ボス(上司)をマネジメントする?

2011.05.25

上司との関係のあり方

部下に対してどのようにリーダーシップを発揮するか。MBAや企業研修でも人気のテーマだ。部下に対しての「リーダーシップ」を学ぶ機会は多い一方で、「上司」との関係のあり方について考える機会は少ない。ほぼ全てのビジネスパーソンに「上司」が存在するにもかかわらず、である。

仕事で実績を上げていく上で、上司の存在を無視して、物事を前に進め、実績をあげていくことはできるだろうか?

どんなに凄い人材でも、仕事を進める上で上司を無視することは難しい。仕事では上司に依存することは多々ある(同様に上司もあなたの活動に依存している)。承認、決裁、サポート。上司との関係は大事であるが、では、上司との良好な関係は築けているだろうか?

上司も、自分も、感情を持つ人間である。当然、上司と、合う・合わないで悩んだことのあるビジネスパーソンも多いだろう。だが、合わないからと言って、上司とあなたは相互に依存しあっている以上、上司を無視するわけにはいかない。では、どのように上司と付き合えばよいのだろうか?

室井の反省

今まで、自分の「やりたいこと」実現のために、自分の主張ばかり繰り返し、部下や支店長と対立していた。だが、相手の主張に耳を傾けただろうか。そもそも相手がどんなことを思っているか、聞き出そうとしただろうか? 研修から戻った室井は、西日本支店に赴任してからの自分の行動を振り返った。

研修では相手との向き合うスタンスを学んだ。

・協力的な態度をとるべきか、否か?

・自分の意見を主張すべきか、否か?

今までは、相手に対し協力的ではなく、単に意見を主張しているのみだった。これでは「衝突」は避けられない。衝突を避けるには2つ。自分の主張を退けるか、相手と協力的になるかのどちらかである。自分の主張を退けてしまえばそれは単なる「逃避・妥協」。そうではなく、双方に主張をしつつ、協力をしていく、即ち「協働」を目指さなければいけない、というものだった。

言うのは簡単である。だが、「協力」「協働」といっても、何をどう協力的に進めればよいのだろうか?そんなことを考えつつ、室井は支店長室に目をやる。

支店長の仕事ぶり

支店長室は室井の席から遠く、フロアの反対側にある。ドアは常に開いている。今まで気づかなかったが、他の営業課長たちはひっきりなしに支店長室に入っていく。自分は急ぎのことでもない限り、支店長にはメールを送るぐらいだな、と振り返る。支店長からのメールの返事はあまり来ない。たまに来ても簡単なものだけだ。急ぎで返事が欲しい場合だけ、室井は支店長に直接確認をする。

それにしても他の営業課長には、そんなに支店長と相談することがあるのだろうか?

そんな疑問を抱えていたある日、室井は偶然、支店長秘書の柏木と帰りの電車で一緒になった。室井は日頃の疑問を柏木にぶつける。

柏木の話では、どの営業課長の来訪も重要な要件ではないとのこと。だが支店長は顧客1社1社の些細な動向でも気にするので、多くの営業課長は問題が起きそうな場合は事前に相談をするのだそうだ。

わざわざ部屋に行かないでもメールで報告すればいいんじゃないか、と室井が言ってみると、柏木は、「支店長は書類やメールの簡潔な情報だけでなく、そこでは書かれていない背景も気にされる方です。ですから、文書だけではなく、必ず皆さん、口頭で説明を補足しています」と答えた。

前回の営業課長会議で、メールで報告したにも関わらず、支店長から「聞いてない」と激怒された理由がわかった気がした。支店長が求めるのは、単なる文字情報だけではなく、直接対面で内容を確認する機会だったのだ。

顧客との価格交渉

研修から戻った室井に早々に難題が降りかかった。営業5課の顧客の中では取引規模の大きいプライス社から値引き要請が来たというのだ。室井は担当である入社3年目の青島を呼び、状況を聞いた。その上で青島をサポートしようと、室井は価格交渉に自分の同行を申し出た。だが青島からは思いもよらない反応が返ってきた。

