イノベーションを生み出す人・組織の力(上)
- イノベーション人材
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井上 陽介
グロービス講師
消費の成熟や人口減、グローバル化の進展などの経営環境の変化により、多くの企業が従来からの戦略の方向転換を迫られています。本インタビュー・シリースでは、経営戦略の実現のために「人・組織」の観点から尽力する経営陣や人事部の責任者の方々に、お取り組みの内容やご苦労を語っていただき、明日を切り拓く人事の役割とは何か、という点について掘り下げていきます。読者の皆様に少しでもヒントになれば幸いです。
第1回は、「サインレス」「永久不滅ポイント」などの革新的なサービスによりカード業界にイノベーションをもたらし、業界最大級に成長した株式会社クレディセゾンの戦略人事部長 武田雅子氏です。インタビュアーはグロービス・コーポレート・エデュケーションのマネジング・ディレクター 井上陽介です。
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管理職の48.2%※が女性。女性活躍度No.1をめざす
武田雅子氏(株式会社クレディセゾン 戦略人事部長)
井上:御社は「サインレス」「永久不滅ポイント」などのイノベーションを通じて成長を遂げられた企業として注目されています。また管理職の48.2%、ほぼ半数が女性というダイバーシティの先進企業でもあります。
ダイバーシティを含む個人の活性化、イノベーションが生み出される組織づくり、その背景となる組織風土という論点に加え、武田さんの想いなどを交えてお話しいただければと思います。
まずダイバーシティと個人の活性化について伺います。林野宏社長がつねづね「女性活躍度No.1を目指す」とおっしゃっているそうですが、その背景や想いはどのようなことだったのでしょうか?
武田: 当社の女性活用は1970年代、現クレディセゾンの前身である緑屋の時代から始まっています。緑屋はセゾングループの月賦制小売事業だったのですが、長く業績不振でグループ内で男性が十分に配置しにくかったのです。そこで女性にも活躍してもらう必要が生じ、結果として女性社員が実績をあげたので、女性の実力を認める認識が広がりました。弊社のお客様には女性が多く、百貨店などのサービスカウンターでお客様対応を任されているのもほとんどが女性です。そういうビジネス上の特徴も背景にあります。
このような経緯で、当社にはピープル・マネジメントの経験がありかつ数字の責任を担っている女性管理職の予備軍が多数存在することになりました。
とはいえ、昨今は出産を経て復職する時短勤務者が増えており、全体のバランスを踏まえた上での女性活用は大切なテーマだと考えています。また、それ以上に、女性リーダーの輩出をさらに加速することは当社でも大きな課題です。
※2012年、同社ホームページより
7つのキャラクター診断で個性にあった活躍を引き出したい
井上:御社の雇用形態は、働き方や仕事の範囲、職域、給与の違いなどによって13種類あり、かつ要件を満たせば途中で働き方を変えることも可能だそうですね。きめ細かく、一人一人の働き方を大切にしようという考え方はどこからきているのでしょうか。
武田: 社長の林野がつねづね「みんなが同じことを考えて、同じことをする会社はつまらない」と言っています。当社では違いがある組織の方が強いという考え方が基本です。
なぜなら、多様な人が集まる方が変化の兆しが見えやすくなるためです。たとえば「家庭」という言葉の捉え方一つも、その人の年齢、既婚・未婚、どういうライフスタイルかによって変わってきます。その違いのなかに変化を見出すことで、先々の世の中の変化に対応していけると考えています。
当社では、独自の360度診断を以って、7つのキャラクター診断というのを全社員にやっています。7つのキャラクターには、たとえば正しいことのためならば腕まくりしてケンカも辞さない「兄貴・姉御系」や、一見クールだが熱い「インテリガテン系」などがあります。診断の目的は、個々人のキャラクターによって活躍は多様であるという考え方のもと、本人の強みの認識や本人に適した上司の指導をしてほしいということにありました。
裏にあるのはコンピテンシーの考え方です。もともとは私が、当社の活躍人材がいくつかのタイプに分けられるのではと考え、直感的に分けてみたのがきっかけでした。そのタイプ分けをデータで検証していくと、整合性について妥当であるという結果が出たためこれをシステム化しました。
この制度に込めたのは、皆に一律に頑張れというのではなく「あなたにはこういう場面でこういう風に頑張ってほしい」という思いです。当社は全体に非常に責任感が強く、頑張る人材が多いことが特徴です。だからこそ一人一人の多様性に合った頑張り方ができることが大切だと考えています。
井上: 制度と運用の両方から、多様性を受け入れ、一人ひとりの社員に生き生きと働いてもらいたいという経営、そして、戦略人事部としての強いメッセージを感じますね。
新事業の提案制度からリアルな実績を生み出す
