人材アセスメントお役立ちコラム:研修の場はアセスメントにも活用できるのでしょうか
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石井 由香梨
グロービス講師
【お悩み】
人事部としては、研修を、育成の目的だけでなく、アセスメントにも活用したいと思っています。その一方で、果たして研修という非日常的な場の状態を見て、参加者を評価してもいいのでしょうか。(ITサービス)
【お答え】
研修の場では、評価が可能な項目と、難しい項目があります。評価が可能な項目は、知識の習得状況や期待役割に対する自覚の強さ。評価が難しい項目は、ご自身の内的領域(期待役割に関係なく実現したいこと、その根底にある価値観や強み)となります。
研修の場で評価が可能な項目とは?
グロービスの組織開発、人材育成部門でコンサルタントをしている石井です。これまで担当してきた企業研修の中には、集合研修に個人コーチング面談と組み合わせた案件もいくつかあり、そのときの経験も絡めながらご説明いたします。
研修内容にもよりますが、ビジネス知識の習得状況、論理的思考力、判断力など、いわゆるスキル面は評価が可能です。より客観性を担保するためにアセスメント・テストを取り入れる場合もあります。
加えて、会社側が求める期待役割(あるべき姿)をどれだけ認識しているかも、研修中の発言やレポートから判断することが可能です。
ある大手製造業では、選抜課長研修の最後に「僕はこの研修での気づきを踏まえて、今後は営業部長のつもりで仕事をします!」という発言がありました。そう宣言したのは、メンバーの中でも特に目立っていた優秀な営業課長です。偽りのない本心からの言葉であることは誰の目にも明らかでした。この研修のメインメッセージは「将来の会社を引っ張っていくリーダーとしての自覚を覚醒」というもの。人事部の方は、この宣言を聞いて、まさに【あるべき姿】が正しく認識されていたことがわかったと、おっしゃっていました。
研修の場では評価が難しい項目とは?
期待役割に関係なく、自分が実現したいこと、その根底にある価値観や強みなどの内的領域(ありたい姿)については、研修の場でそれほど語られることはありません。その理由は3つあります。
- 空気を読んでしまう研修は集団の場であるため、協調性が高い日本人は空気を読んで、その場で期待されているであろう振る舞いをしてしまい、【ありたい姿】の吐露はその場にふさわしくないと判断することが多い。
- 評価の誤認識人事部や研修会社は参加者を評価する立場にあり、自分が【ありたい姿】よりも【あるべき姿】に近づいたほうが高く評価されると認識している。
- 経験がない新入社員の頃から、期待役割を伝えられ、その役割を担い続けてきたので【ありたい姿】を深く考えた経験がない。
ありたい姿を明確にするメリット
上記の例には、まだ続きがあります。この営業課長は、研修後の個人コーチング面談でこんな言葉を漏らしたのです。
「営業部長のつもりで仕事をしようと努力していますし、会社からの期待や評価は有り難いことだと思っています。だから、研修で宣言したことに嘘はないのですが、私が心底やりたいことはほかにもあります。今の社内のコミュニケーションの在り方に問題意識を持っており、組織風土改革が必要です。自分の人生をかけて本当にやりたいのは、営業ではなく、周りの人が笑顔で働けるようにすることです」
これは、自分の想いや価値観を解き放ち、【ありたい姿】を吐露したものでした。短期的にみると、この種の発言は人事部門の方には脅威に感じられるかもしれませんが、実際には、人材をさらに活かす機会になりうるのです。個々人が【ありたい姿】を明確にすることは、人事部門としても2つのメリットがあります。
- 異動や配置転換の検討に役立つ研修現場でのアセスメント結果から、参加者一人一人の「ありたい姿(何を大事にしていて、何を成し遂げたいのか?)」を把握できれば、最適配置を考えるうえで非常に有益な情報となります。特に選抜人材の移動・配置転換の検討に役に立つでしょう。
- 社員のパフォーマンス向上やりたいことを自覚することなく、ただ義務感で仕事をすれば、つまらないものです。本当にやりたいことであれば、能動的に取り組め、自分の軸を持って本来の能力を発揮できます。想いを込めて、喜びを実感しながら業務を行ったほうが、パフォーマンスはさらに向上します。
したがって、研修中とは別の場を設けて、個々人が【ありたい姿】を考える機会や、心をほぐす瞬間を持てるといいと思います。
ところで、【あるべき姿】と【ありたい姿】が異なっている場合、重ね合わせることは可能でしょうか?実は、これこそが人事部門や研修ベンダーが本領を発揮すべき領域です。一見すると重ならないようでも、それぞれを読み解き共通部分を探して本人に伝える、あるいは、異動や配置転換の可能性を模索することは可能です。人事部門がその役割を担うためには、育成や評価といった人的側面のスペシャリストであることを超えて、参加者のビジネスパートナーになれるように、事業戦略や組織戦略を理解することが大切だと、私は考えています。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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