昇格試験とは?実施方法5選と見直しの際に必要な3つのポイント
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「昇格制度を見直す際、何から手をつけたら良いか分からない」という方は多くいらっしゃるのではないでしょうか?
「今のままで本当に適切な人材を昇格させられているのか?」
「昇格させた後、成果を出してくれるのか?」
そのような疑問や不安を抱えながらも、具体的な方法が分からずに悩んでいる人事担当者の方は少なくありません。
本コラムでは、昇格試験の基本から、代表的な実施方法5つと見直しの際に押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。まずは基礎から情報を整理したい方におすすめです。特に第4章では、グロービスが年間3,400社のサポートをする中で見えてきた昇格試験の課題と成功の3つのポイントを記載していますので、ぜひご覧ください。
1.昇格試験とは
昇格試験とは、社員が次の役職にふさわしい能力や資質を持っているのかを客観的に確認するための試験です。
これにより、期待されるパフォーマンスを発揮できる人材かを事前に把握することができ、昇格後のミスマッチを防ぐことができます。
1-1.昇格試験の目的
昇格試験は以下の目的のために実施されます。
- 戦略を担う人材の選抜:会社の戦略実現のために必要な人材を選び抜き、組織全体の方向性と実行力を高める
- 客観性・納得感のある判断:組織の評価基準に基づいた能力・資質を持っていることを確認する
- ミスマッチの防止:当該役職に対し不適任である事態を回避する
これらの目的を達成するために試験の設計を考える必要があります。
1-2.昇格試験で測定するもの
昇格試験で測定するものは大きく分けて「行動」「能力」「資質」の3つに区分されます。人事評価など、顕在化している「過去の行動の結果」に加え、適性検査などのあらゆる情報から「潜在的な資質や能力」を含めて、総合的に判断することが重要です。下記の氷山モデルを参考に、
・昇進・昇格時にはどのような行動・能力・資質が求められているのか
・昇進・昇格時にすでに獲得していなければならない要素は何で、ポテンシャルが確認できていれば良い(昇進・昇格後に育成すれば良い)要素は何か
を見極めておく必要があります。

1-2-1.行動
具体的な言動として日常の業務で表れ、直接的に成果に影響を与えるものです。例えば、以下の行動が挙げられます。
- 目標設定と達成へのコミットメント(実績含む)
- 根拠に基づいた意思決定
- メンバーのサポートや育成、日々の1on1でのフィードバック
- ステークホルダー間での利害調整行動
1-2-2.能力
知識やスキルのことを指します。例えば、以下の能力が挙げられます。
- 論理的思考力
- 課題設定・解決力
- コミュニケーションスキル
- 経営戦略、ファイナンスやマーケティングなどの経営の定石の知識
- 組織組成・運営能力(狭義のマネジメントスキル)
1-2-3.資質
言動に影響を与える要素で変化しにくいものを指します。例えば、以下の資質が挙げられます。
- 倫理観や社会的責任感
- 成長意欲
- 視座の高さ
- ストレス耐性やレジリエンス
- 多様性を受け入れ活かす姿勢
1-3.昇格試験を見直す背景

昇格試験を見直す背景には様々な事情があり、一例として以下のような理由が挙げられます。
- ビジネス環境の変化により会社の戦略が大きく転換し、必要な人材が様変わりしたため
- 現在の昇格試験では必要な能力・資質を適切に判断できないため
- 社員の多様化や年功序列の廃止が進み、新たな判断基準を設定しなければならないため
いずれの場合においても、目的を達成するために適切な試験を実施することが重要となります。
昇格試験は実施方法によって特徴が異なります。これから代表的な5つの試験方法を紹介するので、目的に合致する方法を考える際の参考にしてみてください。
2.主な昇格試験の実施方法5選
昇格試験で特に実施されている5つの方法について、表1にまとめました。
表1:代表的な5つの試験方法
試験方法 | 測定対象 | リンク | |
---|---|---|---|
適性検査 | 能力適性検査 | 能力特性 | 3-1-1 |
性格適性検査 | 性格特性 | 3-1-2 | |
