事業統合後の社内コミュニケーションや意思疎通が悪くて困っています

公開日
テーマ
  • イノベーション人材
  • 中堅社員育成
  • 管理職育成
執筆者
  • 麻生 隆文のプロフィール

    麻生 隆文

    グロービス講師

【お悩み】
我が社では、グループ経営の効率化を目指して、グループ会社を再編しました。子会社間で事業を統合し戦略や施策の一本化を図ったので、やるべき方向性は明確になったはずですが、現場の足並みは揃わず、お互いに議論も噛み合いません。どうしたらいいでしょうか。(医薬・経営企画)

【お答え】
議論の際には「用語」だけでなく、「言葉の持つ温度感」まで揃え意思疎通を図ることがポイントです!

はじめに

グロービスで法人営業のチームリーダーを務めている麻生(あさお)です。組織開発・人材育成のコンサルタント経験も含めて、10年以上にわたって企業の経営課題・人材育成課題と向き合ってきました。
経営から現場に、事業統合の意義や一本化を図った施策内容は明確に伝えてきたつもりだ。普段の会議や朝礼でも意識して大事な“キーワード”を繰り返し、本部長から直々に経営会議の内容を社員に伝える場もある。

それなのに、シナジーが発揮されるどころか、現場はバラバラで、議論も噛み合っていない!どうしたら意思疎通が図れるか……。

これは私が最近よく相談を受けるテーマです。読者の皆さんにも似たような経験があるのではないでしょうか。私もその1人です。

共通言語と組織文化

前職の銀行で合併を経験したときに強く感じたのが、実務の中で使う銀行用語は同じなのに、その言葉の持つ緊急度、重要度、リスク感覚が両行の行員間で全く異なることでした。

例えば銀行の支店では、窓口の終了時刻(午後3時)の後に、1日に行われた取引の勘定が合っているかどうかを確認します。この業務を両行とも「勘定合明」(かんじょうごうめい)と呼んでいました。

ところが、この言葉の受け止め方には組織ごとに違いがあったのです。「15:30の時点で勘定合明が終わっていない」と指摘しても、「それは急がないとマズイ」と思う人と、まったくそう思わない人がいました。

これでは一緒に仕事をしていても、すれ違いや対立が生じてしまいますし、ミスも起こりかねません。そのことに気付いたとき、ヒヤリとするとともに、言葉には組織文化が染みついているものだとつくづく感じました。

ビジネスで大切なコミュニケーション力

ビジネスでは、「何を伝えたか」ではなく、「どう伝わったか」が大切です。そのうえ、同じ言葉を使っていても、相手が同じように理解しているわけではありません。ある言葉を発したときに、相手はどのような認識を持ち、どのような関心を寄せ、どのような反応をするのか。こちらの伝えたいこととギャップがあれば、その差分を埋め合わせる努力を惜しまないこと。言葉の持つ温度感まで相手と揃えきらないといけません。

ところで、これは事業統合の場面だけではなく、日常の他部門とのコミュニケーションや上司部下との身近なやりとりにおいても大事な点です。では、普段から言葉の使い方にこだわり、感度を上げるための処方箋はあるのでしょうか?

クリティカル・シンキングがなぜ役に立つのか

このような問題意識を持ったお客様と議論すると、実はクリティカル・シンキングなどの思考系科目が役立つという声が多いのです。なぜかというと、大きく3点あります。

・まず、大切なのは「何を伝えたか」から「どう伝わったか」へと認識の転換が起こるから。伝えたつもりでも実は伝わっていない状況にも想像力をめぐらせ、アンテナを立てることが解決の第一歩です。

・次に、相手が「どう受け止めたか」を慮る(おもんぱかる)ようになるから。思考系科目では、相手の認識の前提や関心、引き出したい反応に注目することを重要な学びのポイントの1つにしています。

・さらに、ある言葉の意味を意図した通りに理解してもらうために、何を補う必要があるかを考えるようになるから。思考系科目でとことん追求するのは「具体的に考える」こと。相手が抱いている隠れた前提は何か、埋めるべき誤解は何か、というように具体的にひも解いていけば、自分と相手の温度感を揃えるアクションもおのずと明白になるのではないでしょうか。

クリティカル・シンキングはビジネスの基本であり、適切なコミュニケーションをとるための土台や土壌となるものです。仕事は言葉を使ってするものなので、ぜひ肥沃な土壌を蓄えて、ビジネスの成果としての作物を実らせましょう!

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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