【第4回 GLOBIS経営者セミナー】圧倒的なスピードで非連続的な成長を実現する経営とは(後編)

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  • グロービス コーポレート ソリューションのプロフィール

    グロービス コーポレート ソリューション

創業から5年というスピードで上場を果たし、現在も年30〜40%の非連続な成長を成し遂げているマネーフォワード株式会社。 事業を軌道に乗せる速度も、そこから上場までの速度も圧巻で、継続して高い成長率を維持し、2000名規模の組織に成長した現在でも事業へのパッションが健在です。同社の経営で特徴的なのは、多くのサービス・企業を傘下に収める「グループジョイン」を通じて、多彩な事業展開に挑んでいること、そして多様な組織を一つのグループとして統合していることです。

本セミナーでは、マネーフォワード創業者でCEOの辻社長をお迎えし、急速な成長を実現する経営の秘訣、さまざまな企業をグループに迎えながらも従業員の可能性を引き出す組織づくりのポイントなど、マネーフォワードの経営における具体的な事例を交えながらお話をお聞きします。

ミスの原因は徹底的に検証する

西
ここから辻さんには、参加者の方からの質問にお答えいただきます。まずは「経営者が、全ての課題・論点を押さえるのは難しいのではないかと思っています。どのように組織の機能不全を把握されていますか」という質問ですが・・・。


皆さんにとっては「釈迦に説法」だと思うんですけど、まず問題が起こってからの対処というのは、非常にパワーがかかります。だから、早く問題を見つけて、早く手を打つというのが、一番いいと思います。そのために、各リーダー層には、とにかく何か違和感があったら、すぐにそれを見つけに行って、違和感の正体を突き止めてもらうようにしています。

リーダーのその感覚はすごく大事だと思うので、そこを定性的にやりながら、定量的には、週次で上がってくる各事業部のKPIを、私もチェックするようにしています。

また「ヒト」については、大規模サーベイを半年に1回、小規模サーベイを1ヶ月に1回行っています。そこで「ヒト」や「組織」に関しては、全部数値化されるので、どの部署のどこに問題があるのかは、可視化できるようになっています。

その変化値を見ながら、「このチームはうまくいってなさそうだ」といったアラートを上げて原因を確認するようにしています。「悪いから担当を変えよう」とか、そんなことは全くなく、何が悪くて、どうやったら改善できるのかを早期に確認して、対応していることが多いです。

西
辻さんなりの対話力も結構大きいのかなと思います。日々のメンバーの接し方はどうしているんですか。ミスをして怒ったりするようなカルチャーでもないし、その要因を早く出して議論しようよという雰囲気がちゃんとつくられているようには感じますけど・・・。


怒ったら、ヒトは言わなくなりますからね。

西
辻さんのリーダーシップは、すごく寄り添って、コーチみたいな関係性ですよね。


事業の難易度と、事業長の能力は見るようにしています。「ハードだな」と思う時は、サポートに入りますし、行けそうなときは任せます。あと問題が起こった時に、人のせいにしがちなんですけど、それは本当に「人のせいなのか」は、検証します。

実はプロダクトやセールスマーケットなどの戦略の問題ではないのか。本質的に何が課題なのかは、見極めるようにしています。みんな頑張ってくれているので、ヒトにスケープゴートするようなことが起こらないようにはしています。

西
創業当初からそのようなスタイルですか。


いやあ、そんなことないですよ。36歳で起業したので。当時は、いろんなことに怒り狂ってました(笑)。

西
どのタイミングから、そういうスタイルに変化させていったんですか。


覚えているのが、とある部下に「なんでこれこうなのかな」と話した時に、強く反発を受けたことがあって。

その時、自分が言いたいことを言うのではなくて、そのメンバーがアウトプットを出せるために、どう振舞ったらいいのかを、より考えるようになりました。部下と意見が対立した時に、いろいろと悩んで考えた気がします。

基本的に課題は常にありますし、課題とも言えないチャレンジも常にあって、それが解消できると、ユーザーさんに喜んでもらえる。上司は、そういうところに導いていくのが大事だと思いますね。

グループジョインした経営者には要望やWillを尋ね、時には配置換えも

西
辻さんは、グループジョイン(M&A)した後に、その会社の経営者に別の会社の経営を任せたりして、人を流動化させて、社内にシナジーを起こそうとされています。新たな質問で、「会社が成長をしていく中で、どのように組織をまとめていったんですか、また組織をつくりながら意識されていることがあれば教えてください」ということですが、いかがでしょうか。


