【第4回 GLOBIS経営者セミナー】圧倒的なスピードで非連続的な成長を実現する経営とは(中編)
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グロービス コーポレート ソリューション
創業から5年というスピードで上場を果たし、現在も年30〜40%の非連続な成長を成し遂げているマネーフォワード株式会社。 事業を軌道に乗せる速度も、そこから上場までの速度も圧巻で、継続して高い成長率を維持し、2000名規模の組織に成長した現在でも事業へのパッションが健在です。同社の経営で特徴的なのは、多くのサービス・企業を傘下に収める「グループジョイン」を通じて、多彩な事業展開に挑んでいること、そして多様な組織を一つのグループとして統合していることです。
本セミナーでは、マネーフォワード創業者でCEOの辻社長をお迎えし、急速な成長を実現する経営の秘訣、さまざまな企業をグループに迎えながらも従業員の可能性を引き出す組織づくりのポイントなど、マネーフォワードの経営における具体的な事例を交えながらお話をお聞きします。
自分も「社会を変える」サービスをつくろうと!
西
まず、なぜマネーフォワードの起業に至ったのかを、皆さんに教えていただいてもいいでしょうか。
辻
はい。元々はマネックス証券の新規事業として立ち上げようと考えていました。ネット証券でプロダクトを提供していたので、こうした個人向けの「お金」の悩みを解決するサービスがあれば、すごく便利だろうなと思っていたからです。
でもリーマン・ショック後すぐで、新規事業を立ち上げるのが難しい時期だったので、松本さん(マネックスグループ創業者・現マネックス証券代表取締役会長の松本 大氏)に「外でやらせてください」とお願いして、そこから0→1で、プロダクトをつくり始めたのがスタートです。
西
辻さんのなかで、このような「社会を変えよう」という発想が芽生えたのは、いつ頃からですか。
辻
新卒で入社したソニーと、その後社内公募で移ったマネックス証券での経験がやっぱり大きいですね。
ソニーでは、希望とは違う「経理部」へ配属になり、当初は落ち込んでいました。でも石の上にも3年だと思って、一生懸命取り組んでいたら、次第にお金の流れや、会社のPL/BSがどうつくられているのか、ということに興味が湧いてきたのです。
そして、マネックス証券の立ち上げメンバーとして異動した時も、元々機関投資家向けの商品や情報を、個人に提供する「投資の民主化」を実現するために、手数料を引き下げたりして、松本さんの貫いたMISSIONやVISIONにも憧れを持っていました。そして、いずれは自分も「社会を変えるサービス」を立ち上げてみたいと考えるようになっていきました。
人生の選択肢が狭まらない、一人ひとりがやりたいことをできるサービスを提供する
西
辻さんたちが目指しているVISON「すべての人の、お金のプラットフォームになる」というのは、どういうゴールイメージですか。2030年に向けてでもいいですし、もう少し手前でもいいので、教えていただけますか。
辻
定性と定量2つの観点があります。定性でいうと、お金は人生において、非常に大事です。それでいて、ツールに過ぎないとも一方で思っています。でも、お金で、人生の選択肢が狭まってしまうようなことはなくしていきたい。一人ひとりのやりたいことがやれるようなサービスやツールを提供していきたい。そこが北極星としてずっとあります。
それに向かって直近でやっているのは、マネーフォワードの個人向けの家計・資産管理アプリから、まず現状把握を簡単にできるようにすることです。さらに、そのデータを基にして未来をより改善するために、FP(ファイナンシャルプランナー)の提案を受けられるようにしたり、ユーザーの成長促進のスピードを上げていく仕組みを追加しています。
定量においては、現在1530万人ユーザー、法人は30万以上、金融機関は40社ほどにご利用いただいています。プロダクトの提供価値を上げながら、圧倒的No.1のサービスにする。そんなゴールを描いています。
西
金融商品や金融サービスは、知っていると人と知らない人のギャップが大きい領域だと感じました。「マネーフォーワードME」を使っていると、自然と自分の資産がわかるし、考えるようになってくる。そういうところから、辻さんの思想が伝わってくるサービスだと思いました。
辻
これまではユーザーサイドに立った金融サービスというのが、あまりなかったと思うんですよ。
当然、お客様にはトランザクション(取引)してもらわないと、銀行は手数料が取れないので、「FXをしてください」といった広告を出したりするんですが、FXで損しているお客様もいて、それが本当に正しいアプローチなのかと疑問に思うこともありました。
