幹部育成とは、経営の意思を受け、戦略を現場で実行する中核人材(幹部人材)を計画的に育てる取り組みのことです。
企業が持続的に成長するためには、経営の意思や戦略を正しく受け取り、それを現場で具体的な行動へとつなげていく人材が欠かせません。その役割を担うのが、経営と現場の間に立って組織を動かす幹部人材です。
ここで押さえておきたいのは、現場で高い成果を上げてきた人材が、必ずしも幹部として力を発揮できるとは限らない、という点です。
「現場は任せられるが、組織全体を動かす視点が育っていない」
「経営の意図が、現場にうまく伝わらない」
こうした課題を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
経営のパートナーとして戦略を実行できる幹部人材は、日々の業務を通じて自然に育つものではありません。意図をもって、計画的に育成することが重要です。
なお、幹部人材と似た言葉に「経営人材」がありますが、両者は別の役割をもつ人材です。
経営人材が企業全体の将来像を描き、中長期の意思決定を担う存在であるのに対し、幹部人材は、そうした経営の意図を現場の実態に即して解釈し、具体的な行動や施策に落とし込む役割を担います。経営人材と幹部人材は、役職や職位の上下ではなく、視座と役割の違いによって区別されるものです。
| 人材区分 | 主な役割 | 特徴・求められる視座 |
|---|---|---|
| 経営人材 | 企業全体の方向性を決定し、組織を導く | 中長期的な視点で、全社最適を見据えた意思決定と変革の推進が求められる |
| 幹部人材 | 経営の意思を受け、戦略を現場で実行する | 現場に根差した視点で、短~中期の成果創出と組織運営の責任を担う |
※関連コラム:経営人材とは?必須条件と育成ステップ、成果に繋がる実践事例2選
この記事では、幹部育成の重要性を整理したうえで、幹部人材に求められる能力や役割、育成を進めるための具体的なステップを解説します。
幹部育成を形骸化させないためのポイントもご紹介しますので、自社の幹部育成の設計や、見直しのヒントにしていただけたらと思います。
幹部育成が重要な3つの理由
企業経営の現場では、次のような声が繰り返し聞かれます。
「事業を任せられる人材がいない」
「幹部候補が特定の属性に偏り、層として厚みがない」
「急な退職や異動で幹部ポストが空いたが、後任が見つからない」
こうした課題は、新規事業の立ち上げや事業承継、急成長期、組織の統合・再編など、企業にとって重要な転換点で表面化しやすい傾向があります。十分な準備がないまま対応を続けるうちに、意思決定が特定の人物に集中し、経営判断の遅れや現場の混乱を招くケースも少なくありません。
その結果、次のようなリスクが生じる恐れがあります。
- 事業の継続に支障をきたす
- 成長が頭打ちになる
- 現場に過度な負荷が集中し、組織全体が疲弊する
こうしたリスクを回避するためには、計画的に幹部を育成し、戦略を継続的に実行できる体制を整えておくことが重要です。
幹部育成を行うことがこれらのリスク回避につながる理由は、次の3つです。
| 幹部育成が重要な3つの理由 |
|---|
| 1.幹部層は経営戦略を現場で実行する橋渡し役を担うため 2.幹部層は組織全体の成果と成長を左右するため 3.環境変化に現場から対応できる体制をつくるため |
1.幹部層は経営戦略を現場で実行する橋渡し役を担うため
経営層が描く方針や全社戦略は、多くの場合、抽象度の高い構想として示されます。それを自部門の目標や施策レベルに落とし込み、現場のメンバーが日々の行動に移せる形へと再構成する役割を担うのが幹部です。
幹部に求められるのは、単に施策を分解して伝えることではありません。次のような点を自らの言葉で整理し、現場に伝えていくことが重要です。
- なぜこの戦略や方針が掲げられているのか
- 今、何を優先すべきなのか
- 自部門として、どのような役割を果たすのか
こうした意図や背景まで含めて共有することで、戦略の実行力が高まります。
