長してきました。しかし、中長期的な成長を見据え、近年はヘルスケア事業やオートモーティブ事業など、新たな領域への事業拡大を進めています。

これらの新事業は、ターゲット顧客・収益モデル・法的規制や市場成長性など既存事業とは大きく異なるものです。それぞれの事業で求められる人材像や組織課題が異なるのは、事業内容を詳しく知らなくとも容易に想像が付くでしょう。

まさにDeNAは人事部門による画一的なサポートに限界を感じ、各事業に応じた課題解決に取り組むため、HRBPの導入に踏み切ったのです。

HRBPの役割を新たに設けることで、各事業部門に深く入り込み、事業戦略と人事戦略が連携できます。そのうえで、人材育成や組織開発、文化醸成といった施策を推進することで、事業の成長を加速させることが可能です。
一方で、もしHRBPが導入されていなければ、事業の多角化に伴い、各事業部門における人事関連の課題が適切に解決されません。その結果、事業の成長が遅延し、人材の離職率が高まる可能性もあるでしょう。

このように、企業がHRBPを導入すべきかどうかを判断する際、自社がHRBPを必要とするステージにあるかどうかを慎重に評価することが重要だと考えられます。

5-2.ポイント② 激しい環境変化に迅速かつ柔軟に対応できる人事体制になっているか

第二に「激しい環境変化の中に置かれた組織を、迅速かつ柔軟にサポートできる人事体制になっているかどうか」も重要なポイントです。

たとえ事業の多角化が進んでいたとしても、人事部門が各事業の状況を的確に把握できていれば、HRBPを導入する必要はありません。実際、複数の事業を展開する企業でも、人事と事業の距離が近く、取り巻く環境変化に対して適切にサポートできている企業も多く存在します。

一方で、事業の数がそれほど多くなくとも、特定の事業領域が激しい環境変化に直面している場合、HRBPを導入する意味があると考えられます。グローバル化やデジタル化が進む業界で競争している事業などがその代表例です。

こうした状況に置かれた事業は、変化に柔軟かつ迅速に対応する必要があるため、HRBPの導入が有効策のひとつとなります。HRBPを導入することで、事業成長に必要な人材不足やスキルギャップ、組織構造の不適合といった課題を解決すると同時に、従業員のモチベーション低下や離職率の上昇といった問題に対処し、組織の安定化が期待されます。

5-3.ポイント③ 人事部門は、現場から信頼されているか

最後に、「人事部門が現場から信頼されているかどうか」は重要なポイントです。

昨今のHRBPブームに流され、安易にHRBPを導入しても、現場の理解や支持を得られなければ、その効果は限定的です。むしろ、現場から信頼されないままトップダウンでHRBPの導入を進めると、現場の反感を買ってしまう可能性すらあります。

現場から見える人事部門は、「現場のことを分かっておらず、距離を感じる存在」としてしばしば見られます。こうした認識を持たれている中で、人事部門がいくら「事業に寄り添う」と宣言して現場に出てきても、その動きが好意的に受け入れられることはありません。

このように、もし人事部門が現場からの信頼を得られていないとしたら、まずは信頼獲得のための努力をすべきでしょう。言い換えると、人事部門が本来果たすべき役割を十分に果たせていない可能性があるため、HRBPを導入する前に、現場からの期待をしっかり果たし、現場からの信頼を獲得することが先決です。
そのうえで、現場からHRBPに対するニーズが高まった時点で、HRBPの導入を検討するのが適切でしょう。

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6.HRBP導入成功のための3つの条件

では、HRBPを導入することを決定した場合、その成功には何が必要なのでしょうか。

HRBP導入を成功させるために、満たすべき条件は3つあると筆者は考えます。

6-1.条件① 経営層や現場からの理解・協力を引き出す

HRBP導入は、経営戦略と組織変革を繋ぐ重要な取り組みです。そのため、まずは経営層がHRBP導入の目的や意義を深く理解し、積極的にサポートすることが必要です。

具体的には、経営層や事業責任者に対して、HRBPを導入する意義や期待効果を説明し、その実現に向けた経営資源の投入を確保することが大切です。経営層の協力がないまま進めると、現場からの反発や人事部門の負担増といった問題が起きる可能性があります。

更に、導入後もHRBPの活動が効果的に機能しているかを定期的に評価し、必要に応じて改善を重ねることが重要です。このとき、経営層だけでなく、実際にビジネスを動かしていく現場からの協力も不可欠です。経営層と現場が一体となり、連携しながら進める姿勢が求められます。

6-2.条件② HRBPを機能させるための体制を構築する

次に重要なのは、HRBPを効果的に機能させるための体制を構築することです。HRBPを単独で事業部門に配属しても、十分な効果を発揮することは難しいでしょう。

HRBPの提唱者であるデイビッド・ウルリッチ氏は、HRBPの概念とともに、その組織の在り方として「3ピラー・モデル(Three-pillar model)」を提唱しています。