「室井課長の同行は遠慮します。決裁権のある課長が出ていったら、その場での意思決定を求められます。こちらが想定しない条件を突きつけられるかもしれません。その場合、即断するのは難しいでしょう。課長が出ても持ち帰る、となったら課長は以後、軽く見られます。それではいざという時に課長は何の役にも立ちません。一方で、課長が変にいいところを見せようとして、その場で安い価格を認めてしまったら私の顔が潰れます。担当もいらないですよね。なのでここは、まずは私だけで交渉します」

ずけずけと言う奴だなと思いつつ「なるほど」と感心する室井は「でも、価格交渉は大丈夫か?」と尋ねる。

青島は、「先方は5%値引きと言っていますが、競合のロジカル社、ブレイン社の価格レンジから判断して、この規模の取引に5%値引きをしているところは皆無です。恐らく3%、どんなに高くても4%で収まると思います。我々の原価からしたら、4%までで済めば十分利益は出ます。なので、4%までのレベルで相手と交渉し、このレベルだったら上司を説得して何とかするから、この場で即決して欲しい、と交渉します。ですので課長、事前に4%までの値引き、ご了承頂けますか?」と、逆に室井に意思決定を迫る。

「今回の対応、納得だ。だが3%を超える値引きは支店長の承認が必要だ。私から支店長に相談してみるよ」と室井は答えた。

いつもならメールで支店長に相談する室井だが、今回は直接、相談してみようと支店長室に向かう。

歩きながら室井は、青島の仕事の進め方に感心していた。自分よりよほど、仕事の進め方を知っている。課長である自分は大した「権限」は持っていないが、それでも相手には、持っているぞ、背後に控えているぞ、と思わせておくことで営業上、有利に使えるわけだ。

沖田支店長への相談

「支店長、ちょっとよろしいですか?」室井が支店長室のドアをノックする。
「何だ、室井君か。珍しいな。どうした?」と沖田支店長が顔を上げる。
「実はプライス社との取引でご相談があります。同社から今年度、5%の値引き要請が来ています。以前から大口ユーザーということもあり昨年度も価格対応したようですが、数字は思ったほど行きませんでした。同社の状況を考えると今年度も同様かと思います。担当の青島君とも検討したのですが、あの規模で、5%の値引きに応える競合もほぼないだろうということで、4%までの値引き、できれば3%で話をまとめたいと考えています。ついては、4%までの値引き、支店長にご了解頂ければと思い、相談に参りました」

どれどれ、と沖田は室井の持参した試算表に目をやりながら電卓をはじく。
「4%か、いいだろう。だが値引きしたところで去年と同じぐらいの売上というのはつまらん。プライス社は複数購買をしているな。今回の要請はプライス社でのうちのシェアを高めるいいチャンスだ。もし前年より20%多く引き取れるなら更に1%、40%なら2%、60%なら3%まで。つまり、最大7%までの値引きを認めよう。プライス社についてはその分までの値引き幅をお前に預ける。しっかり数字を確保しろ」

値引きで売上を上げようという支店長の考えに室井は戸惑いながらも、支店長の判断の速さ、商売感覚に室井は素直に感心した。

室井は、支店長から満額以上の回答を得たものの、この値引き幅だけで勝負するのではなく、プライス社のニーズをしっかり探った上で、どう取引を深化させるか、青島と話し合ってみようと考えていた。

関係改善

プライス社との交渉は、支店長のアドバイスもあり、室井・青島の想定以上の30%増まで拡大した。室井は、プライス社の値引き対応以降も、支店長に何度も報告の機会を持った。その甲斐もあり、相互の理解が進んだと感じつつある。このあと、5月中旬に、室井の二度目のMBOが行われる予定だが、支店長には、営業5課への展開も含め、ABCプランについて訴えるつもりであった。

上司との接し方

上司との接し方で主に以下のような2つのスタンスがある。

1)上司とは重要な案件のみ接点を持つ。細かいことは言わなくても、努力していれば上司は必ず見守っていてくれる

2)細かいことでも上司にちゃんと報連相をしておくべきだ。接点を持たない限り何も上司には伝わらない

あなたはどちらのスタンスだろうか? そしてどちらのスタンスが望ましいのだろうか?

