階層別の人材要件を、育成体系と合わせて見直したいです。どのように進めればよいでしょうか。

2020.06.10

【お悩み】
中期経営計画に合わせて、階層別研修など育成体系を見直しています。まずは階層別の人材要件を決めようとしているものの、確からしさが判断できず、社内で合意形成が進みません。何から手を付ければよいのでしょうか?(製造業、人財開発課)
【お答え】
まずはあるべき組織像を定めることで、方向性を揃えましょう。そのうえで、人材要件定義の成果物についてイメージを共有し、策定・議論することをお勧めします。

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※2020年6月10日に第2版投稿

執筆者プロフィール
佐々木 健二 | Kenji Sasaki
佐々木 健二
人事・労務コンサルティング事務所、人材サービス企業を経て株式会社ミスミへ。中国新規事業立上時のマーケティングや国内営業チームのマネジメントに携わった後、グロービスへ。グロービスでは法人営業として様々な業種、約150社の育成施策立案・実行をサポート。現在は法人事業におけるCRMの推進及び営業組織内のナレッジマネジメント等を担当。同時に、思考領域ファカルティ・グループにて研究員を務める。
グロービス経営大学院修了(MBA)

人材要件とは?
人材要件を定義するには?

人材要件とは、職務遂行に必要なスキル・マインド・人物像などを明確にしたものです。階層別の人材要件といえば、その会社の部長や課長として期待される役割・行動に加え、役割を果たし、行動を取るために必要なスキルやマインドを、文章として表したものになります。

育成体系は、人材要件と整合させる必要があります。育成体系としてよく紹介されるのは、縦軸に役職や等級、横軸に階層別研修、選抜研修、事業部・テーマ別研修、自己啓発研修といった形態を置いた体系図です(図1)。このような育成体系・研修内容と、階層別の人材要件の中身に整合性を持たせる必要があるのです。

図1:育成体系図(例)

図1:育成体系図(例)

今回のご相談のように、人材要件の定義に悩む人材育成担当者の方は少なくありません。人材要件定義の難所として、「人材要件定義をやってみたものの方向性が揃わない」「人材要件についてピントのずれた反論が来てしまう」などがあります。本コラムでは、この難所を乗り越えるためのポイントを2つご紹介します。

  1. ポイント1:人材要件定義の方向性を揃える為に、あるべき組織像を定める
  2. ポイント2:人材要件定義を具体化するために、枠組みを活用する

ポイント1:人材要件定義の方向性を揃える為に、
あるべき組織像を定める

今回のご相談は「中期経営計画に合わせて」とのこと。「組織は戦略に従う」と言われる通り、人・組織の施策を考える上で戦略を深く理解することは重要です。しかしながら自社の戦略を理解できたとしても、あるべき人材像を導くことにはやや距離があり、行動に移しづらいのが実態です。そこで大切なことは、戦略とあるべき人材像の間をつなぐものとして、あるべき組織像を定めることです(図2)。

図2:あるべき人材像と自社戦略の間をつなぐものとして、あるべき組織像を定める

図2:あるべき人材像と自社戦略の間をつなぐものとして、あるべき組織像を定める

私の担当企業の事例をご紹介します。「モノ売りからサービスへの転換を目指しているので、営業部門の主力メンバーへソリューション営業力強化研修を行いたい」というお客様がおられました。その方は研修の実施を急ぐ一方で、「全社的な戦略転換に対して、打ち手がややピンポイントすぎないか。全体観をもつために、部門横串で階層別人材要件を検討する必要があるが、方向感がつかめず進まない」という点でも悩まれていました。

そこで私が提案したのは、戦略とあるべき人材像の間をつなぐものとして、あるべき組織像を定めることです(図3)。

図3:検討ステップに「あるべき組織像を定める」を追加する

図3:検討ステップに「あるべき組織像を定める」を追加する

なぜ「あるべき組織像の定義」を「自社戦略の理解」と「あるべき人材像の定義」の間に行うとよいのでしょうか。それは、組織における階層間、部門間の関係性や相互作用が、人の行動に強く影響するからです。

たとえば、課長層が期待される行動をとって活躍するためには、部門方針の共有、部長からの権限委譲・支援、部門間の相互理解、メンバーの自走やチームへの貢献などが鍵となります。人が仕事の成果を出す上で、必ず組織が影響するのです。

したがって、戦略と理念を手掛かりに、あるべき組織像として醸成したい文化や行動習慣(好ましいタテヨコの相互作用など)を考えておくと、「では、その実現のために、誰(部長、課長、主任等々)がどんな行動をとればよいだろうか?」と、各階層の役割・行動といった人材要件への落とし込みがしやすくなります。

先のお客様の例では、「モノ売りからサービス業へ」を実現するための組織像を検討する中で、「顧客提供価値を強く意識する」、「開発から営業までの各機能が価値創出・提供に向けてスピーディーに連携する」、「各層が自ら課題設定し行動する」などのキーワードが挙がりました。そこから、営業メンバーのみならず、営業のマネジメント層や、開発部門、関連管理部門など、まさに全社の思考・行動を変える必要があることが明らかになったのです。

そのキーワードは経営陣の意図とも合致し、営業研修の新設のみならず、階層別研修の刷新にもつながりました。まさに「育成体系の見直し」に至ったわけです。すでに方向性について経営層の信頼を得ていたこともあり、施策への落とし込みはスムーズに進んだそうです。

「あるべき組織像」を論じることは一見、遠回りに見えるかもしれません。しかし結果として、本質的な育成体系の合意形成へとスピーディーに至ることが可能です。また「あるべき組織像」を描くことで、「あるべき人材像の軸」も見やすくなります。

ポイント2:人材要件定義を具体化するために、
枠組みを活用する

「あるべき組織像」が定まったとしても、人材要件の内容についてイメージが共有されていないために、能力と行動の話が混在するなどして議論が進まないことはよくあります。

そのような場合には、「あるべき人材像」を考えるための枠組みを決めることが有効です。たとえば、以下のようなものです。

  • ・あるべき組織像から導かれる(各階層の)役割
  • ・役割から導かれる具体的な行動
  • ・行動を支える要素としてのスキル・マインド

これら一つひとつの内容を定めるコツなどもありますが、紙面の都合上、別の機会に譲りたいと思います。ご興味があればお問い合わせをいただければ幸いです。

本コラムが、育成体系の見直し、人材要件を定義する上でのヒントになることを願っています。

 

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。