そういうことを経験してきたので、ユーザーサイドに立ったサービスが必要だと思い、マネーフォーワードでは、そこにこだわってサービスを開発しています。
西
金融サービスはリターンがある一方で、リスクもあります。ゆえに、どうしてもリスクが膨れてしまう時が出てきます。そういうことも含めて、ユーザーサイドに辻さんたちが立ち続けることに、すごく意味があるように思います。
辻
金融機関でも、非常に素晴らしいプロダクトをつくられています。でも自社でそれを発信すると、なんか嘘っぽく聞こえてしまいますよね。
西
お金儲けがどうしても後ろ側に透けて見えてしまいますからね。
辻
そうなんですよ。そんな時に、ユーザーサイドに立った人が、「こうした資産があって、こういうリスク強度の人は、こういうプロダクトがいいんじゃないですか」と、発信を行うことで、より良いサービスが広がっていきます。マネーフォワードでは、そんな世界をつくりたいと思っています。
西
辻さんが目指している世界を実現するには、まだまだ遠いという話ですけど、今自己評価すると、何点ぐらいまで来ていますか。
辻
10点ぐらいじゃないですか。
西
まだまだ、伸びしろがあるんですね。
やりたいことに取り組める環境をつくるために、30〜40%成長にこだわる
西
毎年30〜40%の成長を遂げていますが、そもそも企業として高い目標を設定している理由は、どこにあるのでしょうか?
辻
まず業界の平均成長率があると思います。SaaSの業界は、DXやIT化の恩恵を受けています。ですので、まず業界平均に対してどのぐらいプラスできるのかは、いつも気にしているところです。その上で、高い目標を持って成長を目指す理由としては、みんながいきいきと、楽しんで働けて、かつ成長を実感できる会社をつくりたいという思いがあるからです。
人に言われてやらされる仕事だと楽しくないですし、自分の力も発揮できません。従業員一人ひとりが腹落ちして、これをやりたいと思って、自ら考え動くことで、結果的に良いアウトプットを出すことにもつながると思います。それに、成長している企業だと、優秀で、やる気がある人がジョインしてくれるので、採用面への相乗効果を期待できるのも理由としてあります。
西
とは言っても会社を運営している中では、組織もアップダウンしたり、壊れた瞬間があると思います。辻さんが今のリーダーシップ論に至ったきっかけは何かあるんですか。
辻
自身のパーソナリティが大きいと思うんですけど、1つ考えられるのは、「No.1を取らないといけない」という使命感でしょうか。
マネックス証券に在籍していた時に、SBIさんや楽天さんにはエコシステムがあって、戦略上さまざまな打ち手を講じられてきました。No.1になることで、規模が取れ、プロダクト供給力も上がり、品揃えも増やすことができる。そして最終的には「プライスネゴシエーションパワー」もついて、ユーザーにより安い価格でサービスを提供できるので、ユーザーも増え、「Amazon Flywheel アプローチ」ができるんです。しかしNo.2やNo.3だと、このスパイラルがつくれないので、非常にきついんですよね。
西
「No.1」企業しか、みなさん名前を覚えていないですよね。
辻
だからこそ、業界No.1になるために成長率にはこだわり続けています。
経営メンバーとは、常に話し合い、課題と解決に必要なことを共有し、アップデートしている
西
経営において「スピード」と「善良さ」の両立は難しいんですけど、これが両立できるとすごく強い組織がつくれると思います。
マネーフォワードが両立できているのは、この速いスピードで経営をきちんと動かし、急拡大させる中でも組織が崩壊しないノウハウを身に付けられたからだと思っています。2年前に、御社がまだ1000名ほどの会社だった頃、「今年800人採用するんです」という話を辻さんから聞いて、非常に衝撃を受けました。「絶対に組織が壊れますよ」と言ったのに、今も壊れてない。
いろんな箇所で肉離れは起きていたかもしれないですけど、確実に成長されている。辻さんが改めて振り返ると、どういう思想で、そのスピード感ある成長や組織と向き合ってこられたのでしょうか。
辻
確かに色んな課題はありますが(笑)、採用基準のバーを下げずに人材を採用できれば、ビジネスモデル的に伸びるのは分かっていたので、それをエグゼーションしきれるかというのが、2〜3年前の私の経営テーマでした。
でも成長を目指せば、必ず組織にひずみが生まれてしまいます。そこを最小限に、それこそ肉離れ程度で抑えるために、西さんにも入ってもらって経営合宿を行いました。成長のためには、今後何が必要で、それをやるためにはどうすべきなのか。リスクへの対処や(組織が)壊れることを軽減するには、どうしたらいいのかを、経営メンバーと時間をかけてディスカッションしました。