興味・指向(態度)適性検査 | 指向特性 | 3-1-3 | |
小論文 | 能力 意欲 実績 | 3-2 | |
面接 | 意欲 知識 実績 | 3-3 | |
多面観察評価 | 能力 性格 | 3-4 | |
人事考課 | 実績 | 3-5 |
これらの方法の特徴と実施の際に押さえるべきポイントについて整理していきます。
3.昇格試験の特徴と押さえるべきポイント
3-1.適性検査
適性検査とは、能力や資質を評価することを目的に実施される方法です。能力、性格、興味・指向適性を測るものに分けられます。
3-1-1.能力適性検査
能力適性検査は、知的能力や作業能力を測定する検査です。業務を効果的に進めるための能力や、複雑性が高く困難な環境で課題を発見・解決する能力があるかを測ります。ペーパー上で何らかの課題処理をさせ、その力量を測定する方法が一般的です。
3-1-2.性格適性検査
性格適性検査では、職務をより良く遂行するために求められる性格・態度面での充足度を測定します。検査項目としては、モノの捉え方・感じ方、行動様式、組織・職場文化風土への適応性、達成意欲、精神的な健康面の確認といったものがあります。
3-1-3.興味・指向(態度)適性検査
興味・指向(態度)適性検査では、興味のある業務や職種、キャリアの考え方、指向性などを測定します。昇進・昇格試験以外にも、人物理解の参考資料、能力開発の計画、職務要件の充足度の診断など幅広い人事施策で活用されます。
3-1-4.適性検査で押さえるべきポイント
データの信頼性を十分に考慮したうえで、導入する試験を決定することが重要です。
適性検査を導入する際には、コストや評価の客観性といった観点から、自社で開発するのではなく、専門機関が開発・提供しているものを使用するケースが多いでしょう。そのため導入検討の際は、専門機関の信頼性・試験の品質を確認します。
検査の品質の点では、検査結果の標準性が分かることが重要です。標準性とは受験者が母集団の中でどのくらいの位置にいるのかが表されることです。母集団の属性(業種、職種、年齢など)が自社と大きく異なっていないかも確認しておきましょう。
3-2.小論文
小論文は論理的思考力や文章構成力、課題解決力などを文章によって評価する方法です。候補者の思考プロセスや結論の導き方を深く理解できることが特徴です。試験対象者に期待する役割によって設問を変更することで、組織が必要とする人材の絞りこみが可能です。
3-2-1.小論文で押さえるべきポイント
採点基準(論点整理、構成、論理性、説得力など)を明確にし、複数の評価者での基準を統一することが必要です。
また、設問は実際の事業戦略や組織課題に即した内容を設定することも心がけましょう。
3-3.面接
面接は候補者の意欲やコミュニケーション能力を直接確認する方法です。過去の行動事実に基づいた質問を行うことで能力・資質や行動の再現性も評価することができます。
3-3-1.面接で押さえるべきポイント
面接は主観的な評価であるがゆえに、質問の展開や判断において誤りが起きやすいとされています。この誤りを防ぐために、下記に注意しましょう。
・質問設計と評価基準を明確にし、全ての面接官で統一するようにしましょう
・評価者訓練を行い、面接官による主観的な偏りを防ぎましょう
・複数名による評価によって公平性を担保することも心がけましょう
3-4.多面観察評価
多面観察評価は、自己評価と他者評価を比較し、多面的な視点で能力を把握する方法です。評価項目は職務遂行に求められる行動を設定することが多く、評価者は上司・同僚・部下といった、職場で関係のある社員から複数名を選定・依頼します。
本人の自己評価と他者評価のギャップが可視化されることや、忌憚のないフィードバックにより評価が人材育成に直結することも特徴です。
3-4-1.多面観察評価で押さえるべきポイント
・評価者が評価結果に責任をとる立場にない
・評価者が必ずしも評価をする訓練を受けているわけではない
といったことから、ルールの徹底(行動改善につながるフィードバックを行う、好き嫌いなどのバイアスを排除するなど)が必要です。また、適切な評価項目を設定することや、報告書が被評価者にとって分かりやすい内容であることも重要です。
3-5.人事考課