私たちは、まだ事業規模が小さいので、グループジョインしてもらう会社の業績は経営者の力量にかかっていることが多いです。確固たるビジネスモデルで回っているオペレーションの仕組みがある会社なら、おそらく経営者を変えても、安定した経営ができると思います。

しかし、グループジョインしている会社はその段階まで達していないため、その経営陣との信頼関係が非常に大事になってきます。飲みに行ったり、1on1をしたりして、とにかく事あるごとにディスカッションを行います。私たちマネーフォワードが、グループジョインしてくれる会社に何が貢献できるのか、どんなことを期待されているのか、そして、その経営者自身がやりたいこと(Will)は何なのかを徹底的にヒアリングします。

中には、Exitをして辞めそうな人もいます。私はこんな性格なので「この人、辞めそうだな」と思ったら、「辞める気ですよね」とストレートに訊ねたりします。「どの仕事だったらやる気が出ますか。今会社の抱える課題はこうなので、こういうことをやってほしいんですけど」と話をして、上手くハマったときは配置転換をしてもらったりします。

リーダーは「能力」だけで選ばない。大事なのは「人格」と「パーソナリティ」

西
お金(投資)の関係上は親子なんですけど、仕事では「対等」な、お付き合いをされるんですね。


本当にそうですね。上下関係という感覚が全くないですから。比較的社員にもそんな感じで接しています。社長なんてあくまで役割だけなので。

西
実は違う辻さんがいるんじゃないかと思って、いつも注意深く見ているんですけど、それがないんですよね。


そうですか。あとは急拡大する組織で意識していることは、周りから信頼されている人をリーダーにすることですね。高い業務能力があることは素晴らしいことなんですが、やっぱりチームをまとめるとなると業務能力だけでは周りがついてきませんし、1人でできることも限られてしまいます。

リーダーには人格やパーソナリティが大切だと思います。特に、MVVCを自分の言葉で伝えられる人がトップに立つと、組織がどんなに急拡大しても、マネジメントに対するトラストがあるので、壊れることなく、さまざまなことがうまく回ります。

西
やはり「能力」と「意識」は掛け算だと思います。プラス×プラスだと、非常に大きな力になりますが、能力と意識、どちらかがマイナスだと、マイナスに振り切ってしまう。つまり、その力が真逆の方向に行ってしまう可能性があるので、このバランスをとるのが非常に難しいと思います。


私たちもさまざまな失敗をしてきたんですけど、それでもリーダーは、「パーソナリティ」だと痛感しています。

西
リーダーの資質についての質問が来ています。「怒ったら、課題が出てこないという点、頭では分かっていても、実際はやるのは難しいです。辻さんなりのコツがありましたら教えてください」。いかがでしょうか。


そうですよね。でも、人がなぜ怒るのかといえば、2つの理由が考えられます。1つは「期待値とのギャップ」。「もっとできるはずなのに、なんでお前はできないんだ」といったことです。

それともう1つは「焦り」からの怒りです。この結果を出さないと自分もやばい。「競争に負ける」「上司に怒られる」。この2つをコントロールできれば怒らずにすむかもしれません。

前者であれば、期待値を適切に見積もればいいわけです。私自身も、その期待値の設定を間違えていた経験があります。その昔、大事なポジションを比較的経験の浅い若いメンバーに任せたことがあったのですが、これは経営者が完全に期待値を見誤っていて、完全に私たち経営陣のミスだよねという話をしたことがあります。

今後大事な事業を行う際には、やはり一定以上のグレードの人たちを送り込もうと決めました。これが期待値のコントロールです。

西
「焦り」については、どうですか。


そこについては、最初から戦略を間違えていると思いますね。普通の人が一生懸命頑張っても目標に届かなかったら、「この戦略は違っていた」と考えた方がいいと思います。そもそも戦略の打ち手が少ないのも原因としてあるかもしれません。私が経営陣や事業部長にいうのは、「打ち手が少なくないか」ということです。1つがダメでも、次、その次とあれば、どれか、うまくいく打ち手が出てくるので、そのあたりの打ち手を複数考えておくことが重要だと思います。

