パーパス経営で推進する、DX企業に向けたフルモデルチェンジ(後編)
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グロービス コーポレート ソリューション
2022年2月3日(木)に、富士通株式会社 代表取締役社長兼CDXO 時田 隆仁氏をお招きして、GLOBIS経営者セミナー「パーパス経営で推進する、DX企業に向けたフルモデルチェンジ」が行われた。前半の時田氏の講演を受け、後半では時田氏と、富士通の人事関連戦略に伴走し、支援してきたグロービス マネジング・ディレクター 西 恵一郎によるパネルディスカションが行われた。(全2回・後編)
(注:セミナー概要は末尾をご覧ください。文中の氏名肩書は記事公開当時のものです。)
「上意下達な組織」から「自律型の組織」へ
西
まず時田さんがパーパスに着目されたきっかけを教えていただけますか?
時田氏(以下、敬称略)
2020年にダボス会議へ参加したのがきっかけです。サステナビリティの活動と事業が一体として語られる姿を目の当たりにして、非常に感銘を受けました。富士通と同業のテクノロジーカンパニーのトップが、ともすればCSRとして捉えがちなテーマを事業として語っていて、従業員のみなさんも共感していたのです。私も、そこで「富士通は何をする会社なのか」ということを定める必要性を強く感じました。
西
社会に対して、そして従業員に対して、明確に語っていかなければならないと感じられたわけですね。
時田
特に従業員ですよね。Z世代の社員たちと話すと価値観などが全く違います。私たちの世代なら、「そんな青臭いことを言って」と片づけていたことが、彼らにとっては当たり前なことですから。就職や転職において、たとえ大企業であっても、彼らは何をしているか分からない企業は候補にも挙げないだろうと思います。
西
これまでの富士通のイメージは管理型経営だったと思います。それが、時田さんによって民主的な経営に大きく様変わりしたことで、従業員のみなさんの反応はいかがですか?
時田
「VOICEプログラム」を使ってサーベイすると30%は「理解できます」、40%は「理解しているけどチャレンジです」というように、合計70%はポジティブな意見です。しかし、残り30%は「よくわからない」「自信がない」「不安だ」という人たちです。富士通の30%というと、日本人だけでも3万人もいるわけです。これは放置するべき数字ではないので、タウンホールミーティングを年に20〜30回設けて、インタラクティブな会話を行いながら、従業員の疑問にしっかりと答えるようにしています。
西
どんなことを話されるのでしょうか?
時田
富士通の従業員は非常に真面目で、責任感が強い。ただ上意下達な風土に慣れているので、「これからは『自律型』に変わっていこう」という話を常にしています。
西
指示を受けた方が従業員も楽かもしれませんし、時田さんも伝えたことがちゃんと実行されている組織の方がある意味やりやすいのではないかと思いますが、自律型の組織を目指されたのは、なぜでしょうか?
時田
富士通は世界180カ国にサービスを展開しているので、私一人の判断で全てのことを決められるわけではありません。これからは、その問題に向き合っている人たちの意見を最大限活用することの方が、迅速に課題を解決できますし、コストメリットも大きいと考えたからです。
西
時田さんは従業員の声に対して、どのように向き合っていらっしゃるのでしょうか?
時田
富士通ではコミュニケーションの基盤が確立され、この数年間でコミュニケーションの数が急速に増えました。一つは、社内SNSとしてMicrosoftのYammerの活用です。富士通の全従業員の80%の約10万人がユーザーです。マイクロソフトに問い合わせたところ、世界で8番目の利用率で、日本では最大ユーザーを誇ります。
グローバルにコミュニティがたくさん立ち上がり、コミュニケーション、ナレッジの交流等のやりとりも活発です。(社内コミュニケーションを行っている)Yammerを見ている社員に、「何遊んでいるんだ!」と叱咤する課長や部長がいたという声を耳にすると、私は「何を言ってるんだ。役員も含め管理職もYammerを見て、社内の状況を理解し、コメントを返信してくれ」と発信するようにしています。そんなやりとりを行いながら、いろんな形のコミュニケーションが増え、やり方も雰囲気も変わってきたと思います。
DXを推進するには意欲を後押しする仕組みや制度が大事
西
時田さんが社長に就任されてから、制度を含めて組織をドラスティックに変更されてきましたが、そこに至った問題意識について改めてお話しいただけますか?
