良い研修を受けても行動が変わらない人がいます

公開日
テーマ
  • 中堅社員育成
  • 次世代リーダー育成
  • 若手社員育成
執筆者
  • 高田 一乗のプロフィール

    高田 一乗

【お悩み】
若手を対象に研修を実施しました。しかし、行動が変わってパフォーマンスが向上する人と、何も変わらない人がいます。前者を増やすために、企画側は何に留意すべきでしょうか。(通信・人材開発部)

【お答え】
学びの「旬」を見極め、反復訓練の場を提供しましょう。

行動変化を起こすための2つのポイント

グロービスで組織開発・人材育成のコンサルタントをしている高田です。私は現在に至るまで、受講者側と研修企画側の両方の立場を経験してきました。

私は20代のときに、数十人の同期と一緒に階層別研修を受講しました。当時は工場で技術者として働いていましたが、研修で学んだスキルを使って仕事に取り組むようになり、それまでとは時間の使い方、会う人、読む本も大きく変わったのです。その研修を通じて、深い衝撃を受けたのは自分だけのようでした。同期の人々はそうでもなかったということが不思議でした。

その後、研修企画者として、論理思考や問題解決、マーケティング、リーダーシップなど、さまざまな集合研修の運営やサポートをする側になりました。研修中の発言や取組み、終了後のアンケート結果を見る限り、「当日は盛り上がったし、うまくいったな」と感じても、現場に戻ると行動がまったく変わらない受講者が多いのです。

受講者の資質・特性・価値観は十人十色である以上、研修の受容や変化の度合いに個人差が出るのは当然なのかもしれません。しかし、「どうして同じ研修を受けても、受講者の反応がこれほど異なるのか?」「1人でも多くの受講者の行動を変化させるには、どうすればよいのか?」という素朴な疑問が残りました。これはおそらく、私だけでなく、研修の企画担当者を悩ませる難しいテーマの1つでしょう。

なぜ自分には行動変化が起こったのかと考え続けて、導き出した私の仮説をお話したいと思います。重要な論点は、「いかに研修で深い気づきを得るか」、「いかに現場の実務で試行錯誤するか」の2つです。

1:いかに研修で深い気づきを得るか

行動が変わるきっかけとなる研修では必ず、自分自身の原体験――多くは失敗や苦労した経験や現在直面している課題――に紐づいて、点と点が線でつながる瞬間があります。たとえば、私は以前、品質問題の解決策をめぐって関係者と意見が合わず、モヤモヤした気持ちを抱いたことがありました。研修で物事を構造化して捉えることを学び、「あのときは、問題を捉える視点が違ったのか!」と目の覚める思いがしたのです。まさに衝撃的な気づきであり、認識が変化した瞬間でした。

実は、このように起点となる原体験がないと、結びつく「点」が存在しないので、深い気づきという化学反応は起こりません。言い換えると、学びにも「旬」があるのです。

どれだけ研修が盛り上がったとしても、核となる「キズ」「ひずみ」がない限り、単なるお勉強で終わってしまうリスクがあります。それどころか、生半可に知識を詰め込んで頭でっかちになり、将来の学びや気づきを妨げる要因にもなりかねません。経験の浅い若手を対象とする研修では、旬かどうかの見極めが特に重要です。

2:いかに現場の実務で試行錯誤するか

研修で深い気づきを得るというハードルに加えて、スキル習得を目的とする研修では、行動変化に至るまでにもう1つ重要なポイントがあります。それは、知識として学んだスキルを実際に使っていくことです。

実は、学んだことをそのまま自身の現場や業務で使えるケースはかなり稀です。多くの場合、現場の様々な業務とすり合わせながら、試行錯誤を繰り返すことが求められます。このプロセスには「古いアプローチよりも時間がかかる」のですが、我慢して使い続けなくてはなりません。

このハードルを乗り越えるためには、上司や先輩がスキル修得のプロセスを理解し、特に生産性が一時的に低下する期間をしつこく、粘り強くサポートして乗り切る仕組みが重要です。たとえば、定期的なコミュニケーションの場を設定して、スキル修得のプロセス上の「どこで」「なぜ」つまずいているのか、それを打開するためにはどうすればよいか、現状の仕事で活用する上では何が肝となるのか、などについて定期的に意見交換するだけでも、スキルの習熟度は全く異なってくるはずです。

対象者の学びの「旬」を見極める

もちろん、人間が行動変化に至るまでのメカニズムは複雑であり、一概には言えない部分もあるかもしれません。しかし、まずは対象者の学びの「旬」を見極めることから始めてみてはいかがでしょうか。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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