激変時代の大転換点を乗り越え、両利きの経営を牽引するリーダーを育成するには

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  • 役員育成
  • 次世代リーダー育成
  • 管理職育成
執筆者
  • グロービス コーポレート エデュケーションのプロフィール

    グロービス コーポレート エデュケーション

未だ新型コロナウイルスの感染拡大など想定外の環境変化が続く中、デジタル変革(DX)、脱炭素化などに果敢に取り組むリーダーシップや、大転換点を乗り越える構想力・決断力・実行力が強く求められてきている。激変する環境の中で針路を示し、多様性のある従業員を束ねて、ステークホルダーにポジティブな影響を与えられるタフなリーダーはどのくらいいるだろうか。

さらに、既存事業を磨き込む<深化>、新規事業を創出する<探索>に挑む「両利きの経営」を機能させるリーダーシップも必要不可欠。日々多忙を極める経営層は、時に過去の自分を否定するなど、時代に相応しい自己成長ができているだろうか。

本レポートでは、株式会社ブリヂストン人事・労務統括部門長江渕泰久氏をお招きして行ったオンラインセミナー「役員(エグゼクティブ)向けプログラムの最新事例と潮流〜激変時代の大転換点を乗り越え、両利きの経営を牽引するリーダーを育成するには〜」の概要を紹介する。(注:セミナーの概要は末尾をご覧ください。文中の氏名肩書は記事公開当時のものです。)

大転換の時代には、自身の認識をアップグレードできるリーダーが必要不可欠

ゲームチェンジ(大転換)の時代に経営層が求められる能力とは何か—

技術革新(破壊的イノベーション)による市場構造の大変革を迫られたり、新型コロナのパンデミックに代表されるように、世界的危機が連鎖して起きる、先の見えない不透明な時代—―経営層は、こうした時代背景をしっかりと認識した上で、タフな決断や難しい意思決定をしなければなくなってきている。

これまでは市場機会を分析・予測すれば対応できたが、これからは事実に基づく客観性や倫理性を重視しながらも、少ないファクト情報の中でリーダー自らが市場を創造し、リードしていかなければならない。そこで必要なのは、リーダー(経営層)としての意思・信念もしくは生き様や経営観である。ダイナミックに変化する今日においては、人間の土台となる部分の質的な変化、コンピュータで言う「OS」のアップデートが欠かせないのだ。

ハーバード大学のロバート・キーガン博士が執筆した『なぜ人と組織は変わらないのか―ハーバード流自己変革の理論と実践―』(英治出版)でも、人は時間と共に、知性のレベルが変わっていくと述べている。

第1段階の社会人になった頃は社会性など環境順応性が高まる「環境順応型知性」、第2段階では、自分なりの羅針盤を持つ「自己主導型知性」が育まれていく。それを過ぎると、第3段階として、自己の価値基準を持ちつつも、あらゆるシステムや秩序は不完全であることを理解し矛盾を受け入れ、環境に応じて自己変容し、行動できるようになってくる。これを「自己変容型知性」と言う。

こうした「認識のアップグレード」では、知恵を磨き、自らの内面を鍛え、本質的な変化を促すために、「人間の認知の限界」をどう広げていくのかが1つの鍵になってくる。限界を自らで受け入れ、良質な知を学び、新たな考え方/言葉、新たな方法論などを獲得していき、さらには「手放すべき対象」を自覚し、向き合っていける力を身に付けていかなければならない。大転換の時代だからこそ、外部の刺激に自らを晒し、自らを高め続ける「自己変革力」が必要になってくるのだ。

良質なインプット(刺激)→スループット(内省)→アウトプット(構造化・昇華)で、自分の軸づくり

グロービスの「知命社中」は、経営陣や役員といった黒帯同士が集い、お互い刺激を得ながら、リーダーシップを磨き込み、自らの使命を自得する場である。今回のセミナーの前半では、「知命社中」の特長や研修プログラムについて、代表の鎌田が解説した。

『知命社中』では、例えば各界の第一人者や専門家との対話、課題図書の精読を通じて、最新のテクノロジー環境下におけるグローバルな経営アジェンダから古典や哲学、深い人間理解を踏まえた上でのマクロ視点での21世紀型教養に至るまで、様々な『知』に触れていく。「この多様性のある刺激(インプット)によって、参加者は自分の軸を支える世界観、歴史観、社会観、使命観など様々な『観』を獲得します」(鎌田)

また、奈良の金峯山寺にて修験僧からの高質な問いや揺さぶり、仲間との議論により、『自分は何者なのか』「自分は何を成し遂げたいのか」といった自己内対話を深めることを繰り返し、自分と徹底的に向き合っていく。

「自分の考えに執着するのではなく、他者の異なる考えにも耳を傾けます。こうした本音の対話などを行うことで内省(スルー・プット)が深まり、外からの刺激を咀嚼していきます」(鎌田)。

最後は、新しく学んだことを言語化という発信(アウトプット)を通じて、自己の価値観を確認し、「古いこだわり」を手放すという一貫性と柔軟性を手に入れることができるようになる。

