今後の経営に必要な育成のあり方と選択型研修の意義

2022.06.14

昨今、広く社内に育成機会を提供する、選択型研修を用意する企業が増えています。皆さんの会社でも「選択型研修を導入した」「今後検討予定だ」という方も多いのではないでしょうか。

 

一方で、せっかく企画した研修に関して、育成担当者の皆さまからは多くのお悩みをお伺いします。例えば「選択型研修を用意したものの、特定の社員しか手を挙げず、自律的に学ぶ人材が増えていかない」「現場上長の理解が得られずに、なかなか研修参加が遵守されない」などです。

 

このようなお悩みにお答えすべく、本コラムを執筆しました。選択型研修の活性化に向けて、ぜひご参考いただければと思います。

執筆者プロフィール
坂本 美紀 | Miki Sakamoto
坂本 美紀

ペット向けアパレルビジネスで起業し、toC及びtoB事業経験を経てグロービスへ参画。
グロービスでは、法人営業部門にてスクール法人事務局の責任者を務める。
講師として論理思考・問題解決・ファシリテーションなど思考領域を担当。起業/ベンチャー領域では研究チームに所属し、起業関連の教材開発、投資先企業の伴走支援等に携わる。
社外活動ではヒトと組織の可能性を引き出すことをミッションとし、コーチとして活動を行っている。
経営大学院修士課程(MBA) 修了
米国CTI認定Certified Professional Co-Active Coach
CRR Organization and Relationship System Coaching 応用コース修了


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今後の経営に必要な育成のあり方と選択型研修の意義

 

第1章 
選択型研修とは何か?
なぜ今、選択型研修が求められるのか?

選択型研修とは、研修一覧の中から希望者自らが受けたいテーマやレベルの研修を選択し、受講する研修を指します。

以前は自己啓発という位置付けで「とりあえず制度を用意しています」というケースが多い傾向にあり、その結果、優先度が低いために見直しがされず、活用率も低調という傾向がありました。

しかし昨今、選択型研修と人事制度を連動させ、組織として学びの風土醸成を行う企業が増えています。背景として、2つご紹介します。


選択型研修が注目されている背景1:外部環境変化

外部環境変化が速く大きくなったため、従来通りの勝ちパターンではビジネスがうまくいかなくなってきていることが、1つ目の理由です。

ビジネスが難しくなった結果、人材育成のアプローチも変化を余儀なくされています。従来は組織として共通の育成課題を抽出し、階層別や選抜型育成で施策を運用していくというアプローチが一般的でした。しかし環境変化の激しい現代では、従業員への一律の育成では間に合わない状況が出てきています。結果、必要な成長を社員自らも考え、選択し、変化に対応していくことが求められているのです。


選択型研修が注目されている背景2:社員のキャリア自律の支援

2つ目の理由は、社員のキャリア自律を支援する企業が増えてきていることです。キャリア自律とは、自身のキャリアを見据え、主体的に目の前の仕事に意味付けしながら働き、時代環境に合わせて継続的に学んでいる状態を指します。

中期経営計画などでも自律的キャリア形成をキーワードに、人材育成の強化を掲げている企業が増加しています。社員の自主的なキャリア形成の促進に力を入れている企業は27.7%1)、特に大企業ではキャリア自律を重視する傾向は34%2)と高い傾向にあり、我々の実感としても、以前よりはるかにキャリア自律文脈での育成のご相談が増えてきているというのが実情です。


それではなぜ、企業が社員のキャリア自律を支援しているのでしょうか。

目的設定は各社多様ですが、主には、組織力向上、イノベーション創出、株主価値向上の3つが挙げられます(図1)。

 

図1:社員のキャリア自律に企業が取り組む目的

図1:社員のキャリア自律に企業が取り組む目的

 

組織力向上の観点では、対外的に個の学びを支援する企業として採用力向上への期待や、への期待、イノベーション創出の観点では、社員の積極的な学びの中で業界や自社を越えた知見を得て、従来なかった新たな発想や事業創造につなげるなどがあります。

以前まではキャリア自律というと、人材流出を懸念し、組織として支援することに消極的な見方が多い傾向にありました。一方で昨今は、キャリア支援のプラス・マイナス両側を客観的に捉え、社員のキャリア自律を支援することが、組織成長を考える上で合理的であると考える企業が増えてきています。(図2)。

 

図2:キャリア自律を支援する場合と支援しない場合のメリット・デメリット

図2:キャリア自律を支援する場合と支援しない場合のメリット・デメリット

 

第2章 
選択型研修と他の研修形態の
違い・使い分け

ビジネス環境の変化が激しい中で、社員自らが自律的に学べるように支援していくことが必要な状況ですが、では選択型研修だけ用意すればよいのでしょうか?

選択型研修も万能ではありません。選択型研修以外にも、階層別研修や選抜型研修など、複数の研修形態がありますが、これらを図3にて、比較・整理してみました。

 

図3:形態別の研修のメリットとデメリット

図3:形態別の研修のメリットとデメリット

 

選択型研修では、主体的な選択をもとに自己成長を促せるというメリットはあるものの、計画的な育成がしづらいというデメリットがあることが分かります。そのため、組織の状況や育成課題に合わせ、階層別研修や選抜型研修とバランスよく組み合わせる必要があります。

期待役割を発揮していただくためのベーシックな能力開発は、階層別研修で確実に担保していくことが重要です。その上で、次世代リーダーや経営幹部を計画的に生み出していくための育成は選抜型で、そして社員各自の主体性をベースに全社への教育機会の提供や、専門性を高めるための個別能力開発は、選択型研修を活用するというケースが多いです。

研修形態の最適なバランスは、各社のビジネスモデルや人材の状況によって変わります。時代背景によって選択型研修が求められる中でも、育成は目的に応じて適切に設計していくことが求められます。

第3章 
最後に

社員が自律的に学び成長する機会を提供・支援していくこと自体が、組織成長にプラスであるという理解が浸透し、選択型研修の導入を検討する企業が増えてきました。皆さまが選択型研修を検討するにあたり、本コラムが参考になれば幸いです。

選択型研修について更に詳細を知りたい方や資料をダウンロードしたい方は、ぜひ動画セミナーを視聴してみてください。

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今後の経営に必要な育成のあり方と選択型研修の意義

 

引用/参考情報

1) 引用:藤本真、”「キャリア自律」はどんな企業で進められるのか”、独立行政法人労働政策研究・研究機構、2018年、P.116

2) 引用:日経リサーチ×HR総研、”キャリア自律に関するアンケート 調査結果”、2022年5月に確認

3) 参考:リクルートワークス研究所、”企業の“キャリア自律支援策”は、離職を誘発するか?“、2022年5月に確認

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。