人材育成担当者が知っておきたいSDGsの基礎

2021.10.13

「SDGs」というキーワードを新聞やニュースで目にしない日はありません。長期ビジョンや中期経営計画の中にSDGsを掲げる企業も増えてきました。

 

一見すると、SDGsは人材育成担当者の皆さまには、縁遠い事柄のように思われるかもしれません。しかし実際のところ、SDGsを推進するには、先導できるリーダー人材が必須であり、その育成は不可欠です。本コラムでは、企業がSDGsに取り組むべき理由と、SDGsを推進できるリーダー人材を育成するための施策について解説します。

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SX時代に企業がSDGsに取り組む意義と人事部に求められること

 

SDGsとは?企業がSDGsに取り組むべき理由とは?

SDGsはSustainable Development Goalsの略で、「持続可能な開発目標」と訳されます。2015年の国連総会で採択された文書(我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ)に掲げられた、17の目標と169のターゲットから、構成されています。

なぜ企業が、国連の定めた目標に取り組まなければならないのでしょうか。それは、SDGsに取り組む戦略的意義があるからです(図1)。詳しく見ていきましょう。

 

図1:企業がSDGsに取り組むべき戦略的意義(田瀬和夫、SDGパートナーズ、” SDGs思考 2030年のその先へ 17の目標を超えて目指す世界”、インプレス、2020年、を参考に筆者作成

図1:企業がSDGsに取り組むべき戦略的意義(田瀬和夫、SDGパートナーズ、” SDGs思考 2030年のその先へ 17の目標を超えて目指す世界”、インプレス、2020年、を参考に筆者作成

 

1.新市場創出とイノベーションの源泉である
SDGsの壮大な目標は、現在の延長線上では達成が困難かもしれませんが、新しいイノベーションを生み出すヒントになります。なぜなら、SDGsは世界共通の目標であり、今後10年間のトレンドとなり得るからです。

たとえばSDGsには、『1日1.25ドル未満で生活する極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる』『全ての人々の、安全で安価な飲料水へのアクセスを達成する』といった項目が掲げられています。この課題に対し、自社の技術で何らかのアプローチが可能かを考えてみると、意外なイノベーションのヒントを得られるかもしれません。

「イノベーションを起こすように」と上司から指示されても、通常は困ってしまいます。しかしSDGsの項目をヒントにすれば、イノベーションについて検討することのハードルが下がります。一度、自社と相性の良い項目を探してみてはいかがでしょうか。

 

2.顧客は環境や人権に配慮した製品・サービスを求めている
SDGsの登場により、顧客や取引先、消費者などのステークホルダーから、環境・人権への配慮がより一層求められるようになっています。

たとえば博報堂が2019年に実施した調査からは、サステナビリティが新たな購買意思決定の軸となっていることが伺えます。

” 「長く使えるものを買う」生活者は9割以上。”
” 今後の購買意向では「環境・社会に悪影響を与える商品・企業」に対する不買や「環境・社会に配慮した商品」に対する購入意向が約7~8割にのぼる。”
(引用:“「生活者のサステナブル購買行動調査」結果発表”、博報堂、2021年6月に内容確認)

環境や人権への配慮は、BtoBビジネスにおいても重要です。

たとえば顧客企業が、厳格な調達方針を定めたとしましょう。顧客企業の調達基準を満たせなければ、自社の製品を購入してもらえません。このような条件下では、自社の方針に関わらず、環境負荷の削減や人権問題の把握などに取り組む必要があります。

 

3.優秀な人材の獲得につながる
SDGsへの取り組みは、自社の未来を支える優秀な若手人材(Z世代)の獲得にもつながります。Z世代はこれまでとは違う観点、すなわちサステナビリティへの取り組み姿勢で企業を見定める人が多いからです。

株式会社ディスコによる調査でも、社会貢献を重視する学生の傾向が明らかとなりました(図2)。社会貢献度の高い企業への志望度が高くなる傾向がみられ、仕事を通じた社会貢献を重視する学生が多いことが伺えます。

 

図2:企業の社会貢献度と就職志望度の関連(引用:"就活生の企業選びと SDGs に関する調査"、株式会社ディスコ、2021年6月に内容確認)

図2:企業の社会貢献度と就職志望度の関連(引用:“就活生の企業選びと SDGs に関する調査”、株式会社ディスコ、2021年6月に内容確認)

SDGs推進に各役職が果たすべき役割

企業がSDGsを推進していくうえでは、誰に、どのような役割が求められるのでしょうか。SDGs経営に向けて各階層が果たすべき役割を、図3にまとめました。

 

