【第4回 GLOBIS経営者セミナー】
圧倒的なスピードで非連続的な成長を実現する経営とは(前編)
2024.03.05
創業から5年のスピードで上場を果たし、現在も年間30〜40%の非連続成長を遂げているマネーフォワード。特徴的なのは、常にユーザーオリエンテッドの姿勢を貫き、サービス企業を傘下に収める「グループジョイン」を通じて、多彩な事業展開に挑んでいること。圧倒的スピードで成長し続ける秘訣とは、多彩な企業を1つにまとめながら従業員の可能性を引き出す組織づくりのポイントとは。
本レポートでは、G-Agenda Vol.6にて巻頭特集にご登場いただいた株式会社マネーフォワード代表取締役社長 CEO 辻 庸介氏をお招きして、2023年12月20日(水)に行われたGLOBIS経営者セミナー「圧倒的なスピードで非連続な成長を実現する経営とは」の概要を紹介する。(全3回・前編)
(注:セミナー概要は末尾をご覧ください。文中の氏名肩書は原稿作成当時のものです。)
グロービスではクライアント企業とともに、世の中の変化に対応できる経営人材を数多く育成し、社会の創造と変革を実現することを目指しています。
多くのクライアント企業との協働を通じて、新しいサービスを創り出し、品質の向上に努め、経営人材育成の課題を共に解決するパートナーとして最適なサービスをご提供してまいります。
目次
創業5年で上場、12年で売上300億円の企業に
本セミナーの前半では、株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻 庸介氏による基調講演が行われた。まずは創業者として、同社をどのように経営してきたのか過去から現在に至るまでの軌跡について辻氏が紹介した。
社会を構成する個人一人ひとりのパワーの源となる『お金』。その課題を解決できるサービスが、日本には必要だと辻氏は考え、ゼロから起業したのがマネーフォワードである。
その強い想いはマネーフォワードのMVVCに表現されている。
MISSION
お金を前へ。人生をもっと前へ。
VISION
すべての人の「お金のプラットフォーム」になる
VALUES
User Focus
Tech&Design
Fairness
CULTURE
Speed/Professional/Teamwork/Respect/Evolution/Fun
起業した2012年5月は、高田馬場のワンルームマンションをオフィスにて、8名の仲間たちと朝から晩までプラダクトの設計についてディスカッションを行い、手を動かしていたという。数々の失敗を乗り越え、5年後の2017年9月には、時価総額約300億円(当時)で東証マザーズ市場の上場を果たした。起業当初は個人向けのサービスしかなかったが、12年経った今はそこから大きくサービスを拡大している。
同社の売上の内訳は次のようになる。
祖業である個人向けのビジネス『マネーフォワードME』は売上全体の13.1%のシェアを占め、1530万人以上のユーザーに利用されている。
法人向けの「バックオフィス向けSaaS」は、会計・人事労務・法務、情報システムなどのバックオフィス業務を連携したクラウドサービス。このサービスは売上の61.7%を占め、30万以上の事業者が利用している。全サービスの中でもっとも収益が高いサービスとなっている。
その他には、企業の生産性や効率面からマネーによる成長支援をサポートするためのファイナンスサービス(売上の5.2%)や、グループジョインしているスマートキャンプ社のSaaSマーケティング(売上の11.6%)も提供している。
最近においては、金融機関からのDX推進の要望に応えるために175のサービスを提供(共同開発含む)しているマネーフォワード「X」部門は、8.3%の売上を占めている。
2011年の創業時は300万円の売上だったのが、次年度から7600万円と順調に伸び、その後12年経った2023年は300億円を超えた。
「サブスクリプションモデルなので、ストック型で収益が右肩で上がっていきます。現在、従業員も優秀な人材が集まってきており、2020年11月末には865名だったのが、この3年間で2100名超と、約3倍に増え、今組織としても一気に拡大を目指しているところです」(辻氏)
経営者として大事にしていることとは?
