パーパス経営で推進する、DX企業に向けたフルモデルチェンジ(前編)

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    グロービス コーポレート ソリューション

新型コロナウイルスを機に、人々の価値観や生活様式が急速に変化し、それと共に多くの産業においてビジネスそのもののあり方が大きく変わった。VUCA時代、企業が長期的に社会に存続していくためには、自らの存在意義を常に問い、経営を時代に合わせてアップデートし続ける必要があるのではないだろうか。

そうした中、日本のIT業界を代表する富士通では、従来のIT企業からDX企業への転換を目指し、社会における同社のパーパス(存在意義)そのものを大きく見直し、より良い社会への貢献に向けた大規模な企業変革や組織変革を実践している。

本レポートでは、G-Agenda Vol.2にもご登場いただいた富士通株式会社 代表取締役社長兼CDXO 時田 隆仁氏をお招きして、2022年2月3日(木)に行われたGLOBIS経営者セミナー「パーパス経営で推進する、DX企業に向けたフルモデルチェンジ」の概要を紹介する。(全2回・前編)

※後編はこちら

(注:セミナー概要は末尾をご覧ください。文中の氏名肩書は記事公開当時のものです。)

「パーパスドリブン経営」x「データドリブン経営」=富士通のDX企業

セミナーの前半では、富士通株式会社 代表取締役社長兼CDXO 時田 隆仁氏による基調講演が行われた。

■「パーパス」と「Fujitsu Way」

時田氏は、2019年の富士通代表取締役社長就任直後から、様々な施策に取り組んできた。まずは2020年5月に「パーパス」を策定。そして、パーパスの実現を目指すため、従業員の意思決定や行動の拠り所となる原理原則である「Fujitsu Way」を12年ぶりに改訂し、大切な価値観と行動規範を定めた。

「『パーパス』も『Fujitsu Way』も多言語に翻訳して使用するため、どの言語においても意味が変わらないように、文言は選び抜いて決めていった」と、時田氏は話す。

「『Fujitsu Way』にある『大切にする価値観』のうち、『挑戦』では、『失敗や経験から学ぶ』ことを明記しました。この『失敗』というネガティブな言葉を使うかどうかでも随分ディスカッションを重ねました。最後は、失敗を許容する風土をつくっていきたいという私の想いから、この言葉をあえて反映しました」

なお富士通では、「パーパス」を会社と従業員とのつながりを生み出すものと考えている。

「当社では、『Purpose Carving(パーパスカービング)』という、従業員一人ひとりのパーパスを掘り起こす活動をこの2年間行ってきました。世界に在籍する従業員13万人全員が自分のパーパスを明確にすることで、自分がやりたいことと富士通のパーパスとの距離感を一人ひとりが考えるようになり、個人の自己実現が富士通の成長に繋がるという連関が生まれてきました」

■「パーパスドリブン経営」&「データドリブン経営」

現在、富士通では「パーパスドリブン経営」と「データドリブン経営」を表明している。「パーパスドリブン経営」とは、従業員一人ひとりのために何ができるかを考える経営のこと。そして、「データドリブン経営」について、時田氏は次のように話した。

「富士通は、これまで過去の実績・数字をもとに次の打ち手を考える、いわゆる『バックミラー経営』を行ってきました。しかし、これからはAIなどの先端技術を駆使して、今あるデータをもとに未来を予測して経営する企業に変わっていく。そのような意味合いを込めて『データドリブン経営』を掲げました」

富士通が目指している「DX」は、「パーパスドリブン経営」×「データドリブン経営」という、組み合わせの経営スタイルだと時田氏は明言している。

「富士通自らの改革」と「お客様への価値創造」

続いて時田氏は、富士通がパーパス実現のために取り組んでいる「富士通自らの変革」と「お客様への価値創造」について解説した。

■「富士通自らの改革」

まず「富士通自らの変革」においては、次の3つを実践している。

1. 全員参加型・エコシステム型のDX推進

2. データドリブン経営の強化

3. DX人材への進化、生産性の向上

1. 全員参加型・エコシステム型のDX推進

富士通トランスフォーメーション、「FUJITRA」という全社DXプロジェクトでは、「経営のリーダーシップ」「現場の英知の結集」「カルチャー変革」の3点を重視した改革に取り組んでいる。

