リーダー研修をしていますが、会社の将来を託せる人材が育ちません
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中村 剛
グロービス講師
【お悩み】
毎年、リーダー人材の育成研修を実施しているのですが、キラリと光る人材がなかなか出てきません。我が社にはパフォーマンスも人柄も良い管理職はいるのですが、「じきに部門長に昇格し、将来は経営層として活躍できる人材か?」と言われると、疑問符がついてしまうのです。
【お答え】
足し算で研修を企画するのは、やめましょう。そういう発想では、問題解決が得意な「モグラたたきリーダー」が量産されるばかりです。引き算の発想も取り入れて、経験の枠を超えた新しいチャレンジを促しましょう。
第1章
将来を担うリーダーとして物足りない理由
グロービス・コーポレートエデュケーションの中村です。これまで組織開発・人材育成のコンサルタント経験も含めて、10年以上にわたって、クライアントと経営課題・人材育成課題に取り組んできました。
「あの人は、人一倍会社のことを想い、責任感が強く、組織に貢献しようと精一杯努力もする。しかし、将来を担うリーダーとしてはどうも物足りないんですよね」
これは業種・業界問わず、よく聞く言葉です。特に、“VUCA” ※と称されるほど環境変化が激しく、将来を見通しにくい近年、人事担当者の間でこのお悩みが深まっているように感じます。
※VUCA : Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせた造語
その理由はなぜかというと、新しい知識を注入し、『やるべきこと』を伝え、タスクリストを増やすような研修にもっぱら力を入れて、「モグラたたき型リーダー」を量産してきたからです。
モグラたたきとは、現行の仕組みを運用し、顕在化した課題を捉えて改善を加えること。リーダー育成研修にノミネートされる人材ともなれば、プレーヤーとしても、管理職としても、的確な問題解決で着実に成果をあげてきたはず。つまり、モグラたたきが得意な人材であり、別名、問題解決型リーダーとも言います。
第2章
モグラたたき型リーダー(問題解決型リーダー)を次のステップへ
モグラたたきに秀でたリーダーに足りない要素の代表格は、経営知識、ヒト・組織を動かす力、考える力、志の醸成、戦略的思考など。どれも企業が求めるリーダー人材に欠かせないため、人事担当者はあれもこれもと『やるべきこと』を詰め込んだ研修を企画しがちです。将来を見通すのが難しいからこそ、変化に対応するための備えを厚くするのは、避け難いことかもしれません。けれども、研修の受け手に「余白(スペース)」がなければ、行動変容につながる可能性は極めて低くなります。
余白とは、新しいことにチャレンジする余地、経験のないテーマに取り組んだり考えたりする時間、経験を振り返り自己認識を深める時間などを指します。余白を作ることによって、新しい情報や考え方を咀嚼し、我が事に置き換え、心も身体もこれまでと違う行動に踏み出す準備が整います。
第3章
強制的に「余白」を作る工夫を
「余白」を作ることの重要性は、私自身も身をもって感じました。きっかけは、第一子が生まれたこと。夫婦共働きなので、家事も育児も分担している分、ほとんど残業ができなくなりました。その一方で、業務上やるべきこと、着手したいことは増えるばかり。これまでの流れのままに、モグラたたき流のやり方をしていては、首が回らない状況に陥ったのです。
このときに気づいたのは、知らず知らずのうちに、効率性重視で「全部自分がやらなければならない」と思い込んでいたことです。そこで、目的に応じて投入する時間を減らす、作りこむ前に周囲から意見をもらう、自分でやらずに周囲にお願いするなど、やり方を変えてみました。抱えていた仕事の一部を少し手放してみると、余白が生まれ、見過ごしていた情報に目が留まるようになり、新しいやり方に心と身体が向くようになったのです。
これまで成果をあげてきたモグラたたき型リーダーは組織からの期待も高く、自ら余白を減らしていく状況に陥っています。だからこそ、人事担当者としては、研修で新しい知識や考え方をインプットするだけでなく、強制的に余白を作るように仕向ける工夫が大切です。
例えば、Googleの「20%ルール」(業務時間の20%を担当業務と違う活動に充てて良いというルール)は新しいサービスを次々と生み出してきたことで有名です。通常の職務以外のことに意図的に時間を使うことで、新しいアイディアや活動が生まれる。言い換えると、人間の心や身体、ひいては行動を変えるには、「余白」のある環境や場の設定が多大な影響を与えるのです。
リーダー人材を育成する目的はそもそも、経営を担う行動力をつけさせることのはず。行動が変わるまでのプロセス全体を見据えて、「余白」を設けるという引き算の視点も含めて、既存の研修を見直してみてはいかがでしょうか。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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