人事考課は、業績評価、目標達成度、行動評価、能力評価など、日常の人事評価データをもとに昇格を判断する方法です。継続的な業務成果と職務遂行の質を定量・定性で総合的に評価します。評価者は上司にあたる管理者のみであることから、主観的な評価となる特徴を持ちます。
3-5-1.人事考課で押さえるべきポイント

主観的な評価となるため、判定・評価の客観性・納得性を高める工夫が必要になります。
例えば人間であれば誰しも持ちうる見方の偏り=バイアスを排する必要があります。バイアスの例は以下の通りです。
- 対比効果:同じ物事であっても、比べる対象が変わることで印象も変わってしまうこと
- 初期印象:第一印象がその後のその人の評価や好感度を大きく左右すること
- ハロー効果:目立ちやすい特徴に引きずられ、他の特徴についての評価が歪んでしまうこと
- 相似(非相似)効果:自分と似た人を高く評価し、似ていない人を低く評価してしまうこと
- 中心化傾向:中央値に集中した人事評価を行ってしまうこと
- 寛大化:人事考課を行う際、考課が甘くなる傾向になってしまうこと
- 論理的誤謬:評価者自身の理論・理屈に基づいてしまい、誤った評価を行ってしまうこと
- 単純接触効果:繰り返し接することで好感度や印象が高まること
人事考課の評価基準と昇格基準を紐づけることも重要となります。また、評価者が少数、かつ主観的評価であるという特徴をもつため、評価者訓練と審査体制の整備によって客観性を高める工夫が必要です。
ワンポイントアドバイス:昇格試験の実施方法は組み合わせを検討しましょう
昇格試験は、企業の成長のために必要な人材を選ぶ重要な試験です。単独の試験で判断するのではなく、複数の方法を組み合わせることで、より多面的で客観性と納得感のある判断が可能になります。
例えば、適性検査で能力や性格特性を把握し、面接で倫理観や責任感を確認することで、昇格後のミスマッチを減らすことが可能です。
ただし組み合わせによっては、被評価者個人が不足している能力・資質を得意分野で補う余地が残されない、狭量な評価基準になる恐れもあります。評価基準に絶対の正しさを求めるのではなく、どのように組み合わせると最適な人材を選べるのか、各企業で具体的な議論がなされることが望ましいでしょう。
昇格対象 | 目的 | 試験の組み合わせ | 試験の組み合わせ |
---|---|---|---|
経営層 | 戦略構築力、経営層に足る視座を評価する ※能力が足ることはこれまでの試験で評価済みのため除外 | 小論文(会社の将来像、その実現に向けた戦略構築) +面接 | ・小論文と面接で、会社の将来像がビジョンと合致しているか、戦略は実現可能かを確認 |
部長職 | マネジメント力と部門を率いるための能力・適性を評価する | 多面観察評価 +適性検査(能力) +適性検査(性格興味・指向(態度)) | ・多面観察で普段の信頼性やリーダー行動を確認 ・適性検査で能力とキャリア志向性にミスマッチがないかを確認 |
課長職 | 業務実行力とチーム牽引適性を評価する | 人事考課 +適性検査(性格特性) | ・人事考課で日常の実績を確認 ・適性検査でストレス耐性・チーム指向性などの資質を確認 |
4.年間3,400社を支援したグロービスだからこそ分かる、昇格試験の実態と導入・見直しを成功に導くポイント

4-1.昇格試験の実態と課題
近年、ビジネス環境の変化のスピードが速まっていることや、日本国内に留まらず、グローバルで戦うために経営戦略の転換を行うことなどから、人材要件の見直しを行う企業が増えています。また、人材の多様性を高めることや、年功序列ではなく実力主義で人材を抜擢する必要性も高まり、昇格制度の見直しを行う例も多く見受けられます。グロービスに相談があった、昇格における人事担当者が抱える課題をいくつかご紹介します。
4-1-1.現任の役職者が後継者を指名し、組織の変革が起きない
特に上位の役職では、現任の役職者が後継者を指名するケースが多く見られます。
指名の基準が客観的に設定されている場合は問題ありませんが、基準が不明瞭になっていることも少なくありません。判断基準が主観的になると自身と似たタイプを評価するというバイアスもかかりやすく、結果的に後任も似た思考特性を持ち、「戦略の転換が必要な時に現行踏襲の戦略をとってしまう」という事態にもなりかねません。
