ジョブ型雇用がうまくいかない理由と難所の乗り越え方
- ジョブ型雇用
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荒木 貴之
本コラムでは、日本型雇用からジョブ型雇用に移行する際、陥りがちな難所の乗り越え方について、お伝えします。
雇用形態の変更は、会社にとって大きなインパクトがあります。いざ変更するとなると、人事部門が中心的存在を担うことが多いです。人事の皆様の認識が成功を左右するといっても、過言ではありません。
第1章
ジョブ型雇用とは?日本型雇用との違いは?
ジョブ型雇用とは、「ジョブに人をつける」という考え方に基づく雇用形態です。
「ジョブに人をつける」とは、企業戦略実現に必要なジョブ(役割・仕事)を最初に定義し、ジョブありきで人事システムを構築することです。あくまで、ジョブの定義が最初です(図1)。
ジョブ型雇用と日本型雇用の違いは、それぞれが“目指したい社会”にあります。
ジョブ型雇用は、「誰もが主体的な選択ができる社会」を目指しています。個人の意思を重視する代わりに、担う役割・仕事内容が高度化しない限り、昇格・昇進は実現できない社会です。
一方で日本型雇用は、「誰もが階段を上れる社会」を目指しています。企業が選択した仕事内容に沿って、会社を信じて働き続ければ、一定のレベルまでの昇格・昇給を期待できる社会です。
ジョブ型雇用についてさらに詳しく理解されたい方は、別コラム『ジョブ型雇用とは?ジョブ型雇用のメリット・デメリット』が参考になります。
第2章
日本型雇用からジョブ型雇用に
移行する際に陥りがちな難所
現状、皆様が所属されている会社の多くは、日本型雇用ではないでしょうか。一方で、環境変化の激しい昨今、ジョブ型雇用への移行はますます進んでいくと考えられます。
ここからは、日本型雇用からジョブ型雇用に移行する際に、陥りがちな難所を確認しておきましょう。コーン・フェリーの調査結果を基に、難所を5つにまとめました(図2)。
(難所1)経営陣・現場責任者、社員などの周りの理解・納得を得ること
ジョブ型雇用への移行は、人事システムの変更ではなく、「組織変革」といえます。なぜなら、日本型雇用からジョブ型雇用に移行する際、ほぼ全ての人事システムを変更する必要があるからです。
人事システムの変更は、すなわち会社にとって必要とされる社員像にも影響があることを意味します。当然、影響範囲は、組織全体です。
それだけの大きな変更に対して、ステークホルダー全員が、最初からポジティブに捉えるとは考えにくいです。会社に必要とされる社員像が変化するということは、その変化に適応しきれない人も発生するからです。周囲の理解・納得なしには進められない難しさがあります。
(難所2)ジョブ型に対する専門的な知見がない中で、人事がジョブ型雇用を設計運用すること
ジョブ型雇用においては人事の役割は大きく分けて3つに分けることができます2)。
・全社人事戦略を担う機能:CoE(センターオブエクセレンス)
・事業戦略を担う機能:BP(ビジネスパートナー)
・実行部隊を担う機能:EXP(エキスパート)
従来の日本の人事の場合、管理職レベルはCoE、メンバーレベルはEXPの役割を求められることが多いです。それゆえ、CoEとEXPを担える方はいても、BPの役割を担ってきた方は少ないのが現状です。
(難所3)必要なポストに必要な人を割り振ること
ジョブ型雇用では、人材の異動を自由に行えなくなるため、離職者が発生した時にポストが空いたままになりやすいです。また、年功序列型から移行する途中の企業では若手が抜擢されると、ベテラン社員からの妬み、不満が生まれ、抜擢された若手社員が現場で周りの人の力を借りにくくなるリスクもあります。
(難所4)優秀な人材を定着させること
ジョブ型雇用ではスペシャリスト(専門家)が育ちやすいです。ジョブ型は役割や仕事に対して評価・報酬が決定されるため、社員の方々はさらに難易度の高い仕事を担えるよう、個人の能力開発に励みます。
さらなる専門性の向上を目指し、転職を選択する方も増加するでしょう。また、そうした専門性は他社の同じ職種でも活用できるため、転職市場からも高い評価を受けます。
人材獲得競争が熱を帯びると、優秀な人材は他社からより高いオファー金額を提示され、引き抜きのリスクが高まります。
(難所5)戦略変更時に人材を入れ替えること(人材の解雇)
日本は解雇規制が厳しく、退職勧奨のハードルが高いです。戦略の変更に従い、人材を解雇しようとしても、人材の入れ替えがうまくできない可能性があります。
第3章
ジョブ型雇用を進めるうえで、
押さえておきたいポイント
