研修効果測定における理想と現実~現実と向き合いながらも、有効な打ち手を導く為には?~

公開日
テーマ
  • アセスメント
執筆者
  • 佐々木 健二のプロフィール

    佐々木 健二

    グロービス講師

研修の効果測定をどうすべきか、多くの育成担当者が頭を悩ませています。重要性は高い一方、人の行動・能力・意識の変化を促すという研修の性質上、効果の測定・可視化は困難です。困難なりにどのような取り組みができるでしょうか? 本コラムでそのヒントをご提供します。

研修を評価する4つのレベル

研修の効果測定は今までにも研究がなされ、多くの考え方が生み出されてきました。今回はカークパトリックの研修を評価する4つのレベルを紹介します。研修効果を反応、学習、行動、結果(トレーニングによるビジネス上の成果)の4つのレベルで評価するものです。

レベル1:反応 参加者がどのような反応を示したか
レベル2:学習 知識・能力の向上はあったか
レベル3:行動 研修の学びがどの程度活用されているか
レベル4:結果 ビジネス上の成果があったか

(参考:ドナルド・マケイン、研修効果測定の基本~エバリュエーションの詳細マニュアル~(ASTDグローバルベーシックシリーズ)、ヒューマンバリュー、2013年を基に一部編集)

レベルが高いほど、測定は難しくなります。たとえばレベル1・2であれば、アンケートや振り返りシートを用いて研修の場で測定可能です。レベル3になると多くの場合、研修の場では完結せず、職場で一定期間を掛けて行動の変化を測定する必要が出てきます。レベル4になると難易度はさらに上がります。ビジネス上の成果につながるにはより多くの時間が必要であり、また、成果を表す指標の変化と研修の関係性を見極める必要があるからです。モデル自体の説明は本題ではないため、大まかに4つのレベルがあるということ、レベルにより難易度が異なることを、ここではご認識ください(図1)。

研修の評価レベルと測定の難易度
図1:研修の評価レベルと測定の難易度

研修の効果測定における課題

研修の評価レベルが高いほど、研修の学びをビジネスで活かせたか否かを判断できます。一方で、測定は困難になります。実際に、これまで筆者がお会いした育成担当者からは、以下のような声を多数お聞きしました。

  • 育成は短期で成果が出るものではない。どの程度の時間(期間)を見ればいいのかわからない
  • 成果との明確なつながりを見出せず、納得感が薄い
  • 測定に手間とコストがかかる
  • 研修後に職場の協力を得ることが難しい。得られたとしてもバラつきが生じる
  • 研修は複数やっていて、自身の業務も育成だけではない。とてもリソースが足りない

このような理由から、上述のカークパトリックモデルのレベル1:反応、もしくはレベル2:学習の測定で精いっぱいというのが、多くの企業さまの実態です。したがい、リソースが限られた中で現実をシビアに見つつ、知恵を絞ってベストを尽くす姿勢が重要です。

では、具体的にどのように考えればよいでしょうか? 3つのステップを紹介します。効果測定の考えはさまざまありますが、その一つとして参考になればと思います。

ステップ1:目的を押さえ、どこまでやるべきかを考える(理想)
ステップ2:研修の種類を踏まえ、どこまでやれるかを考える(現実)
ステップ3:理想と現実を加味し、どこまでやるかを決める

次項から3ステップの詳細を解説していきます。

ステップ1:目的を押さえ、
どこまでやるべきかを考える(理想)

まずは効果測定の理想を考えてみましょう。レベル1~4のどこまでやるべきでしょうか。それを考える上で重要なポイントは「研修のゴールは何か?」「なぜその研修の効果測定をするのか?」の2点です。詳しく見ていきましょう。

研修のゴールは何か?

研修のゴールとは「研修終了後の受講者のあるべき状態」です。研修前の状態から、何が(たとえば認識・能力・態度・行動などが)どのように変わっていて欲しいのかを明確にします。ゴールが定まっていないと、測定できません。なお研修のゴールを考える前に、組織としてあるべき人材像を定義しておきましょう。研修のゴール(研修終了後の受講者のあるべき状態)は、あるべき人材像への通過地点だからです。

なぜその研修の効果測定をするのか?