この場合は今後の自社の戦略を実行するためにはどのような人材が必要かを考え、昇格試験で客観的に判断することが重要です。
4-1-2.人事考課で「優れている」と見なした人材が昇格後に活躍できない
プレイヤーとして優れた実績を上げた人材をマネジャーに昇格させたが、マネジャーとしての役割を果たせない、という事例です。これはプレイヤーとして評価される能力基準と、マネジャーに必要な能力基準が合致していないために発生している問題です。
この場合は、マネジャーとして必要な能力・資質を言語化し、評価できる試験を設計することが求められます。
4-1-3.昇格試験の難易度が高く、昇格者が出ない
昇格試験として論文試験を設定したが、合格基準が高すぎて合格者がほとんど出ず、受験者の意欲が低下したことで、その後の受験率も下がるという悪循環が生じた事例です。
この場合は昇格試験の方法と難易度の見直しが必要となります。昇格前に獲得が難しい能力などを基準にすることを避け、必要な能力は昇格後に育成する体制を整えるなど、昇格と育成を合わせて考えることも有効です。
4-2.昇格試験の導入・見直しを成功に導く3つのポイント

4-2-1.ポイント1:目的を押さえ続ける
昇格試験の目的は、会社の戦略を実行するために必要な人材を選び抜くことです。この目的から外れた昇格試験を設定すると、戦略の実現は困難になり、思い描いた未来に到達することは難しくなるでしょう。具体的には、現時点の経営戦略・事業計画を確認し、「どのような役割を担うリーダーが必要か」を明文化しましょう。そのうえで、昇格試験設計時に【必要な役割・期待成果】と【測定項目】が直結しているかをチェックしましょう。
4-2-2.ポイント2:判断基準を明確にする
戦略を実行する人材とはどのような人材であるかを定義し、階層ごとに昇格の判断基準を明確にします。この判断基準を誤って設定すると、昇格後にミスマッチが生じ、組織が機能せず、戦略の実行が困難となります。具体的には役職ごとに「昇格要件リスト」(経営視点、リーダーシップ、論理思考力、実行力など)を作成し、それぞれについて【必要な水準】と【優先順位】を明確にしましょう。階層別に求める能力・資質を区分し、合否判定の軸をブレさせないことが重要です。
4-2-3.ポイント3:適切な方法を設定する
基準が設定できたら、測定する方法を検討します。誰が、どのような方法で測定することが適切か、制度として運用することが可能かを考え、効果的で実現可能な方法を考えましょう。具体的には測定対象に応じて、適性検査、小論文、面接、多面観察評価などを適切に組み合わせましょう。また、面接官や評価者への事前トレーニング、評価基準シートの整備など、運用面の準備を徹底し、制度が現場で形骸化しないようにしましょう。
他社がどのような昇格試験の見直しを行ったか、3つの事例を見ていただける無料ダウンロード資料をご用意していますので、ぜひご覧ください。
5.昇格試験のご相談はグロービスにお任せください
グロービスでは能力を定量的に可視化することができるアセスメント・テスト「GMAP」を提供しています。論理思考力を測定するクリティカル・シンキング編(CT編)とビジネス知識の保有度を測るビジネスフレームワーク編(BF編)があり、多くの企業の昇格試験に導入されています。

主観だけに頼らない昇格試験を行いたい場合、実績や上長面談にGMAPの結果を組み合わせることで、多面的に評価を行うことができます。
事業の多角化が進み、現場リーダーにも経営の基礎知識が必要と判断し、昇格試験に活用するようになりました。時代に左右されず、経営の原理原則を測定できるアセスメント・テストはGMAPしかないと感じています。
6.まとめ
- 昇格試験は、会社の戦略を実現するために必要な人材を選抜する仕組みです。
- 経営環境や人材要件の変化に応じて、昇格試験も見直しが必要となります。
- 試験方法は「適性検査・小論文・面接・多面観察・人事考課」などを組み合わせ、多面的に判断することを考えましょう。
- 目的・基準・方法の3点を押さえ、実現可能な仕組みを設計・運用することが成功のカギです。
「自社の管理職昇格に必要な要件を特定するのが難しい」
「どの手法の組み合わせが自社に適しているか分からない」など、昇格試験の見直しを検討されている方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。