人材育成お悩み相談室
日本人の海外駐在員が十分に活躍できていません。語学力は高いのに……

執筆:小林 竜也

2016.09.26

1人1人の社員の成長サポートのみならず、グローバル化や組織変革等々……。戦略を遂行するための肝ゆえに、幅広く難所も多いのが人材育成の仕事。グロービスの組織開発・人材育成コンサルタントが、そうした育成担当者の方からよくいただくお悩みにお答えします。

【お悩み】 わが社では、日本市場が伸び悩む中で海外事業の拡大が急務となっています。グローバル人材として申し分ないエース級人材を日本で選抜して海外駐在員として何人も派遣しているのですが、なかなか目に見えるような成果につながりません。英語力もかなり高いはずなのですが、現地採用スタッフをうまく使いこなせていないという話も伝わってきます。どうしたらよいでしょうか。(製造・国際事業室)

 

【お答え】 “日本人プレミアム”をそろそろ外してみませんか?

グロービスで組織開発・人材育成のコンサルタントをしている小林です。今回のようなお悩みは、私が担当する企業さまからもよく聞こえてきます。特にグローバル化に先行してきた企業ほど危機感が強いようです。ある大手企業の人事部長さんは、「グローバルリーダーの選抜において、本社の日本人社員が勝ち残れなくなっている。外国人社員の方が明らかに適性が高いからだ。このままでは、グローバル事業でリーダーとして先頭に立つ日本人社員がいなくなってしまう」と溜息をつきます。

私は、この課題に内在する本質的な問題は大きく2つあると考えています。

第1に、日本人社員の多くが、グローバルリーダーとして活躍するための訓練を受けていないため、グローバルリーダーとして必要なスキルを持ち合わせていないこと。第2に、日本企業なのだから海外でも日本人がトップを張るのは当然だと考え、日本人を職位・待遇面で特別扱いする“日本人プレミアム”の発想から抜け出せていないこと――です。

前者については、「英語力」「異文化コミュニケーションスキル」「世界的視野」を鍛える必要があります。語学力、特に英語力は必須です。この点に議論の余地はありません。しかし、英語がどれだけ上手であっても、それだけでは不十分です。文化や宗教、生活習慣、ものの考え方が極めて多様な海外のビジネス環境においては、(1)自分の意見を分かりやすく伝える「プレゼンテーション能力」、(2)多様な意見をぶつけ合い、合意に導く「ディスカッション能力」、(3)リーダーとして、ディスカッションを活性化し、チームとして業務を円滑に進める「ファシリテーション能力」――の3つが不可欠なのです。TOEIC・TOEFLといった試験で培える英語力では必ずしも身に付かない「異文化コミュニケーションスキル」が、グローバルなビジネス環境では欠かせないのです。

このようなスキルを磨くための研修プログラムとして弊社が提供しているのが「English Management Training(EMT)※」です。抽象的、間接的、感情抑制、対立回避、コンセンサス重視といった日本人特有のコミュニケーション・スタイルは、外国人からは「何を言っているのかさっぱり分からない」「自分の意見がないのではないか?」「リーダーシップが薄弱」と見えてしまいます。実際、以前私が担当したグローバル選抜研修に参加されていた日本人の方も、外国人参加者に囲まれた中でなかなか議論に参加出来ておらず、大変苦労をされていました。EMT研修プログラムは、このギャップを集中的に埋めるための実践演習で、将来のグローバルリーダー候補や派遣前の駐在員育成研修プログラムとしてもご好評をいただいています。

 

米消費財大手のシンガポール支社に“米国人プレミアム”は無かった

「個の力」を向上させることに並行して、「仕組み」を整える必要が高まっていると思います。先程挙げた“日本人プレミアム”の発想から脱皮することは、日本企業がグローバル競争に勝ち抜いていく上で避けては通れない関門です。

日本人プレミアムとは、海外拠点のトップやマネジメント層には、現地採用社員ではなく、本社から派遣された日本人駐在員が就くといった前提条件のことを言います。長く当然と考えられてきましたが、様々な問題点が指摘されています。例えば、現地スタッフがいかに優秀で成果を上げたとしても“ガラスの天井”に阻まれて昇進できないのでモチベーションが上がらない。であるが故に、優秀な人材は抜擢や昇給のチャンスが多い欧米系企業にどんどん移籍してしまう。あるいは、優秀な人材はそもそも日本企業を選ばない――といったことです。これは、海外で事業を展開している多くの日本企業に共通する大きな課題だと思います。

私自身の経験から1つ。大学卒業後に米国系大手消費財メーカーに就職し、シンガポールに駐在する機会を得ました。驚いたことに、2000人規模の大組織にもかかわらず米国本社からの派遣組はほんの数人しかいません。幹部層から現場まで、ほとんどの社員がシンガポール人、インド人、フィリピン人、オーストラリア人、ドイツ人、中国人等で、日本人の私を含めて十数カ国もの多様性に富む混成チームで構成されていました。出身国によるいかなるプレミアムも区別もなく、フラットな条件で競争し、成果を上げた人が認められていくのです。現地採用者が支社トップに抜擢されることもありました。実力が厳しく問われますが、競争条件はフェアであり誰にでもチャンスが与えられていました。だからこそ、世界各国から有能な人材が集まり、会社自体のグローバル競争力を引き上げているのです。

翻って、果たして“日本人プレミアム”というやり方を維持したまま、日本企業はグローバル競争に勝ち抜いていけるでしょうか。個人的には、そろそろ限界に近づいているのではないかと感じています。“日本人プレミアム”を外して考える時期に来ているのではないでしょうか。

日本人社員にグローバルリーダーとして本当に活躍してもらうためには、個のスキルを鍛え上げること、優秀な海外人材と同じ条件で真正面から競い合う実践経験を積ませることの2つが必要です。少し時間はかかりますが、近道はありません。

※English Management Training(EMT)についてはこちらからお問い合わせください。

 

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執筆者プロフィール
小林 竜也 | Tatsuya Kobayashi
小林 竜也

グロービス・コーポレート・エデュケーション シニア・コンサルタント
慶応義塾大学法学部法律学科卒業。大学卒業後、プロクター・アンド・ギャンブル(以下P&G)・ジャパンのマーケティング本部に入社。日本市場に向けたマーケティング活動に従事。その後、シンガポールにあるP&Gアジア本社に駐在し、アジア市場に向けたマーケティングを担当。「グローバル・リテラシー」を磨くため、約2年間で世界一周・日本一周し見聞を広めた後、グロービスへ入社。グロービスでは、人材・組織変革コンサルタントとして、大手小売系企業のグローバルマネジメント人材の育成、 大手金融グループ管理職のアセスメントプロジェクト、大手メディア会社の役員研修を通じた事業構造転換の支援等、様々な企業の組織開発・人材育成を担当。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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