「内向き社員」を変える越境学習のススメ

2020.11.20

近年、「内向き社員」を変えたいとのご相談が増えています。ビジネス環境が目まぐるしく変化する昨今、日々の業務に追われ、チャレンジしようとする社員が減っている、というお悩みです。本コラムでは、内向き社員になってしまう要因を解説しながら、解決策として有効な越境学習について紹介します。

執筆者プロフィール
上田 元子 | Ueda Chikako
上田 元子
大学卒業後、ネット系ベンチャー企業へ入社。クラウドソーシングを中心としたBPO事業及び人材派遣事業の営業部門にて企画・販促・マネジメント業務を担当。
現在はグロービス法人部門にて企業の組織開発・人材育成支援に従事。  IT、金融、物流、サービス業等、幅広い業界を担当し、戦略実行に資する人材を輩出するための育成体系の構築支援、および研修プログラムの企画・設計を行う。

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「内向き社員」を変える越境学習のススメ

第1章 
内向き社員とは?
なぜ内向き社員ではいけないのか?

「内向き社員」とは、顧客や競合企業などの外の動きに疎く、自社/自部署/自分の観点でのみ仕事をしてしまう社員のことです。視野が狭い、変化を恐れてしまう、などの特徴を持ちます。

内向き社員が多くいる企業では、新たにチャレンジする人材が不足し、自社を成長させる事業の種を見出せなくなっていきます。VUCA(「Volatility」(激動)、「Uncertainty」(不確実性)、「Complexity」(複雑性)、「Ambiguity」(不透明性)の頭文字を取った造語)の時代において、チャレンジをしないことは大きなリスクです。

企業をとりまくビジネス環境は大きな転換期を迎え、VUCAの度合いはますます加速しています。デジタルテクノロジーの進歩や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大など、我々の意図とは無関係に大きな変革が求められていることは、皆さまもご承知でしょう。

VUCAの時代の特長として、プロダクトライフサイクルの短命化が挙げられます。市場は瞬く間に成熟・衰退し、リリースしたばかりの自社製品のシェアが代替製品にあっという間に奪われていく、ということは珍しくありません。ますます激化する競争環境のなかで新たな成長の種を見出し、企業が生き残っていくためには、どうすればいいのでしょうか?

一つは新たなチャレンジを加速させるため、内向き社員からの脱却を促すことです。自社や所属業界を見ているだけでは、新たな成長の種を見出すことは難しいでしょう。既存の枠組みにとらわれず柔軟に発想するには、社外に目を向け、社外から自社を見直すことが必要です。

しかしそうは言っても、多くの人は日々の業務に追われてしまったり、変化を恐れて慣れ親しんだコミュニティに安住してしまったりするものです。実際、企業の人事の方からのご相談として「外に目を向けることなく、新たなチャレンジをしない社員が増えている」というお悩みを、筆者もよく伺います。

あなたは内向き社員になっていませんか? また、あなたの周りの方はいかがでしょうか? 内向き社員の特徴を図1にまとめましたので、チェックしてみてください。

図1:内向き社員の特長ーチェックリストー

図1:内向き社員の特長ーチェックリストー

第2章 
内向き社員になる理由は? 

内向き社員になってしまう理由の一例を、下記にまとめました。

環境要因

・ビジネスモデルや業務の特性上、顧客との接点が少なく、外部の変化に気付きづらい

・ジョブローテーションが少なく、自身が担当する一事業・一機能の視点から広がらない

本人要因

・過去のキャリアで築いた成功体験を堅持しており、危機感を持ちづらい/自己変革の必要性を感じづらい

・変化することによって失われる既得権益があり、現状維持思考に陥ってしまう

ここで大切なことは、複数の要因が絡み合っている可能性を考慮することです。たとえば「保守的で新しいことにチャレンジしない」という内向き社員を調べてみると、「ジョブローテーションが少ない。そのため、外の変化に気づきにくく、変わる必要性を感じにくい。その結果、保守的で新しいことにチャレンジしない」のように、複数の要因が関与しているものです(図2)。

