実践に向けて

2011.10.26

成功するリーダー、つぶれるリーダー

リーダーシップの国際的研究機関であるCCLによるとリーダーとして成長する機会として大きく4つの要素が挙げられるという。チャレンジングな機会、困難・修羅場、他者からの学び、その他とある。実際に成功したリーダーの話を聞くと、事業の立て直し、新規ビジネスの立ち上げ、大規模なプロジェクト、海外などの拠点でのチャレンジ、そしてそこでの苦労の中で、人・組織を動かす術を身につけて来たことがわかる。

一方で1つ疑問がある。困難さや修羅場を乗り越えリーダーとして成功した方々がいる一方、それを乗り越えられず消えていったリーダー候補はさらに多いのではないだろうか?将来を期待する人材としての成長を意図してチャレンジングな機会を与えたにもかかわらず、期待に添えずつぶれてしまったとしたら、企業としても、個人としても、不本意である。

その問題意識が、グロービスの経営大学院や企業研修向けでの「パワーと影響力」という科目の開発、さらには今回の連載に込められている。連載の最後である今回は、今までのポイントをまとめるとともに、なぜリーダーにパワーと影響力が必要なのかを考えてみたい。

リーダーに求められる「実行力」

失われた10年が、失われた20年と言われようとしている。この20年、日本企業は激変する環境の中、生き残りを目指して「変革」を目指してきた。環境変化にいかに対応するか、厳しい状況からいかに復活するか、環境変化に対応するのではなく自ら変化を起こしていけるか。この3つが「変革」の大きなテーマである。

向かうべき方向性を立案し、やるべきかを意思決定し、「実行」する。そしてその結果を組織に定着させる-この変革の一連のプロセスは、多少の差こそあれ、経営学者やコンサルタントといった、変革する企業外から携わる人も、変革を内部から取り組む実務リーダーも、共通である。効果的な戦略を立案し、意思決定することは難しいが、さらに戦略に対する抵抗を乗り越えて「実行」することは特に難易度が高い。そして実務リーダーにとっては、戦略の実行は、まさに冒頭で述べた成長機会である「チャレンジングな機会」「困難・修羅場」にあたるのである。では、この難所を乗り越え、「実行」するためにリーダーには何が求められるのだろうか?

戦略の実行を一人のリーダーだけで担うことは難しい。たとえば、優れたリーダーがどんなに良い戦略を考えたところで、実際にそれを実行するには顧客に向き合う営業担当者が必要である。現在はさらに、グローバル化が進み、組織もフラットになり、顧客やパートナー企業とも連携しつつビジネスを進めていく。一人で組織を切り盛りできる時代ではなく、多様な能力をもった人たちに、相互に依存しつつビジネスを進めていく必要がある。

「多様性×相互依存」の世界で仕事を進めていくうえで他者からの協力は必須である。だが実際には、協力をうまく引き出せる人、引き出せない人がいる。人を巻き込む力がビジネスの成否に影響する。いくら志が高くても、それだけでは先に進められないのである。

では志を実現するために、他者から協力を引き出し、巻き込んでいくには何が必要なのだろうか?

実現のための正しい戦略を論理的に伝えることは最低限必要である。だが、それさえできれば人・組織が動くわけではない。相手は人間であり、そこには合理的な判断だけでなく、感情的な判断もある。意識すらしない生物的な反応で意思決定する場合もある。正論だけで人・組織を動かすことは難しい。

「今の自分ではとても人・組織を動かす力はない」「もっと偉くなってからではないとやりたいことはできない」という人もいる。しかし、本当に大事なことであれば、今から取り組んで欲しい。それを実現できるよりどころとなるものが「パワーと影響力」だと考えている。

今回の7回に及ぶ連載は、「上司を動かす」「部下を動かす」「関係者を動かす」と異なる3つの状況設定から考察した。実際にはそれだけでなく「他部署を動かす」「社外を動かす」ことが求められる。「パワーと影響力」を活かす状況をこのように広げた場合について考えてみよう。