次に、なぜその研修の効果測定をするのかを明確にします。たとえば以下のような目的が考えられます。自社にとって、何を目的に効果測定をするのかを具体的に押さえておくことが重要です。

  • 施策のPDCAのため:個別のプログラムや育成体系の見直しに役立てたい、効果測定によって行動変容・定着を促したいなど
  • 成果の認知のため:経営陣へ投資対効果を説明したい、育成部門としての成果を明確化したいなど
  • 学びの社内浸透のため:効果を提示することで学ぶことの意義・重要性を社内に浸透させたいなど

たとえば効果測定の目的が施策のPDCAで、具体的には「研修後、何がハードルとなって行動変容・定着に至らないのかを見極めたい」だったとしましょう。すると、学んだ内容を有益だと感じていないからではないか、理解できていないからではないか、取るべき行動が具体的になっていないからではないか、行動は一時的に変わったが、続ける中で手ごたえを感じられなかったからではないかなどの仮説が立ち、仮説にもとづいて測定すべきレベルと項目を明確にできます。この例では、レベル1~3にフォーカスすればよさそうです。

目的が経営陣への報告の場合も考えてみましょう。一見、レベル4:成果の効果測定が必要に感じるかもしれません。しかし目的を押さえると、実はレベル1~2で十分なケースもあり得ます。たとえば目的を具体的に考えた結果、「新たな経営方針に沿ってトライアル導入した研修プログラム。受講生の反応と学習レベルのフィット感を報告し、経営陣に対象の拡大の判断を仰ぎたい」だったとします。この場合、レベル1~2で経営陣への報告は十分に可能です。

ステップ2:研修の種類を踏まえ、
どこまでやれそうかを考える(現実)

実は研修の種類によっても、効果測定の難易度は異なります。しかし、効果測定で悩んでいると相談をいただく際に、「いろいろな研修がある中で、どの研修の効果測定でお悩みですか?」と質問すると、明確でないケースがあります。何の研修の効果測定を行いたいのか、明確にしておく必要があります。

たとえば部門研修として、営業部門全員が受講する「提案力強化研修」を行ったとしましょう。以下のような効果測定ができそうです。

レベル1:反応をアンケートで確認し、レベル2:学習度合は振り返りシートで確認できます。加えて、レベル3:行動では、上司がチームメンバーの提案書をレビューしたり、営業同行を通して実践度を見ることができそうです。上司も同じ研修を受けていれば、ある程度精度の高い行動の支援や評価が期待できます。加えてレベル4:成果面では提案数・受注率・受注単価等の変化を見ることで測定できるかもしれません(必ずしも研修だけの成果かどうかの因果関係の特定はできないとしても、相関は確認できそうです)。

別の例として、階層別研修として実施した「経営戦略研修」を測定する場合はどうでしょうか。各部署(研究・開発・企画・購買・製造・営業・人事・財務・情報など)の新任課長が参加し、経営戦略の考え方を学びます。

この例でも、レベル1:反応とレベル2:学習は「提案力強化研修」と同じ要領で可能です。しかし、レベルレベル3:行動については同じ要領というわけにはいきません。受講者が所属する部門・職場が多岐に渡るため各職場の協力が必要になります。仮に職場の協力を取り付けても、職場ごとに行動の支援・観察にばらつきが生じる場合もあります。また、部門・職場によっては研修で学んだ内容の実践機会に乏しい場合もあります。レベル4:成果についても、見るべき定量指標を職場ごとに定める必要があるため、「提案力強化研修」よりも難易度は高まるでしょう。何とか数値を出せたとしても、数値の妥当性に疑問が残ることもあるでしょう。

今回の例では、以下の点に違いが見られました。

  • 受講者の部門が単一か複数か 
     →多いほど、巻き込むべき職場の範囲が広がる
  • 学ぶ内容が職場でどれだけ浸透・共有化しているか 
     →浸透・共有化が遅れているほど、職場実践の支援と観察がバラつき、測定の質が下がる
  • 今日のための研修(現職務直結のもの)か明日のための研修(現職務の一歩先)か
  • 受講者が学びを実践する機会がどの程度あるか
     →一歩先の内容で実践機会が少ないほど、行動変容に要する時間が長く、測定しづらくなる

