ジョブ型雇用とは? ジョブ型雇用のメリット・デメリットは?

公開日
テーマ
  • ジョブ型雇用
執筆者
  • 杉橋 諒輔のプロフィール

    杉橋 諒輔

    グロービス講師

皆さんはジョブ型と聞いて、どのような言葉を思い浮かべますか?「成果主義」「退職勧奨」、「ジョブディスクリプション」・・・。様々な単語が思い浮かぶでしょう。しかしこれらの単語に翻弄されてしまい、ジョブ型の前提を見失ってしまうと、ジョブ型雇用の導入がうまくいく可能性は低くなってしまいます。

本コラムでは、ジョブ型雇用と日本型雇用の差分を説明しながら、互いのメリット・デメリットについて解説していきます。

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第1章 
ジョブ型雇用とは?
日本型雇用と何が違うのか?

ジョブ型雇用とは、ジョブに人を付けるという考え方に基づく雇用形態です。一方で日本型雇用は、人に仕事を付けるという考え方に基づく雇用形態です。

日本型雇用は適材適所、ジョブ型雇用は適所適材と言い換えることもできるでしょう(図1)。

図1:日本型雇用とジョブ型雇用の概略
図1:日本型雇用とジョブ型雇用の概略

この前提を押さえた上で、日本型雇用とジョブ型雇用の細かな違いを押さえていきましょう(表1)。

表1:日本型雇用とジョブ型雇用の違い1)、2)

項目日本型雇用ジョブ型雇用
コンセプト「誰もが階段を上れる社会」の実現「誰もが主体的な選択ができる社会」の実現
会社と社員の関係保護者・非保護者
人に仕事をつける
対等
仕事に人をつける
等級制度職能資格制職務等級制 ※狭義のジョブ型
人材の流動性低い高い
要員計画既存社員+新卒ー定年事業計画ベース 
採用新卒一括+中途職種別
配属・転勤(キャリア)会社裁量本人同意・公募中心
トップ候補は戦略的に異動・配置
教育階層別中心本人希望ベースのe-Learning
トップ候補はサクセッションで選抜育成
報酬内部公平性重視(貢献・年功で配分)
賞与は個人成績より会社成績重視
外部競争力重視(職種別市場価値)
賞与は個人成績(と部門成績)重視
評価処遇決定目的中心
能力評価
パフォーマンス管理・人材開発目的中心
成果評価
退職定年退職・自己都合退職退職勧奨あり
人事権昇給・賞与・昇格は中央集権的に決定中央は人件費ファンド配分を決定
昇給・賞与・昇格は現場で決定

大切なことは、それぞれに目的・コンセプトがあり、その実現に向けて表1の各項目がすべて縦方向につながっている(エコシステムである)という点です。

例えばジョブ型雇用(表1右)であれば、目的は「誰もが主体的な選択ができる社会の実現」であり、その手段としてジョブ型雇用を選択するわけです。そのため、ジョブに対して人が契約することになり、会社と従業員の立場は対等になります。

この前提を踏まえると、仕事に人をつけるので、等級(ランク)は職務等級制になります。また、契約が仕事と人との間で結ばれるため、人材の流動性は高くなりますし、要員計画も事業計画ベース(空いた仕事に人を補充する)になります。

その結果、採用は新卒一括では不適切となり、ジョブごとに必要な人をそろえる職種別になります。配置や転勤も、本人が「このジョブをやります」と選択し、自身で決めるのです。

日本型雇用においても、本質は同じです。「誰もが階段を登れる社会の実現」が目的であり、そのために日本型雇用が選択され、各種人事制度が整備・整合されています。

読者の皆様の興味が高い、ジョブ型の教育について詳しく見てみましょう。

教育も他の人事制度と同様、本人の希望をもとに進められます。たとえば人事は、eラーニング・公募型の集合研修・社外派遣のスクールなどを選べるような仕組みを整備し、従業員はそのリストを見て、興味関心の高いものを選んで受講します(参考:自己啓発制度(選択型研修)を活用した個人のキャリア開発のポイント)。

一方で注意せねばならないのは、選抜育成の重要性です。自社にとって重要な経営層やリーダー層の育成は、計画性が必要です。社員の自律的なキャリアを支援しつつも、必要な時に社内に重要な人材がいない、ということは避けなければなりません。サクセッションプランの重要性は、ジョブ型雇用においても変わらないものです。

仕事に人をつけるという大前提があるため、自動的に他の人事施策の方向性は定まります。もし皆様の会社がジョブ型への転換を考えているのであれば、各人事施策が全部つながっている(エコシステムである)かどうかを踏まえながら、慎重に進める必要があるでしょう。

第2章 
ジョブ型雇用のメリットとデメリット

このようにジョブ型雇用も日本型雇用も、それぞれ目指した世界・目指した社会・目的があり、全体が連動したシステムになっています。そのため、どっちが良い・悪いという議論は不適切です。両者にメリット・デメリットがあり、社会や自社の状況に即した雇用制度を導入すべきといえます。