実は、両方のスタンスとも正解とは言えない。

上司との接し方を、自分の過去の成功体験に求める人は多い。自分の得意なやり方と、上司の求めるやり方とが合い、うまくいった経験から考えるというものである。例えば今回の室井は、Eメールで報告しておけば上司は理解している、と思いこんでいた。恐らく本社時代はそのスタイルで良かったのだろうが、それは支店長の求めるやり方ではなかった。

それでは、上司の求めることを理解し、それに合わせればよいのだろうか?
実際には、上司に対する思い込み(例えば上司は忙しいので些細なことで時間を取ってはいけない)が理解を妨げる場合がある。そもそも上司が何を求めているか考えることすらしない場合もある。運よく上司の求めるものに気づけたとしても、その要求に応えるために自分自身のやり方を変えることも難しい。どんなに優秀な人材だとしても、上司を巻き込まず、独力で実績をあげることは難しい。一方で、プライス社との交渉のように、上司からの支援を的確に引き出すことで、実績を積み重ねていくことも可能なのである。そしてこれは、部下にとってメリットがあるだけではなく、上司もまた部下の実績に依存している。上司と部下は相互依存の関係にある。

ここではまず、上司との良好な関係を築くために、何を理解すればよいかを考えたい。

ボス・マネジメント

ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・コッター教授は、論文「上司をマネジメントする」(※)で、上司との関係を2つの観点を分析する必要があると説明する。

1)上司や上司の置かれた状況理解:
目標や目的、強み・弱み、ワークスタイル、上司へのプレッシャー

2)あなた自身やあなたのニーズの評価
強み・弱み、ワークスタイル、上司への依存傾向

上司について分析するだけでは不十分で、あなた自身のことも上司と同様、知り抜くことが重要である。上司の要求の背景は何か?上司の要求に自分はどのような強みを使って応えれば良いのか。無理は長続きしない。もし、あなたの強みをもって上司の要求に応えられない場合はどうすればよいのだろうか?その場合は、当初は上司に合わせつつ、徐々に自分のスタイル・強みを上司に理解してもらうことが必要になる。つまり、上司とあなたとの間で、相互に期待し合う関係を作り上げていくのである。

上司と部下の関係について、P・F・ドラッカーは、著書「経営者の条件」の中でこう語っている。

「上司もまた人であって、それぞれの成果のあげ方があることを知らなければならない。上司特有の仕事の仕方を知る必要がある。単なる癖や習慣かもしれない。しかしそれらは実在する現実である」

「人には、「読む人」と「聞く人」がいる。(中略)読む人に対しては口で話しても時間の無駄である。彼らは、読んだあとでなければ聞くことができない。逆に、聞く人に分厚い報告書を渡しても紙の無駄である。耳で聞かなければ何のことか理解できない」

上司の言動、些細な日常の行動から、室井のように、沖田支店長が結果・数字にこだわる理由、室井の報告を読んでいなかった原因がわかるのである。


※出典:「上司をマネジメントする」 ジョンP.コッター、ジョン J.ガバロ(「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー」2010年5月号掲載)

執筆者プロフィール
新村 正樹 | Nimura Masaki
新村 正樹

上智大学法学部国際関係法学科卒業、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院EDP(Executive Development Program)修了。
株式会社ジャパンエナジーにて法務、販売に従事した後、グロービスへ入社。スクール部門、ファカルティ・コンテンツ部門を経て、現在は企業研修部門にて、講師、教材、スキルサーベイのチームを統括。講師育成やコンテンツ開発のほか、グロービス・マネジメント・スクール及び企業研修において講師も務める。
主な担当科目はリーダーシップ、クリティカル・シンキング、プレゼンテーション、ファシリテーションの他、フレームワークを使った自社分析等。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。


東京
WEB


コラム/レポート TOP

人材育成
メルマガ登録
人材育成
無料セミナー
人材育成資料
ダウンロード