人材育成から考える、ジョブ型雇用推進に伴う自律型キャリア支援

公開日
テーマ
  • ジョブ型雇用
執筆者
  • 小林 舞良のプロフィール

    小林 舞良

ビジネス環境が急速に変化する中、「日本型雇用」から「ジョブ型雇用」へのシフトに注目が高まっています。ジョブ型雇用へのシフトで論点となるのが、「自律型キャリア」への転換。終身雇用から自律型キャリアへ、自社の社員に転換を促すことは、なかなか難しいものです。

しかし皆さまのような人材育成担当者の立場だからこそ、社員の自律型キャリア転換の支援が可能だと、筆者は考えています。

本コラムでは、自律型キャリアを支援するための人材育成/研修企画のポイントをお伝えします。

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第1章 
ジョブ型雇用とは?なぜ、いまジョブ型雇用なのか?

ジョブ型雇用とは、より専門的な能力・スキルを求め、それを使って生み出す成果で評価する雇用制度を指します。欧米で主流の雇用制度であり、仕事に人を合わせる「仕事基準」の考え方が特徴です。アサインする仕事に必要なスキルの有無で、採用や配属を決定します。

ジョブ型雇用と対になる考え方が、日本型雇用(メンバーシップ型雇用)です。日本型雇用では職種を限定せず、総合職として多くの仕事をローテーションさせていきます、誰もが年齢を詰めば昇進・昇格できるため、早期退職を防ぎ、会社を長く支えていく人材を育てることが可能です。

昨今、ジョブ型雇用への注目が高まっています。長きに渡り日本型雇用を取り入れてきた日立製作所や富士通などの大手企業も、2020年にジョブ型雇用へのシフトを発表しました。

導入の背景にはコロナ禍におけるテレワークの普及に加え、国際競争力を強化するための多様性の推進、社員が常に学び成長できるマインドの維持など、様々な要因があります(図1)。
今後も多くの企業で、導入されることが予想されます。

図1:日本型雇用の見直しを迫る社会要因
図1:日本型雇用の見直しを迫る社会要因

図1のような社会要因の変化へ対応し、企業が新たな価値創造を行うためには、何が必要でしょうか。たとえば以下のような項目が挙げられます。

  • 目的に合わせて専門性を有した人材を集める
  • 多様な就業形態と自律的な働き方で成果を上げられる組織への変革を進める
  • プロパー/外部採用問わず、従業員の個の強化

これらを推進する基盤として、ジョブ型雇用が注目されているのです。

第2章 
なぜジョブ型雇用と自律型キャリアの推進は
セットで考えねばならないのか?

企業にとって「ジョブ型雇用」は「自律型キャリアの推進」とセットで考えねばなりません。なぜなら前項で述べた通り、ジョブ型雇用の推進には、社員個人の強化が必須だからです。

ジョブ型雇用の人事評価は職務の成果で決まります。すなわち社員が望む処遇を得るには、自ら社会変化に適応して成果を収め、自律的にキャリアを高め続けることが求められます。そのため、社員個人が強化を図れる自己啓発が必須となり、同時に企業も社員の自律型キャリアを後押しすることが求められます。

このような背景からジョブ型雇用には、社員の自立型キャリアを後押しするための「自律的学習と成長を支援する自己啓発制度」が必須であり、これらの推進は、人材育成担当者の皆さまでなければ不可能と言えます。では、具体的にどのように支援すればよいか、次項から考えてみましょう。

第3章 
人材育成担当者に求められる自律型キャリア支援とは?

自律型キャリアの支援には、2つの方向性があります。1:全従業員に共通して実施すべき支援、2:対象者に合わせた支援、です。それぞれについて見ていきましょう。

3-1. 全従業員に共通して実施すべき支援

1つ目は、全従業員に共通して実施すべき支援です。必要なのはキャリア開発の責任の移譲と、経験学習サイクルの構築です。

3-1-1. キャリア開発の責任の移譲

キャリア開発の責任を個人に委ねます。そのためには、人事部から事業部門への積極的な権限移譲が必要です。

欧米の企業では従来からジョブ型を導入してきたこともあり、権限移譲が進んでいます。たとえば社員は仕事の成果を上げるため「このスキルを身に着けてこの問題を解決したい」と自ら提案し、上司はその取り組みを支援します。

ジョブ型雇用においては、個人が責任をもって必要な能力を高める意識を、組織として支援することが重要です。

3-1-2:経験学習サイクルの構築

主体的に「経験学習サイクル」を回し続けるための良質な刺激を、日々の業務の中で社員に与えます。経験学習サイクルとは、経験⇒内省⇒概念化⇒実践の4つのプロセスを段階的に踏みながら、それを繰り返すことにより、単純に経験を重ねるだけでは得られない学習効果を得て成長していくことを指します(図2)。

図2:経験学習サイクル
図2:経験学習サイクル1)