DXの舵取りを行うCDXOやCOO、CFOなどで構成される「ステアリングコミッティ」を経営上層部に設置し、さらに時田社長直下のCEO室には、マーケティング/財務・経理/人材開発部門などから選抜された50名ほどの「DX Designer」と呼ばれる人たちが在籍し、富士通全体の変革をけん引。

そして現場でDXを先導する役職として、コーポレート部門、グループ会社、海外リージョンなど富士通内の主要な事業部門などから「DX Officer」を約40名任命し、現場の人たちを巻き込んで、全員が改革に参加できる環境を作り出している。

「この1年間でDXフレームワークとして28もの活動が行われ、ほとんどがボトムアップで生まれました。『マインドを変える活動』『DXスキルを向上させる活動』『今の制度や仕組みを変える活動』の他に、『みんなで場を盛り上げよう』というテーマも入ってきます。最初にお話しした『パーパスカービング』もDXフレームワークの1つになります」

また、2021年には社内起業家を創出していくために、アメリカのバブソン大学で、アントレプレナーシップ教育を行っている山川恭弘先生のアドバイスのもと「Fujitsu Innovation Circuit」もスタートした。

「最近私は、いろんな場所で『失敗に学び、挑戦が当たり前』の富士通を目指す、と発信しています。この『Fujitsu Innovation Circuit』も、そういうことをしっかりと根付かせるための1つの取り組みです」

2. データドリブン経営の強化

今も多くのレガシーな社内システムを使っているが、それらを全部リニューアルしようとしている富士通。ERPシステムからカスタマー、人事、サポートに至るまで、あらゆるデータを1つに統一する『One Fujitsuプログラム』である。

「この取り組みにあたっては各部署からのタレント人材を現業から離して、この業務に集中してもらう体制を整えています。これによって、データを活用した未来予測型の経営にもシフトしていきます」

3. DX人材への進化、生産性の向上

富士通は、2020年に「ワークライフシフト1.0」をスタート。「スマートワーキング」「ボーダレスオフィス」「カルチャーチェンジ」という3つの柱で取り組みを始めた。2021年に発表した「ワークライフシフト2.0」では、「1.0」のワークからライフに特化。男性の育児参加100%や副業の推進、大分県と和歌山県2県と協定を結び「ワーケーション」も行っている。

また、2020年4月には幹部社員を対象にジョブ型人事制度を導入。

「2020年度の実績では、部門を越えた異動が7割を超えました。本体とグループ会社間の異動もずいぶん増え、非常にポジティブに捉えています。空きポストは常に公開して、毎週更新しています。全てのジョブにはレベルがあり、高いレベルのポストに行かなければ報酬は上がりません。『今の職が厳しい』と思えば、レベルを下げたジョブに立候補することも可能です」

その他に、富士通では「VOICEプログラム」という、お客様や社員の声を集める仕組みがある。集めた声を業務データと組み合わせることで、その事象が起きた背景、理由を正しく理解し、自社の課題・要因の判断や変化の予測を常に行い、次のアクションに繋げられる。

「これまで900回以上、このVoiceプログラムを稼働しています。タウンホールミーティング(現場との対話集会)などでは、施策についての意見や要望などを吸い上げることに活かしています」