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このモデルは、CoE(Center of Excellence)、HRBP(Human Resources Business Partner)、HRSS(Human Resource Shared Service)の3つで構成されています。このモデルから、HRBPだけを導入しても大きな変化は期待しづらく、CoEやHRSSといった組織機能を同時に整備することが不可欠だと読み取れます。

  • CoE:人事における各専門領域のエキスパート集団。全社的な人事制度設計や教育制度設計などを担い、人事組織機能の中心となる。
  • HRBP:事業部門と連携し、現場の人・組織に関する課題解決を担当する人材または集団。経営層や事業責任者と密接に連携し、事業部門の成長を支援する。
  • HRSS:人事業務の効率化・標準化を担当する集団。勤怠管理や給与計算などの定型業務を担当し、CoEやHRBPが期待される業務に集中できる環境を整える。

更にこれら3つの機能を効果的に運用するために、事業部門のどのメンバーに対して、どのような価値を提供するのかを明確化することが重要です。これにより、HRBPが組織全体にとって実質的な成果をもたらす基盤を整えることができます。

<参考情報>CHROとは  
「CHRO」とは、「Chief Human Resource Officer」の略称です。
日本語では人事の最高責任者を指し、同義の役職にあたる「取締役人事部長」「執行役員人事部長」と称されることもあります。経営のスピードがより求められ、人・組織の在り方が大きく変わる中、企業経営においてCHROの果たす役割は重要度を増しています。  

▶当社参考コラム
「これからのCHROの役割とは」

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6-3.条件③ HRBPを担う人材を確保する

そして最後に何より重要なのは、HRBPを担える人材を確保することです。

幅広いスキルが求められるHRBPにとって、特に必要だと考えられるのは次の4つに関わるスキルです。

Image 3

1 企業・事業戦略の理解
・外部環境変化(過去から中長期予想)を踏まえて全社/事業戦略の方針・方向性を理解すること
また、全社/事業戦略上の課題について仮説をもつこと

2 人事・組織開発の理解
・組織開発を含む、人事組織領域の幅広い知見をもとに、戦略実行上の組織人事課題におけるキードライバーを特定すること

3 変革を導く実行プランの策定
・特定した人事組織課題の解決に向けて、具体的な変革施策として実行可能な形に落とし込むこと

4 実行におけるファシリテーション
・これらのプロセスにおいて、ステークホルダー(事業部長・本社人事・経営等)を巻き込み、意見を抽出し、合意を得ながら計画実行ができるファシリテーションを行うこと

さて、こうしたスキルを有するHRBP候補が社内に多く存在するかと言えば、なかなか適切な人材が見つからないのが現実でしょう。実際、HRBPに必要なスキルを有する人材は少なく、候補者を探し、育成する必要があります。

その際、懸念されるのは時間とコストです。ただし、スキルを身に付けられれば、すでに自社の事業内容や組織文化を理解しており、現場との関係性も築かれているため、非常に頼もしい存在となります。

一方で、そうした人材が育つのを到底待てない状況下では、外部調達も視野に入れるべきです。外部調達を行う場合、自社にはない視点や経験を取り入れられ、組織の成長と変革を加速する可能性があります。また、すでに他社でHRBP経験をもつ人材であれば、即戦力として期待できるでしょう。

ただし、外部からHRBPを採用する際には、自社の事業内容や組織文化にどれだけ適応できるかが一つの課題となります。さらに、採用において高いコストが発生することも少なくないため、その点も考慮する必要があります。

このように、内部登用か外部調達か、それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで、状況や目的に応じて最適な方法を選択することが重要です。

7章では、内部登用を目指す際に押さえるべきポイントを解説していきます。

7.HRBPを内部登用するための課題と取り組み

では、HRBPを担う人材確保の手段として内部登用を選ぶ場合、何を重視して育成に取り組むべきかを見ていきましょう。

候補となる人材のスキルや経験、出身部門に応じて、主に次の2つのパターンが考えられます。それぞれの人材がもつ特徴や課題に応じて、育成すべきポイントが異なります。

7-1.パターン① 人事部門からの登用

人事部門からHRBPを登用する際、重点的に育成すべきポイントは次の2つだと考えます。

  • 担当事業への戦略・事業特性の理解
  • 未経験の人事領域に関する知見獲得

HRBPは、戦略に基づいた人材戦略を立案し、その実行をリードする重要な役割を担います。しかし、人事部門出身のメンバーは、戦略や事業に関する深い議論が求められる場面で、期待に応えられないことも考えられます。そのため、担当事業への戦略・事業特性に対する理解を深めるための適切なサポートを行いましょう。