また、視点や情報量の違いから、経営と現場の間には認識のズレが生じやすいものです。そこで幹部が間に立ち、双方の考えや前提をすり合わせることで、組織全体が同じ方向を向いて動ける状態が生まれます。
さらに幹部には、現場で起きている課題や小さな違和感を捉え、経営にフィードバックする役割も求められます。経営の構想を現場の行動につなぐと同時に、現場の兆しを経営に返す――こうした双方向の橋渡しを担う存在として、幹部育成は欠かせません。
2.幹部層は組織全体の成果と成長を左右するため
幹部は、自部門の業績を管理するだけの立場ではありません。組織の中核に位置する存在として、その判断や行動は部門の枠を越え、組織全体の成果や方向性に影響を及ぼします。
- 限られた人材や時間をどこに配分するのか
- どの領域に、どの程度のリソースを投下するのか
こうした意思決定は企業の中長期的な成長を左右します。
特に幹部には、自部門の最適解ではなく、会社全体にとって何が優先されるべきかという視点で物事を判断する姿勢が求められます。正解の見えにくい状況においても、リスクを引き受けながら意思決定を行うことが、組織の推進力につながります。
さらに、幹部はメンバー育成やチームマネジメントを通じて、次の担い手を育てる役割も担います。個々の幹部の力量に依存するのではなく、組織として継続的に成果と成長を生み出せるかどうかは、幹部層の厚みと質にかかっているといえるでしょう。
3.環境変化に現場から対応できる体制をつくるため
市場環境や顧客ニーズの変化が激しい現代においては、全てをトップダウンの指示に頼る組織では、対応が後手に回りがちです。変化の兆しが現場で捉えられていても、判断や意思決定に時間がかかり、機会を逃してしまうことも少なくありません。
一方で、現場に近い幹部が状況の変化を踏まえて方針や進め方を柔軟に見直せる体制が整っていれば、変化への初動を早められます。
また、幹部は変革や業務改善の旗振り役として、メンバーを巻き込みながら実行を推進する立場でもあります。現場から主体的に動き、試行錯誤を重ねる経験が積み重なることで、組織全体の対応力は着実に高まっていきます。計画的な幹部育成は、変化を待つ組織から、自ら判断し行動する組織へと転換するための基盤づくりといえるでしょう。
※インタビュー全文はこちらから:現経営陣の大半が受講者。次期役員候補者向けプログラムで「見える世界が変わった」
幹部人材に求められる主な能力
幹部人材には、単に現場をまとめる役割に留まらず、経営の意図を理解し、自ら考え、周囲を巻き込みながら組織を前進させていく力が求められます。
グロービスでは、リーダーに必要な要素として、以下の図に示している4つの力を重視しています。

これらは一見すると抽象的に見えるかもしれません。しかし実際には、日々の意思決定やマネジメント、周囲との関わり方において、具体的な行動や判断の質として表れる力です。
この4つの力を土台にしながら、幹部人材に求められる能力を具体的に見ていきます。
| 幹部人材に求められる主な能力(一例) |
|---|
| ・経営と現場をつなぐ視点 ・変革を進めるリーダーシップ ・高度なマネジメント力 ・ガバナンス・コンプライアンスの理解 ・ステークホルダーとの関係構築力 ・学び続ける力 |
経営と現場をつなぐ視点
幹部人材には、自社のビジョンや経営戦略を正しく理解し、それを現場の判断や行動に結びつける視点が求められます。経営の考えや全社方針を抽象的なスローガンのまま受け取るのではなく、自部門の目標や業務の進め方に落とし込み、日々の意思決定の軸として活用することが重要です。
具体的には、次のような問いを常に意識することが求められます。
- この判断は、経営の意図や全社戦略と整合しているか
- 自部門の取り組みは、どのように会社全体の価値創出につながるか
- 今優先すべきは、短期的な成果か、中長期的な方向性か
こうした視点をもつことで、現場の判断が場当たり的になることを防ぎ、戦略と実行に一貫性をもたせられます。
また幹部人材には、部分最適に陥らず、他部門や会社全体への影響を見据えた判断ができる視野の広さも欠かせません。全体の方向性を優先するために、時には自部門にとって不利に見える決断を下す場面もあります。そのような判断を積み重ねていくことが、経営と現場の間に生じやすい認識のズレを抑え、組織全体が同じ方向を向いて動ける状態をつくることにつながります。
