伸びゆく金融市場で、ホールディングスのCHROとしての役割を果たす
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グロービス コーポレート エデュケーション


日系5社のCHROが集まり、富士通株式会社が主催し、グロービスがファシリテートする形で、企業価値向上につながる人的資本経営の実践について6回にわたり議論した「CHROラウンドテーブル」。
本ラウンドテーブルに参加した、auフィナンシャルホールディングス株式会社 取締役副社長CHRO 白岩徹氏と、モデレーター役を務めた、グロービス・コーポレート・エデュケーション フェロー 西恵一郎が、本ラウンドテーブルの取り組みを振り返る。更に、白岩氏のKDDI様における人事変革や、2023年4月からCHROを務めるauフィナンシャルホールディングス様での取り組みについても語った。

(左)グロービス・コーポレート・エデュケーション フェロー 西 恵一郎

日本における人的資本経営の
「方針」と「実行」を提言
白岩氏は、富士通の平松氏から誘いを受けてCHROラウンドテーブルへ参画した。参画を決めた理由のひとつには、経済産業省が主催する「人的資本経営の実現に向けた検討会」の委員に白岩氏が入っていた際に感じていたことがあるという。
「検討会の成果として『人材版伊藤レポート2.0』を発表したものの、各社でどのように人的資本経営を実践するのかは大きな課題だと感じていました。また、KDDIでも中期経営計画で人事制度を大きく改革し、ジョブ型を導入した時期でした。本ラウンドテーブルで人的資本経営の実行についてじっくり考えるのは、良いタイミングだと思ったのです」(白岩氏)

CHROラウンドテーブルを終え、白岩氏が収穫になったと感じているものは、大きく二つある。
「『人材版伊藤レポート2.0』で日本企業の人的資本経営の指針を示し、CHROラウンドテーブルで人的資本経営を実行させていくための提言をレポートとして発表できたのは、本当に良かったと思っています。参加した各社が課題や打ち手をオープンに話しながら学び合い、お互いの関係性を築けたのも大きな収穫のひとつです。今も貴重な付き合いが続いています」(白岩氏)
人事責任者どうしがオープンな場で意見交換をする価値について、白岩氏はこう述べる。
「人事の世界の良さは、他社とオープンな議論ができるところだと思うのです。事業戦略は他社に開示することはありませんが、人事はお互いに腹を割って自社の課題から話し合える、爽やかなフィールドです。こうした魅力がある一方で、唯一絶対の答えがない難しさもありますね」(白岩氏)
白岩氏は、本ラウンドテーブルの議論から生まれた「人的資本価値創造モデル」を活用し、KDDI様の人事戦略のストーリーを、社内の人事部門のメンバーと議論したという。
「企業理念やKDDIフィロソフィ、収益を生み出す経営戦略と人事戦略までがどのように紐づいて流れていくのかを議論できました。議論を続けることで、必要な人材の要件が自ずと見えてきます。部門ごとに何年後までにどのような人材を配置すべきか、という具体的な話ができました」(白岩氏)
ジョブ型をはじめとする
KDDIの人事改革
KDDI様は、日本企業では早期にジョブ型に移行するなど、近年は大胆な人事改革をしている。白岩氏が2019年に人事本部長に就いてからの変革を振り返る。
同社では、年功制を機軸とする人事制度が制度疲労を起こしていたという。人材流動性が高まり、キャリア採用の人数が直近10年で20倍に急増する中、入社した人材が活躍できるための制度を再考する必要があった。
人財ファースト企業への変革
白岩氏は人事本部長に就任してから、髙橋社長と隔週で1on1ミーティングを行って経営との意思疎通を図り続け、中期経営計画の重要課題(マテリアリティ)として、2020年に「人財ファースト企業への変革」というメッセージを組み込んだ。
中期経営計画に非財務指標である人事の観点が入るのは、初めてのことだ。白岩氏は、人事戦略を経営会議に付議する前に、1on1で髙橋社長とのコミュニケーションを深め、「中期経営計画に組み込めたのは大きな進歩であり、画期的だった」と述べる。
「目指すべき理想は、戦略に合致した人を採用し、採用した人たちの活躍するフィールドがあり、会社に貢献してもらうことです。そのためには経営のポートフォリオに合致した人材ポートフォリオを策定し、採用や育成のあり方も変えていく必要があります」(白岩氏)
採用や育成は、ジョブ型を前提に、社員に自律的なキャリア形成をしてもらうための変革を進めた。新卒採用では、内定時に配属先までを確約する「WILLコース」を導入。また、育成においても階層別の必須研修を減らし、希望者が学ぶ公募型の研修に置き変えていった。ただし、DX(デジタルトランスフォーメーション)といった時代に応じて求められる研修は、全社員必須にしているという。
「学びたい意思のある人が研修で学び、得られたスキルを現場で活かす状態にしたかったのです。ジョブ型は、自律的に行動する人と行動しない人が生まれてしまう、ある種の負の側面があります。それぞれの取り組みを通して、自らキャリア自律をしていってほしいというメッセージに繋げています」(白岩氏)
KDDIの人的資本経営
本ラウンドテーブルでモデレーターを務め、KDDI様の人事改革を深く知るグロービスの西は、日本企業における人的資本経営を、「人事を補修するレベルではなく大改築する作業」だという。

