「コンテクスト×コンテンツ」が学びの成果の鍵~オンラインコンテンツで学びを進化させる(後編)
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グロービス コーポレート ソリューション
よい研修には、「コンテクスト」と「コンテンツ」の両面が丁寧に織り込まれていることが望ましい。なぜならば、コンテンツはコンテクストがあってこそ生きる、そしてコンテクストはコンテンツによって彩られるからだ。その両面をいかにデザインし、ブランドマネージャーに自らのリーダーシップを高めていってもらうのか?キリンビール株式会社にてマーケティング部門の組織能力開発担当されている主務 漆間環様にお話を伺った。
コンテクストを活かすことで研修の目的を果たす
芹沢:
プログラムや研修の目的を果たすためには、「コンテクスト(文脈)」と「コンテンツ」の両方が重要だと考えています。そして、図らずも起きたコロナ禍を「今だからこそ学ぶ意味がある」というふうにコンテクストを活かすというか、“解釈”しなおすことで、むしろ本来の研修の目的、有事のリーダーシップを自分事として考える場になるのではないか、それが重要だと考えました。そのコンテクストに、共感いただけたことは嬉しいです。
一方で、コンテンツをオンラインで実施するとなると、懐疑的な部分は拭えなかったのではないでしょうか?
漆間:
むしろオンラインの実施方法、つまりコンテンツだけの話だったら、「無理かな、やっぱリアルでしょう」と思ったかもしれません。仮に、数回実施済の一部がオンラインに変わるならまだしも、ブランドマネージャー研修は一日のみ。しかも重要度も高く、意味を持つ場です。
一方で、ディスカッションをしたタイミングはコロナ禍の緊急対応が終わった時期でもあり、まさに「この状況はリーダー次第」と実感していたのでしょう。だからこそ、「コンテクストを活かすことで研修の目的を果たす」という言葉がスッと入り、とても納得しました。
リーダーの意思決定は二律背反で同時追及が求められる
芹沢:
ありがとうございます。とはいえ、漆間さんがおっしゃる通り経営のコアなメッセージでもある研修の場合、実施の決断をしにくかったのではないかと推測します。なぜ、その決断をできたとお考えですが?
漆間:
当社は、「育成を大事にしている」に尽きるのだと思います。例えば、トップも部長職も育成にコミットしており、人を育てることを大事にする文化が根付いています。コロナ禍で、緊急度を下げざるを得ない時期も確かにありましたが、こんなタイミングだから実施すべきだろうとも思っていました。
芹沢:
緊急対応やお客様対応が最優先ではあるけど、育成が重要という前提があったのですね。意思決定は二律背反で同時追及を求められるもので、両方のはざまで葛藤するものです。その意味で、コロナ禍での緊急対応を行いながら、あえて、もう一つの重要性の軸である育成も諦めず同時追及するというチャレンジは、全社に対してもメッセージになったのでしょうか?
漆間:
実施を決断した際、研修に登壇してもらう多忙な二人の部長共に、内容については意見をもらいましたが、実施自体については、なにも言われませんでした。
芹沢:
漆間さんは部長からも相当エンパワーメントされているわけですね。
組織のケイパビリティを高めるオンラインコミュニケーション
漆間:
一人だとできなかったと思いますし、グロービスさんとのお付き合いだったから実施できました。特に、研修でのオンラインコミュニケーションのTipsは、自分のナレッジになりました。オンラインにおける組織ケイパビリティを高めたいと考えている方に、このレクチャーは売れますよ!(笑)
宮田:
ちなみに、どのような点が参考になりましたか?
漆間:
オンラインで双方向に意見を出し合うって難しいですよね。声が被ったりするし。今回の研修で、ブレイクアウトセッションのタイミングや、講師から問いの出し方によって、スムーズに意見が出されていくのを見て、集中力の保ち方がこんなにも違うんだと驚きました。実際に、「プログラムのラーニングポイントだけでなく、オンラインでメンバーとのコミュニケーションの取り方や、チームビルディングのやり方を学べた」という受講生の声がありました。
宮田:
嬉しいですね。オンライン研修での学びが、キリンさんのコミュニケーションスタイルの進化にもお役に立てましたか?
漆間:
そうですね、リアルコミュニケーションが好きな人も、オンラインでも工夫してコミュニケーションしようという姿勢が後押しされたと思います。
宮田:
研修の冒頭でも、芹沢から「これからの経営会議は、オンラインのツールをうまく生かすと進化していくでしょう。その訓練にもしてください」という入り方をしましたよね。
漆間:
今後は東京以外の地域に住んで活躍するブランドマネージャーが何人も出現するはずで、そうなるとコミュニケーション方法が変わるというのは実感としてあり、研修+αの部分も鍛えて頂けてよかったな、と。
オンラインコンテンツを活かし「リーダーとして意思決定の覚悟」を深く問う
芹沢:
同席された漆間さんから、感じたことや、改めての質問があれば教えてください。
漆間:
通常のリーダーシップトレーニングでは、少し先の立場について学ぶことが多いのですが、今回はブランドマネージャーの現状に即した問いを投げていただきました。ギリギリの決断にあたり大事にしたい軸、自分の意思決定の影響力、家族や人生を背負っている覚悟を問われる問いかけの数々。
おそらく誰しも、頭では理解していたことですが、今回のコロナ禍という環境、ケース『Mount Everest – 1996』により、リアリティが増したと思います。逆にグロービスさんとしての意図は、どのようなものだったのでしょうか?