井上:多様性を大切にすることで、環境変化を捉えやすくなり、変化に対して機敏になるという趣旨のことを、先ほどおっしゃっていました。では、環境変化を捉えた上で、そこから新しいビジネスのアイディアを生み出すような組織的な取り組みはあるのでしょうか。
武田: 新しい事業アイディアを組織として吸い上げる仕組みとして、社内にビジネスプランの提案制度があります。制度は二種類あり、一つは「自分たちでやりたいこと」がはっきりしている人向けのドリームプランという制度。もう一つは「何かやりたいかわからないが何かしたい」という若手向けの制度でCボードというものです。Cボートでは若手社員がグループに分かれ数カ月かけてビジネスプランを練り込んで経営陣に提案します。
提案制度を継続するには苦労もありますが、会社としては、このような制度が社内にあることに価値があると考え、継続する方針です。
井上:他の会社では新規事業の提案制度を取り入れても、なかなか案が上がってこないというお悩みを伺います。
武田:その点は当社でも苦労しています。戦略人事部の中で提案制度の事務局に配属された若手はこんなに大変だと思わなかったと悲鳴をあげるほどです。多くの人が、提案は何もしなくても上がってくるように思っていますが、そうではありません。
一番重要なのは、絶えず手を打ち続けることです。私は「提案制度は自転車で、バイクではない」といつも言っています。「エンジンがついて勝手に走るものではないから、いつも漕がなければいけない」と。
たとえば、経営の関心にかなうテーマを探して、社内の様々な部門を回ります。時には、組合と情報連携したり、営業推進部で教育の一環として取り組みをしてもらうこともあります。あるいは地方拠点で現場の素晴らしい取り組みがあれば「素晴らしいのでぜひドリームプランに提案してほしい」と説得したりしています。
私たちは人事部ですが、動きとして意識しているのは提案されたビジネスプランの広報的な役割です。いろいろな部門、機能と連携し、検討に値するビジネスプランが提案されるように進めています。
なぜそうしているかというと、提案制度も社内に対して目に見える実績をつくることが重要だからです。社員は人事制度などをなかなか読んでくれません。それより「あの人がドリームプランで新事業プランを提案し賞金100万円をもらった」と言えばリアルな事例として拡がり、経営が新しい提案を期待しているというメッセージが伝わります。
人が動いてくれるツボを押さえて、現実を創っていくことが重要です。この感覚は人事部というよりむしろ、広報や営業的かもしれません。
井上: 実際に提出されるプランの質はどうでしょうか。弊社がお客様にご提供している研修でも、経営課題に対する提案をグループでつくり、経営陣に発表するというタイプのプログラムがありますが、経営の検討に耐える精緻なプランが出てくるまでは大変です。
武田:林野が言っているのは「小さなジョブズをたくさんつくれ」。ジョブズのような斬新なことを、小さくても良いので続けていくべきと言っています。
ですので、提案制度は重要なのですが、提案の中身の質を上げていくのは大変です。上がってきた提案の中身を引き上げて、現場の実行に落とし込むところまで、人事の仕事として行っています。
提案ごとに、誰にブラッシュアップしてもらうか、実行には誰を巻き込む必要があるかを考え、手を打っています。提案が最終的に通らないということはもちろんありますが、ここまで手をかけると、そのプロセスで多大なフィードバックをもらえるので、提案をした本人にとっては成長の糧となります。
そのような効果もあるので、提案制度で出てきた新しい提案に対しては戦略人事部としても粘り強く支援しています。
井上: 一人一人の個性を尊重する思想があり、その個性を爆発させて成長を促す制度があり、それらを「実績」に結び付ける力としてまさに戦略的に人事部が動いているということですね。
武田: はい、結果として当社には自由闊達な社風が生まれています。規律を守ることに厳格な金融業界のなかで、当社の自由度は珍しいです。
編集部より |
インタビューを通じて見えてきたのは、個人の多様性を尊重し、変化への対応力を高めるという経営の意図を実現するために人事部が動的に機能している姿です。個人の活性化を促す施策や、提案制度自体は、取り入れている企業は世に少なくありません。一方、その制度を運用し、真にイノベーションを創出する場にするために、人事部がここまで徹底して動いているかという点は、多くの企業に問われるところではないかと思います。 次回のインタビューの後半では、クレディセゾンのイノベーティブな組織を支える組織風土についてのお話をお届けいたします。組織作りの行動指針である「ヒューマニズムの組織風土創り」策定にあたって、社長の原案の4分の3を武田さんが赤入れをされたといいます。普通の会社で考えられない自由闊達かつ建設的な議論ができる風土がどのように創られてきたのかを、次回ご紹介いたします。 |
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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。
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