変革を進めるリーダーシップ
環境変化が激しい現代では、従来のやり方を維持するだけで成果を出し続けることは難しくなっています。そのため幹部人材には、組織変革や業務改善を「自分ごと」として引き受け、主体的に推進するリーダーシップが求められます。
変革はトップの号令だけで進むものではありません。現場で働くメンバー一人ひとりが変化の必要性を理解し、自ら行動を変えていく必要があります。
幹部はその橋渡し役として、次のような役割を担います。
- 変革の背景や目的を、自らの言葉で丁寧に伝える
- 現場の不安や戸惑いに耳を傾け、対話を重ねる
- 小さな一歩から実行を後押しし、行動の変化につなげる
こうした関わりを通じて、メンバーの納得感と主体性が高まり、「やらされ感」ではなく、現場発の動きとして組織変革や業務改善が広がっていきます。
高度なマネジメント力
幹部人材は、自身の成果だけでなく、チームや部門として成果を出す責任を担います。そのため、日々の業務を行うだけでなく、人材育成や目標設定、進捗管理、業績評価といったマネジメント全般を担う力が欠かせません。
幹部に求められるマネジメントは、単なる管理ではありません。特に重要なのは、メンバー一人ひとりの強みや状況を把握したうえで、役割分担や育成の方針を意図的に設計することです。
例えば、次のような観点が求められます。
- 誰に、どのような役割や責任を任せるのか
- どの経験を通じて、どの力を伸ばしていくのか
- チームとして成果を出すために、何を優先するのか
個々の力を引き出し、チームとしての力を積み上げていくマネジメントができるかどうかが、組織全体の成果に直結します。
ガバナンス・コンプライアンスの理解
幹部人材には、法令や社内ルールを守ることに留まらない、より根本的な判断力が求められます。事業を進める中では、必ずしも明確な正解が用意されていない場面や、短期的な成果と長期的な信頼が相反する場面に直面することも少なくありません。
こうした場面で問われるのは、単なるルール遵守ではなく、次のような視点です。
- 企業として、社会に対してどうあるべきか
- 組織として、この判断に責任をもてるか
- 将来にわたって、信頼を損なわない選択になっているか
幹部には、これらの問いに向き合いながら、組織として一貫性のある判断を下していくことが求められます。
ガバナンスとは、単なる不祥事防止の仕組みではありません。透明性のある判断を積み重ね、迷いの生じる場面でも一貫した姿勢を示すことで、組織の信頼やブランド価値を中長期的に形づくっていく営みです。
幹部一人ひとりの判断が、企業の信用や社会からの評価に直結するからこそ、ガバナンス・コンプライアンスへの理解は、幹部人材に欠かせない能力の一つといえるでしょう。
ステークホルダーとの関係構築力
幹部人材が向き合う相手は、必ずしも同じ価値観や立場を共有している人物とは限りません。経営層や現場のメンバー、取引先、外部パートナーなど、異なる背景や関心をもつ多様な相手に向き合いながら、物事を前に進める必要があります。
この際に重要なのが、意見を単純にすり合わせるのではなく、経営の意図や組織の方向性を、相手が納得できる文脈で伝え直す力です。立場や利害が異なる相手であっても、目的や目指す姿を共有できれば、協力関係を築く余地が生まれます。
例えば、次のような視点が求められます。
- 相手は、何を重視し、どのような懸念をもっているのか
- 組織としての方針は、相手にどのような価値をもたらすのか
- 合意に向けて、どの順序で、どのように伝えるべきか
幹部は、こうした点を踏まえながら、論理と言葉によって相手の理解を得て、関係者を動かしていく存在です。この関係構築力が発揮されることで、対立を乗り越え、組織の枠を越えた連携や、新たな価値創出につながります。
学び続ける力
幹部人材にとっての学びは、知識を増やすこと自体が目的ではありません。自身の判断や思考の精度を高め続けることに本質があります。