経験を内省し、概念化することで、既存の枠組みを超えた学びや気づきを得られます。これを業務の中で主体的に回せるようになれば、社員は自律的にキャリアを積んでいけるようになるのです。

3-2:対象者に合わせた支援

2つ目は、対象者に合わせたキャリア開発支援です。日本企業は自律型キャリアの支援が困難であり、ジョブ型雇用の導入は部分的に進むと予想されるためです。

日本企業の自律型キャリア支援が困難な理由として、日本の社会基盤が、日本型雇用を推進する構造となっていることが挙げられます。たとえば以下のような特徴が挙げられます。

  • 大学のカリキュラムが、新卒でのポテンシャル採用を前提に置かれている
  • 解雇規制が強く、企業間の人材流動性が低い

そのため、今後も一定割合で日本型雇用は残り、ジョブ型雇用の導入は部分的に進むと言われています。部分導入が進む場合、人材育成担当者の支援も部分に合わせた活動が求められます。支援対象者の立場や課題を理解し、現状からどう成長を遂げて欲しいかを明確化したうえで、具体的な教育サポートを決めます(図3)。

図3:ジョブ型雇用の部分導入と必要な教育サポート(例)
図3:ジョブ型雇用の部分導入と必要な教育サポート(例)

ジョブ型雇用の取り入れ方や対象者によって、支援の目的と内容は異なります。たとえば研修プログラムの拡充による、スキルセット・マインドチェンジを促す必要があるかもしれません。次項から、具体的な支援手法の一つとして、研修について考えてみましょう。

第4章 
自律型キャリアを支援する研修企画のポイント

では、人材育成担当者はこれまでの研修をどう変化させればよいでしょうか。

本項では、研修企画の2つのポイントを解説します。1. 目的を明確にしてから企画する、2.事業部門のニーズを掘り起こす、です。詳しく見ていきましょう。

ポイント1:目的を明確にしてから企画する

まずは対象者の立場を理解し、研修の目的を明確にすることが重要です。自律型キャリアを支援するのであれば、研修を終えた時に、実務で主体的に経験学習サイクルを回せるよう行動変容を促す必要があります。

研修の目的があいまい、あるいは目的が受講者に伝わっていない場合、研修がやりっぱなしになってしまうので注意が必要です。筆者がよく耳にするケースでは、研修の目的を“研修のタイトル”以上に知らされず本社に集められ、さらに研修の内容が現場のニーズと乖離していて、活かすかどうかは本人次第といったケースです。

一方で、研修の目的が明確で、学んだ内容を現場のどの場面で活用して欲しいのか、などを事前・事後に繰り返し伝えられると、研修の自分事化が進むでしょう。受講者の普段の業務と研修での学びが結びつき、行動変容を促すための良質な刺激を得やすくなります。

たとえば欧米の企業では、仕事で成果を出すための行動を社員自らが考え、研修が必要であれば上司へ提案するのです。事業部門が研修の成果の責任を担うことも多いため、上司は日常的に行われている部下との1on1などで「振り返り⇒教訓化し実践⇒さらに実践を振り返り⇒教訓化し実践⇒さらに…」と内省を促し、フィードバックを送ります。まさに仕事と研修が一体になっている状態です。

ポイント2:事業部門のニーズを掘り起こす

研修企画の際は、受講者と同じ部署に所属している気持ちで、事業部門の顕在ニーズ/潜在ニーズを掘り起こすことがポイントです。リモートワークでオンラインでのコミュニケーションが当たり前になり、事業部門との物理的な距離という垣根が低くなった今だからこそ、ぜひ事業部門のニーズの掘り起こしにチャレンジしていただきたいです。

事業部門の顕在ニーズを掘り起こすには、事業部門の上司を巻き込むことが有効です。受講者が現場で成果を出すために足りない能力は何か? 事業部が期待していることと今回の研修はマッチしているか? を見極めるには、受講者の上司の方々から意見を伺うことが有効です。

潜在ニーズを掘り起こす際は、仮説を立てて事業部門へ自ら提案してみましょう。仮説を立てる際には、現場へのアンケートやヒアリング、アセスメント・テスト(GMAP) などが有効です。潜在ニーズを掴んだら、それに即した研修内容の企画・実施、研修後に効果測定を行います。事業部門の上司に問題意識の仮説を提案し、研修実施・効果検証のサイクルを回すことで、人材育成担当者としての付加価値を提供できるはずです。

第5章 
最後に

本コラムでは、ジョブ型雇用へのシフトに不可欠な、自律型キャリアを支援するための人材育成/研修企画のポイントをお伝えしました。事業部門の顕在・潜在ニーズに沿った研修企画を事業部門に提言することで、人材育成担当者の皆さまは所属企業の成長戦略にかかせない存在になれるはずです。ジョブ型雇用についてより理解を深めたい方は、ポータルサイトもぜひご覧ください。

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引用/参考情報
1) Kolb, D. A., “Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development”, Prentice Hall, 1984を基にグロービスにて作成

※文中の所属・役職名は原稿作成当時のものです。

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