これらの特性と制約条件(人手や時間などのリソース)を踏まえつつ、現実的にどこまでやれるかを考える必要があります。

ステップ3:理想と現実を踏まえながら、
どこまでやるかを決める

理想と現実を把握できたら、どこまでやるかを決めましょう。今回ご提案するのは、レベルの高さだけを求めず、奥行きに着目するという考え方です。

図2にレベルの高さと奥行きの例をまとめました。

レベルの高さと奥行きの例
図2:レベルの高さと奥行きの例※状態遷移の順番は必ずしもこの限りではありません

図2のピンク色部分は、各レベルで注目されやすい項目です。一般的に、レベル1では満足度・有益度、レベル2では知識の習得、レベル3では行動の変化、レベル4では業務活動の成果(プロセスパフォーマンス)や業績の変化・向上が注目されます。

各レベルを具体的に掘り下げると、同じレベル内でありながら状態の違いがあることに気づきます。この状態の違いを奥行きと表現します。図2のグレーの点線部分が奥行きです。

例えばレベル2では、知識の習得ができている→学んだことを自分に引き寄せて教訓を得ている→今後の行動が明確になっている→その行動を取る際の自身の課題を理解している というように、同じレベルの中でも状態の発展度合(奥行)が異なります。

レベル3も然りです。行動が変わった→行動を変えることができた要因を振り返り、再現性を高めるヒントを得ている→行動が変わったことで仕事の幅や周囲との関係性が変わり自身が成長したという実感を持てている、というようにここでも奥行きを見出すことができます。更に、行動変容の前に思考(ものの見方・考え方)の変化という項目を置くといったように、後ろだけではなく前(先行指標)を設定して奥行を見出すというのも一手です。

奥行きに注目できれば、レベルを上げずに一歩踏み込んだ効果測定の打ち手・仕掛けを考えることができます。

奥行きの考え方を活用した事例を2つご紹介します。いずれもレベル3:行動の測定は断念したものの、奥行きを追求することで測定内容を改善しています。

グロービスの提供した、研修効果測定の事例1

効果測定の考え方:
レベル3:行動の測定は断念し、レベル2:学習の奥行きを追求。行動変容の可能性の高さを見ることにした。

効果測定の内容:
研修終了後に学びの振り返りシートを提出してもらい、「教訓の獲得(引き寄せできているか)」「今後の行動が明確か」「行動に際しての自身の課題が見えているか、自信を得ているか」を確認した。

グロービスの提供した、研修効果測定の事例2

効果測定の考え方:
レベル3:行動の測定は断念。行動変化の先行指標として「思考の変化」を見ることにした。

効果測定の内容:
研修後の課題として「組織のあるべき姿」「現状の課題」「今後のリーダーとしての行動」を記入してもらい、研修前後での思考の変化(設定する課題の視座・視野・具体性の変化)を確認した。

ここまで理想と現実を確認し、奥行きという視点を入れてどこまでやるかを決めました。最後は、具体的な打ち手に転換するのみです。図3のチャートでは、効果測定の具体的な打ち手を3W1Hの切り口でまとめたものです。横方向へオプションを組み合わせることで、打ち手を考えやすくなります。たとえば以下のような施策が考えられます。

  • 有益度を測るために、研修直後に、本人に、アンケートを実施する
  • 理解度を見るために、研修直後に、本人に、振り返りを提出してもらう
  • 行動の変化を見るために、研修一定期間後に、本人に対して、アンケートとインタビューを実施する
  • 行動の変化を見るために、研修一定期間後に、職場上司に、観察してもらう
図3:効果測定の具体的な打ち手
図3:効果測定の具体的な打ち手

具体的な打ち手を考えたうえで、詳細を詰めていきます。たとえばアンケートや事後課題であればどんな設問・問いを用意するか、観察・フォローであればどういった基準で行うかなどです。詳細を固めたら、あとは実行するのみです。

最後に

本コラムでは、研修の効果測定に焦点を当て、効果測定の考え方の1つを紹介しました。ステップ1として効果測定の理想を考え、ステップ2として現実的なラインを押さえ、ステップ3として実際の打ち手を決めていきます。厳密に測定しようとすれば難易度とコストが飛躍的に増すという現実をシビアに見つつ、知恵を絞ってベストを尽くす姿勢が求められます。

研修の効果測定は多くの方がジレンマを抱くテーマです。当たり障りない内容ではお役に立たないため、あえてスタンスを取って執筆しました。本コラムで紹介した考え方は、あくまで一例です。もし研修の効果測定でお悩みであれば、より詳細な情報提供が可能です。ぜひお気軽に、グロービスへご相談ください。

 ※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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