戦略を推進する「人事」に期待されること ~ カゴメ・有沢正人氏講演

執筆:鎌田 英治

2015.03.10

グローバル化による成長戦略を推進するカゴメにおいて精力的にグローバル人事体制を構築されている有沢正人氏をお迎えし、変革を推進する人事の役割とお取組みについてお話いただきました。

スピーカー:カゴメ株式会社 経営企画本部 人事部長 執行役員 有沢正人氏   (文中敬称略)

モデレーター:株式会社グロービス マネジング・ディレクター Chief Leadership Officer (CLO) 鎌田英治

※本レポートは、2014年9月17日に実施された「第4回CLO会議」における講演を抜粋編集したものです。

鎌田:カゴメさんは日本に住む人ならだれもが知るトマト加工製品における日本のリーディングカンパニーですが、近年海外売上比率の拡大をめざし、人事もグローバル化に取り組まれています。有沢さんはカゴメ115年の歴史で初めての「外からきた人事部長」として、人事のお立場からグローバル化の推進と旧制度の変革を進められてきました。今日は、経営戦略を推進する人事の役割として大切にされている考え方、心意気、改革の実践をこれまでのご経験を踏まえてお伺いしたいと思います。

有沢:はじめまして、有沢です。自己紹介をいたしますと、1984年に協和銀行(現:りそな銀行)に入社し、2004年にHOYAに移り、その後AIU保険、2012年にカゴメに入社しました。現在のミッションは、カゴメのグローバル化を人事から実現することです。同業他社と比べてまだまだ発展途上のグローバル化を進めるためにやってまいりました。

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    (カゴメ株式会社 経営企画本部 人事部長 執行役員 有沢正人氏)

 

海外視察、そして課題の山積

カゴメは1899年、トマトが日本で初めて発芽した年に創業しました。従業員は約2,300人超、株主は現在19万人を超えています。海外拠点は14拠点。多いと見えるかもしれませんが、ここ最近のことです。中国・台湾以外は現地企業を買収して拠点を増やしてきました。

私がカゴメに入って最初にやったことは、海外を一年かけて回ることでした。海外の人事体制に課題があると聞いていたためです。訪れた拠点には私が聞いていた以上に問題が山積していました。たとえばある拠点でCEOが承認していたあるセールスマネジャーの評価シートはこんな内容でした。「目標:沢山の人に会うこと。結果:沢山の人に会った。だから評価は5点満点の5」。別の拠点では、HR機能を担う担当者もおらず、現地トップが任されていました。私は行く先々で「これでは会社がおかしくなりますよ」と人事機能を確立する重要性を現地のCEOに伝えて回りました。

カゴメの海外売上比率はまだ会社の10%強程度という段階ではありますが、3年前に策定した「NEXT50」という中期計画で世界のカゴメになることを目指しています。そのためには制度を統一することが必要と考え、まずはHRの基礎をつくることにしました。ここで大事なのは経営トップの強い意志とリーダーシップでした。トップが「自分でやる」という強い意志で推進していかないと人事の改革は絶対にできません。カゴメの場合は、私を雇ってくれた当時の社長、西さん(西秀訓氏、現カゴメ会長)がそうでした。

 

「経営に匕首(あいくち)を突きつける」人事の役割

トップとの関わりでは前職の銀行時代に忘れられない体験があります。2003年にりそな銀行が公的資金3兆1千億円を受けた際に、JR東日本から細谷さん(細谷英二氏、りそなHD会長(当時))が会長に着任されました。当時の状況は非常に厳しく、社員全員の年収が4割カット、賞与もない状況でした。しかし私は一つだけ、「人材育成の費用は削らないでほしい」とお願いしました。銀行の商品は差別化がしづらく、多くのお客様は担当者の「質」で選んでいます。だから人が重要なのですと訴えました。すると、細谷さんは育成費用を3割増額してくれたのです。給与4割カットを実行しながらも、人に投資しないと再生しないと理解してくれた細谷さんには今でも頭があがりません。このような強力なトップのリーダーシップは、人事の改革において絶対に必要です。

人事は、経営に対して「もしこれができなければこの会社の将来はありませんから一緒に心中してください」というのが役割です。『経営に匕首(あいくち)を突きつける』と言いましょうか。これが大事だと思います。カゴメのグローバル人事体制の構築においても同じでした。改革となると生え抜きの社員だとなかなかできない、しかし外から来た人間が改革をするのも難しいと当時の西社長は理解し、バックアップしてくれました。私も、人事はすなわち経営そのものだとトップに伝え続けました。

