日本企業にイノベーションをもたらすクリエイティビティ~閉そく感を打ち破りイノベーションをもたらす「新たな発想」とは
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井上 陽介
グロービス講師
「生産性は確かに上がり、コスト効率は良くなった。でも、全社としてそちらに注力するあまり、将来への投資を疎かにしすぎてしまった。結果、次代を支えられる事業のタネがまるでない」(製造業)
「都心の本部が店舗開発をし、それを全国で一律に展開する。そういうモデルがいつの間にか効かなくなってしまった。商圏ごとのニーズが違いすぎて個店化を促進、或いは既存モデル自体を大幅に作り替えないことには地域一番店は狙えないが、具体的なアイデアもそれをできる人間もいない。急速な都市化、少子高齢化で消費構造の変容した影響を如実に受けている」(小売業)
「短期的な成果を求めすぎた結果、社員が皆、近視眼になってしまっている。自部門の業績に執着し、全社最適でものを考えられない。部門間の壁が高くなりすぎたことも追い打ちをかけ、発想が“狭い箱”(従来の思考)から出て来ない。これでは画期的なサービス、商品など出て来ようはずがない」(製造業)
このままではまずい。なんとかしていかねばならない。でも、できる人間がいない。
皆さんの会社でも、ここ数年、もしかしたら、このような危機意識に接する機会が増えてきているのではないでしょうか。私自身、グロービス・コーポレート・エデュケーション部門の責任者として多くのクライアント企業の経営層や人材育成責任者にお会いする中で、幾つもの類するご相談に接してきました。ここに通底するのは「新たな発想を生み出す力を強化し、組織の閉そく感を打破したい」という命題であろうと理解しています。
さてでは、どうしたらこの問いに応えられるのか――。
この連載では、グロービスの企業研修や、私自身も開発を担い教鞭を執るグロービス経営大学院のコース「クリエイティビティと組織マネジメント」の知見を交えながら、この困難で、しかし是非、ブレークスルーを見出したい命題に対峙する法則を皆さんと一緒に考えていかれたらと思います。
変化に身を竦める姿勢が閉そく感を増長させる
私は先に、「新たな発想を生み出す力を強化し、組織の閉そく感を打破したい」と問題を整理しました。これ自体、特に目新しい表現ではなく、皆さんの肌感覚とも大きく外れるところはないと思います。しかし考えるべき点を明らかにするため、それでも一旦、立ち止まって考えてみましょう。
なぜ組織の閉そく感は生じているのでしょうか。そして「新たな発想」は本当に、これを打破する力となるのでしょうか。
日本経済は長い停滞に喘ぎ、少子高齢化に根差す社会保障費増大、膨大な累積債務の個人当たり負担増にも拍車をかけられ消費の減退は明らかです。他方、BRICSをはじめとした新興国の台頭。それは市場拡大のチャンスであると同時に、競争激化の猛威とも捉えられるでしょう。成長目覚ましい各国と比して、国の政策があまりに財界に対し不親切であることにも皆さん、苦しんでおられることと思います。加えてインターネットを通じた様々な技術、サービス進化により、情報のボーダレス化、陳腐化はますます早くなり、また、国境や外形的な組織の垣根を越えた「つながり」が組成されています。これらにも後押しされるようにしてグローバル化は更に進行し、国際分業が進む中で合従連衡、バリューチェーンの再構築なども促進されてきました。
言わずもがなの、これら外部環境のドラスティックな変化に対し、内側にある自社は(前出の経営幹部の皆さんの言葉を借りれば)「短期的」で「部門最適」の「狭い箱」でしか考えられず、行動できていません(このあたりは第3回で詳説します)。そもそも、そのように考え、行動するように、ヒトも組織も作ってしまってきた。その有様はさながら、豪速の台風の中、小さく脆い箱の中で呼気を止め、災禍が過ぎるのをただ待っている小動物の姿を私に連想させます。そして仮に、無事にやり過ごし、小さな箱に留まる息苦しさから開放されたとしても、箱の外に既にこれまでと同じ世界はなく、風雨に耐え、むしろこれを活かす生き方を身に着けた者たちが、跋扈し歩いている、という図です。かたや、高度成長期、追い風に対して負けじと走った団塊世代は同様の呼吸しづらさを感じていたでしょうか――。このあたりに、行き止まり感、閉そく感と呼ばれるものの根があるように私には思えます。
では、閉塞感を打破するのはどのような力か。2010年に経済同友会がまとめた「10年後にも競争力を保つために日本企業が取り組む必要がある課題」(下の図を参照)を見ると、特にニーズの高い上位4つのうち半分が「独自性の高い製品・サービスの創出」「イノベーション」という、「新たな発想」を必要とする領域に触れています。
またアメリカの人材コンサルティング会社DDIの「Global Leadership Forecast 2011」というグローバル企業のリーダーおよびHRプロフェッショナル約1万3000人を対象にした調査では“リーダーに求められているが最も欠けている能力”として「クリエイティビティとイノベーションを育てるスキル」が挙げられています。
いずれの調査からも、困難な経営環境に身を置く企業リーダーらが、(使われる言葉は違えど)「新たな発想」が組織から生み出されることに期待をかけていることが伺えます。
無論、社員が従来にない発想をするだけで経営が強化されるわけではありません。そこには「クリエイティビティ(発想)」→「エグゼキューション(実行)」→「イノベーション(革新)」という3つの大きな流れが必要です(発想を革新に結びつける実行段階については様々な必要要素があり、「インボルブメント」「インプリメンテーション」など呼ばれ方も異なりますが、ここではひとまず便宜的に「エグゼキューション」という言葉を置いておきます)。
「新たな発想」は本当に起爆剤となるのか。このあたり、混在して使われがちな言葉の定義も含め、次回、より仔細に思考を深めていかれたらと思います。
※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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