(1)人を動かす3つの「パワー」

「パワー」には、「公式のパワー」「個人のパワー」「関係性のパワー」の3つがある。

「公式のパワー」は強制力(人の配置や降格させる権限)、報酬力(人を昇進や昇給させる権限)、正当権力(強制力、報酬力を含む組織上の権限)、情報力(人事情報など限られた情報へアクセスし、コントロールする力)の4つを源泉とする。「公式のパワー」というと、オフィシャルなもの、合理的なものという印象を受けるが、実際には人間の合理的な判断のみならず、感情面での判断にも働きかける。例えば、自部門ではなく他の部門に絶大な権限を握る人事担当取締役がいたとする。レポートラインからすれば、彼の決定に必ずしも従う必要はないのに、自社においても誰もが反対できないというはこの「公式のパワー」に対する恐怖の感情と追従することで得られる利益(合理的判断)を背景とする。だが実際には、ここまでの絶対的な権限を持つ人は限られるし、それを持てるまで自分の成し遂げたいことができないかというとそうでもない。公式のパワー以外のパワーを有効に使うのである。

「個人のパワー」は専門力(専門技術、特殊なスキルによる力)、同一化力(憧れの対象と同じようになりたいという力)、カリスマ性(同一化力のさらに極端な形)の3つからなる。例えば、社内外でその技術に関しては右に出るものがいない人の意見(専門力)、尊敬する元上司や先輩からのレポートラインを通さない依頼(同一化力、カリスマ性)等について、ついうなずいてしまった経験はないだろうか?「個人のパワー」は業務への精通や、素晴らしい実績によって社内で確たる地位を築いているという場合に持てる力である。

「関係性のパワー」とはパワーを持つ第三者とのコネクションを利用して人に動いてもらうことを言う。例えば「今回の件は社長も期待しています」と相手に依頼するのは、パワーを持つ第三者を有効に活用して人を動かす例でもある。

自分にはまだ権限が少ないので何もできない、組織を超えて人を動かすなんて無理だと嘆く前に、ビジネスを前に進めるために誰の協力が必要か、その人を動かすパワーは何か、それを自分は持っているか、持っていないならどのように獲得できるかを考える必要がある。

(2)「影響力の武器」

人に動いてもらうほどパワーを持っていない場合がある。パワーを獲得するには時間がかかるが、それを待っている余裕もない。そのような場合に有効なのが「影響力の武器」である。これは正しさ、論理性、パワーのように、受け手がその存在を明確に意識することなく、無意識のうちに動いてしまう原理である。

社会心理学者であるR.チャルディーニはその著書「影響力の武器」の中で、人が無意識に行動を決定してしまう背景を「返報性」「社会的証明」「好意」「権威」「希少性」「コミットメントと一貫性」の6つの要因で説明している。以下は、6つの要因を例示したものである。

1.交渉の場で相手が先に譲歩したのでこちらもそれに応じて譲歩する(返報性)

2.同業他社の大多数が採用しているシステムを自社も採用する(社会的証明)

3.仲の良い同期から依頼された仕事を断れずついつい引き受けてしまう(好意)

4.会計士や弁護士といった専門家の視点からも検討済であると説明され納得する(権威)

5.全社で抱える在庫が残り少ないことが判明。多くの営業拠点から在庫を押さえるために発注が集中する(希少性)

6.営業会議で発表した目標を達成するために必死に努力する(コミットメントと一貫性)

ビジネスの現場でもよく見られそうな意思決定や行動であるが、この行動はなぜなされたのだろうか?6つの例は「合理的」に考えられて取られた行動かというと、必ずしもそうではない。ビジネスの意思決定の中で、実際には論理的、合理的に判断をせず、何か他の影響によって「無意識」に意思決定してしまうのである。

6つの「影響力の武器」の効果的な活用は、自分自身のパワーが十分でない場合でも人を巻き込み、動かす一助となる。一方で、その有効さの半面、その原理の乱用、悪用は相手に不快感を与えることにも注意が必要である。

(3)パワーと影響力を考える上でのプロセス

では、「パワー」と「影響力」について学べば、それらを有効に使うことは出来るのだろうか?
これらを有効に使い、成し遂げたいことを実現するには、その使い方を考える必要がある。そこで有効なのが「プロセス」である。