内向きを変えるには、要因構造を解き明かしたうえで、ボトルネックとなっている要因から内向き社員を切り離す機会を、意図的に作ることが重要です

この他にも、行動経済学や社会心理学の観点からアプローチすることも有用です。たとえば現状維持バイアス。人間は本能的にリスクを避け、変化を恐れる傾向にあります。そのため、何も手を打たなければ内向きになるのは当たり前で、外部から手立てを講じる必要があると分かります。

内向きになっているという表層的な問題に飛びつくのではなく、まずは問題を生じさせている要因となりうる戦略の構造や組織の力学、人材の特性などを注意深く観察してみましょう。

第3章 
内向きを克服する施策とは?
~越境学習のススメ~

具体的にどうすれば、内向きを克服できるのでしょうか? 有効な打開策の一つとして、越境学習をお勧めします。

越境学習とは、所属組織の枠を自発的(もしくは意図的)に飛び越え、職場以外に学びの場を設けることを指します(図3)。内向きになる構造から身を離し、変容を促す(リセットする)には越境学習が有効です。近年、社員に越境学習を促す企業が増えています。

図3:越境学習とは

図3:越境学習とは

越境学習が内向きの打開に有効な理由は、たとえば以下の通りです。

・社内だけでは変化に気付きづらい/変化に伴うリスクがあり動けない、などの要因を除外できる

・多様な価値観に触れることで、未知・専門外の知識をインプットし、自身の認識を更新できる

・個人の知見・経験、人的ネットワークの幅を広げ、自身のキャリアを含めた次の打ち手を想像するようになる

越境学習が注目を浴びている背景として、イノベーションの重要性が挙げられます。自社や自業界の枠組みに捉われず柔軟に発想し、新たな成長の種を見出すことが、企業の成長に不可欠です。そのためには自社に閉じず、幅広い視点で自社ビジネスの価値を捉えなおす人材の育成=「水平的学習」が急務になっています(図4)。水平的学習の手段として、越境学習に注目が集まっています。

図4:越境学習に注目が集まる背景

図4:越境学習に注目が集まる背景(引用:RMS Message vol.44、P.8、2016年11月)

第4章 
越境学習を企画する際の3つの留意点

越境学習の企画において、留意すべきポイントを3つご紹介します。1:明確な目的、2:触れ合う深さ、3:触れ合う時間、の3点です(図5)。

図5:越境学習を検討する際の3つの留意点

図5:越境学習を検討する際の3つの留意点

4-1. 明確な目的

効果的に越境学習を取り入れるには、何のために越境させるのか? という目的を明確にしましょう。外に出せば成長するだろう、と考えるのは禁物です。

目的が定まっていないと、具体的な設計ができません。たとえば、越境先はどのような環境を用意しておくべきか? 越境先の環境で何をどのレベルまで習得し、組織にどう還元させるのか? といった論点に答えられる設計が必要です。

4-2. 触れ合う深さ

越境学習を効果的なものとするには、社外の人と深い対話ができる場のセッティングが重要です。外部人材とどのような交流の機会が設定されているか? 外向きに転換できるほどの接点を十分に持てるのか? という点は、越境学習を取り入れる上で大事にすべきポイントです。

4-3. 触れ合う時間

時間への配慮も重要です。組織外という環境の価値は、外部人材との交流の深さ・時間の長さに比例します。

越境学習の期間を、参加者の拘束時間などの制約条件から決めては本末転倒です。内向きを克服するためにはどのぐらいの時間が必要か、という観点から、越境学習の検討を進めるようにしましょう。

第5章 
最後に

本コラムでは、内向き社員が生まれてしまう理由を踏まえたうえで、解決に効果的な越境学習の導入方法までご紹介しました。

イノベーションを創出するため、またキャリアをよりよいものにするために、越境学習は効果的です。しかし、組織や人材の課題は一様ではありません。自社の人材教育に取り入れる際には目的や背景について丁寧に検討することで、効果的な施策を設計することができます。お困りの際は、お気軽にグロービスにお問い合わせください。私たちと一緒に考えましょう!

下記資料は、本コラムの内容を簡潔にまとめたPDFです。ぜひダウンロードいただき、社内の討議にお役立てください。

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「内向き社員」を変える越境学習のススメ

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。