西
今の話は私も記憶に残っていて、経営合宿の時に、辻さんから「グローバル化をテーマしたい。だけど、エンジニアのグローバル化や開発拠点のグローバル化に、まだ抵抗を持っている人もいる状況なので、慎重に進めたい」という相談だったと思います。
当時、議論した時も「事業のグローバル化には絶対触れないようにしよう」。そういう感じでした。ただエンジニアのグローバル化は早急に進めないといけないので、参加者みなさんもその方向性には合意いただきました。
そして3カ月後に行った経営合宿では、「事業のグローバル化」がもう当たり前という雰囲気になっていて……そのスピード感で、多くの役員層の認識が変わっているというのは、「本当すごい」と驚きました。
辻
経営メンバーとは、今何が課題で、それを解決するために何が必要なのかは、常に話し合いアップデートしているので、そのプロセスがあるからだと思います。
西
中途で入ってきた方の中には大企業出身者も結構いらっしゃるじゃないですか。大企業で10%の成長といえば非常にすごいことで、5%の成長を目指している企業がほとんどだと思います。それがマネーフォワードに入ってくると30%を目指す。考え方が全く違うので、非常に成長できるんだと思います。大企業だからできないとか、ベンチャーができるとかではなく、リーダーシップやマネジメント、そしてさきほど話のあったカルチャーの問題なんだなと感じます。
辻
もう1つは世界がこれだけ成長しているのに、日本社会だけ成長していない分野が多いことには、少し疑問を抱きます。だからマネーフォワードでは、各部門長がつくった予算についてディスカッションをしますが、目標が20%以下だと、「これは、うちがやる意味ある?」といった話を率直にぶつけますね。
西
その議論は、非常に基準や意識を上げますよね。
辻
そうすると、部門長も「もっと提供価値を上げないと」と考え出すので、やはり「ボトルネックは何なのか」は常に問い続けて、それを見つけたら改善しに行くということを徹底するようにしています。
※後編につづく
後編では参加者から辻氏のリーダーシップや経営観に関する多数の質問が寄せられ、その質疑応答の様子を紹介する
セミナー開催概要
- 開催日: 2023/12/20(水)14:30~16:00
- 会場:オンライン開催(Zoom)
- 対象者: 企業の経営者、役員、経営企画、人事部門、組織開発など人材に関わる部門の管理職・ご担当者の方
- 参加費: 無料
- 定員: 500名
講演者
株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻 庸介 氏
株式会社グロービス グロービス・コーポレート・エデュケーション フェロー 西 恵一郎
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
事例紹介
日経225の88%の企業へ研修サービスを提供
企業内研修有益度
評価 2024年3月「テーラーメイド型プログラム」を除く平均値
導入企業数
3,300
社/年受講者数
43.8
万名/年スカイマーク株式会社
スカイマークらしい人財育成体系をゼロから構築! 航空業界におけるチャレンジャー企業として成長を続ける
日本生命保険相互会社
「自ら学び、社会から学び、学び続ける」風土改革への取り組み
三菱重工業株式会社
受講者から役員を輩出。ジョブアサイン連動型タレントマネジメントで「未来を起動する」次世代リーダーを早期育成
伊藤忠商事株式会社
世界各国で活躍する社員の自律的なキャリア形成をするために必要となる、経営スキルを磨く場を提供
株式会社大創産業
トップダウンから脱却し、自律自考のできる次世代リーダー集団の育成
株式会社コロワイド
非連続の時代を生き抜くために管理職がビジネススキルを磨き、経営視点をもつリーダーになる
SAPジャパン株式会社
カスタマーサクセスを追求するマネージャーの育成を通じて、日本企業のグローバル化を支援する
レバレジーズ株式会社
360度サーベイで75%の受講者がスコアアップを実現!自らの課題を意識した学びで、受講後の行動が変化
富士通株式会社
DXカンパニーへの転換を加速させた、役員合宿の取り組みと効用
セミナー・イベント
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セミナー開催予定
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