また、人事部門出身でも、実際は特定の領域(育成、採用、労務など)に専門性や経験が偏っていることがあります。そのため、HRBPとしての役割を全うするためには、他の分野に関する知識を深めていくための働きかけも重要です。

7-2.パターン② 事業部門からの登用

事業部門からHRBPを登用する際に重視すべきポイントは次の2つだと考えます。

  • 人材マネジメント全般の知見獲得(人事制度、労務、採用、育成、評価など)
  • 経営戦略への理解

事業部門から人材を登用する場合、経営者や事業責任者との議論で強みを発揮することが期待できますが、特定した課題を人事領域に落とし込み、実行に移すことには難しさを伴う場合があります。そのため、まずは人材マネジメント全般の知見を得るための育成施策が必要です。

また、事業部門出身者は現場のことはよく理解しているものの、戦略レベルにまで課題を落とし込むスキルが必ずしも備わっているわけではありません。戦略に関する理解が断片的なことが多いため、まずは経営戦略について改めて学び、理解を深める場を提供しましょう。

▶当社関連コラムのご紹介
いきなりHRBPに任命された人がまず押さえておきたいこと

8.グロービスによるHRBP導入支援事例のご紹介

グロービスでは、HRBP導入における難所を考慮した、様々な支援を行っています。
今回はその中でも、HRBPの育成についてご相談いただき、研修プログラムの提案〜実施まで支援した事例を2つご紹介します。

8-1.事例① 企業内研修(集合型研修):研修プログラム例

1つ目は、約6か月間をかけた企業内研修のプログラムです。

HRBP組織を新たに立ち上げる際や、メンバーを採用や異動で一定数以上組成する際には、組織全体で共通言語をつくり上げることが重要です。そのため、本プログラムでは、前半に経営の基礎知識や視点、HR領域において重要な仕組みや考え方を学び、後半では担当事業向けのレポート作成に取り組む構成としています。

本プログラムの受講を通じて、経営の全体像を俯瞰する視野を養い、経営戦略とHR施策との連動性を意識した取り組みが可能となります。

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<導入事例のご紹介>富士通株式会社様
人事戦略の立案力を磨き、経営層と対等な議論ができるHRBPへと成長する

8-2.事例② スクール型研修(通学型研修):研修プログラム例

2つ目は、1名から派遣可能なグロービス・マネジメント・スクール(GMS)を活用した研修プログラムです。経営戦略や事業戦略を学んだ後、戦略と連動した人材マネジメントの考え方を深めるための科目を組み合わせて受講していきます。

HRBP組織を立ち上げた後も、組織拡大に伴い社内外から数名を新たに採用する際には、このようなスクール型研修を活用し、個別にスキルを高める方法も非常に効果的です。

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*スクール型研修(他流試合)の効果については下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。

当社コラム:ミドルマネジメントにとって、経営視点がますます重要な時代に ~他流試合が必要な理由~

グロービスは、人材育成・組織/事業開発支援における豊富な知見をもとに、個社特有の課題を的確に捉え、課題解決を支援いたします。お気軽にお問い合わせください。  

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9.まとめ

本コラムでは、HRBPの役割や仕事内容、従来の人事との違い、そして導入を成功させるための条件やポイントについて詳しく解説しました。
特に、HRBPを効果的に機能させるには、以下の3点が重要です。

  • 経営層や現場からの理解・協力を得ること
  • 適切な体制を構築すること
  • HRBPを担う人材を確保すること

HRBPは、経営者や事業責任者のビジネスパートナーであり、戦略の実現を支える要となる存在です。激変するビジネス環境の中で、組織の変化対応力を強化し戦略を実行に移すうえで、その重要性は今後ますます高まるでしょう。

HRBPの導入は、単なる人事部門の改革にとどまらず、組織全体の成長を支える戦略的な取り組みです。
そのため、HRBPの導入検討にあたっては、ご担当者の方は自ら動いて様々な接点から情報を得たり、時にはご自身も学ぶ必要が出てきたりするかもしれません。
これらは簡単なことではありませんが、HRBPを活用し、経営戦略と人材戦略を連携させることは、持続的な競争優位性を築くための礎となるでしょう。

検討に際し、課題感を抱えている方はお気軽にグロービスにお問い合わせください。
グロービスではこれまで約6,700社(年間約3,300社)への多種多様なサービスとソリューション提供を通して、国内外の各業界をリードする企業様の育成サポートをしてきました。課題がまだ明確になっていない場合でも、ご一緒に紐解いて具体化することが可能です。

本コラムでお伝えしたことが、貴社のHRBP導入成功に向けた第一歩を踏み出す一助になれば幸いです。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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