「経営者として大事にしていること」については、辻氏から以下の3つが紹介された。
1.正のスパイラルをどうつくるか
2.会社の目指すもの、価値観を明確にして伝え、運用すること
3.成長のボトルネックと解消方法
1.正のスパイラルをどうつくるか
アマゾンのジェフ・ベゾス氏が考えたAmazon Flywheel アプローチを、同社においては「ヒトへの投資」に置き取り組んでいると、辻氏は説明した。
Amazon Flywheel アプローチとは、「品揃えがよくなれば」→「顧客体験がよくなり」→「トラフィックが増えて」→「売り手が増え」→「また品揃えが増えてくる」。こうした正のスパイラルがどんどん回り出すと、低コスト構造では、さらに低価格の商品が提供できる。そして、顧客体験はさらに良くなり、グロースのエンジニアが回っていく。この効率的に回る機械装置(Flywheel)を設計し、回していくのが競争優位性の本質だと言う。
マネーフォワードにおいては、『ヒト』への投資を中核に据えて、次のように説明した。
「従業員の給料を上げるのはとても大事で、給料を上げて『投資を増やすと、優秀な人が採用できる』→『優秀な人が増えれば』→『より良いプロジェクトができ』→『提供価値が上がり』→『ユーザーが喜ぶ』→『それによって、また価値を上がる』→『すると資金が増え、マーケティングに投資でき』→『認知率も上がる』→『ユーザーがさらに増えて資金が増え』→『ヒトにまた投資できる』」。このように正のスパイラルをどれだけ回せるか。そして、回す上でのボトルネックはどこにあるのかも合わせて考えるようにしています」
2.会社の目指すもの、価値観を明確にして伝え、運用すること
会社は何のために存在するのか。今は「MISSION、VISION、VALUES、CULTURE」がさらに大事な時代になってきている。マネーフォワードは、MVVCを実現するためにつくった会社だという。だからこそ辻氏は、「メンバーには、いつも私(CEO)よりもMVVCの方が上位概念にあると伝えている」と話す。
「Cultureは1日にしてならず。プロダクトは真似できますが、Cultureは社員一人ひとりと紐づいているので、簡単には真似できません。それゆえ、Culture自体が最大の競争優位性の源泉だと私は思っています。Cultureを育むために非常に時間を使っているのも、マネーフォワードの特長です」(辻氏)
辻氏によると、全社に向けて話をするときは、基本的には「MISSION、VISION、VALUES、CULTURE」に絡めて話をし、会社と部署とのMISSIONにも紐づける。経営陣が自分の言葉で、MISSION、VISION、VALUES、CULTUREについて語る場は、常につくるようにしているという。
また、各種の表彰式や、グループの半期ごとの総会、社内報やnoteなど、事あるごとに、チームや個人のストーリーを語ってもらう機会も設けている。
OKR(Objectives and Key Results)のマネーフォワード版の『Goal for Growth』をつくり、常にアップデートしているのもそのためだ。全社の目標から各チームの目標やメンバーの目標にブレークダウンできるようにしていて、メンバーみんなが目標到達したら全社の目標が到達できる仕組みになっている。「これはお互い見えるようにして、透明性を大切にしています」と辻は言う。
3.成長のボトルネックと解消方法
経営の代表的な要素に「ヒト・モノ(サービス)・カネ・情報」がある。
マネーフォワードでは、現在40%成長を実現しているが、例えば「なぜ50%いかないのか。何があれば60%になるのか」という話の時に、必ず「ヒト・モノ(サービス)・カネ・情報」の何かがボトルネックになっているはずなので、どの部分の何が足りないのか、常に考えるようにしているという。
それを達成するために、メンバー一人ひとりに無理をさせるのではなく、サスティナブルな会社を目指しているのも同社の特徴だ。「メンバーの努力が報われる戦略か。戦略上競争優位性があり、勝てる戦略が何なのかを常に考えることが経営の仕事だ」と、辻氏は強調する。
