ジョブ型雇用が注目される理由
- ジョブ型雇用
ジョブ型雇用とは、あくまで手段です。手段の手前には、何の問題を解決するためにその手段を選択するのかを明確にせねばなりません。ビジネス環境の問題なのか、組織・制度の在り方の問題なのか、働く人や働き方の問題なのか・・・皆様の会社では議論されていますでしょうか。
本コラムでは、ジョブ型雇用が最近注目されている理由を、マクロ環境から紐解いていきます。なぜ注目されているかを理解できると、導入の要否も判断できるようになるはずです。
第1章
ジョブ型雇用の必要性を、マクロ環境から紐解く
ジョブ型雇用は、なぜ注目されているのでしょうか。皆様からよく聞かれるのが、コロナ禍によるリモートワークの浸透が理由だ、というものです。たとえば以下のような論理です。
- リモートワークにより仕事が見えにくくなったので、仕事の見える化(定義)が必要になった
- そのため、定義した仕事に対して結果で評価を行う必要がでてきた(成果主義の必要性)
- 結果、ジョブ型雇用が必要になった
このような論理は、少し危険です。なぜならば、仕事の見える化=成果主義ではなく、また、成果主義はジョブ型でなくとも実現できるためです。
マクロ環境を紐解いてみると、さまざまな状況が積み重なった結果、日本型雇用が現状とミスマッチを起こし、ジョブ型雇用へのニーズが高まっていることが伺えます(図1)。リモートワークの浸透だけが理由ではない、ということです。
より本質的な理由に絞ると、ジョブ型雇用が注目される理由は3つにまとめることができます。
1つ目は新たな価値創造の必要性。2つ目は日本型雇用の競争優位性の低下。3つ目は日本型雇用の内部崩壊です。
次項より、これらについて詳細を見ていきましょう。
第2章
ジョブ型が注目される理由1:
新たな価値創造の必要性
多くの日本企業に今、求められていることは、新たな価値の創造です(図2)。
VUCA(変化が激しく先行き不透明な社会情勢を指す言葉)の時代において、今までの勝ちパターンである規模拡大・効率性だけを追い求めていては、継続的な成長は困難です。
新しい知を創り出すには、既存の知と既存の知を掛け合わせることが求められます。ということは、既存の知の質・量が重要ということです。個人の質を高めつつ多様性を増やしていくことで、知を社内に蓄積することが、新しい価値創造には不可欠です。
個人の質を高めるには、キャリアの自律や世間で通用する力を身に付けてもらう必要があるでしょう。多様性の面では、いわゆるダイバーシティ。働き方・採用・処遇など、多様性を受け入れられるHRM・組織風土の構築が不可欠です。
このようなことを実現するには、ジョブ型雇用の方が推進しやすい、ということです。
第3章
ジョブ型が注目される理由2:
日本型雇用の競争優位性の低下
2つ目は、日本型雇用の競争優位性の低下です(図3)。
まず認識しておいていただきたいのは、日本型雇用にも良い面があるということです。
総合力、習熟力、すり合わせ力といった強みを、日本企業にもたらしてきました。
日本企業は強みを活かして競争優位性を獲得し、日本型雇用は誰もが階段を上ることのできる仕組みとして定着しました。日本経済は順調に伸び続け、経済が伸びている間は日本型雇用が大きな強みとして機能する、良いサイクルを形成していたのです。
しかし強みは今、変化と脅威にさらされています。たとえば日本社会の人口動態の変化(少子高齢化)、デジタルによるビジネスモデル変革、モジュール化・オープン化などが挙げられるでしょう。
変化と脅威に対応するには、多様な人材の組み合わせで闘う・新たな能力を持つ人材を自社に融合する・社外との連携を積極的に推進する、などの対策が必要です。これらの実現には、やはりジョブ型の雇用制度のほうが適している、ということです。
第4章
ジョブ型が注目される理由3:
日本型雇用の内部崩壊
3つ目の理由は、日本型雇用の内部崩壊です(図4)。
日本型雇用の内部崩壊とは、誰もが階段を上り続ける仕組みの維持が困難になったということです。社会・会社が成長し続けないと、誰もが階段を上ることはできませんが、日本はご承知の通り低経済成長下にあります。
そのような中にあって、日本企業も仕組みを維持しようと四苦八苦してきました。そのための手段として、仕組みの希薄化や非ホワイトカラーの切り捨てがあります。
希薄化というのは、係長以下においては定期昇給を続けて、かつ残業代も出る形で昇給を残すことです。一方切り捨てというのは、欧米より低い待遇で非正規雇用をし、正規雇用のエリート層だけでも定期昇給・昇格を維持しようというものです。
しかし、無理をして日本型雇用を維持しようとした結果、様々なひずみが生じてしまいました。その結果、ブラック化・ガバナンスの欠如や、マミートラック・処遇の不公平性などが社会問題として生じてしまったのです。
ひずみが社内から頻出してくると、いよいよ内部から仕組みが成り立たなくなってしまいます。その結果、ジョブ型雇用のような手法が、注目されているのです。
第5章
最後に
本コラムでは、ジョブ型雇用が今の日本で必要とされている理由を、深堀してご紹介しました。ジョブ型雇用とは、あくまで手段です。手段の手前には、何のためにその手段を行うのかを明確にせねばなりません。
ビジネス環境の問題なのか、組織・制度の在り方の問題なのか、働く人や働き方の話なのか。まずは目的をしっかりと押さえ、目的をかなえる手段としてジョブ型雇用は適しているのか? 他のオプションはないのか? 比較検討した上で、判断すべきです。
ジョブ型雇用の内容と目的を、最初の段階でしっかりと押さえておきましょう。もしジョブ型雇用についてより深く知りたい場合は、ポータルサイトもぜひご覧ください。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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