経験を重ねるほど、過去の成功体験が無意識の前提となり、新しい状況を単純化して捉えてしまうリスクが高まります。テクノロジーの進化や価値観の多様化など、環境が劇的に変化する今、そうした判断の癖が、新たな課題への柔軟な対応を妨げる要因となることもあります。
こうしたリスクを避けるためには、未知の領域や専門外のテーマに直面した際に以下のような問いを立て、思考の前提そのものを見直す姿勢が求められます。
- 自分は、どの前提に基づいて判断しているのか
- 今の状況は、本当に過去と同じ構造なのか
学び続ける力とは、単に知識を更新し続けることではありません。環境や状況の変化に応じて、自らの考え方や意思決定の軸を更新し続ける力であり、幹部人材が長期にわたって価値を発揮し続けるための基盤といえるでしょう。
幹部の育成方法5ステップ
幹部人材は、一度の研修や学習機会だけで育つ存在ではありません。重要なのは、期待する役割を起点に、要件の定義から選抜、育成施策、継続フォロー、振り返りまでを一連のプロセスとして設計し、時間をかけて育てていくことです。
ここでは、幹部育成を一過性の取り組みにしないために、組織として幹部を育て続けるための5つのステップを整理します。
| 幹部を育成する5ステップ | |
|---|---|
| ステップ1 | 要件を明確に設定する |
| ステップ2 | 育成対象者を選抜する |
| ステップ3 | 育成施策を実施する |
| ステップ4 | 人事・上司・経営層が一体となり、継続的にフォローする |
| ステップ5 | 育成効果を振り返り、次の成長計画に反映する |
ステップ1:要件を明確に設定する
幹部育成の起点は、「現在の幹部と似たタイプの人材」を探すことではありません。5年後、10年後の事業環境を見据え、どのような視座や判断力が求められるのかを逆算し、最終的に期待するポジションと役割を定義することが重要です。
不確実性が高まる中では、現状の組織で評価されやすい資質だけを基準にすると、将来的に必要な人材像との間にズレが生じやすくなります。そのため、今は社内で少数派であっても、今後の意思決定を行う際に重要となる資質を要件に含めることも検討しましょう。
要件を定義する際には、次のような観点が役立ちます。
- 将来、どのような意思決定を担うのか
- その判断には、どのような視座や思考力が求められるのか
そのうえで、自社のビジョンや戦略と整合した人物像を設計することで、選抜と育成の基準がそろい、育成計画の土台が明確になります。
幹部に求める要件や役割の定義は、育成の成否を大きく左右する重要なステップです。自社内での設計に難しさを感じる場合は、第三者の視点を取り入れることも有効です。
グロービスでは、各社の戦略や人材課題に応じて、幹部人材の要件定義や育成設計をご支援します。ぜひお気軽にご相談ください。
ステップ2:育成対象者を選抜する
2つのアプローチで幹部人材を確保する
幹部候補の確保には、「内部育成」と「外部登用」の2つのアプローチがあります。
- 内部育成…自社の文化や事業理解を前提に計画的な育成ができる点が強みです。組織の文脈を踏まえた判断や意思決定を任せやすいというメリットもあります。
- 外部登用…社内にはない視点や経験を取り込める点に価値があります。既存の考え方にとらわれない発想や、新たな打ち手を求める場面において、特に有効な選択肢となります。
どちらか一方が正解というわけではありません。事業フェーズや組織課題に応じて、両者を戦略的に使い分ける視点が大切です。
必要スキル・資質を可視化して個別育成プランを設計する
幹部育成は、必要なスキルや資質を曖昧なまま進めてしまうと、期待と現実のズレが生じやすくなります。そのため、まずは幹部に求められる能力を構造的に整理し、「どの役割・どの場面で、どの力が問われるのか」を明確にすることを出発点としましょう。
例えば以下のような要素を整理し、育成の前提を揃えていきます。
- 幹部は経営や事業全体をどの範囲まで理解している必要があるのか
- 抽象度の高いテーマを、どのレベルで扱えるようになる必要があるのか
- 周囲をどのように巻き込み、意思決定と実行を前に進める役割を担うのか