ジョブ型雇用に移行する際、陥りがちな5つの難所を確認しました。それぞれの難所を乗り越えるため、押さえておきたいポイントを解説します(図4)。
ポイント1:危機意識の醸成と、変革チームの組成から取り組んでみる
組織を変革する際の定石として、ジョン・コッターの8段階のプロセスというフレームワークがあります(図5)。
組織を変革する際には、まずは経営陣の危機意識を醸成することが重要です。そのためには、「ジョブ型雇用に取り組まなかった場合、自社にはどのようなリスクがあるのか?」という問いに対する考えを言語化し、経営陣と共有する必要があります。
そのうえで変革推進にあたって、現場責任者を巻き込んだ変革チームを組成する。このプロセスを踏むことで、組織変革に向けての理解・納得を得ることができます。
ポイント2:社員の感情に寄り添う
若手抜擢の阻害は、主にベテラン社員の感情面の葛藤が原因です。対応策として、経営トップや人事が何度も繰り返し、ジョブ型雇用の意義・意味を伝え続けることが必要です。
場合によっては人事が個人面談を行うと良いでしょう。特に移行期については、丁寧なコミュニケーションが求められます。
ポイント3:BP(ビジネスパートナー)になるために学ぶ
日本型雇用からジョブ型雇用への移行に際し、人事の方々に「BP」の役割を求められるようになります。ジョブ型雇用では人材の流動性が高くなるため、人事は各事業部の戦略を深く理解し、戦略実現のために組織・人事の面から支援を行う必要があるからです。
しかし、従来の仕事を続けながら、一足飛びにBPになることは難しいでしょう。スキル習得に向けて、トレーニングの場を一定期間設けることを推奨します。
ポイント4:転職市場にアンテナを張る
ジョブ型雇用への移行が進んだ先に、急に空いたポストに対して、社内に担える人材がいないケースが発生します。その場合、企業は中途採用に注力することが必要です。
常に転職市場に目を光らせ、候補者を発掘しておくことが求められるでしょう。同時に専門性の高い人材を中途採用しやすい人事制度になっているかも、考慮しておくことが必要です。
ポイント5:従業員の成長にコミットする
従業員の成長にコミットし、加速させていくことが必要です。
社員の成長を加速させるには、社員一人ひとりが目指したい役割・仕事を描き、高いモチベーションで挑戦できる状態をつくることです。まずは、継続的な上司との1on1や研修を実施し、キャリアについて考え続ける機会を提供するのが良いでしょう。
目指したいキャリアが描けたら、現状の自身のスキル・経験を棚卸しした上で、ギャップを埋めるための教育施策を揃えておきましょう。スキルの習得にはインプットとアウトプットの反復が効果的です。実務で学びを活かす仕掛けづくりも出来ると、なお有用です。
ポイント6:満足度を上げ、不満足度を下げる
優秀な人材は転職市場でも評価され、自社よりも高いオファーを提示されることもあります。しかし、人材が自社に残っている理由は報酬だけではないことも多いです。
例えば、有名なフレームワークとしてハーズバーグの動機づけ・衛生理論があります(図6)。
この理論によると、給与は衛生要因であり、給与が高まれば満足するわけではありません。仕事への満足度は達成、承認、仕事そのもののやりがい、責任、昇進などによって、高まるといわれています。
社員にとって給与が高いに越したことはありません。ただし、動機づけ要因に注力する、あるいは衛生要因の改善を行うことで、定着度が高まる可能性があります。
第4章
最後に
ここまで、ジョブ型雇用がうまくいかない理由と難所の乗り越え方について述べてきました。日本国内において、ジョブ型雇用はこれから事例を作っていく段階です。グロービスでは、既にジョブ型をテーマにした取組み事例も多数ありますので、お役に立てることがありましたらいつでもお声がけください。
引用/参考情報 |
1) 参考:コーン・フェリー、”職務型人事制度の実態調査”、2020年6月、P.20 を基にグロービス作成 2) 参考:柴田彰・加藤守和、”ジョブ型人事制度の教科書”日本能率協会マネジメントセンター、2021年 3) 参考:ジョン・P・コッター、”企業変革力”、日経BP社、2002年を参考にグロービスが作成 4) 引用:GLOBIS 学び放題、”動機付け・衛生要因“、Section6、2021年10月15日に確認 |
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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