西
メンバーが頑張ってうまくいかないのはリーダーの責任で、全体がうまくいくように考えるのが戦略であり、リーダーの仕事である。そういうことなんだと思います。

自分の武器が使えないBeyond comfort zoneに身を置くことで、人は成長できる

西
次の質問なんですが「成長のために、辻さんがインプットされていることや場があれば教えてください」ということですけど、いかがですか。


グロービスさんがやっているG1は、非常にインプットの場としては大きいと思いますね。いろんな方とお会いできるので刺激になっています。やはり人が成長するのは、「Beyond my comfort zone(ビヨンドコンフォートゾーン)」に身を置いた時だと思います。

日々の「comfort zone(コンフォートゾーン)」も大事なんですけど、「comfort zone」だと、起こる問題は想定内で、自分の武器でも戦えると思います。しかし、それを超えた違う世界に行くと、これまでの武器が全く通用しなくなります。私も7年前にG1に初めて参加させてもらった時、帰り際に敗北感でいっぱいになりましたから。

西
少し分かります、その気持ち。


当時は、ここにいるクオリティじゃないといった敗北感があって。次回までには「成長して帰ってこよう」と、この経験が自分にドライブをかけたと思います。こうした「Beyond my comfort zone」 は自分でも意識してつくるようにしています。なので、例えば、国内と海外のカンファレンスがあるんだったら、海外を選びます。やはり、自分にとって辛く、大変な場所に身を置くことは、いまだにやっていますね。

西
辻さんにとって、今の「Beyond my comfort zone」はどういった場所ですか。


今はグローバルか、もしくは新規事業ですね。継続的成長が可能な事業は、できるだけメンバーに渡して、より難易度が高い、正解がわからない事業に取り組むようにしています。

西
先頭に立ってやっているわけですか。


そうですね。メンバーにいつも言っているのは、「リーダーは一番高い給料をもらっていて、経験や人脈、知識もあるので、一番難しい仕事をしましょう」。最悪なのが、部下から上がってきた案に駄目出しする上司です。それは、もう最悪じゃないですか。リーダーには「もっと付加価値を出せ」と、いつも言っています。

西
やはり新しい価値を創造することが、一番難易度が高いと思うので、それをまさにトップがやっているっていうのは、あんまり聞かないですね。それも、この事業規模になってもやっているのは、すごいことです。

多分日々判断しなければいけないこととか、社内の会議だけでも相当あると思いますが、どうやってタイムマネジメントを行っているんですか。


まず3カ月に1回、業務を全部見直しています。それで本当に重要なタスクだけに絞り、それ以外の業務はメンバーに引き継ぎます。あとは、中長期に取り組むためのプロジェクトチームをつくって、そのミーティングを先に押さえて、例えば1週間に2〜3時間は必ず確保しています。

西
緊急度ではなく、重要度の高い時間を先にどんどん入れていくということですね。


そうです。他の業務は、後から勝手に入ってくるので。

西
面白いですね。3カ月でリセットするっていうのは。とは言っても3カ月でリセットできない会議がいっぱい辻さんの場合は入っていると思いますがで、それをゼロベースで見直して、メンバーに任せようとされているのは、すごいご決断だと思います。

経営者だけでなく、取締役や執行役員も対外的に知られている企業は、強い組織になる

西
このように、辻さんが先頭を走っていくと、どんどん辻さんは成長されていくので、2番手3番手の人とは差が開いていくものですが、御社の場合は、そんなこともなさそうに見えますが・・・。


社内取締役や執行役員も、組織が成長しているので、自分も成長しないと終わってしまうという危機感が非常にあると思います。そういう姿勢があると、外部のイベントに登壇したり、社外の方とお会いしたりして、社内では得られない情報などをインプットして、何とか食らいついている感じはありますね。グロービスさんにも当社のメンバーがお邪魔させていただいていますし、そういうオポチュニティを意識してつくり、私と同じように、外からの新たな知見を得ているように思います。

西
ほとんどの企業は、経営者の名前だけが覚えられ、それ以外のトップ層の名前は、対外的には認知されないことが多いと思います。でも戦国時代は、大名も有名ですが、武将も有名だったりするじゃないですか。

今の時代、求められているのは、大名だけが有名な企業ではなく、その下の武将クラスも有名な企業だと思います。そういう組織を確立できれば、対外的にインパクトも残せますし、強い組織のイメージが出てきます。