時田
昔、富士通の人事は「制度は決めるけど、実務は現場でやってくれ」といったスタイルで、ほとんど現場に丸投げでした。これに対して、私は以前から疑問を感じていました。
そのことを強く認識したのは、外国籍の部下をもったロンドン駐在時です。「One Fujitsu」と言いながら、日本と日本以外では、同じ富士通の社員であっても処遇や人事制度が全く異なっていたからです。その経験を経て、人事制度の変更は、本社だけでなくグループ会社含め、関わるすべてのものを一度に行うようにしています。
西
他の企業だと4〜5年かかることを1年ぐらいで実現していらっしゃるように見えますが、人事担当者や従業員には混乱はなかったのでしょうか?
時田
当社のCHRO(最高人事責任者)の平松に「1年でできるか」と聞いたら「できます」と、二つ返事だったので、彼に任せました。それが実現できたのは、やはり人事部門の現場が、これまでに長年制度設計や変更のシミュレーションを行ってきたからだと思います。この経験を通じて、富士通の各現場ではやるべきことは分かっているという確信が、私の中に芽生えました。答えはもう現場にあるので、今回の改革も、私はただそのスイッチを押しただけだと思っています。
西
時田さんは、多くの企業からDX化の相談を受けることが多いと思います。その場合、自社の事例をもとに、どのようなお話をされるのでしょうか?
時田
私はお客様に「DXをやるならもう内製化しかありません」と、いつも言っています。お客様からは「そうなると富士通はいらなくなるけどいいのか」と言われますが、「それでいい。そこで違う価値を出さなければ存在価値がない」と言っています。お客様が本気で変わるためには「自分たちで変えるんだ」という社員のモチベーションを後押しするような制度や仕組み、コミュニケーションが備わっていることが大事です。そして、心理的安全性ということが、今いろんなところで議論されていますが、やはり「正しいことが言えない」のは、DX化の最大の障壁だと思います。
西
昨年発行したG-Agenda Vol. 2で時田さんが、「富士通がまずいろんなものにトライして、そこで検証できた良いサービスをお客さんに提供していくんだ」ということをお話しされていて、その時、自分たちがやることを非常に重視されていると感じたのですが、いかがですか?
時田
自分自身がやってないことは語れないですからね。もちろん、いろんな文献から得られることでも正しいことはあると思います。しかし、結局責任を持ってお客様に対してアドバイスやコンサルティングをするのであれば、やはり自らもやるべきだと思いますね。
事業部に権限委譲して、経営スピードを高めている
西
ここまで、どういうプロセスでパーパスからDXに至るまで取り組んで来られたのか、その変化のチャレンジをお聞きしました。改革をスタートして2年半経って、振り返ってみて、できたことを挙げるとどんなことがありますか?
時田
やはりジョブ型人事制度ですかね。富士通がメッセージを発信して、それがメディアに取り上げられ、しっかりと皆さんに認知されるようになったということ。これまでの富士通ではできていなかったことであり、投資家さんや株主の皆さんにも非常にポジティブに受け止めてもらっていると思います。
「富士通がどういう会社なのか」を知らしめるのは、私の大きな役割であり、富士通の社員全員がやってほしいことでもあります。やはりそうしないと人材獲得競争には勝てません。グローバルで人材を採用しようとすれば、なおさらのこと。企業としても発信力と実績が求められてくるので、そういう意味においても、ずいぶんと富士通の姿が見えるようになったと思います。
西
時田さんは、事業部に権限委譲して、事業部の裁量を大きくする経営を行ってこられました。そうなると事業部長に対する経営者としての質が求められてくると思います。この領域に関して、どのような取り組みを行っているのでしょうか?
時田
事業部の本部長にはキャリア採用も含めて、全ての権限を委ねています。彼らの経営の質や発信力が問われるので、彼ら自身が社外にネットワークを持って行動していかなければなりません。ただそれらをすべて一人で担うことは難しいので、外から役員クラスを採用して、手本となるように背中を見せてもらっています。
お客様とともに社会課題を解決する新たなビジネスモデルを
西
次に「Fujitsu Uvance」についてお聞きします。既存事業の延長線上ではない、新たなビジネスに本気で取り組もうと決めた背景について、教えてもらえますか?