そのうえで、候補者一人ひとりの強みや課題を可視化し、「何を、いつまでに、どのレベルまで伸ばすのか」を個別に設計します。
一律の育成メニューを当てはめるのではなく、各候補者に将来どのような意思決定を担ってもらいたいのかを見据え、意図のある育成設計を行うことが重要です。育成プランを通じて期待役割を言語化することで、本人の自覚が深まり、日々の行動や判断の質にも変化が現れていきます。
ステップ3:育成施策を実施する
責任ある実務経験を通じて成長を後押しする
幹部育成において中核となるのが、結果責任を伴う実務経験です。プロジェクトリーダーや新規事業の立ち上げ、部門責任者など、重い判断を伴う役割を意図的に任せることで、幹部として必要な力が鍛えられていきます。
特に重要なのは、次のような経験です。
- 正解が用意されていないテーマに向き合う
- 複数の利害や制約を踏まえて判断を下す
- その判断の結果に、最後まで責任をもつ
こうした経験を通じて、部分最適ではなく全体を見通した意思決定の感覚が養われ、視座が現場レベルから経営視点へと引き上げられていきます。
なお、経営層や上司の役割は「任せきり」にすることではありません。判断の背景や考え方に踏み込みながら対話を重ね、なぜその判断に至ったのか、他にどのような選択肢があり得たのかを振り返ることで、候補者の判断軸を磨いていくことが大切です。
外部研修・異業種交流・他流試合で視野を広げる
社内の経験だけで育成を完結させてしまうと、自社の成功体験や価値観に無意識のうちに縛られてしまうことがあります。そこで有効なのが、外部研修や異業種交流、他流試合といった、社外の視点に触れる機会です。
異なる業界や価値観に触れることで、次のような学びが得られます。
- 自社の常識が通用しない場面を想定できる
- 自身の思考の癖や前提に気づく
- 他社の戦略や意思決定を相対的に捉えられる
こうした外の世界での経験を通じて、自社の戦略や組織を一歩引いた視点で捉え直すことが、幹部として必要な広い視野と柔軟な思考につながります。
※インタビュー全文はこちらから:新たな価値を創出できるイノベーター人材を育成。リーダーとしての自覚が芽生え、事業アイデアも創出

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ステップ4:人事・上司・経営層が一体となり、継続的にフォローする
幹部人材は、組織にとって非常に重要な存在であると同時に、市場価値も高い人材です。
だからこそ幹部育成では、「育てること」だけでなく、いかにエンゲージメントを高め、自社で長期的に活躍してもらうかという視点が欠かせません。
人事・上司・経営層が一体となり、役割・期待・処遇・キャリアを継続的にすり合わせながら伴走することで、幹部候補は自らの立ち位置を理解し、安心して難度の高い役割に挑戦できるようになります。
学び→実践→振り返りのサイクルを回す
幹部育成は、学びを一過性の取り組みにせず、学び→実践→振り返りのサイクルを意図的に回し続ける設計が重要です。研修で得た知識や視点を実務で試し、その結果を振り返ることで、学びが行動や判断に定着していきます。
特に幹部候補の場合、実践を通じて得た経験を単なる成功・失敗で終わらせず、幹部として求められる判断力や思考の質の水準に引き上げていくことが欠かせません。
そこで重要になるのが、上司や人事が振り返りに関わることです。
- その判断は、経営の意図や全社の方向性とどう結びついているか
- 幹部として期待される役割や判断水準に照らして、どこが評価され、どこに課題があるか
- 今後、より大きな意思決定を任せるために、どの視点や経験を補う必要があるか
上司や人事が関わることで、こうした点を整理できます。このプロセスを通じて、「幹部として再現性のある判断力・思考力」を育てていきます。
定期的に対話の機会を設ける
幹部候補は、役割が大きくなるにつれて意思決定の負荷や責任を抱えやすくなります。そこで、定期的な対話で進捗を可視化し、業務上の課題だけでなく、役割への不安・違和感を早期に拾い上げることが重要です。加えて、離職リスクを下げる観点から、処遇やキャリアの見通しについても継続的にすり合わせを行いましょう。
