人材育成お悩み相談室
「集合研修(OFF-JT)では人材育成が出来ない」と言われます

2017.04.21

【お悩み】
上層部から「集合研修Off-JT)で人材育成が出来ない。OJTで人を育てるべきだ」と言われてしまい、研修の企画がなかなか通りません。しかし、実態はOJTと称して現場に任せきり。どうすればいいのでしょうか。(素材メーカー研修企画担当者)

 

【お答え】
Off-JTでもOJTでも「意図した」人材育成になっているかどうかが大事です。

執筆者プロフィール
槙本 裕介 | Yusuke Makimoto
槙本 裕介
学習院大学経済学部卒業 グロービス経営大学院経営研究科修了(MBA)
大学卒業後、オフィス関連・設備機器メーカーに入社し、大手金融機関向けに空間構築のソリューション営業を経験。また、大規模案件のプロジェクトマネジメント及びカスタマイズ製品企画・開発にも携わる。その後グロービスに転じ、現在は人材・組織開発コンサルタントとして、大手企業の経営人材育成プロジェクトの企画・実行支援等を行っている。同時に、研修プログラムの開発、クリティカル・シンキングの講師も務める。

はじめに

グロービスで組織開発・人材育成のコンサルタントをしている槙本(まきもと)です。これまで150社以上のお客さまと議論してきましたが、「集合研修Off-JT)で人は育つのか?」という話をよく聞きます。

特に、企業の上層部の方がそのような意見を強く持っていると、人材育成担当者は悩みます。実際には、OJTOff-JT、どちらが大事なのでしょうか? 本コラムを通じて考えていきましょう。

なお本コラムでの言葉の定義は、以下のように考えてください。
OJT:上司や先輩の指導のもとで、職場で働きながら行われる訓練
Off-JT:仕事から離れて行う訓練(教室などで行われる集合研修が典型例)

意図なきOJTの弊害

先日も、あるエンジニアリング企業の人材育成課長から以下の話を聞きました。

「当社の企業文化として、OJTで教育しているので研修は不要だ、というスタンスがある。しかし、実際に現場でヒアリングしてみると、トレーニングといえるような取り組みは行っておらず、仕事を任せ、やり方をつど教える程度。教え方も自己流で、効果的かどうかは不明。環境の進化にも対応できていない。」

このように、「OJTをやっている」というのは「仕事をやっていれば大事なことは自然に覚えていくものだ」という考え方が前提にあり、結果としてトレーニングにもなっているはずだ、と言っているのにすぎない場合が少なくありません。

こういった問題意識を持っていたこの課長は、徹底して現場でヒアリングを行い、実態を把握。今後のビジネス環境を踏まえたうえで、領域ごとにあるべき技術者の人材像とスキルセットを定義しました。そして、それまでの育成体系をゼロベースで見直して、あるべき像に合わせて新たな体系を作り上げ、一気に組織展開を図りました。

意図なきOJTは、属人的な判断のみが優先される状況となり、むしろ害になることもあります。特に広い層に対して意図した人材育成を行おうとすれば、型として形式知化し、Off-JTで習得させることが有効です。

OJTとOff-JTを組み合わせる

その一方で、Off-JTだけで人が育つのかというと、それはNoと言わざるをえません。職場で実業務に取り組みながらトレーニングすることでしか身につけられない能力や経験も当然ながらあります。また、Off-JTで学んだことは、その後職場で実践し続けなければ定着しないということに、議論の余地はないでしょう。

結局のところ、OJTにしろOff-JTにしろ、最終的に育成対象者にどのような行動をとってほしいのか、そのためにどのような知識・スキルを身につけ、マインドセットの変化を起こしてほしいのか、というゴールを、まずは徹底的に考えることが重要です。そのうえで、ゴール到達のためにOff-JTOJTの両面から総合的にアプローチすることが効果的です。

例えば、あるメーカーでは営業改革のプロジェクトの一環として、計画立案の方法に関する研修や、改革をけん引することを期待される中核メンバーへのスキル強化研修を実施。一方職場では、学んだ方法で営業計画を立案し週次で上司がフォローする、というように、Off-JTOJTにうまくつなげる仕組みを作り、組織全体として仕事のやり方を変えていくことで、成果を上げています。

「研修」ではなく「組織改革プロジェクト」で提案してみましょう

最後に、「研修」がどうしても受け入れられないという上層部を説得するときには、「研修」と呼ぶのではなく、例えばこの企業のように「組織改革プロジェクト」という名称で企画してみてはいかがでしょうか。

大事なのは、やはりゴールを共有しそこに到達するための最適な手段を選ぶことです。そして手段には、その目的をより強く意識できる名称を用いたほうが効果的な場合があります。

(参考:『人事管理入門』(今野浩一郎、佐藤博樹著、日本経済新聞出版社))

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※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。