次期経営層(役員)の育成に求められることとは

公開日
テーマ
  • 役員育成
執筆者
  • 齋藤 一世のプロフィール

    齋藤 一世

技術進化と熾烈な国際競争、パンデミック…事業継続を脅かす危機の頻発が起こる中、経営層は企業を存続させるため、日々答えのない決断を迫られています。

このように不確実な世の中かつ、両利きの経営(既存・新規事業の双方を伸ばす経営)が経営層に求められる中で、人材育成担当者の皆様は何をすべきでしょうか。グロービスが次期経営層(役員)向けの研修の場でよくお伝えしている「知・情・意」の3つの視点から、解説していきます。

不確実性の高い時代。次期経営層(役員)に求められるものとは

不確実な世の中では、市場機会や未来を分析し、予測することがこれまで以上に難しくなっています。技術革新など、確実に予測できる未来もありますが、地政学リスクやパンデミックなど予測が難しい未来もあるでしょう。

そのような中で経営層に求められるのは、正解を見つけることではなく、未来を構想すること。未来を構想するとはすなわち、短・中・長期のビジョンを自ら描き、そのビジョンを持って何をすべきかを決断し、その実現に向けて周りを巻き込み行動することです。

未来を構想するたに必要なことは3点あります。1. 知の更新、2. 変化・新しい環境の受容、3. 自身の経営観・軸の確立です。

知の更新

第1に必要なことは、学ぶことです。自社を取り巻く環境を俯瞰し、将来何が起こりそうか仮説を立てられなければ、いま何をすべきかの判断もできません。そのためには自社・自業界で何が起こっているのかはもちろん、自業界以外のこともアンテナ高く学び

変化・新しい環境の受容

2つ目に必要なことは、更新した知識により知った変化・新しい環境を認め、受け入れることです。

例えば自身の決断を実行するには、多くの人を巻き込まねばならないことがあります。しかし過去に比べ、巻き込む人々は多様になっています。バックグラウンド、価値観、国籍、ライフスタイルなど、自社の社員を見ても、多様な人が増えているのではないでしょうか。

多様な方々を巻き込むには、まずは多様性を認め、受け入れることです。相手の思考や価値観を知ろうとし、その価値観を受け入れ、そのうえで相手を鼓舞し、前へ進んでいく必要があります。

自身の経営観・軸の確立

一方で不確実性が高まるビジネス環境においては、過去の事実や現在の実態に基づくだけでは、決断を見誤ることがあります。客観性・論理性はもちろん重要ですが、それに加えて「これが100%正しい」と信ぜられる自身の経営観や軸に沿って決断することも必要です。

これらの3つは難易度が高く、次期経営層(役員)を所望される人材であっても、身に着けて実践し続けることは容易ではありません。次項より、その理由と難所の超え方について解説します。

次期経営層(役員)が未来を構想する際の3つのハードル

なぜ、未来を構想することは難しいのでしょうか? グロービスでは主に、3つのハードルがあると考えています。

時間の確保ができず、知識が更新できない(知の更新)

知の更新を行うには、以下2つが必要です。

  • 知の広げ方の理解
  • 得た知を再現性のあるものに翻訳・昇華する力

一方で、ハードルとしては時間の確保が挙げられます。次期経営層(役員)を所望される方であれば、当然、日々の業務で多忙にされている方が多いです。結果、外部環境の変化や経営知を大局的に認識する・学ぶ時間が確保できず、新しい知を学び・自分のものとする暇がない、という方が多いようです。

情動を制御・統制できず、変化を受容できない(情の制御)

変化や新しい環境を受け入れるには、学び・考え続けるためのモチベーションが不可欠です。例えば自分の知・思考を一から再構成するアンラーニングにおいては、考え続ける思考のスタミナが必要です。

しかし多忙なことも相まって、ご自身をモチベートし続けることが難しくなってしまう、という次期経営者の方もよくいらっしゃるようです。変わり続ける環境に自身を適応させ続けるには、相応の意志の強さが求められます。