それは、いい例えですね。今度使わせてもらいます(笑)。そういう意味では当社のCFOの金坂はNo.1CFOに選出いただいたり、COOの竹田もさまざまセミナーに登壇者としてお呼びいただいています。最近だとCHOの石原も引っ張りだこで、当社もさまざまな人材が活躍するようになってきました。

西
そういう人たちが組織の同じボードメンバーやマネジメントチームにいて、みなさん率直な意見を互いに出し合って、すごくいいチームだなと思って、いつも拝見しています。


社長だけが頑張っているわけではなく、みんなが頑張って、社長だけでは絶対できないアウトプットをやっているのに、社長だけが目立つというのは、フェアじゃないですよね、やっぱり。

リーダーには「説明責任や育成責任」がある。
それを怠るのは「リーダー失格」だ

西
新たな質問で、「社内の仕事には、いろいろな領域があって、それを人に任せていくと、だんだん職人集団ができ上がり、周囲に理解できるように説明する、周囲に共有するというモデルが抜け落ちていってしまいました。辻さんは、そんな経験がありますか。マインドの醸成やカルチャーをどうとらえるべきでしょうか」


自分が1つやっていることは、「リーダーには説明責任がある」ということを、事あるごとに話すことです。「ヒト」という会社の大事なリソースを預かり、アウトプットを出す責任があり、それに至るまでのプロセスを説明する責任があります。もちろん、リソース投下に対する上司への承認を得るためにも説明が求められます。

私にも、株主や社員など、あらゆるステークホルダーに説明責任があるので、そこは頑張って説明するわけです。その説明をせずに周囲に協力を求めないのは、「リーダーとして失格です」と、そこははっきりと言いますね。

西
いいですね。辻さんの中で、明確な軸があるわけですね。


もちろん言い方もあります。たとえば、今日も社内で話したのは、リーダーには、採用や育成の責任があって、抜擢責任があるということです。それを、自分の部署だけで「囲い込む」なんて二流や三流のマネジメントです。「囲い込む」ことによって、その人の成長の機会を逃すし、会社全体のアウトプットも悪くなる。誰かを名指しで非難するのではなく、リーダーみんなに意識して、問いかける。話すときは、そんな工夫はしています。

10年後に売上の半分を海外でつくる。そのためには海外に移住する可能性もあるかもしれない

西
起業のきっかけ、VisionやCultureなど、経営スタイルを含めてさまざまお話いただいたんですけど、辻さんが今最大のチャレンジとして挙げるなら、どういうとこだと捉えていらっしゃいますか。


難しい質問ですね。最大のチャレンジですか。ぱっと浮かんだのは、やはり「グローバル化」ですね。たとえば「売上の半分を海外でつくる」と目標を掲げるとしたら、それは私たちにとって大きなチャレンジですので。

西
チャレンジですよね。30%ずつ成長させていきますからね。


自分が見えていたり、経験していたり、情報があるところは、必死にやり方を探れば、突破口はあると思います。ただ今は海外にいないので。

私は海外事業を日本でディスカッションするのが大嫌いで、日本で海外のことを言っても分からないと思っているので。この無駄な議論はやめようよと、いつもいうんですけど。やはり、現地に行かないと分からないことが多くあると思うので、そこは私自身が向こうに移って考えないといけないだろうと思っています。

西
辻さんが1年間の半分は海外にいるということはあると思いますか?


あると思います。そうしないとグローバルプランを策定するのは無理だし、経営陣も、グローバルな多様性のあるチームをつくりらないとダメだと思っています。私はいつも1人で移動して、どこでもZoomでミーティングができますし。毎年半年いると、また違うのかもしれないですし。

西
マネーフォワードの10年後、どんな高みで、どんな顧客価値を提供し続けているのかというのが、すごく楽しみですね。


そうですね。

西
今日参加された方もマネーフォワードや、辻さんのリーダーシップ・人柄に触れて、なるほどと思うことや、こういうリーダーっていいなと思うところがたくさんあったんじゃないかなと思います。本日は、どうもありがとうございました。


ありがとうございました。楽しかったです。

セミナー開催概要

  • 開催日: 2023/12/20(水)14:30~16:00
  • 会場:オンライン開催(Zoom)
  • 対象者: 企業の経営者、役員、経営企画、人事部門、組織開発など人材に関わる部門の管理職・ご担当者の方
  • 参加費: 無料
  • 定員: 500名

講演者

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻 庸介 氏
株式会社グロービス グロービス・コーポレート・エデュケーション フェロー 西 恵一郎

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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