経営者候補の選抜研修で「やらされ感」が漂う理由とは
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谷口 学
グロービス講師
【お悩み】
次世代の経営者を育てようと始めた我が社肝いりの選抜研修。受講者からは気概でなく、むしろ「やらされ感」が伝わってきます。どうすれば良いのでしょうか。
【お答え】
選抜が形だけになっていませんか? 選抜基準を見直し、受講者の意思確認も含めた人選プロセスに再設計しましょう。
第1章
なぜ「やらされ感」漂う選抜研修が生まれるのか?
グロービスの人材育成部門で人材育成・組織開発のコンサルタントをしている谷口と申します。次世代の経営者を育てる選抜研修を数多く支援させていただいていますが、上記はその中でちらほらと聞こえてくる声の1つです。
次世代の経営者を育てる研修に選ばれたとなると、それなりに高い自負と、この機会を活かそうという強い思いを持った参加者ばかりだろうと期待したくもなります。しかし実際には、真面目に取り組んでいるけれども、それを実務で活かそう、次のキャリアを目指そうという意欲が薄く、“お勉強”になってしまっている。あるいは、経営陣に対し発表する際にも、情熱が伝わってこない。どこか妥協が感じられるアウトプットに留まり、経営陣の期待に応えられない、といったことが起こります。
(関連コラム:企業イノベーションのためにアクションラーニングで常識を疑え!)
特に、2期目、3期目と研修の回を重ねるごとに、その傾向が高くなるようです。結果として、会社としては大きな投資をしているにも関わらず、受講している本人はただ辛いだけ。このように会社にとっても個人にとっても不幸な経営者研修が生まれる理由には、いくつかのパターンがあります。
パターン1
選抜時に、経営者や上長の恣意的な考えが入る。あるいは、会社として本来育てるべき人材について、経営陣や人事部の間ですれ違いが発生している
パターン2
当初は経営陣や事務局などの関心が高く、選りすぐりの人材が集められるが、回を重ねるごとに候補者の母数が減り、本来は対象者でない人も“順番に”選ばれるようになる
パターン3
“先輩”受講者から研修に関する情報が誤って伝わり、資料を引用したり適当にこなしたりするなど、受講者が間違った意識や姿勢で研修に参加する。
こうした問題の背景には多くの場合、「適切な選抜基準」に則って「適切な人選」ができていないと言えそうです。
第2章
経営者育成の適切な選抜基準を設ける
「御社のこれからの経営者に求められる要件とは何でしょうか?」という問いに、即答できる、あるいは、即答でなくても明確に答えられる方は実は多くはありません。経営者やリーダーに求められる要件は各社で異なります。例えば、グロービスでは「経営の定石」、「考える力」、「巻き込む力」、そして「志(高い意識)」などを重視しています。
加えて、対象者のポテンシャルを見極めるための選抜基準も重要となります。「意識・意欲」と「基礎能力」など測る視点はいろいろとありますが、これも人材要件に伴って異なってくるでしょう。
ただ大事なのは、こうした経営者の人材要件なり選抜基準なりが明確に示され、少なくとも研修に関わる方々の間で共有されていることです。また、育成体系全体にわたってその要件・基準が貫かれる形で再構築していくことが望ましいです。
(関連ページ:研修体系の構築・見直し)
第3章
適切に人選する
人材要件と選抜基準が決まれば、次に必要なのは適切な人選です。対象者にもよりますが、例えば、次の5つの人選方法が考えられます。
3-1. 業績評価
リーダー候補として周囲が納得できるレベルの実績を求める
3-2. プロセス評価
結果を出すプロセスにおいて、どのような行動をしているか。上司や周囲の観察評価や、自己評価から判断する
3-3. 360度評価
リーダーたる規律、率先垂範、メンバーが「この人についていきたい」と感じるかなど、周囲の人から見たリーダーシップ行動を評価する
3-4. 面接
本人のやる気・コミットメントとともに、価値観や地頭の良さを確認する
3-5:論文
リーダーとしての姿勢、戦略思考、視野の広さ、ビジネスに対する洞察など、日頃から何をどこまで深く考えているかを見る
このうち、経営陣にとって接点が少なく、顔の見えにくい候補者(大企業における課長層など)の場合、客観データ(業績やプロセスの評価)を中心にします。一方、顔の見える候補者(例えば部長層)は、論文や面接などを用いて、次世代の経営リーダーとして活躍する意思の有無を確認するというように、対象者や状況に合わせて使い分けると良いでしょう。
適切な方法で選べば、受講者側もその過程で研修に向けたマインドセットが整い、その後の取り組みやアウトプットまでも変わってきます。例えば、私が担当しているクライアントの場合、受講者にやらされ感が見え始めた翌年から、論文に加えて、上司からの推薦書を添付するプロセスに切り替えました(上司に選抜責任を持ってもらうためです)。その結果、受講者の取り組み姿勢が明らかに変わり、経営陣も満足するような最終発表が行われました。
たかが人選、されど人選。口で言うほど簡単ではありませんが、改めて次世代経営者の選抜基準と人選プロセスを見直し、再構築してみてはいかがでしょうか。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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