■「お客様への価値創造」

「お客様への価値創造」については、次の2つの項目について説明した。

1. Fujitsu Uvance

2. パーパスに基づく経営「財務指標」と「非財務指標」

1. Fujitsu Uvance

2021年に策定した、富士通のパーパスの実現を目指す新事業ブランド「Fujitsu Uvance」。

「Uvance」という名前は、ユニバーサル(あらゆるもの)と、アドバンス「前進させる」という造語で、全13万人の社員投票によって決定された。

「今や、クロスインダストリーでないと社会課題を解決できないことは、あらゆるケースで皆さんも実感されていると思います。そこで『Fujitsu Uvance』では、サステナブルなものづくりを支える『Sustainable Manufacturing』、新たなコンシューマー体験を提供する『Consumer Experience』、人類がヘルシーに幸せに暮らせる『Healthy Living』、信頼にあふれた未来社会をつくる『Trusted Society』という4つのカテゴリーをクロスインダストリーで事業化することを定めました。そして、『Uvance』を支えるテクノロジーである『R&D』を『コンピューティング』『ネットワーク』『AI』『データ&セキュリティ』『コンバージングテクノロジー』の5つに絞りました」

2. パーパスに基づく経営「財務指標」と「非財務指標」

今まで財務指標を追う一辺倒の経営を行ってきた富士通。しかし、今後は財務指標だけでなく非財務指標を意識して、両輪での経営を行っていくことが必要だという考え方に基づいて、現在は、KPIとして「財務指標」と「非財務指標」を公開している。

「私たちは、財務あっての非財務、非財務あっての財務だと考えているので、この関係性をデータドリブン経営の中で、解明して、共有していきたいと思っています。それと、お客様の財務指標を伸ばすことを目的にする事業ではなくて、お客様がやらねばいけない非財務、例えばカーボンニュートラルやダイバーシティの問題などに対して、しっかりとコミットしたソリューションを提供できるように、事業モデルや経営スタイルを変えようとしています」

現在、富士通は非財務指標として「従業員のエンゲージメント」「お客様の期待値(NPS)」「DX推進指標」の3つを設定している。

「『従業員エンゲージメント』については、しっかりとトラックできています。2022年度の目標『75』は、プレゼンスの高いエクセレントカンパニーのベンチマークから割り出した数字で、非常に高い目標です。国・地域によってこの数字は大きく変わりますが、そのあたりも踏まえながら、達成を目指していきたいと思います。

『お客様NPS(ネット・プロモーター・スコア)』もグローバルリージョン間で非常に変動するので、未だに目標を公開するまでには至っていませんが、ずっと測り続けています。

『DX推進指標』は経産省が定めている指標です。富士通自身、恥ずかしながら19年度は5点満点中1.9点、20年度は2.4点でした。今年何点になるか今サーベイ中ですが、22年度には標準点となる3.5点を目指す予定です」

後編に続く

セミナー開催概要

■開催日時:2022年2月3日(木)16:00-17:30
■会場:Zoomによるオンライン配信
■登壇者

【講演者】
時田 隆仁 氏
富士通株式会社 代表取締役社長 兼 CDXO (Chief Digital Transformation Officer)

東京工業大学で金属工学の学士号を取得後、1988年に富士通へ入社。
システムエンジニアとして、メガバンク、生命保険などを含む金融業界向けのプロジェクトに従事。金融システム部門の責任者として、様々な金融機関へICTサービスを提供してきた。
その後、グローバルデリバリーグループ長に就任。2年間ロンドンに駐在し、世界8か国でサービスデスク業務やオフショア開発を行うグローバルデリバリーセンター(GDC)を統括するとともに、グローバルなICTサービスの提供に尽力してきた。
2019年6月に代表取締役社長に就任。

【モデレーター】
西 恵一郎
株式会社グロービス
グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター
顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 董事

早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。
三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、コンビニエンスストアの物流網構築、商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。
B2C向けのサービス企業を立ち上げ共同責任者として会社を運営。
グロービスの企業研修部門にて組織開発、人材育成を担当し、これまで大手外資企業のグローバルセールスメソッドの浸透、消費財企業のグローバル展開に向けた組織開発他、多くの組織変革に従事。
グロービス初の海外法人を立上げ、現在、グロービスの中国法人(顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司)の董事及び副総経理を務めながら、日系商社 海外法人の新規事業アドバイザーを務める。
論理思考領域、マーケティング、グローバル戦略、リーダーシップの講師を担当。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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