 

重要なのはトップから変わること

カゴメでは、13年4月にグローバル人事の専門組織を旗揚げし、人選も一任してもらいました。人を大切にする価値観やそのための仕組みをグループ共通で推進するためにグローバルHRポリシーも創りました。グローバル人事制度の構築は、3つのフェーズからなるプロジェクトとして設計しました。フェーズ1:役員・人事制度を構築する、フェーズ2:処遇全体のしくみを構築する、フェーズ3:人材開発のしくみを構築する、というステップです。

フェーズ1では、まずトップの評価制度から変える必要があると考えました。「改革は上から」が大事です。下から改革することはアンフェアを招きますから。当時カゴメには役員の評価制度がなく、全員同じ給与と賞与となっていました。それでは下の人に説明がつきません。そこで役員の報酬を固定報酬から変動報酬へ変更し、社内報で社長の報酬を開示しました。これは、とてもインパクトがあったようです。

今後はアセスメント(能力評価)、採用方法を見直したいと思っています。研修は年次別を全廃し、アセスメント結果別、選択制に切り替えます。これらの基盤づくりによって「変わった」というメッセージを人事が発信していきます。

これらの体験からお伝えしたいのは、「人事は経営そのもの」ということです。人事はオペレーションではなく、アートです。キャリアパス一つ考えるにあたっても完璧を期すこと。そしてそれが経営戦略とリンクしトップのコミットを得られていることが大事です。

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鎌田:貴重なお話をありがとうございます。有沢さんが精力的に改革を進められる原動力はなんでしょうか。カゴメをどういう会社にしたいと思われていますか?

有沢:市場価値の高い会社にしたいと思います。社員のマーケッタビリティも高めたい。単にいい会社ではなく、競争力があって、さすがカゴメと言われるようになりたいと思っています。
そのために、日々人事部員に話しているのは、皆さんは人の一生を背負って生きている、家族や親戚を含めて責任を負っている、それによって会社全体の価値を高めているということです。私は人事部はコストセンターという考え方が大嫌いなのです。人事部のお客様は従業員、従業員の先にはお客様がいる。エンドユーザーに価値を提供しているという感覚を人事も当然持つべきです。

鎌田:伝統的に人事の機能は、給与計算など間違いの許されない領域があり、安心感が重要でした。それに対して、経営を巻き込み組織を変える人事部はこれまでとは違うのでしょうか。

有沢:違う側面はありますが、同じだと思っています。違いがあるとすれば、経営を巻き込んで物事を前に進めるとか、「人事も変わってやろう」と思うかどうかだと思います。

 鎌田:有沢さんの場合、りそな銀行時代の細谷さんや、カゴメの西会長とのご経験が、人事に対する認識の転換点となったように思います。経営トップにそのような人事へのコミットがない場合、巻き込むにはどうすればよいのでしょうか。

有沢:残念ながらトップのコミットが得られない場合は、役員のどなたかを自分の味方につけるしかありません。トップが反対しても周囲の役員が味方になってくれるようにするのです。もちろんそう簡単にはいかないことも分かっています。私自身、トップの不理解に遭遇したこともありますが、その時はそのCEOの下の役員を味方につけました。しかし、基本的には経営者であれば経営が分からない人ではないはずですから、人事が経営そのものであるということを伝え続けるのが重要だと思います。

鎌田:まず経営者の経営感覚を信じて議論していくことが重要ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

執筆者プロフィール
鎌田 英治 | Eiji Kamada
鎌田 英治

株式会社グロービス
マネジング・ディレクター  
Chief Leadership Officer(CLO)

北海道大学経済学部卒業。コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。日本長期信用銀行から1999年グロービスに転ずる。長銀では法人営業(成長支援および構造改革支援)、システム企画部(全社業務プロセスの再構築)、人事部などを経て、長銀信託銀行の営業部長としてマネジメント全般を担う。グロービスでは、人事責任者(マネジング・ディレクター)、名古屋オフィス代表、企業研修部門カンパニー・プレジデント 、グループ経営管理本部長を経て、現在はChief Leadership Officer(CLO) 兼コーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター 。講師としては、グロービス経営大学院および顧客企業向け研修にてリーダーシップのクラスを担当する。著書に『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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