キャリア面談や経営層との対話機会を定期的に設け、次のような点を共有することがおすすめです。
- 幹部候補が担っているミッションに、会社としてどのような価値を見出しているのか
- どのような役割・成果が、今後の処遇や評価につながるのか
- 中長期的に、どのようなキャリアパスが想定されているのか
対話を重ねることで、幹部候補はリーダーとしての軸を徐々に固め、より大きな役割や中長期的な責任に向き合う覚悟を育んでいくことができます。
全社貢献や人材育成への貢献も評価する
幹部人材には、部門の成果を上げることに加えて、組織全体への貢献も期待されます。そのため評価においても、部門目標の達成だけでなく、全社的な取り組みへの貢献や、人材育成への関与を含めることが重要です。
具体的には、以下のような観点を評価指標に入れるとよいでしょう。
- 部門を越えた課題解決や連携への貢献
- 次世代人材の育成や後進の支援
- 組織全体の視点に立った意思決定や行動
こうした評価の枠組みがあることで、幹部候補は「何を期待され、どのような行動が評価につながるのか」を理解しやすくなり、処遇や役割に対する納得感が高まります。その結果、部門最適から全社最適へと視点が引き上げられ、幹部として相応しい行動や意思決定が促されていきます。
ステップ5:育成効果を振り返り、次の成長計画に反映する
幹部育成の振り返りは、単に研修効果を確認することではありません。取り組みを通じてどのような変化や手応えが生まれたのかを定量・定性の両面から整理し、その結果をもとに育成計画を見直し、継続的な成長支援につなげていくプロセスです。
定性的・定量的に確認する際は、以下のような点を見ていきます。
- 経験から学び取ったことを、自社の事業や組織に通じる原則として捉え直せているか
- 判断の前提や考え方を、状況に応じて見直せているか
- 次の段階の役割や意思決定を担う準備が進んでいるか
振り返りはゴールではなく、次のスタートです。得られた示唆を踏まえて、より難度の高い役割や新たな課題を設定し、次の成長機会へとつなげていきます。幹部育成を短期的な取り組みで終わらせず、長期的な育成サイクルとして運用することが重要です。
幹部育成を成功させるためのポイント
幹部育成は、研修や制度を整えれば自然に成果が出るものではありません。将来どのような経営課題に向き合うかを見据えたうえで、業務経験、学びの設計、キャリアを一貫させられるかどうかが成否を分けます。
ここでは、幹部育成を経営に直結する取り組みとして機能させるためのポイントを整理します。
| 幹部育成を成功させるためのポイント |
|---|
| ・業務を通じてスキルアップする機会を設ける ・役割遂行に必要な知識・スキルを体系的に学ぶ機会を提供する ・学びとキャリアを連動させる仕組みを整える |
業務を通じてスキルアップする機会を設ける
幹部育成を実効性のあるものにするためには、日常業務の延長線上にある仕事だけではなく、経営に直結する、難易度の高いテーマに向き合う機会を意図的に設けることが重要です。例えば以下のようなものが挙げられます。
- 新たな事業領域の立ち上げ
- 組織再編や体制変更の推進
- 部門を越えた意思決定が求められるプロジェクト
正解が見えにくく、判断の影響範囲が大きいテーマに取り組むことで、候補者はこれまでのやり方が通用しない局面に直面します。こうした経験の中で問われるのは、現場の最適解ではなく、全体を見渡したうえでの判断です。複数の利害や制約を踏まえながら意思決定を重ねることで、視座は現場レベルから経営に近い視点へと引き上げられていきます。
また、こうした経験を単なる「経験値の蓄積」で終わらせないためには、意思決定のプロセスに目を向けることも欠かせません。経営層や上司が候補者の判断の前提や視点に踏み込み、対話を重ねることで、判断の質が磨かれ、次の意思決定に活かされていきます。
業務を通じた育成とは、判断の重さを伴う実務経験と、その振り返りを組み合わせて進めていくプロセスだといえるでしょう。
役割遂行に必要な知識・スキルを体系的に学ぶ機会を提供する