第7回までの連載である「パワフル社」のケースを振り返ってみよう。「ありたい姿」として「ABC戦略」の浸透とその結果である営業力アップを室井は強く心に描いていた。その実現に向け室井は「状況分析」を進めた。分析の対象は上司である支店長、自分の部下である営業担当者、支店全体に浸透させるとした場合の他の課の課長、メンバー達である。それぞれが「ABCプラン」に協力するには、どのようなパワーが室井に必要で、それを室井は持っているのかを分析したのである。

次の「基本スタンスを決める」は、パワーを持っている場合、行使するかしないかを、持っていない場合、獲得を目指すかパワー以外で前に進めるかを決めることである。そして相手に動いてもらうために、「パワー」と「影響力」をどのように使うか、具体的な「アプローチ」を考え、そして「実行」する。

ここでのポイントは、どのように人・組織を動かしていくのか、プロセスを使って徹底的に方法論を考えるということである。
ここで忘れてはならないのは、パワーや影響力を使うこと自体が目的化してしまうことである。「パワーと影響力」は、あくまで「ありたい姿」を実現するための手段なのである。

たくましいリーダーになるために

今回の連載には多くの方からリアリティがある内容だ、とのフィードバックを頂いた。それは、ケースの内容に筆者の体験も盛り込んでいたからでもあるだろう。私自身、様々なプロジェクトをリードする機会があった。厳しい要求に応えつつ期待を上回る成果を出せた誇らしい体験もあれば、関係者とうまくいかず一向にプロジェクトが進まないことも経験した。自分自身が焦るあまり、強引にプロジェクトを進めようとしてメンバーの不興を買ったこともあった。

そのような実際の体験の中で、思考錯誤しながらも、何か打開する道はないかと「影響力」や「パワー」について徹底して調べた。上司や先輩からの薫陶を得る機会も多かった。多くの読者も、今回の連載に書かれていたことは、仕事を通じて似たようなポイントを学んだこともあるのではないか。

経験や書籍を通じて学べることは多い半面、未知の領域へ挑戦する機会が増え先人の知恵が活かせないことも多くなる。また経験や書籍で書かれたことは、仕事の進め方の「コツ」の集合であることが多く、部分部分としては使えるものの、体系立てて使えるものは意外に少ない。そこで我々は、人・組織を動かす方法論を、単にハウツーだけではなく、再現性のあるメカニズムとプロセスの面から体系化することにチャレンジした。今後は是非、皆さんご自身のケースで、どのように人・組織を動かすかを徹底的に考えて、使って欲しい。

そしてそれを使い、身につけ、たくましいリーダーとなって欲しい。

「パワーと影響力」を身につけ、優れたリーダーになるためのヒントとして、「自己効力感」というものがある。これは、スタンフォード大学のA・バンデリューラ教授による理論で、「自分にはある目標に到達するための能力がある」という感覚をいう。これには「結果予期」(ある行動がどのような結果を生み出すか)と、「効力予期」(必要な行動をどの程度上手く行なうことができるか)の2つに分けられる。

自己効力感は、徹底的に考え抜くことで生じる。つまり、よく考えたことなので成功確率もあがるはずであるし、誰よりも考え抜いたということ自体が出した結論に対する自信につながるのである。

皆さんには、人・組織を動かすという困難な状況でも、今回の連載をヒントに、「これはいける!」と実感が持てるレベルまで考え抜き、組織を成功に導いて欲しいと考えている。今回の8回に渡る連載が、読者の皆様の成功、そして皆様の組織において強いリーダーを増やすきっかけになれば幸いである。

執筆者プロフィール
新村 正樹 | Nimura Masaki
新村 正樹

上智大学法学部国際関係法学科卒業、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院EDP(Executive Development Program)修了。
株式会社ジャパンエナジーにて法務、販売に従事した後、グロービスへ入社。スクール部門、ファカルティ・コンテンツ部門を経て、現在は企業研修部門にて、講師、教材、スキルサーベイのチームを統括。講師育成やコンテンツ開発のほか、グロービス・マネジメント・スクール及び企業研修において講師も務める。
主な担当科目はリーダーシップ、クリティカル・シンキング、プレゼンテーション、ファシリテーションの他、フレームワークを使った自社分析等。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


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