日本型雇用とジョブ型雇用のメリット・デメリットを、表2にまとめました。

表2:日本型雇用とジョブ型雇用のメリット・デメリット

日本型雇用ジョブ型雇用
企業メリット・できた空席は、縦横の玉突き異動で対応でき、末端の新人を1人採用すればよい(魔法の人事補充)

・採用段階で社員が恩義を感じやすく(能力無いのに採ってくれた)、終身雇用が前提となるため、従業員ロイヤリティが高まりやすい
・人材の流動性が高く、新しい考えが生まれやすい

即戦力のため、教育投資を抑えられる

・市場価値ベースで報酬額や人員調整が可能なため、環境変化に即した人材戦略が採りやすい
デメリット・解雇のハードルが高く、臨時の人員調整が困難

・等級内容と職務内容にずれが生じやすく(等級は高く職務は低い)、人件費の過払い感が出る

・人材の均一性が高く、「変化」に対応しにくい

「男性ホワイトカラー正社員」想定で他とのひずみが出る
・社内での横異動ができないため、空席補充が難しい

・外部採用は同業種・同職種と限られた小さなパイの取り合い・引き抜合いとなり、有形無形のコストが発生する

・ポストが埋まっている場合は人材流出に繋がりやすい

・職務の定義・序列付け、その修正等の運用が難しい
従業員メリット「誰もが階段を上れる」仕組みが担保されている

・一つのポジションで失敗しても再チャレンジできる
自らの意思でキャリアの方向性を選べるので、専門的な能力・知識の向上に励みやすい(キャリアの選択肢増)

・明確なジョブが決まっているため、突発作業等での長時間労働になりにくい ・成果次第で自ら望む処遇を得やすい
デメリット・いつも背伸びした仕事が課され、長時間労働となりやすい

・一度階段から外れると追いつけず格差が生まれる

就職が人生一度きりの賭けになりやすく、新卒での就職に失敗した若者は不幸な境遇になりやすい

会社都合の異動や転勤を受け入れる必要がある
・スキルのない新卒者は就業機会に恵まれない

・幼少期から半ば強制的に学業成績によって振り分けられる

雇用が不安定になりやすい

日本型雇用のメリットとして、会社と従業員の関係性が挙げられます。

終身雇用のもと、会社は従業員のことをずっと守ってくれる存在です。従業員のロイヤリティは高まりやすいですし、従業員からすると誰もが階段を上れる、頑張っていればいつかは昇進・昇格できていく。そんな仕組みがある程度担保されています。

何より会社としては、どこかのポストが空いても、新卒採用で社員数を確保しておけば、パズルのように会社がコントロールして埋めていくことができる点(魔法の人員補充)は、手放しがたいメリットです。

日本型雇用のデメリットとしては、人員の硬直化による整理の困難さ・賃金の高騰が挙げられます。従業員目線では、会社に庇護されるというメリットの対価として、長時間労働や異動・転勤を甘受せねばならないかもしれません。

ジョブ型雇用のメリットは、人材の流動性が高いため、知と知の掛け合わせで新しい考えが生まれやすい環境を作り出せる点です。従業員としては、自らの意思でキャリアを決めやすい点がメリットと言えるでしょう。生活次第で自ら望む処遇を選び取り、上がることも下がることも、すべては自分次第。自分でコントロールできる主体性を生み出しやすい環境です。

一方ジョブ型雇用のデメリットは、ジョブにあった人材確保の困難さと人材流出のリスクが挙げられます。競合との人材引き抜き合戦により、お互いに消耗する可能性もあります。従業員としては、雇用の不安定さが最も大きなデメリットといえます。VUCAの時代、10年後も自身のジョブは保証されていないという点を考慮し、キャリアを能動的に磨いていかなければなりません。

第3章 
最後に

本コラムでは、ジョブ型雇用と日本型雇用の違いを比較しながら、それぞれのメリットとデメリットを比較しました。大切なことは双方のメリット・デメリットを理解したうえで、自社に必要な手法を能動的に選択することです。決して、流行の手法だからといって飛びついてはいけません。

本コラムをきっかけに、ジョブ型雇用の是非について、皆様の会社で考えるきっかけになれば幸いです。もしジョブ型雇用についてより深く知りたい場合は、ポータルサイトもぜひご覧ください。

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引用/参考情報
1) 参考:海老原嗣生、荻野進介、”名著17冊の著者との往復書簡で読み解く人事の成り立ち:「誰もが階段を上れる社会」の希望と葛藤”、白桃書房、2018年
2) 参考:白井正人、”今さら聞けない「ジョブ型」雇用(その1)「ジョブ型」雇用とは何か?”、2021/05/14に内容確認

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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