芹沢:
意図は3つありました。一つ目は、「導入」です。これが、まさにコンテクストづくりです。コロナ禍という有事で情報が錯綜するなか、緊急度と重要度の二律背反が起こりがちで、意思決定するタイミングが難しいという状況とのマッチング。研修を平時ではなく、あえて有事で実施する意味は、常に二律背反の同時追及を求められるブランドマネージャーの状況にリンクしていることを理解いただく。
二つ目は、これからの学習と育成の変化の可能性を実感してもらうことです。それによってオンラインによって学習の方法も大きく変わります。たとえば、オンラインではチャット機能を使って、短時間での言語化・意思表明を求めます。有事のときのリーダーに必要なように。さらにチャットで見える化された多様な考え方を全員が共有できます。リアルでは埋没することもある異質な少数意見を拾える。これも有事の意思決定には大事なことです。
このように、Face to Faceのリアルの場での学習だけでなく、オンラインによりチーム学習がどんどん進化していくことを知って欲しかった。なぜならば、ブランドマネージャーこそ、人の育成の要になる立場であり、かつ、デジタルの時代は育成の方法論がダイナミックに変化するからこそ、その変化を自らリードしいって欲しい。
三つ目は、「リーダーとして意思決定の覚悟」を問うです。キリンの皆さんは優秀なので、原因分析はしっかりできる。予習課題のアウトプットを見ても、リーダーの過信、サンクコストの罠、直近バイアス、認知バイアス、メンバーの不安、リーダーに言えない心理的安全性まで丁寧に指摘されている。
ただ分析できれば、リーダーとして遭難しないのか?頭でわかることを、実際に実行する難しさを徹底的に考える。知識ベースでわかっている前提で、「では、あなたはできるのか?あなたにとっての難所はどこか?二律背反はどう克服するのか?本当に意思決定できるのか?最終的にどちらを選ぶのか?」その問いを何度も繰り返し、リーダーの意思決定に必要な論点をぐいぐい強めに問いを投げました。
漆間:
三つ目の問いに関しては、当社で実施の他研修よりも、相当難しい問いを投げてもらったと感じました。受講者からも、「講師からの問いが深い」と感動の声が多くありました。ちなみに、他のトレーニングの場でも「現状分析はうまい」と言われことが多くて…。
芹沢:
でも、変わってきましたよね。この数年でアクションする人がグッと多くなったと感じています。
「人間力」と「胆力」を磨き、リーダーシップのある人材を輩出したい
芹沢:
最後の質問になりますが、今後についてお伺いします。ニューノーマルの時代において、キリンさんのビジネスの変化、顧客、ニーズの変化、提供価値はどう変わると考えているか?そして、そういう変化に対してどうしていきたいかなど教えていただけますでしょうか。
漆間:
かっこいいことは言えないけど、コロナ禍はビジネスも人の在り方も「本質」をあぶりだす機会でした。自社ビジネスは苦しいことが沢山ありますが、この数年かけて強いブランドを作ろうとしていたからこそ、踏ん張れていますし、これまで行動したきたことの本質が現れていると考えています。
人に関しても、環境に適応して、成果に向かって挑戦する人も増えています。一方、ついていけない人もいるでしょう。だからこそ、企業として本質が問われると思います。私たちにとって本質的に大切なものは、ブランドと人です。自らの現状維持バイアスを疑いつつ、本質を見極め、環境適応していきたいと思います。
加えて、ビジネスと人・組織についても思うところがあります。ビジネスは、キリンのDNAとして「人に必要とされるブランド」を愚直に作っていきたいです。コロナ禍で社会課題が表出したからこそ、当社のCSV経営、社会課題に向き合う姿勢を問われたと考えていますし、その突き付けられた課題に向き合いたい。
そして、人としては、リーダーシップの重要性は昔と変わりません。リーダーシップある人間だからこそ成果を出せるものであり、リーダーシップは「人間力」「胆力」を磨き続けることで得られるもの。改めてリーダーシップのある人を輩出する組織にしていきたいですね。
組織で働く時、理性や表層では「何をするか」というコンテンツを求めるが、本能や深層では「私がここにいる理由」というコンテクストを求めているのではないでしょうか。組織で働くコンテクストが自らに定まれば、コンテンツを自分に引き寄せ、より深く読み解け、結果として自分の選択の軸が定まるものかもしれません。インタビューを通じて、クライアント、講師、コンサルタントが同じ方向を見つめて、コンテンツ×コンテクストを紡いで、受講される皆様に物語を届けていく姿勢に共感しました。(編集担当:赤崎述子)
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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