図3:SDGs経営実現のために各階層が果たすべき役割

図3:SDGs経営実現のために各階層が果たすべき役割

 

CEOの役割
まず重要なことは、CEO(経営トップ)が本気のコミットメントを示すことです。すなわち、トップがSDGsに取り組む意義を理解し、自らの言葉で社員に説明する必要があります。でなれば、社員の皆さまが腹落ちして行動に移すことは難しいでしょう。

社内外を問わず、あらゆるコミュニケーションの機会を捉え、繰り返し発信していくことが必要です。

役員層の役割
役員層に求められる役割は、トップのコミットメントをもとに自社のあるべき姿を具現化していくことです。

もし可能であれば、サステナビリティ担当役員の設置が効果的です。なぜなら、オーナーシップを持つ人が不在のままでは、SDGsの具現化は困難だからです。

筆者がよく聞くお悩みとして、総論賛成・各論反対のまま、SDGsの考えが意思決定に反映されない状況に陥ってしまう、ということがあります。その状況を回避するには、サステナビリティ担当役員を中心に議論を進めることが効果的です。サステナビリティ担当役員がオーナーシップを持つことで、総論賛成・各論反対の状況を打破し、取り組みを前に進めやすくなります。

ミドルマネジメント層の役割
ミドルマネジメント層には、実行の推進役が期待されます。たとえば、以下のような取り組みは不可欠です。

  • ●サステナビリティの潮流が担当事業に及ぼす影響を理解する
  • ●担当事業において、サステナビリティの考えを活用する方法を検討する
  • ●サステナビリティに関心の高い若手層の声を拾い上げ、事業へ反映させる

若手層の役割
若手層には、SDGsに関する積極的な進言が期待されます。2030年あるいはその先の経営を担う世代としての意見は重要です。

 

またサステナビリティに関するトレンドに関しては、ミドルマネジメント層や役員層より詳しい可能性もあります。自らの感性を信じて、経営の意思決定を注視し、おかしいと思うなら声を上げる、という姿勢が、企業体質のアップデートにつながります。

一方で若手層は、自社の事業への理解が浅いこともあり、自社の事業とSDGsを紐づけて理解することが難しいかもしれません。そのため、ミドルマネジメント層が適切なサポートを施し、アイディアの具現化や実行を推進できるよう、組織体制の構築/文化醸成が必要です。

このようにSDGs経営を推進するには、担当部署が旗を振るだけでは不十分です。自社がSDGsに取り組むべき理由を、一人ひとりが自分として語れなければ、SDGsの推進は叶わないでしょう。

SDGs推進に人事部が求められること

ここまで読まれて、皆さまはSDGsにどのような印象を持ちましたか? 「SDGsは事業の中で紐づけてやるもの」、「経営企画やサステナビリティ推進部の仕事」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし筆者は、人事部こそが、企業のSDGs経営を実現する立役者になるべきだと考えます。図3にSDGs推進に人事部が求められることをまとめました。

 

図4:SDGs推進に人事部が求められること

図4:SDGs推進に人事部が求められること

 

人事部の業務は、採用から育成、配置、評価、そして労務管理まで幅広く、そのすべてがSDGsのコンセプト実現に直結しています。具体的に見てみましょう。

 

採用
新卒採用ではZ世代から自社を選んでもらい、優秀な人材を獲得することが大切です。中途採用では、異質かつ多様な価値観の人材を受けいれることも必要になります。

育成
やりがいを持てる職場を作り、すべての従業員へ能力開発の機会を提供することも人事の役割です。また、次世代経営者向けには、SDGsをテーマに教育施策を充実させることが必要です。サステナビリティ経営を理解し、組織を率先していくリーダーの育成が重要になります。

配置
従業員が自分らしく働けるよう、キャリアやライフステージを尊重した、異動・配置の仕組みを構築していく必要があります。

評価
評価制度は、公平かつ公正で透明性があることが重要です。またプロボノなど、社外における社会貢献活動を評価することも有効です。

労務
社員のWell-beingを実現するため、多様な働き方の推進や従業員のエンゲージメント向上に取り組む必要があります。

SDGsを推進するための人材育成施策とは?