自身の経営観・軸を固めきれない(意を固める)

ビジョンを描いてみたものの、「このビジョンは本当に、100%実現したいと思っているのだろうか」と悩み、決断しきれない、というお悩みも、良く伺います。

これは、己の本心との対話が進んでいないことが原因であることが多いです。自分は何をなしたいのか? 何をなすべきなのか? 果たしてそれでよいのか? といった問いに対して深く内省し、己と向き合う時間を取る必要があります。

グロービスでは「知の更新」「情の制御」「意を固める」の3つを、「知・情・意」と呼び、次期経営層(役員)に深く考え、身につけていただきたい事柄だと捉えています。

知・情・意を醸成するためのハードルを乗り越える一番の近道は、会社が場を提供し、半強制的に時間を確保することです。すなわち、人材育成担当者の皆様が、研修の形で知・情・意を醸成する場を整備・提供することが求められます。

それでは次項で、この3つを自社の次期経営層(役員)に身につけていただくために、人材育成担当者の皆様に知っておいていただきたいことを解説します。

未来を構想できる経営層の育成に向けて

知・情・意の醸成は、一朝一夕では得られません。徹底的に自己を掘り下げていただかなくてはならず、グロービスでも数か月にわたる合宿型プログラム(知命社中)をご用意しているほどです。

今回は知命社中のエッセンスの一部を、参考までにご紹介します(図1)。

図1:知と軸を磨き、リーダーシップの質的転換を促すプロセス
図1:知と軸を磨き、リーダーシップの質的転換を促すプロセス

熟考

まずしていただきたいことは、ご自身が既に持っている好奇心・違和感から問題意識を深掘りし、揺らぎを感じていただくことです。

そのために知命社中では、各界の第一人者からエッジの効いた問いかけや最新の知見を投げかけていただくことで、参加者の頭を何度も揺さぶり、視野の拡張を促しています。また学ぶのみならず、参加者同士での率直かつ忌憚のない議論を通じて熟考し、ご自身の問題意識を深掘りしていただきます。

一貫性と柔軟性

次にすべきことは、感じた揺らぎからご自身の自己価値観を確認(一貫性)し、古いこだわりを手放す(柔軟性)ことです。

そのために知命社中では、参加者同士の対話・問いかけを重視しています。本プログラムの参加者は大企業からベンチャーまで、背景の異なる方々です。この参加者同士の対話・問いかけによって、自身を多面的に省みる事ができ、自らが譲れない価値観や、強いこだわりに気づくことができます。

選択

最後に、確認したご自身の価値観から本当に譲れないものを選択し、自身の軸を明確にします。

知命社中では、自身として成し遂げたい事とは何かを考え抜き、ご自身で選択することを促します。ビジネスパーソンの多くは、正解を探し求めることを得意とする傾向にあるため、自身が成し遂げたい事を自身で決めることに葛藤を感じてしまうようです。結果、多くの方が悩み、苦しみながら、ご自身の軸を選択していきます。

これらのプロセスを経ることで、次期経営層(役員)の皆様には認識をアップグレードしていただくとともに、ご自身の意識をより高い次元へ転換していただいています。

最後に

本コラムでは、次期経営層(役員)が未来を構想するために必要な考え方・スキルを、どのように習得するかについて解説してきました。「知・情・意」を醸成する機会は個人で得ることが難しいため、人材育成担当者の皆様が整備する必要があります。

一方で「内製の研修では企画が難しい」「育成が間に合わない」というお声を聞くこともあります。先行きが不明な昨今では、限られた時間の中で、自社の次期経営層(役員)の皆様に早期に成長していただくことも大事です。

グロービスの提供する知命社中では、様々な企業から多くの次期経営層(役員)の方にお越しいただき、切磋琢磨しながら己に向き合う場を提供しています。もし自社の次期経営層(役員)の育成にお困りであれば、ぜひご相談ください。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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