「例えば、エッセイ(言語化)を書く工程では、同じ問いに何度も向き合ってもらいます。当初一般論的な内容だったのが、自己肯定や自己否定を行き来したりすることで、事業に直結するリアリティを伴った使命感へと変わっていく。それがその人のエネルギーの源泉、あるいは多様性のある人たちを束ね、導いていく言葉に昇華されていきます」(鎌田)

人材育成責任者として、そしてリーダーとして学び得たものとは

セミナーの後半では、「知命社中」第4期生のブリヂストン人事統括部長の江渕氏から「知命社中」で得た学びが、どのように仕事に活かせているかについてお話しいただいた。

江渕氏は、2つの学びが得られたという。1つは、ブリヂストンの人材育成責任者として「学び」である。2015年頃から、江渕氏は人材育成責任者として、それまで200人ものリーダーを輩出してきた「グローバルリーダー養成プログラム」の抜本的な見直しに取り組んでいた。

特に大きな課題となっていたのが日本人リーダーの育成である。日本人リーダーは「オペレーション課題」は得意とするものの、ゼロイチで創出していくような「イノベーション課題」については苦手意識があり、経営から見た時にはリーダーとしての物足りなさを痛感していたからだ。

新しい人材研修プログラムを模索していた時に、江渕氏が最初に相談したのが「知命社中」の鎌田だった。「当時の私にとっては、『自身の主観を磨く』を磨く『知命社中』のコア・コンセプトは、目からうろこが落ちるような内容でした」(江渕氏)

ブリヂストンの従来の「グローバルリーダー養成プログラム」は、リーダーの知識やスキルを高める研修だった。しかし、これからの正解のない時代を勝ち抜くには、最善解を導き出せるリーダーの「主観」が求められてくる。そのために「軸づくり」にフォーカスした研修が必要だと痛感した江渕氏。そこで、2016年には「知命社中」のプログラムをブリヂストン版にカスタマイズして、日本人シニアリーダーを育成する新プログラム「部長塾」が誕生した。

「新プログラムを作るにあたっては鎌田さんにはパートナーとして加わってもらいアドバイスをいただきました。実際研修時には講師として、受講生に新たな刺激や忌憚のない問いを投げかけてもらい、リーダーシップの磨き込みでも伴走していただきました。現在、新プログラムは累計で約90名の部長クラスが受講。アルムナイネットワークも導入し、研修修了後も多くの受講生が学びを継続しています。2019年には1つの完成形ができあがったと思います」(江渕氏)

江渕氏にとってのもう1つ学びは、2019年にリーダーとして受講した知命社中での経験だという。当時、ブリヂストンは『両利きの経営』(ブリヂストン3.0)に取り組んでおり、事業全体の構造変化に伴い、人的リソースをどうやって再構成するかが肝になっていた。そこで、2020年の下期には「ブリヂストンHRX」という人材の再戦力化に向けた人事改革にも取り組んだ。

「この施策に取り組む私の原動力になったのが、『知命社中』で得たものでした。それこそ、経営共創基盤の冨山氏、元LIXIL副社長の八木氏、BCGの御立氏、先人たちの多様なアジェンダ(問い)から自身の世界観や時代観が磨かれ、大きなうねりの中で自社の事業戦略を捉えていく、広い視野が身に付けられました」

また「多彩な同期生たちが自らの使命感に基づいて活躍していました。そんな姿を見て『こんな所で立ち止まっている場合ではない』という想いになったのも大きかったと思います」(江渕氏)

ポイント~役員向けプログラムを考える視点~

ゲームチェンジ(大転換)の時代には、時代の要請に相応しいリーダーシップが求められる。認識のアップグレードと、「ぶれない軸」「経営観」が欠かせない。そのために新たな知の獲得を外に求め、自らを高め続ける「自己変革力」が問われる。


リーダーとして質的変化を図るためには、未知の刺激(知)に触れ、内省・自己内対話を深めて咀嚼・昇華し、言語化などで発信することが肝要である。


最善解が求められる正解のない時代にはリーダーの主観が重要になる。「知命社中」では、そのための「軸づくり」を、多彩な経営者・役員(黒帯)同士が集い、お互い切磋琢磨しながら行う場である。

セミナー開催概要

■開催日時:2021年3月4日(木)9:30-11:30
■会場:Zoomによるオンライン配信
■登壇者

【スピーカー】
鎌田 英治(株式会社グロービス マネジング・ディレクター / 役員向け研修「知命社中」代表) 北海道大学経済学部卒業、コロンビア大学CSEP(Columbia Senior Executive Program)修了。1999年日本長期信用銀行からグロービスに転じ、名古屋オフィス代表、グループ経営管理本部長、Chief Leadership Officer(CLO)などを経て現職。著書『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)がある。経済同友会会員。

【ゲストスピーカー】
江渕 泰久氏 (株式会社ブリヂストン人事・労務統括部門長/「知命社中」第4期修了生)1989年3月大学卒業後、株式会社ブリヂストンに入社。工場人事、営業、海外工場立ち上げなどを経て、本年より現職。

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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