「いろいろとトラブルはつきものだが、結局『成長がすべてを癒す』ということがあると思います。成長しない組織・プロダクトは誰が引き受けても、人のせいにされてしまい、犯人探しが起きてしまいます。お互いの矢印が社内に向いてしまうわけです。こうなると誰も幸せになりません。本来、社外にいるユーザーにとって価値あるものは何かを考えるため、矢印は外に向かなければいけない。だから、成長させることができる戦略・戦術をとにかく考えて、実行するのが、経営者の役割だと思い、取り組んでいます」
成功するリーダーに共通する6つの項目
「ヒト」に関しては、メンバーと信頼関係をどう構築するのか。相互理解をどう醸成するのか。そのためにコミュニケーションの量と質が大事になってくるという。そこで、同社では『ギフトフィードバック』という、成長に資するフィードバックを行っている。
また、マネーフォワードグループのLeadership育成プログラム『Leadership Forward Program』で辻氏が話をする際には、元BCGの見立氏から学んだ、成功するリーダーの共通項6つを伝えているという。これら6つが高いレベルにあることがリーダーには求められる。
1)Vision どこに向かうのか定めて伝える力
2)Judgment 判断力:高い確率で正しい判断を行う力
3)Intelligence 判断力をもたらすIQ/EQ/SQ
4)Integrity 倫理観とそれに基づいたブレない強さ
5)Courage 勇気:流されず、必要なときに必要なリスクを取る能力
6)Drive to achive 目標に向かって歩み続けるための原動力
グローバル化に向けた3ステップ
最後に同社のグローバル化における3つのステップを説明した。
1.資本のグローバル化
2.人のグローバル化
3.事業のグローバル化
「『資本のグローバル化』は、株主が大体40〜50%海外の機関投資家で構成されており、これはほぼ完了しています。『人のグローバル化』については、インドとベトナム(ホーチミン、ハノイ)の3カ所の海外開発拠点を展開し、全社員の2割弱が日本語を母語としない社員です。エンジニア部門においては、共通語を英語にするために、ここ3年かけて取り組んでいます。そして、その先に『事業のグローバル化』があると考えており、2022年にはインドネシア最大のSaaS企業『Mekari』の大株主となったり、Money Forward Americaを立ち上げ、海外のマーケットシェアを拡大していこうと、今取り組んでいるところです」
創業して12年、常に30〜40%の成長をし続けるマネーフォーワードは、まだまだ成長真っ只中で、常に高みの目標を見出し、走り続けている。
後半はグロービス マネジング・ディレクター 西 恵一郎との、圧倒的な成長スピードを生み出す組織における、経営陣や従業員の可能性を引き出し方などについての対談を紹介する。
※中編につづく
セミナー開催概要
■開催日: 2023/12/20(水)14:30~16:00
■会場:オンライン開催(Zoom)
■対象者: 企業の経営者、役員、経営企画、人事部門、組織開発など人材に関わる部門の管理職・ご担当者の方
■参加費: 無料
■定員: 500名
【講演者】
株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻 庸介 氏
株式会社グロービス グロービス・コーポレート・エデュケーション フェロー 西 恵一郎
創業から5年というスピードで上場を果たし、現在も年30〜40%の非連続な成長を成し遂げているマネーフォワード株式会社。 事業を軌道に乗せる速度も、そこから上場までの速度も圧巻で、継続して高い成長率を維持し、2000名規模の組織に成長した現在でも事業へのパッションが健在です。同社の経営で特徴的なのは、多くのサービス・企業を傘下に収める「グループジョイン」を通じて、多彩な事業展開に挑んでいること、そして多様な組織を一つのグループとして統合していることです。
本セミナーでは、マネーフォワード創業者でCEOの辻社長をお迎えし、急速な成長を実現する経営の秘訣、さまざまな企業をグループに迎えながらも従業員の可能性を引き出す組織づくりのポイントなど、マネーフォワードの経営における具体的な事例を交えながらお話をお聞きします。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。