時田
私たちがこれまで提供してきたITソリューションは、お客様の生産性に寄与することであり、それに関するプライドもあります。しかしこれからは、お客様の課題も多岐に渡ります。例えば脱酸素の問題もその一つ。テクノロジーを使えば、こうした課題解決に貢献できることはたくさんあると思います。
まだ形にはなっていませんが、サプライチェーンの中でどれくらいの炭素を使っていて、どのくらいまでなら減らせるかを計測できるソリューションサービスを開発し、クライアント企業とともにサステナビリティを実現することも可能です。
単に業種別にパッケージソフトを提供するのではなく、社会に対してどのような貢献をしていけるのか。富士通がお客様と一緒になってコミットして、社会に発信するような事業のモデルを漠然とですが考えています。今構想中ですので、近いうちには発表できると思います。
西
今まで、バックエンド側の効率化や改善に取り組んできた富士通が、今度はビジネスサイドの変革にしっかりと向き合って、未来の課題解決に企業と一緒に取り組んでいく。立ち位置も含めて随分変わりましたね。
時田
富士通は大病院の電子カルテのシステムで大きなシェアを持っています。病院のIT化は進んでいても、保健所などの自治体のIT化が遅れています。それによって、このパンデミックで、病院と保健所ではFAXでのやりとりで業務が滞っているというニュースが流れた時は非常にショックを受け、富士通としても大きな責任を感じました。
あらゆる産業に富士通はリーチし、ITソリューションを提供していますが、いわゆる業際の問題に全く取り組めていなかったわけです。そこを深く反省し、「Fujitsu Uvance」では「Healthy Living」というエリアを立ち上げました。これをコンセプトで終わらせずに、ソリューションとして提供するためには、やはり、社会課題をデジタル化(可視化)して、解決することに本気で取り組みたいと思っています。
西
時田さんは、それを日本だけじゃなくて、世界という観点で強く意識されていると思います。まさに世界で「Fujitsu Uvance」領域を展開していくためのマネジメントが、次のチャレンジになりますか?
時田
そうですね。それには「同じ組織の中で人材が集う」ことが大原則になると思います。何をもって集うかというと、やはり「パーパス」です。パーパスが合わない者同士では一緒に仕事はできないと思います。それゆえ、パーパスが非常に大事になってきます。
西
最後に、いろんなことが繋がってきました。ありがとうございます。時田さんから、皆さんにメッセージをいただけますか?
時田
今日はありがとうございました。ここ2〜3年はグローバルスタンダードをことさら強調して発信してきて、社内でもすごく反発がありました。それでもグローバルスタンダードと言い続けていると、日本なら、こういうやり方も考えられるということが、私を含め、富士通の従業員からも出てきます。今後は皆さんともディスカッションをしていきたいと思います。
社会にいかなる信頼をテクノロジーで持たせるかということをパーパスとしていますが、その社会や生活者に対して富士通はしっかりとリーチできているかについては、いささか自信がありません。そのためにも、引き続き、皆さんのお知恵をお借りしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
セミナー開催概要
■開催日時:2022年2月3日(木)16:00-17:30
■会場:Zoomによるオンライン配信
■登壇者
【講演者】
時田 隆仁 氏
富士通株式会社 代表取締役社長 兼 CDXO (Chief Digital Transformation Officer)
東京工業大学で金属工学の学士号を取得後、1988年に富士通へ入社。
システムエンジニアとして、メガバンク、生命保険などを含む金融業界向けのプロジェクトに従事。金融システム部門の責任者として、様々な金融機関へICTサービスを提供してきた。
その後、グローバルデリバリーグループ長に就任。2年間ロンドンに駐在し、世界8か国でサービスデスク業務やオフショア開発を行うグローバルデリバリーセンター(GDC)を統括するとともに、グローバルなICTサービスの提供に尽力してきた。
2019年6月に代表取締役社長に就任。
【モデレーター】
西 恵一郎
株式会社グロービス
グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター
顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 董事
早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。
三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、コンビニエンスストアの物流網構築、商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。
B2C向けのサービス企業を立ち上げ共同責任者として会社を運営。
グロービスの企業研修部門にて組織開発、人材育成を担当し、これまで大手外資企業のグローバルセールスメソッドの浸透、消費財企業のグローバル展開に向けた組織開発他、多くの組織変革に従事。
グロービス初の海外法人を立上げ、現在、グロービスの中国法人(顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司)の董事及び副総経理を務めながら、日系商社 海外法人の新規事業アドバイザーを務める。
論理思考領域、マーケティング、グローバル戦略、リーダーシップの講師を担当。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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