企業が経営戦略を立案して人的リソースを確保できれば成長できる時代が終わり、経営に歪みが生じていることをいち早く感じるのは、人事部門だという。一方、経営戦略と紐づけて人事の課題を説明しても、現場を司る事業責任者に納得してもらうのは難しいものだ。こうした現実がある中で、KDDI様の人的資本経営を西はこのように見る。
「KDDI様はまず、持続的に成長するための土壌づくりをしたのだと思います。ジョブ型で適切な人材流動を促し、採用や育成のあり方を変えて個人の意欲を高めていっています。その後で、経営戦略に基づいて人事戦略が機能する取り組みを進めました。
土壌づくりは、時間がかかるものです。経営者から早期の成果創出を促されたとしても、人事は、土壌づくりが成果につながると説明しなければなりません。それが、人事データを活用してストーリーで語ることだと思うのです」(西)
成功のカギはリーダーのマインドセットを変えること
次のフェーズは、人材ポートフォリオに基づいて定義されたジョブに人がアサインされ、リーダーが組織を牽引できる状態構築である。その成功のカギを握るのが、リーダーとなるミドル層がマインドセットを変えることだという。西は、「ジョブ型を導入した日本企業は、今、このフェーズに直面しています」と語る。
白岩氏も、「メンバーがいくらキャリア自律しようとしても、上司となるマネージャーのマインドセットが変わらなければ何も機能しません。年功制の環境で経験を積んだ40代以上の層が、マインドを変えるMX(マネージャートランスフォーメーション)が必要です」と課題感を述べた。
人的資本経営で会社が変革していくにあたり、各事業部の責任者やリーダー層がマインドを変えて自律するためには、事業責任者を人事面からサポートするHRビジネスパートナー(HRBP)の存在も必要だ。こうした考えのもと、グロービスはKDDI様のHRBP育成支援を行った。
KDDI様のような大企業において、必要な人材の確保と育成を機能させるためには、コーポレート部門の人事による施策だけでは実現しきれない。各事業部でHRBPの機能が必要だと白岩氏も考えている。
≪実際のご支援事例≫

KDDI株式会社様インタビュー「オペレーション重視の視座から脱却し、経営の参謀役としての役割を担うビジネスパートナーへ」
成長業界のホールディングスにおける
CHROの役割とは
白岩氏は、2023年4月にauフィナンシャルホールディングス様の取締役副社長CHROに就任した。新天地でのミッションについて、白岩氏は「KDDIの経験がそのまま生かせるわけではない」と、これまでとの違いを語る。
KDDI様では大きな組織における制度を作って機能させることに注力してきた。 auフィナンシャルホールディングス様は、グループ内に金融事業を営む各社があり、それぞれの社内に人事部門がある体制である。その中で、ホールディングスのCHROが果たす役割を定義する必要があるという。
「フィンテックを皮切りに、金融のあり方が大きく変わっています。キャッシュレス決済が浸透したり、メガバンクのサービスが変わったりしていて、生活者としても変化を感じますよね。今は、伸びゆく金融業界でのCHROのあり方を模索しているところです。グループ全体の人事戦略を構想しつつ、各社の戦略に合わせた戦力をつくるのが自分の役割だろうと考えています」(白岩氏)
そのために、グループ各社の社長や人事部門のメンバー、現場のマネージャー層と1on1を重ねて状況理解に努めているという。CHRO就任から数か月の間で対話をしたのは150人以上にのぼる。1on1で多く聞こえてきたのは、「グループ内の他社の取り組みやメンバーを知りたいが、知る機会がない」という悩みだ。
こうした声を元に、育成体系は早速変革を始める。個社ごとに必要なスキルは個々の会社で研修を行いつつ、ホールディングス共通で育むべきスキルは全体で行うことにした。そして、グループ全体のタウンホールミーティングを開き、CHROとしてのメッセージを伝える予定だ。
「グループ全体の人事として、一体運営を進めたいですね。KDDIの人事改革とは異なり、ないものを新たに作っていく営みです。まず私自身をメンバーに理解してもらい、お互い信頼し合う関係性を築いていきたいと思います」(白岩氏)

グループの力を上げ、
ワクワク感をもって働ける組織へ
西は、今後も白岩氏のディスカッションパートナーとなり、支援していきたいと考える。
「auフィナンシャルホールディングス様は、これからグループ全体で人材の異動を行うなどしながら組織を活性化し、新しい価値を生み出していくフェーズにあると思います。そのためにはタレントを可視化して育成する必要があるので、グループ横串での育成と、個別の育成を設計するご支援ができると考えています」(西)
白岩氏は、今後の展望について「KDDIというアセットとうまくリンクさせながら、爆発的に伸びる金融業界をリードするというワクワク感をもって働く人を増やしていきたい」と語る。
auフィナンシャルホールディングスとして、グループの力を底上げすることがCHROの大きな役割だと白岩氏は考える。人的資本を強くしていくことで、グループ全体の組織力を上げていきたいという。「グループ各社の社員には、『私は○○社の社員です』ではなく、『auフィナンシャルグループの一員です』と言ってもらえるグループにしていきたい」と、将来像を描いている。

(右)グロービス・コーポレート・エデュケーション フェロー 西 恵一郎

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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