サステナビリティ経営を実現するには、SDGsの本質を理解し、推進できるリーダーの育成が必要です。ではSDGsを推進する人材を、どのように育成していけばよいのでしょうか。

筆者は、「SDGsの本質を理解するための取り組み」と、「中長期的な価値創造を考慮しながら経営戦略を策定できる思考を養う育成」が必要であると考えています。

ここでは、SDGsの本質を理解し、サステナビリティ経営を推進する人材を育成するために取り組むべきことを整理します。

 

Phase1:SDGsの深い理解
まずはSDGsの目指す世界・根底にある思想に触れ、企業が取り組むべき意義を本質的に理解することが必要です。

サステナビリティの潮流から、企業が求められていることは何かを考えてみましょう。
たとえば、自社や他社のサービス、あるいは身近なことから考察し、意見交換の場を設けることがお勧めです。

またSDGsについて正しい解釈をするために、社員に向けて、外部セミナー・関連書籍の紹介や、eラーニングでSDGsのコンテンツを扱うことも有効です。

 

Phase 2:経営戦略策定に必要な思考プロセスの習得
次に重要なことは、以下の3点を一貫して考えることのできる人材を輩出することです。

  1. 1.自社が社会に存在する意義
  2. 2.事業を通じた社会善の創出
  3. 3.それを実現する強く健全な組織づくり

このような人材には、自社の現状を分析する力と、経営戦略の方向性やアクションプランを決める思考プロセスが備わっているものです。育成施策だけで輩出するのは難しいものの、以下のような育成体系の構築は最低限必要です。

1: まずは経営に関するフレームワークや分析手法の理解が不可欠です。OJTなどで、経営戦略策定に必要な基礎・土台作りをサポートしましょう。

2: サステナビリティに関する動きは現在進行形で進んでおり、そこに明確な答えは存在しません。だからこそ、自ら考える力が不可欠です。考える力を鍛えることができる、「疑似体験型のケースメソッド研修」を企画してみるといいでしょう。
特にサステナビリティ経営を進めてきた企業事例の活用は効果的です。外部環境の変化や将来洞察、社会課題を解決するビジネスモデル、そして戦略立案・意思決定を行ってみることで、知識を使って考える力が身につきます。

3:CSVやESG、D&Iを経営に実装するための理論も身に付ける必要があります。理論の習得は、書籍や論文からのインプットが有効です。

書籍や論文を扱う際は、読書会が有効です。アウトプットすることで知識の習得につながりますし、自身が気づいていなかった視点を他者の発言から学ぶことも可能です。

 

Phase 3:統合思考の習得

統合思考とは、財務・非財務のさまざまな資本を経営戦略と紐づけ、さまざまな時間軸における価値創出のプロセスを紡ぎだし、意思決定・行動に結び付ける考え方、のことです。

担当部署を中心にSDGsを推進していても、経営の意思決定の場面では、短期的な利益が優先されてしまうことがあります。しかし、SDGsを推進させるためには、組織内の事業・機能と資本との関係について、リスクや機会などを踏まえて、中長期的に価値創造を考慮する必要があります。

そのためには、短期的な利益と長期的な利益、経済的価値と社会的価値など、トレードオフの関係にあるものを乗り越え、トレードオンを実現するために欠かせない思考、「統合思考」を持つことが重要です。

統合思考を習得するには、理論を踏まえて先進事例を分析し、自社の立ち位置と取るべき戦略を考えることが有効です。動画学習や書籍で理論を学び、グループワークで自社分析を行うようなワークショップを企画するといいでしょう。

 

また、サステナビリティを基軸とした新規事業を立案するアクション・ラーニング*の場を設けることもお勧めです。参加者の成長と組織開発を実現する人材育成アプローチとなります。

*組織内の実際の課題に対する解決策を考え、実行する過程を通じて、組織開発や人材育成を行う方法

最後に

本コラムでは、企業がSDGsに取り組む意義と、各階層に求められる役割、SDGsを推進するリーダーを育成するための施策についてお伝えしてきました。

SDGsは企業にとっての生存戦略であり、推進に重要なのは人事部です。持続可能な社会の実現と、すべての人が自分らしく働ける組織を目指して、自社にとってどのようなリーダーが必要なのか、本コラムが再考の一助となれば幸いです。

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SX時代に企業がSDGsに取り組む意義と人事部に求められること

 

執筆者プロフィール
本田 龍輔 | Ryusuke Honda
本田 龍輔

日本福祉大学大学院国際社会開発研究科卒業(開発学修士)
大学卒業後、地域活性に取り組むNPO法人での活動を経て、独立行政法人国際協力機構(JICA)の実施する青年海外協力隊事業に参画し、パプアニューギニア独立国へ派遣。農村地域において生活改善や植林を中心とした環境保全活動に取り組む。帰国後はJICA東京にて、行政や教育機関、NPO/NGOとの協働を通じた国際協力の裾野拡大や人材育成に携わる。グロービス入社後は、法人営業部門にて、顧客企業の人材育成・組織開発に関わる設計・提案活動に従事。


※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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