幹部人材は、財務や戦略、組織論といった体系的な知識を身に付けておく必要があります。なぜなら、経営が描く方針を現場の実態に沿って解釈し、具体的な行動へと落とし込むうえでは、それらの知識が「思考の補助線」として機能するからです。経験や勘だけに頼った意思決定が難しくなっている現代においては、こうした総合的な知識が判断の質や再現性を高める役割を果たします。
また、経営層や他の幹部層と共通の知識・スキルをもつことで、議論は感覚論ではなく、論点を整理した建設的な対話へと変わります。経営の意図や背景を正しく理解し、それを現場の文脈に翻訳するためにも、こうした共通の思考の土台をもつことは欠かせません。知識を学ぶ狙いは、「理解すること」そのものではありません。経営と現場をつなぐ共通言語を獲得し、全社最適の視点で意思決定や実行を進められる状態に近づくことにあります。
※インタビュー全文はこちらから:時代の変化に合わせた会社の舵取りができる次世代経営リーダーの育成

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学びとキャリアを連動させる仕組みを整える
幹部育成が成功するかどうかは、「学び」が「幹部の期待役割」とどのようにつながっているのかを、本人がどこまで理解できているかによって左右されます。
幹部は、高い負荷と意思決定の重さを引き受ける存在です。その責任に向き合い続けるためには、昇進という制度上の節目に加えて、期待されている役割やキャリアの意味が本人に十分に伝わっていることが重要です。
経営層がどのような未来を描き、なぜその人材に期待するのかを対話を通じて伝え続けることで、個人のキャリア意識と組織の方向性が重なりやすくなります。学びとキャリアを連動させるとは、単に制度を整えることではなく、育成の意図や期待を言葉でも伝え続けることだといえるでしょう。
以上の通り、幹部育成を経営に直結する取り組みとして機能させるには、継続性のある設計が欠かせません。
幹部人材育成に関する設計でお困りのことがあれば、ぜひお気軽にグロービスへご相談ください。「どこから着手すればよいかわからない」「一部のステップだけでも相談したい」など、漠然としたお悩みでも構いません。最適な育成の形をご一緒に描き、実現してまいります。
まとめ
最後に、本記事でお伝えしたポイントをまとめます。
- 幹部育成とは、経営の意思を受け、戦略を現場で実行する中核人材(幹部人材)を計画的に育てる取り組みのこと
- 幹部育成が重要な理由は以下の3点
- 幹部層は経営戦略を現場で実行する橋渡し役を担うため
- 幹部層は組織全体の成果と成長を左右するため
- 環境変化に現場から対応できる体制をつくるため
- 幹部人材には【経営の定石・考える力・人を巻き込む力・志】の4つの力が土台として求められる
<具体的な能力の一例>- 経営と現場をつなぐ視点
- 変革を進めるリーダーシップ
- 高度なマネジメント力
- ガバナンス・コンプライアンスの理解
- ステークホルダーとの関係構築力
- 学び続ける力
- 幹部育成は、要件の定義から選抜、育成施策、継続フォロー、振り返りまでを一連のプロセスとして設計し、時間をかけて育てていくことが重要
<具体的な5ステップ>
ステップ1:要件を明確に設定する
ステップ2:育成対象者を選抜する
ステップ3:育成施策を実施する
ステップ4:人事・上司・経営層が一体となり、継続的にフォローする
ステップ5:育成効果を振り返り、次の成長計画に反映する
- 幹部育成を成功させるには、3つのポイントを押さえることが重要
- 業務を通じてスキルアップする機会を設ける
- 役割遂行に必要な知識・スキルを体系的に学ぶ機会を提供する
- 学びとキャリアを連動させる仕組みを整える
幹部人材の育成について、重要性および具体的な取り組みイメージをおもちいただけたでしょうか。
グロービスでは、年間3,400社以上の人材育成支援の実績をもとに、各社の課題に合わせた最適な幹部育成方法をご提案します。進め方に迷われる場面があれば、お気軽にご相談ください。
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